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Theory Atlas
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EVERYDAY QUESTION

「約束が違う」と感じて、会社への気持ちが冷めるのはなぜ?

入社前に聞いていた仕事の中身、研修、昇進の見通し。入ってみたら話が違う。そう感じた途端、会社への気持ちが急に冷めてしまう。働く人と会社の間の、書かれていない「約束」をめぐるこの経験は、心理的契約の研究で扱われてきました。

先に答えを言うと

約束が守られなかったという受け止めは、不信や裏切られた感情と強く結びつき、それが満足やコミットメントの低さにつながると考えられています。冷め方は、それを意図的だと受け止めたか、説明があったかでも変わるとされます。

この疑問を説明する 2 つの理論

01

心理的契約Psychological Contract · Rousseau 1989

働く人は、「こう貢献すれば、会社はこう報いてくれる」という約束があると信じて働いている、とする理論です。この約束は本人の主観で、会社の側が同じように理解しているとは限りません。米国のMBA卒業生を追った調査では、入社後2年ほどのうちに、会社が約束を破ったことがあると答えた人が54.8%にのぼりました(Robinson & Rousseau, 1994, p. 252)。破られたとされた約束は、研修・能力開発、報酬、昇進が多いものでした(p. 256)。51研究のメタ分析では、約束が破られたという受け止め(破棄)は、経営陣への不信(ρ = .65)や裏切られたという感情(ρ = .52)、職務満足の低さ(ρ = −.54)、組織へのコミットメントの低さ(ρ = −.38)と関連していました(Zhao et al., 2007, p. 662)。

注意実際の離職との関連は、メタ分析では有意ではなかった(5研究、ρ = .06)(Zhao et al., 2007, p. 662)。気持ちが冷めても、辞めるとは限らない。

研究の根拠と限界相関研究が中心

研究の根拠相関研究が中心51研究のメタ分析(Zhao, Wayne, Glibkowski & Bravo, 2007)と、MBA卒業生の2時点の調査(Robinson & Rousseau, 1994)。メタ分析の構造方程式モデルは、破棄が不信や裏切られた感情を介して、満足やコミットメント、さらに職務の成果と結びつくという流れを支持した(直接の経路を加えたモデルのほうが統計的にはわずかに当てはまりがよかった)(Zhao et al., 2007, p. 665)。

因果と言うには足りないこと構造方程式モデルでは因果関係を完全には示せず、否定的な感情が破棄を見つけやすくするという逆向きの関係もありうると著者自身が述べている(Zhao et al., 2007, p. 672)。Robinson & Rousseau (1994, p. 258) も、研究の設計上、因果の向きは確認できないとしている。

心理的契約の解説を読む ↗
02

社会的交換理論Social Exchange Theory · Blau 1964

人と人、人と組織の関係を、やりとりの積み重ねとして捉える理論です。やりとりが続くと義務が生まれ、関係は信頼と相互のコミットメントへ育っていきます(Cropanzano & Mitchell, 2005, pp. 874–875)。お金の取引とは違い、社会的な交換ははっきり決まっていない義務を伴い、恩義や感謝、信頼を生むとされます(p. 882)。Cropanzano & Mitchell は、そうした信頼の関係の中で約束されたものを果たさないと、裏切りとみなされ、関係に長く残る傷を与えうると論じています(pp. 887–888)。会社を「信頼できる相手」と思っていた人ほど、約束違反はこたえることになります。

研究の根拠と限界

研究の根拠理論のレビュー(Cropanzano & Mitchell, 2005)。

因果と言うには足りないことCropanzano & Mitchell (2005, p. 875) 自身、この理論の中核の考え方はまだ十分に明確にされておらず、検証しにくい部分があると述べている。

社会的交換理論の解説を読む ↗

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組織コミットメント(3次元モデル)Organizational Commitment: Three-Component Model · Meyer & Allen 1991

「会社への気持ち」は、この理論でいう情緒的コミットメント(組織への愛着)にあたります。155標本のメタ分析では、情緒的コミットメントは、組織から支えられているという知覚(ρ = .63)や、相手から誠実に扱われているという公正さ(ρ = .50)と強く関連し(Meyer et al., 2002, p. 31)、辞めたい気持ちとは強い負の関連(ρ = −.56)がありました。実際の離職との関連はそれより弱いものでした(ρ = −.17)(p. 36)。

研究の根拠と限界相関研究が中心

研究の根拠相関研究が中心

因果と言うには足りないこと相関の研究なので因果の向きは確かめられないと著者自身が述べている(Meyer et al., 2002, p. 43)。

自分の状況に当てはめて考える

研究から引き出せる見直しの観点です。各観点の札は根拠の種類を表します。実験で確認は実験やそのメタ分析で確かめられたもの、調査(相関)は調査で関連が見られたもの(因果は分からない)、理論からの観点は理論から考えられるもので効果は確かめられていないものです。どんな研究なのかは、それぞれの説明に書いています。

  1. 理論からの観点

    その約束は、会社も同じ意味で交わしたつもりだったか

    Morrison & Robinson (1997) は、約束が守られない原因を二つに分けました。会社の側が承知のうえで約束を破る反故と、そもそも双方が約束を違う意味で理解していた食い違いです(p. 231)。食い違いは、約束が暗黙のものであるほど、時間がたつほど、互いの前提が違うほど起きやすいとされます(pp. 235–237)。Robinson & Rousseau (1994, p. 255) も、「昇進の見込みは十分ある」のような言い方を例に、約束は主観的に語られ、主観的に解釈されうると述べています。ただし、食い違いが原因でも、本人は意図的に破られたと受け止めることがあるとされます(Morrison & Robinson, 1997, p. 235)。

    • Morrison & Robinson (1997). When employees feel betrayed: A model of how psychological contract violation develops. Academy of Management Review. DOI ↗
    • Robinson & Rousseau (1994). Violating the psychological contract: Not the exception but the norm. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗
  2. 理論からの観点

    なぜ守られなかったのか、説明を受けたか

    Morrison & Robinson (1997) の理論では、約束が守られなかったと気づいても、それがどれだけ強い怒りや裏切られた感情になるかは、その受け止め方で変わります。意図的に破られたと考えるほど感情は強くなり、事情の説明があると責める気持ちは和らぐとされます(pp. 243–244)。誠実で敬意のある扱いと、十分な理由の説明も重視されています(p. 245)。Zhao et al. (2007, pp. 671–672) も、採用の段階で非現実的な約束をしないこと、守れなかった理由を説明すること、一部でも果たすことを勧めています。説明によって否定的な感情を避けられるという研究も挙げていますが(p. 671)、この観点の中心は理論からの提案です。

    • Morrison & Robinson (1997). When employees feel betrayed: A model of how psychological contract violation develops. Academy of Management Review. DOI ↗
    • Zhao, Wayne, Glibkowski & Bravo (2007). The impact of psychological contract breach on work-related outcomes: A meta-analysis. Personnel Psychology. DOI ↗
  3. 調査(相関)

    冷めた気持ちは、辞めることにつながるのか

    Robinson & Rousseau (1994) の調査では、最初の会社を辞めた人の76%が約束違反を経験していましたが、残っている人でも48%が経験していました(p. 252)。著者らは、雇用関係は、離職という目に見える形をとらずに損なわれていることがあると述べています(p. 254)。メタ分析でも、実際の離職との関連は有意ではなく(ただし5研究のみ)、辞めるには費用がかかるので必ずしも辞めない一方、残った人が努力を減らすことで損害を与えうると論じられています(Zhao et al., 2007, p. 670)。

    • Robinson & Rousseau (1994). Violating the psychological contract: Not the exception but the norm. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗
    • Zhao, Wayne, Glibkowski & Bravo (2007). The impact of psychological contract breach on work-related outcomes: A meta-analysis. Personnel Psychology. DOI ↗
  4. 調査(相関)

    約束が違うと、上司に伝えたか

    Robinson & Rousseau (1994, p. 255) の事後的な分析では、約束違反を上司に伝えるなどしてうまく問題にできた人は、何の手当てもされなかった人より、約束の果たされ方を高く評価していました。ただし「うまく問題にできた」こと自体が比較の条件に含まれており、問題にしたから果たされたのか、果たされそうな職場だから問題にできたのかも分かりません。

    • Robinson & Rousseau (1994). Violating the psychological contract: Not the exception but the norm. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗

ここに挙げた理論は、疑問を考えるための手がかりです。どの理論がよく当てはまるかは、組織や状況によって変わります。

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