理論・視点

高業績作業システムHigh-Performance Work Systems

別名HPWS、高業績作業施策

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

採用・選抜、訓練、成果に連動した報酬、従業員の参加といった人事施策を組み合わせて用いると、従業員の能力と意欲が高まり、離職の低下や生産性・財務業績の向上につながるとする視点。

目次
説明したい問い企業の人事のやり方は、離職率や生産性、さらには企業の財務業績まで左右するのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

Wright et al. (2005) が述べるように、人事の担当者は長いあいだ、自分たちが企業に貢献していることを示せないと批判されてきた。しかし、どのような人を採り、どう育て、どう評価し報いるかは、企業の成果そのものに影響するのではないか。もしそうなら、その影響は数字で確かめられるのか。

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主張とメカニズム

Huselid (1995) によれば、高業績作業施策(high performance work practices)について、次のように論じる研究が増えていた。包括的な採用・選抜、成果に連動した報酬と業績管理、広範な従業員の参加と訓練といった施策は、「企業の現在および潜在的な従業員の知識・技能・能力を高め、意欲を高め、手抜きを減らし、優れた従業員を引き留める一方で、業績の低い者の退出を促す」。Huselid (1995) の整理では、人事施策は、従業員の技能と意欲に働きかけるとともに、従業員が仕事のやり方を改善できる組織構造を用意することで、個々の従業員の業績に影響する。そうであれば、施策は離職の低下や生産性の向上を通じて、企業の財務業績も高めるはずだという。

Huselid は、米国の約1000社を対象とした調査で、こうした施策の利用度を測った。分析の結果、施策は「従業員の技能と組織構造」にかかわるものと、「従業員の動機づけ」にかかわるものの二つのまとまりに分かれた。そして、これらの施策を多く用いる企業ほど、離職率が低く、従業員一人当たりの生産性が高く、財務業績も高いという関係が見られた。

一方、施策同士がうまくかみ合っているか(内的な適合)や、施策が企業の戦略に合っているか(外的な適合)が業績をさらに高めるという仮説は、あまり支持されなかった。内的な適合を支持する証拠はわずかで、外的な適合を支持する証拠はほとんどなかった。Huselid は、外的な適合の考え方は、どの企業にも有効な「最善の施策(best practices)」があるのか、それとも施策の効果は企業ごとの戦略や環境の条件のもとでしか決まらないのか、という問いを投げかけると述べていた。結果からは、施策を採り入れること自体のほうが適合を図るより重要だとも考えられる。だが Huselid は、適合の概念と測定を磨いた研究なしに、その結論を受け入れることはできないと述べた。

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身近な例

たとえば、同じ業界の二つの会社を比べるとしよう。一方は、応募者を面接や試験で丁寧に選び、入社後も研修を続け、チームの成果に応じて賞与を出し、現場の改善提案を取り入れている。もう一方は、人手が足りなくなるたびに急いで採用し、研修もほとんど行わない。高業績作業システムの考え方に従えば、前者の会社のほうが社員が辞めにくく、一人ひとりの生産性も高くなり、それが会社全体の業績の差として現れると予想される。

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主要概念

高業績作業施策(high performance work practices)
採用・選抜、訓練、業績管理と報酬、従業員の参加など、従業員の能力と意欲を高めることで企業の成果を高めるとされる人事施策。
戦略的人的資源管理(strategic human resource management)
人事施策が組織全体の成果にどう影響するかを明らかにしようとする研究の流れ。人事施策を組織の戦略に合わせると業績が高まると主張する。
内的な適合(internal fit)
複数の人事施策が互いに補い合い、一貫したまとまりになっている程度。
外的な適合(external fit)
人事施策の組み合わせが、企業の競争戦略に合っている程度。
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代表的な展開研究

  • Delery, J. E., & Doty, D. H. (1996). Modes of theorizing in strategic human resource management: Tests of universalistic, contingency, and configurational performance predictions. Academy of Management Journal. DOI ↗人事施策と業績の関係について、普遍的な見方、状況適合的な見方、施策の組み合わせを重視する見方の三つを整理し、銀行のデータで比較した。
  • Combs, J., Liu, Y., Hall, A., & Ketchen, D. (2006). How much do high-performance work practices matter? A meta-analysis of their effects on organizational performance. Personnel Psychology. DOI ↗高業績作業施策と組織業績の関係をメタ分析で統合し、施策を個別にではなく組み合わせて用いたときに関係がより強いことを示した。
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批判と境界条件

Huselid (1995, p. 640) 自身、横断的なデータでは、施策と業績の同時性(逆の因果)が問題になると述べていた。業績の高い企業ほど施策を採り入れやすいなら、施策の効果は過大に推定される。逆に、業績の低い企業が立て直しのために施策に頼るなら、過小に推定される (p. 640)。Huselid は翌年の業績を用い、同時性を補正する二段階最小二乗法も推定したが、結果は通常の回帰と一致した (p. 666)。それでも、因果の結論を引き出すには横断的なデータに限界があり、施策と業績の縦断的なデータが必要だと認めていた (p. 668)。

Wright, Gardner, Moynihan, & Allen (2005, p. 415) が先行研究の設計を分類すると、70の設計のうち50は、業績の期間より後に人事施策を測っていた。施策を測った後の業績を見る設計は10にとどまった。彼らは一企業の45の事業単位(62のデータ点)で、人事施策と過去・同時・将来の業績との相関を比べた。相関はどの時点でも高くほぼ同じで、過去または同時の業績を統制すると、将来の業績との相関はほぼ消えた (p. 409)。このため、因果の向きは逆でもありうるとした (p. 432)。業績のよい事業単位が施策に投資し、その投資が業績を高めるという双方向の関係なら、効果は Huselid (1995) などの推定よりはるかに小さいかもしれない (p. 433)。ただし著者たちは、人事施策が業績を高めないという意味ではないと断っている (p. 433)。一企業の中の研究で一般化に限界があるという指摘には、目的は一般化ではなく理論の予測の検証だと応じている (p. 436)。

施策の測り方にも疑問が出ている。Combs, Liu, Hall, & Ketchen (2006, p. 522) によれば、一人の回答者に施策を尋ねる調査の測定誤差をめぐって、Gerhart, Wright, McMahan, & Snell (2000) と Huselid & Becker (2000) の間で議論があった。Combs らが評定者の信頼性の低さを補正すると、一人の回答者による調査研究の効果は .40 に上がったが、共通方法バイアスを差し引いていないため過大かもしれないという (p. 522)。Wright et al. (2005, pp. 420–421) は、回答者が「業績のよい会社だから、こうした施策をしているはずだ」と考えて答える暗黙の業績理論の可能性も挙げた。同じ回答者が施策と業績の両方に答える研究では、施策の測定がこれに汚染されうる。

Combs et al. (2006, p. 518) のメタ分析では、業績評価、チーム、情報共有の三つの施策は、効果がゼロより大きいとはまだ示されていない。施策と戦略の適合が業績を高めるという仮説は、必要な数値がほとんど報告されていないため検証できなかった (p. 523)。また、関係の一部は逆の因果によるものかもしれず、優れたリーダーシップが業績と施策の両方をもたらす見かけの関係の可能性もあると述べている (p. 523)。

研究上の位置づけ

原典Huselid, M. A. (1995)
The impact of human resource management practices on turnover, productivity, and corporate financial performance
分類モデル・枠組み
分析単位組織
理論系譜経済学 · 行動論
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。