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Theory Atlas
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EVERYDAY QUESTION

利益と社会貢献の板挟みになるのはなぜ?

環境への配慮や地域への貢献を求められる一方で、コストを削って利益を出せとも言われる。社会的な責任を果たすことと、稼ぐことは両立するのか。この問いは、企業の社会的責任(CSR)の研究で何十年も議論されてきました。

先に答えを言うと

社会的な取り組みと財務業績の関連は平均すると正ですが、その強さは測り方で大きく変わります。また「社会貢献は儲かるか」に答えが出ても、両者の目的の食い違いそのものは消えない、という見方もあります。

この疑問を説明する 3 つの理論

01

CSRピラミッドPyramid of Corporate Social Responsibility · Carroll 1991

企業の社会的責任を、経済的責任を土台に、法的、倫理的、社会貢献の責任を重ねた四つの層で整理した枠組みです。Carroll 自身、四つを同時に果たそうとすれば緊張やトレードオフは避けられないと認めています。一方で、52研究のメタ分析では、社会的な業績と財務業績の関連は平均して正でした(補正後の相関 ρ = .36)。著者らは、両者を「どちらか一方」のトレードオフとして描くことは、30年の実証データに照らして正当化されないと述べています(Orlitzky et al., 2003, p. 427)。

研究の根拠と限界相関研究が中心

研究の根拠相関研究が中心52研究・388の相関・33,878の観測値のメタ分析(Orlitzky, Schmidt & Rynes, 2003)。

因果と言うには足りないこと評判の指標を使った研究では、ハロー効果で相関が大きく出ている可能性があると著者自身が述べている(Orlitzky et al., 2003, p. 422)。評判の指標とアンケートによる財務の測定を除くと、補正後の相関は .15 に下がった(p. 415)。研究によるばらつきが大きく、それを左右する要因がほかにあると述べている(p. 417)。

CSRピラミッドの解説を読む ↗
02

制度的複雑性Institutional Complexity · Greenwood et al. 2011

組織が、複数の制度ロジック(何が適切で、どうすれば成功かを示す考え方)から両立しない指示を受ける状況を扱う視点です。「利益を上げる」という商業のロジックと、「社会の問題を解決する」という社会のロジックを同時に抱える組織では、両者が社内の別々の人や部署に代表され、対立が生まれます。Pache & Santos (2010) は、対立が目的をめぐるか、手段をめぐるかで、起きやすい対応も、こじれたときの深刻さも変わると論じました。

研究の根拠と限界

研究の根拠理論の提案(Greenwood et al., 2011; Pache & Santos, 2010)と、社会的企業やマイクロファイナンス組織の事例研究(Pache & Santos, 2013; Battilana & Dorado, 2010)。制度的複雑性の項目を参照。

因果と言うには足りないことGreenwood et al. (2011) は、自らの枠組みの一部が推測的で、実証研究で精緻化する必要があると述べている(制度的複雑性の項目を参照)。

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03

パラドックス理論Paradox Theory · Smith & Lewis 2011

組織には、短期と長期、利益と社会貢献のように、矛盾しながらも両方必要な要素がつきまとう、とする理論です。どちらかを選ぶと、やがて捨てた側の問題が大きくなるため、両方を抱え続けることが長期的な成果につながるとされます。板挟みを「解消すべき問題」ではなく、管理し続けるものとして捉え直す見方です。

注意「両方とも」という対応が創造性や好循環を生むという見方に、研究者が早く収束しすぎているという批判がある(Cunha & Putnam, 2019。パラドックス理論の項目を参照)。

研究の根拠と限界

研究の根拠理論とレビュー(Smith & Lewis, 2011; Schad et al., 2016)。パラドックス理論の項目を参照。

パラドックス理論の解説を読む ↗

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ステークホルダー理論Stakeholder Theory · Freeman 1984

企業は株主だけでなく、従業員、顧客、取引先、地域社会などすべての関係者の利害を考えて経営すべきだ、とする理論です。ただし、関係者の原則を採る企業ほど財務業績がよいという主張は、直接には検証されていないと指摘されています(ステークホルダー理論の項目を参照)。

自分の状況に当てはめて考える

研究から引き出せる見直しの観点です。各観点の札は根拠の種類を表します。実験で確認は実験やそのメタ分析で確かめられたもの、調査(相関)は調査で関連が見られたもの(因果は分からない)、理論からの観点は理論から考えられるもので効果は確かめられていないものです。どんな研究なのかは、それぞれの説明に書いています。

  1. 理論からの観点

    「社会貢献は儲かるか」だけで考えていないか

    Margolis & Walsh (2003) は、1972〜2002年の127研究を数え上げ、社会的な業績から財務業績を説明した109研究のうち、正の関連が54、負の関連が7、有意でないものが28、混合が20だったと報告しました(p. 274)。負の関連の証拠はほとんどないとしつつ、測定の問題を考えると、関連は見かけほど確かではないかもしれないとも述べています(pp. 277–278)。そのうえで彼らは、「儲かるか」だけを問う研究は、経済的な目的と社会的な目的の緊張を解くどころか強めていると論じ、価値観に根ざした対立は証拠では決着しないとしました(pp. 278, 281)。南アフリカのアパルトヘイト政府からの撤退のように、市場の反応が負でも行う意味のある判断もある、というのが彼らの例です(p. 282)。

    • Margolis & Walsh (2003). Misery loves companies: Rethinking social initiatives by business. Administrative Science Quarterly. DOI ↗
  2. 調査(相関)

    どんな社会的な取り組みの話をしているか

    Orlitzky et al. (2003) では、関連の強さは取り組みの種類と測り方で大きく違いました。社会面の取り組みの補正後の相関は .47、環境面は .12 でした(p. 415)。年次報告書などでの開示の量は、財務業績とほとんど関連がありませんでした(ρ = .09)(p. 422)。財務業績の側も、会計上の利益では関連が強く(ρ = .42)、株価などの市場の指標では弱いものでした(ρ = .15)(p. 422)。「社会貢献は儲かる」「儲からない」とひとまとめに言うのは、この結果からは難しいことになります。

    • Orlitzky, Schmidt & Rynes (2003). Corporate social and financial performance: A meta-analysis. Organization Studies. DOI ↗
  3. 調査(相関)

    業績が良いから、社会貢献できているのではないか

    Orlitzky et al. (2003) では、社会的な業績と、その後の財務業績の相関も、その前の財務業績の相関も、同じくらいでした(どちらも ρ = .29)(p. 416)。著者らはこれを、業績の良い企業は余裕があるので社会的な活動に多く使い、その活動がまた少し業績を高めるという好循環として解釈しています(pp. 417, 424)。ただし、どれも実験ではなく相関の比較による解釈です。

    • Orlitzky, Schmidt & Rynes (2003). Corporate social and financial performance: A meta-analysis. Organization Studies. DOI ↗

ここに挙げた理論は、疑問を考えるための手がかりです。どの理論がよく当てはまるかは、組織や状況によって変わります。

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