CSRピラミッドPyramid of Corporate Social Responsibility
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと企業の社会的責任には、経済的責任を土台に、法的責任、倫理的責任、社会貢献(慈善的)責任という四つの層がある、と整理した枠組み。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
「企業の社会的責任」と一口に言っても、利益を出すこと、法律を守ること、倫理的に振る舞うこと、寄付をすることはそれぞれ違う。これらをどう整理し、どう関係づければよいのか。
主張とメカニズム
Carroll (1991) は、1979年に示した四つの責任の区分をもとに、CSRをピラミッドの形に描き、四つの責任の積み重ねとして示した。最も下の土台は、社会が求める財やサービスを提供し利益を上げる経済的責任である。その上に、法律を守る法的責任、法律を超えて公正・正義にかなう行動をとる倫理的責任、そして地域や社会に自発的に貢献する慈善的責任が重なる。
ピラミッドの形は、下の層ほど基礎的であることを示すが、上の層が不要だという意味ではない。Carroll (2016) は、土台から順に満たしていくという意味ではなく、企業はこれらを同時に満たすことが求められると説明している。
身近な例
ある企業が大規模な寄付やボランティア活動を宣伝していても、長時間労働や法令違反が明らかになれば、社会からの評価は大きく下がる。法的責任や倫理的責任が満たされていないと、慈善的責任にあたる活動だけでは信頼されない。
主要概念
- 経済的責任
- 社会が必要とする財・サービスを提供し、利益を上げる責任。
- 倫理的責任
- 法律に定められていなくても、社会から期待される公正な行動をとる責任。
- 慈善的責任
- 寄付や地域貢献など、社会からの自発的な貢献への期待。
代表的な展開研究
- Carroll, A. B. (1979). A three-dimensional conceptual model of corporate performance. Academy of Management Review. DOI ↗四つの責任の区分を最初に示し、社会的課題への対応と組み合わせたモデル。
- Aguinis, H., & Glavas, A. (2012). What we know and don't know about corporate social responsibility: A review and research agenda. Journal of Management. DOI ↗個人・組織・制度の各レベルにわたるCSR研究を整理したレビュー。
批判と境界条件
Carroll (2016, p. 2) は、1991年の発表時に明確にしていなかった点を論じるため、ピラミッドを著者自身が見直した。その中で Carroll は、ピラミッドは企業が土台から順に、段階的・階層的に責任を果たすという意味に解釈すべきではなく、四つを同時に果たすことを表していると述べた (p. 6)。層の並びは、それぞれの責任が社会の中での企業の存在にとってどれだけ基礎的かを表そうとしたものだという (p. 6)。
四つの責任の境界について、Carroll は、法的な期待と倫理的な期待の区別はしばしば難しいと認めている (p. 3)。さらに、倫理は独立した一つの層であると同時に、ピラミッド全体にしみわたる要素でもあるとした (p. 5)。また、責任どうしの緊張とトレードオフは、発表時には強調されていなかった点として挙げられている (p. 1)。Carroll は、四つの責任を果たそうとすれば、緊張やトレードオフは避けられないと認める (p. 5)。これに対し Carroll は、社会的な活動が経済的な見返りにもつながるという「ビジネス・ケース」の考え方を挙げ、四つの責任は一般に思われているほど完全に対立するものではないと応答している (p. 6)。
Carroll は、四つの区分 (1979) とピラミッド (1991) が、明らかに米国型の資本主義社会を念頭に作られたことを認めている (p. 7)。その後、他の国や小規模企業に合わせてピラミッドを並べ替えるべきだとする論者が現れた (p. 7)。Carroll は、こうした見直しを、理論と実践が発展していく道筋として受け止めている (p. 7)。
Carroll 自身も著者に加わった Schwartz & Carroll (2003, p. 505) は、Carroll (2016) より前に、ピラミッドの問題点として、ピラミッドという図の使い方、慈善を独立した区分にしたこと、経済・法・倫理の各領域の理論的な展開が不十分なことの三つを挙げていた。ピラミッドの図は、最上部の慈善の責任が最も重要で、土台の経済の責任が最も価値が低いという序列の誤解を招きうる (p. 505)。Carroll の意図はその逆で、経済と法の領域が最も基礎的だとされていた (p. 505)。また、ピラミッドでは、領域どうしが重なり合う性質を十分に表せない (p. 505)。慈善については、倫理的な活動と区別しにくく、売上や企業イメージのための経済的な動機に基づくこともあるという (pp. 506–507)。
そこで彼らは、慈善を倫理と経済の領域に含め、経済・法・倫理の三つの領域をベン図で重ねる「三領域モデル」を提案した (p. 508)。ベン図では、どの領域も一見して他より重要とはされず、重なりから七つの区分が生まれる (pp. 508, 513)。三つの責任が同時に満たされる中心が理想とされる (p. 513)。ただし著者らは、経済・法・倫理は絡み合っていて「純粋に」一つの領域だけに入る行為は考えにくいことなど、このモデルの限界も認めている (p. 520)。
研究上の位置づけ
The pyramid of corporate social responsibility: Toward the moral management of organizational stakeholders
出典
- 原典Carroll, A. B. (1991). The pyramid of corporate social responsibility: Toward the moral management of organizational stakeholders. Business Horizons. DOI ↗
- Carroll (2016). Carroll's pyramid of CSR: Taking another look. International Journal of Corporate Social Responsibility. ↗
- Schwartz & Carroll (2003). Corporate social responsibility: A three-domain approach. Business Ethics Quarterly. ↗
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