研究法

共通方法分散(同じ回答者によるバイアス)Common Method Variance

同じ人に同じアンケートで複数のことを尋ねると、測り方が共通していることで回答が同じ方向にずれ、変数どうしの関連が歪むことがある。関連を強く見せることも弱く見せることもあり、どこまで深刻かは研究者のあいだで意見が分かれている。

この項目が扱う問い同じ人に同じアンケートで尋ねた研究の結果は、どこまで信じてよいのか。
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何が問題とされているのか

たとえば、社員に「上司は公平に評価してくれるか」と「今の仕事に満足しているか」を同じアンケートで尋ね、両者に強い関連が出たとする。この関連には、公平さが満足を生むという関係のほかに、測り方が同じであることに由来する部分が混ざっているかもしれない。直前に客から苦情を受けて落ち込んでいた人は両方に低く答え、よく思われたい人は両方を好ましく答える、といった具合である。

測ろうとしている中身ではなく、測り方に由来する回答のばらつきを方法分散と呼ぶ(Podsakoff et al., 2003, p. 879)。複数の変数を同じ方法で測ったときに、それらに共通して入り込む方法分散が共通方法分散で、それによって結果が歪むことを共通方法バイアスと呼ぶ。

Podsakoff et al. (2003, Table 2, p. 882) は、その発生源を四つに分けた。第一に同じ人が答えること(よく思われたい傾向、何にでも「はい」と答えやすい傾向、その日の気分、回答のつじつまを合わせようとする傾向など)。第二に質問項目の性質(望ましい答えが透けて見える項目、あいまいな項目、同じ形式の尺度など)。第三に質問の並び(前の質問が後の質問の答え方に影響するなど)。第四に測る場面(同じ時点、同じ場所、同じ媒体で測ることなど)である。

大きさについて、Podsakoff et al. (2003, p. 880) は、Cote & Buckley (1987) の分析から、典型的な測定の分散のおよそ4分の1(26.3%)が、共通方法バイアスのような系統的な測定誤差に由来しうると紹介している。

02

本当に水増しされているのか

この問題を重く見る立場に対して、Spector (2006) は、「同じ方法で測れば相関は自動的に水増しされる」という考えを「都市伝説」と呼んで批判した。根拠の一つは、1,601人に同じ調査票で尋ねた研究(Boswell et al., 2004)の再検討である。自己報告の5つの変数の間の10組の相関のうち、4組は統計的に有意でなく、最も小さいものは .02 だった(p. 224)。同じ方法で測っても、関連が出ない組はいくらでもある。

ただし Spector は、回答の偏りそのものがないと言ったわけではない。「よく考えられているような共通方法分散は伝説かもしれないが、偏りは実在し、研究にしみついている」と書いている(p. 231)。批判の対象は、方法が同じだというだけで、どの変数の組にも一律に水増しが起こるという単純な見方だった。

実際のデータで確かめた研究もある。Crampton & Wagner (1994) は、581本の論文に載った42,934個の相関を調べた。全体としては自己報告どうしの相関のほうがわずかに大きかったが(p. 69)、変数の組ごとに比べた143件のうち、自己報告どうしのほうが有意に大きかったのは38件、逆に有意に小さかったのが17件、差がなかったのが88件だった(p. 70)。著者らは、水増しは一部の変数の組では起きているが、広く全面的なものではないと結論している(p. 67)。

この問題を重く見る側も反論を続けている。Podsakoff et al. (2012, p. 548) は、方法バイアスの影響は小さいとする主張(Spector & Brannick, 2009)と実証の証拠は合わないと論じた。Antonakis et al. (2010) は、Spector (2006) に「最も強い言葉で」反対すると書き(p. 1096)、共通の原因を無視すると推定の符号まで逆になりうることを示した(真の値が −.20 のところ、推定は .11。p. 1104)。

03

水増しとは限らない

この論争の両側で一致しているのは、共通方法分散は関連を強く見せることも、弱く見せることもあるという点である。

Podsakoff et al. (2003, p. 881) は、測定の誤差は、方法どうしの相関の大きさによって、観測される相関を水増しすることも過小にすることもあると書いている。よく思われたい傾向(社会的望ましさ)は、見かけの関係を生むこともあれば、本当の関係を隠すこともある(同 p. 881)。Spector et al. (2019, p. 861) は、二つの変数に共通する偏りは相関を水増しし、それぞれの変数にしかない偏りは相関を弱めると整理した。同じアンケートの中でも、変数によって入り込む偏りは違うので、どちらに振れるかは変数の組によって変わる。

Siemsen et al. (2010) は、回帰分析の中で共通方法分散がどう働くかを数式で調べ、交互作用(「〜のときほど効果が強い」という関係)は、共通方法分散によって作り出されることはなく、弱められるだけだと示した(p. 469)。共通方法分散の影響を受けたデータでも交互作用が見つかったなら、それはむしろ交互作用がある強い証拠だ、とも述べている(p. 470)。「同じ人に尋ねたから、この関連は水増しだ」と決めつけるのも、単純化である。

04

論文を読むときの目安

第一に、別の人や別の時点で測っているかを見る。原因とされる変数と結果とされる変数を、別の情報源(上司の評価、客観的な記録など)や別の時点で測っていれば、同じ人の回答の偏りが両方に入り込むことは避けられる。Chang et al. (2010, p. 179) は、これを「明らかに最善」の対処としている。ただし、時間をあけすぎると本当の関係が見えにくくなり(Podsakoff et al., 2003, p. 888)、別の情報源にしても、原因とされる変数そのものが他の要因の影響を受けていれば問題は残る(Antonakis et al., 2010, p. 1096)。

第二に、「Harman の単一因子検定で問題なし」は根拠にならない。論文でよく見かける確認の方法だが、Podsakoff et al. (2003, p. 889) は、この検定は方法の影響を取り除く働きを何もしておらず、診断としても鈍いと評価した。因子が複数出ても、共通方法分散がない証拠にはならない。

第三に、事後の統計的な補正にも頼れない。Richardson et al. (2009, p. 793) がシミュレーションで調べたところ、共通方法分散の有無を正しく判定できた割合は、方法によって平均で約41%から約73%だった。共通方法分散がないデータに補正をかけると、補正しないより不正確になることも多い(同 p. 793)。よく使われるマーカー変数法についても、提案者自身が、前提(方法の影響がすべての変数に等しく及ぶ)は「かなり制約的」で、破られることは「ほぼ確実」だと書いている(Lindell & Whitney, 2001, p. 116)。

第四に、著者が限界として書いているかを見る。書いていない論文も多い。Antonakis et al. (2010, pp. 1111–1112) が過去10年のリーダーシップ研究110本を調べたところ、共通方法分散の問題は83.6%の研究に当てはまり、そのうち77%は十分に対処していなかった。雑誌の側も対応を強めており、国際経営の主要誌 Journal of International Business Studies の編集部は、この問題を無視した原稿は査読に回さず著者に差し戻すのが標準になっていると書いている(Chang et al., 2010, p. 182)。

05

このサイトの注意書きの読み方

項目の「批判と境界条件」や身近な疑問の「研究の根拠」に、同じ回答者によるバイアスの注意書きがあるときは、関連がないという意味ではない。関連の大きさが、実際より大きいかもしれないし、小さいかもしれない、という意味である。

別の測り方で確かめた結果があるかも見てほしい。たとえばリーダー・メンバー交換理論の項目では、上司との関係の質が、上司による評価とは強く、客観的な業績とは弱くしか結びついていないことを紹介している。測り方によって結果が変わる例である。

なお、同じ人に一度に尋ねた調査では、どちらが原因かも分からない。これは共通方法分散とは別の問題である(「論文の手に入れ方・読み方」の「実証研究の強さを読む」も参照)。

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主な文献

  • Podsakoff, P. M., MacKenzie, S. B., Lee, J.-Y., & Podsakoff, N. P. (2003). Common method biases in behavioral research: A critical review of the literature and recommended remedies. Journal of Applied Psychology. DOI ↗発生源の4分類と、手続き上・統計上の対処を整理した。Harman の単一因子検定の限界も指摘した。
  • Spector, P. E. (2006). Method variance in organizational research: Truth or urban legend?. Organizational Research Methods. DOI ↗同じ方法なら一律に水増しされるという見方を「都市伝説」と批判した。
  • Crampton, S. M., & Wagner, J. A., III (1994). Percept-percept inflation in microorganizational research: An investigation of prevalence and effect. Journal of Applied Psychology. DOI ↗42,934個の相関を調べ、水増しは一部の変数の組に限られることを示した。
  • Antonakis, J., Bendahan, S., Jacquart, P., & Lalive, R. (2010). On making causal claims: A review and recommendations. The Leadership Quarterly. DOI ↗Spector (2006) に反対し、共通の原因を無視すると推定の符号まで逆になりうることを示した。
  • Podsakoff, P. M., MacKenzie, S. B., & Podsakoff, N. P. (2012). Sources of method bias in social science research and recommendations on how to control it. Annual Review of Psychology. DOI ↗2003年以降の論争を整理し、影響は小さいとする主張に反論した。
  • Spector, P. E., Rosen, C. C., Richardson, H. A., Williams, L. J., & Johnson, R. E. (2019). A new perspective on method variance: A measure-centric approach. Journal of Management. DOI ↗方法ではなく測定ごとに偏りを考える立場を示し、水増しも過小もありうることを整理した。
  • Siemsen, E., Roth, A., & Oliveira, P. (2010). Common method bias in regression models with linear, quadratic, and interaction effects. Organizational Research Methods. DOI ↗交互作用と二次の効果は、共通方法分散では作り出されず、弱められるだけであることを数式で示した。
  • Richardson, H. A., Simmering, M. J., & Sturman, M. C. (2009). A tale of three perspectives: Examining post hoc statistical techniques for detection and correction of common method variance. Organizational Research Methods. DOI ↗事後の検出・補正法がシミュレーションで当てにならないことを示した。
  • Lindell, M. K., & Whitney, D. J. (2001). Accounting for common method variance in cross-sectional research designs. Journal of Applied Psychology. DOI ↗マーカー変数法を提案した。前提が制約的であることを著者自身が認めている。
  • Chang, S.-J., van Witteloostuijn, A., & Eden, L. (2010). From the editors: Common method variance in international business research. Journal of International Business Studies. DOI ↗学術誌の編集部として、設計段階での対処を最善とし、問題を無視した原稿を差し戻す方針を示した。
07

批判と境界条件

この項目の根拠にも限界がある。Siemsen et al. (2010, p. 472) の結論は、方法の影響が一つの因子にまとめられること、変数ごとの測定誤差を考えないこと、回帰分析に限ることを前提にしており、方法の影響が複数あれば結果が変わりうると著者自身が書いている。Crampton & Wagner (1994) が調べたのは1965〜1990年の5誌に載った論文のうち、相関表をすべて載せたものだけで(p. 69)、細かな分析のために対象を絞ったことで一般化できる範囲を狭めたと認めている(p. 73)。Richardson et al. (2009) の比較はシミュレーションにもとづく。

また、共通方法分散が「どれくらい大きいか」について、このページでは Cote & Buckley (1987)、Boswell et al. (2004)、Spector & Brannick (2009) の原文を読んでおらず、それぞれ Podsakoff et al. (2003)、Spector (2006)、Podsakoff et al. (2012) を通して紹介している。

研究上の位置づけ

分類Methodological issue
地図の区画組織行動
分析単位個人
理論系譜心理学
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。