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Theory Atlas
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EVERYDAY QUESTION

業績が目標を下回ると、急に大胆な手を打つのはなぜ?

業績が目標に届かないと、会社は急に新規事業や大型投資、組織の再編に乗り出す。逆に好調なときは、なかなか新しいことをしない。業績と目標のずれが組織の行動をどう変えるのかは、企業の行動理論の中心的な問いです。

先に答えを言うと

組織は業績を、自社の過去や同業他社から作る目標と比べ、下回ると探索や変化に向かうとされます。多くの研究をまとめると、この傾向は平均としては確かめられていますが、その強さは小さく、ばらつきも大きいものです。

この疑問を説明する 2 つの理論

01

業績フィードバック理論Performance Feedback Theory · Cyert & March 1963

企業は業績を、自社の過去の業績や同業他社の業績から作る希求水準と比べ、下回ると問題の解決策を探し、変化に向かう、という考え方です。113研究のメタ分析では、業績が希求水準を下回るほど、戦略の変更、投資、研究開発、リスクの高い行動が増える傾向がありました(r = −.08。負の値ほど理論どおり)。上回るほど行動を控える傾向もありましたが、その効果はより小さいものでした(r = −.03)(Kotiloglu et al., 2021, p. 295)。著者らは、下回ったときに行動を強める効果のほうが、上回ったときに控える効果より大きいとまとめています(p. 300)。

注意効果の大きさは小さく(|r| が .11 以下)、研究によるばらつきも大きい。業績が大きく下回ると、逆に縮こまる「脅威による硬直」も論じられてきたが、このメタ分析では研究が少なく検証できなかった(Kotiloglu et al., 2021, p. 303)。

研究の根拠と限界相関研究が中心

研究の根拠相関研究が中心113研究・302の効果量・約110万の企業×年のメタ分析(Kotiloglu, Chen & Lechler, 2021)。113研究のうち101研究がアーカイブ・データを使っていた。

因果と言うには足りないことほとんどの研究は業績と行動の関連を見るだけで因果の連鎖を記録しておらず、メタ分析では背後の仕組みを見分けられないと著者自身が述べている(Kotiloglu et al., 2021, pp. 302–303)。研究は米国の上場企業に偏っている(p. 304)。

業績フィードバック理論の解説を読む ↗
02

プロスペクト理論Prospect Theory · Kahneman & Tversky 1979

人は結果を最終的な大きさではなく、参照点からの利得と損失として評価し、損失の場面ではリスクを好むようになる、とする理論です。目標を参照点とみなせば、目標を下回った状態は「損失の場面」にあたり、リスクの高い手を選びやすくなる、と考えられます。Kotiloglu et al. (2021, p. 300) も、下回ったときの反応のほうが強いという結果を、損失回避になぞらえています。

注意原典が扱ったのは個人の単純なくじの選択で、組織の意思決定にそのまま当てはまるとは限らない。

研究の根拠と限界

研究の根拠個人のくじの選択の実験に基づく理論(Kahneman & Tversky, 1979)。

プロスペクト理論の解説を読む ↗

もっと読むなら

企業の行動理論Behavioral Theory of the Firm · Cyert & March 1963

企業を、目標の異なる人々の連合体として捉え、目標と業績の比較から探索や変化が始まると考える理論です。業績フィードバックの考え方の出発点になっています。

自分の状況に当てはめて考える

研究から引き出せる見直しの観点です。各観点の札は根拠の種類を表します。実験で確認は実験やそのメタ分析で確かめられたもの、調査(相関)は調査で関連が見られたもの(因果は分からない)、理論からの観点は理論から考えられるもので効果は確かめられていないものです。どんな研究なのかは、それぞれの説明に書いています。

  1. 調査(相関)

    比べている相手は、自社の過去か、同業他社か

    Kotiloglu et al. (2021) は、組織は自社の過去の業績(歴史的な希求水準)にも、同業他社の業績(社会的な希求水準)にも、全体としては同じくらい反応すると結論しています(p. 295。ただし同じ論文の表4では両者の差を有意と報告しており、記述が食い違っています)。行動の種類で見ると、研究開発は自社の過去との比較に、リスクの高い行動は同業他社との比較に、より強く反応していました(pp. 297–298)。著者らは、研究開発では自社の過去から、試したことのない行動では同業他社から学ぶのではないかと解釈しています(p. 301)。

    • Kotiloglu, Chen & Lechler (2021). Organizational responses to performance feedback: A meta-analytic review. Strategic Organization. DOI ↗
  2. 調査(相関)

    目標を上回っているときに、研究開発まで控えていないか

    目標を上回っているとき、組織は投資、戦略の変更、リスクの高い行動を控える傾向がありましたが、研究開発と製品のイノベーションは控えていませんでした(Kotiloglu et al., 2021, p. 296)。著者らは、研究開発やイノベーションは、問題を解決するための探索だけでなく、余裕から生まれる探索にも支えられているのかもしれないとし、組織は必ずしも近視眼的ではないと述べています(p. 300)。

    • Kotiloglu, Chen & Lechler (2021). Organizational responses to performance feedback: A meta-analytic review. Strategic Organization. DOI ↗
  3. 調査(相関)

    どんな会社で、この傾向が強いか

    非上場企業は、上場企業より業績のずれに強く反応していました(Kotiloglu et al., 2021, p. 301)。業績を財務以外の指標で測った研究では、下回ったときの反応が強く、米国の企業も反応が強い傾向がありました。一方、製造業の企業は、下回ったときに行動を強めるより抑える傾向があり、著者らはこれを議論の余地がある結果としています(p. 302)。規模の大きい企業ほど、反応は弱めでした。

    • Kotiloglu, Chen & Lechler (2021). Organizational responses to performance feedback: A meta-analytic review. Strategic Organization. DOI ↗
  4. 理論からの観点

    大きく下回ったときに、逆に縮こまっていないか

    業績フィードバックの研究では、業績が希求水準を下回ると変化に向かうという見方の一方で、生存が脅かされるほど業績が悪化すると、注意が生き残りに移り、かえって行動が硬直するという見方も論じられてきました(業績フィードバック理論の項目を参照)。Kotiloglu et al. (2021, p. 303) は、この「脅威による硬直」を検証できるだけの研究がなく、結果も割れていると述べています。下回れば必ず大胆になる、とは言えないということです。

ここに挙げた理論は、疑問を考えるための手がかりです。どの理論がよく当てはまるかは、組織や状況によって変わります。

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