人事制度を整えても、成果につながらないのはなぜ?
評価制度を刷新した、研修を増やした、成果給を入れた。それなのに、職場の雰囲気も業績もあまり変わらない。人事の施策が組織の成果につながるのか、つながるならどんな道筋を通るのかは、戦略的人的資源管理の研究で長く調べられてきました。
人事制度と業績の関連は、主に従業員の能力や意欲、業務の成果を経由する長い経路をたどるとみられ、平均すると大きくありません。同じ制度でも、従業員が制度の目的をどう受け止めるかで結果が変わることも示されています。
この疑問を説明する 2 つの理論
高業績作業システムHigh-Performance Work Systems · Huselid 1995
採用・訓練・報酬・参加などの人事施策を組み合わせると、従業員の能力と意欲が高まり、離職の低下や生産性・財務業績の向上につながる、とする視点です。研究では、人事施策と業績の関連の多くは、能力と意欲、離職と業務の成果という途中の段階を経由していると推定されています(参加の機会を与える施策では、すべてがこの経路で説明されました。能力と意欲を高める施策では、業績との直接の関連も残りました)。組織レベルの研究をまとめたメタ分析では、財務成果への総合的な効果(標準化した値)は、能力を高める施策で .13、意欲を高める施策で .18、参加の機会を与える施策で .09 でした。この見方に立つと、途中のどこかが働かなければ、制度を入れても業績までは届きにくい、ということになります。著者らも、中間の段階に影響する要因(リーダーシップや組織文化など)が、人事の効果を左右しうると述べています(Jiang et al., 2012, p. 1278)。
研究の根拠と限界相関研究が中心
研究の根拠相関研究が中心116本の論文・120標本・31,463組織のメタ分析(Jiang, Lepak, Hu & Baer, 2012)。組織レベルの研究だけを集めたもの。最終モデルで説明できた財務成果のばらつきは26%だった。
因果と言うには足りないこと一部の研究は施策と成果を同じ回答者に尋ねており相関が水増しされている可能性があること、ほとんどの研究が横断的な設計で、媒介の向きについての結論が限られることを、著者自身が認めている(Jiang et al., 2012, p. 1279)。
人的資本理論Human Capital Theory · Becker 1964
教育や訓練への支出を、人に宿る資源を増やして将来の収益を高める投資とみる理論です。人事施策が成果につながる道筋の一つは、従業員の知識や技能を高めることです。上のメタ分析では、採用・選抜・訓練といった能力を高める施策が、人的資本と最も強く関連していました(ρ = .42)。一方で、能力を高める施策と従業員の意欲との結びつきは弱く(β = .07)、意欲とより強く関連していたのは、報酬や評価、参加の機会といった別の施策でした。研修だけを増やしても、意欲の問題は解けにくいことになります。
研究の根拠と限界相関研究が中心
研究の根拠相関研究が中心Jiang et al. (2012) のメタ分析。人的資本に対する相対的な寄与は、能力を高める施策48%、意欲を高める施策36%、機会を与える施策16%。意欲に対しては、それぞれ17%、45%、38%。
自分の状況に当てはめて考える
研究から引き出せる見直しの観点です。各観点の札は根拠の種類を表します。実験で確認は実験やそのメタ分析で確かめられたもの、調査(相関)は調査で関連が見られたもの(因果は分からない)、理論からの観点は理論から考えられるもので効果は確かめられていないものです。どんな研究なのかは、それぞれの説明に書いています。
- 調査(相関)
その制度が「何のためか」を、従業員はどう受け止めているか
スーパーマーケットのチェーン(95店舗・362部門、従業員4,208人)の調査では、全社で同じ人事制度が一律に適用されていても、その目的の受け止め方は従業員によって違っていました。制度を「サービスの質と従業員のため」と受け止める人ほど、職務満足とコミットメントが高く(β = .70)、「コスト削減と従業員の搾取のため」と受け止める人では、わずかに低い傾向がありました(β = −.06)(Nishii et al., 2008, p. 526)。部門で見ると、態度の良い部門ほど同僚を助ける行動が多く、助け合いの多い部門ほど客の満足が高くなっていました(p. 527)。著者らは、同じ人事施策が一つの組織の中でさえ同じ効果を持つとは限らないと述べています(pp. 527–528)。ただし一時点の調査で、受け止め方が態度を生むのか、その逆なのかは分からず(p. 536)、対象は一社だけです(p. 537)。
- Nishii, Lepak & Schneider (2008). Employee attributions of the "why" of HR practices: Their effects on employee attitudes and behaviors, and customer satisfaction. Personnel Psychology. DOI ↗
- 理論からの観点
制度どうしが、矛盾したメッセージを出していないか
Bowen & Ostroff (2004) は、人事制度はどんな施策を並べるか(中身)だけでなく、従業員に「何が期待され、何が報われるのか」を一貫して伝えられるか(制度の強さ)によって効果が変わる、と論じました。強さの条件として、制度が目立ち分かりやすいこと、施策どうしや時間を通じてメッセージが一貫していること、人事の決定に関わる人たちが一致し、公正だと受け止められていることを挙げています(pp. 208–213)。矛盾の例として、チームワークを重視して採用しながら個人の成果で報酬を決める、リスクをとれと言いながら評価では無難なやり方が報われる、といった組み合わせを挙げています(pp. 211–212)。最もあいまいになるのは、制度が目立つのに、メッセージの一貫性や人々の間の合意が低い場合だとしています(pp. 213–214)。データで確かめた研究ではなく、理論の提案です。
- Bowen & Ostroff (2004). Understanding HRM–firm performance linkages: The role of the "strength" of the HRM system. Academy of Management Review. DOI ↗
- 調査(相関)
どの施策に力を入れているか
Jiang et al. (2012) は、人事施策を、能力を高める施策(採用、選抜、訓練)、意欲を高める施策(評価、報酬、昇進、雇用保障など)、参加の機会を与える施策(職務設計、チーム、従業員の参加、苦情処理の手続き、情報共有など)の三つに分けて比べました(p. 1271)。能力を高める施策は人的資本と、意欲を高める施策と機会を与える施策は従業員の意欲と、より強く関連していました(p. 1272)。三つを一つの指標にまとめるより、分けたモデルのほうがデータに合っていましたが、その差は大きくないとも述べています(p. 1276)。どの段階でつまずいているかによって、手を入れるべき施策が違うことになります。
- Jiang, Lepak, Hu & Baer (2012). How does human resource management influence organizational outcomes? A meta-analytic investigation of mediating mechanisms. Academy of Management Journal. DOI ↗
- 調査(相関)
制度を入れる前から、業績の良い職場ではなかったか
一企業の45の事業単位を調べた Wright et al. (2005) では、人事施策と業績の相関は、施策より前の業績とも、同時期の業績とも、後の業績とも同じくらい高く、前の業績を統制すると後の業績との相関はほぼ消えました(高業績作業システムの項目を参照)。業績の良い職場が施策に投資している、という逆向きの関係もありうるということです。他社や他部署の「制度を入れて成功した」例をまねるときは、その成功が制度のおかげだったのかを疑ってみる必要があります。ただし著者たちは、人事施策が業績を高めないという意味ではないと断っています。
- Wright, Gardner, Moynihan & Allen (2005). The relationship between HR practices and firm performance: Examining causal order. Personnel Psychology. DOI ↗
ここに挙げた理論は、疑問を考えるための手がかりです。どの理論がよく当てはまるかは、組織や状況によって変わります。
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