LMX理論(リーダー・メンバー交換理論)Leader-Member Exchange (LMX) Theory
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うとリーダーシップを、リーダー個人の特性や行動ではなく、リーダーと一人ひとりのメンバーとの二者関係の質としてとらえ、その関係が成熟したパートナーシップに育つほど、双方に多くの恩恵が生まれるとする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
従来のリーダーシップ研究の多くは、リーダーが部下全員に同じように振る舞うと考え、リーダーの特性や行動の平均をとって調べてきた。しかし実際の職場では、上司はある部下には重要な仕事を任せて相談に乗り、別の部下とは決まった業務のやりとりしかしないことがある。リーダーシップを、リーダーとメンバー一人ひとりとの関係として見ると、何が分かるのか。
主張とメカニズム
Graen & Uhl-Bien (1995) は、LMX理論の中心的な考え方を「効果的なリーダーシップの過程は、リーダーとフォロワーが成熟したリーダーシップ関係(パートナーシップ)を築き、その関係がもたらす多くの恩恵を得られるときに生じる」とまとめた。彼らはリーダーシップを、リーダー、フォロワー、両者の関係という三つの領域に分け、LMX理論は関係の領域に焦点を当てる理論だと位置づけた。質の高い関係は、互いへの尊敬、信頼、義務感によって特徴づけられる。
この論文は、それまで約25年の研究の流れを四つの段階として整理している。第一段階は、上司が部下ごとに異なる関係を結んでいることの発見である(Dansereau, Graen, & Haga (1975) などの垂直的二者連結の研究による)。第二段階は、関係の質の特徴と、それが仕事の成果や態度とどう結びつくかの研究である。第三段階は、関係がどのように育つかの記述であり、第四段階は、個々の二者関係を集団やネットワークの水準に広げて考えることである。
第三段階の「リーダーシップ・メイキング」のモデルでは、関係は「他人」の段階から「知り合い」の段階を経て、「成熟したパートナーシップ」へと進む。初めは契約どおりのやりとり(取引的な関係)にとどまるが、成熟すると互いに自分の利益を超えて協力する関係になる。著者らは、上司が一部の部下だけを内集団として優遇するのではなく、すべての部下にパートナーシップを築く機会を提供すべきだ、と規範的な提言も行っている。
身近な例
たとえば、ある課長が新しく二人の部下を迎えたとしよう。最初はどちらとも、決められた業務を指示し、報告を受けるだけのやりとりである。一人の部下は、頼まれた以上の工夫をして返し、課長も相談に乗ったり難しい案件を任せたりするようになる。こうして二人の関係は信頼にもとづくものへと深まっていく。もう一人とは、そのきっかけがないまま、契約どおりのやりとりが続く。LMX理論は、この差を部下の能力だけでなく、二人の関係がどう育ったかの違いとして説明する。そのうえで、課長は二人目にも関係を深める機会を差し出すべきだと考える。
主要概念
- LMX(leader-member exchange)
- リーダーとメンバー一人ひとりとの間に結ばれる、交換関係の質。
- 垂直的二者連結(vertical dyad linkage)
- 上司と部下の一対一の関係を分析の単位とし、上司が部下ごとに異なる関係を結ぶことを示した初期の研究の考え方。
- リーダーシップ・メイキング(leadership making)
- リーダーとメンバーの関係が、他人、知り合い、成熟したパートナーシップへと段階的に育っていく過程を描くモデル。
- パートナーシップ(partnership)
- 互いの尊敬、信頼、義務感にもとづき、双方が自分の利益を超えて協力し合う成熟した関係。
代表的な展開研究
- Gerstner, C. R., & Day, D. V. (1997). Meta-analytic review of leader-member exchange theory: Correlates and construct issues. Journal of Applied Psychology. DOI ↗79件の研究(85標本)をメタ分析した。標本の大きさで重みづけした平均相関(測定の信頼性による補正前)で見ると、LMXは、上司への満足(r = .62)、全体的な職務満足(r = .46)、組織コミットメント(r = .35)、上司による業績評価(リーダーが答えたLMXで r = .41、メンバーが答えたLMXで r = .28)と関連していたが、客観的な業績との関連は r = .10 と小さかった。リーダーが答えたLMXと業績評価の相関は、同じ上司が両方に答えているため水増しされている可能性がある、と著者らは述べている。
- Dulebohn, J. H., Bommer, W. H., Liden, R. C., Brouer, R. L., & Ferris, G. R. (2012). A meta-analysis of antecedents and consequences of leader-member exchange. Journal of Management. DOI ↗247件の研究(290標本)をメタ分析し、LMXの21の先行要因と16の結果を検討した。フォロワーの特性、リーダーの行動と知覚、対人関係の特徴、状況の要因はいずれも先行要因となっていたが、LMXの質を最もよく説明したのはリーダーの側の要因だった。また、検討できた関係の多くで、LMXは先行要因と結果をつなぐ役割(媒介)を果たしていた。
批判と境界条件
Graen & Uhl-Bien (1995, p. 236) 自身、LMXの尺度が研究のたびに定義し直され、2項目から16項目までの版が使われてきたことを認めている。彼らは、項目を増やした尺度も短い7項目版と強く相関し、同じ効果を示したとして、7項目版(LMX-7)を推奨した (p. 236)。Dulebohn et al. (2012, p. 1725) の整理によれば、LMXの測定は、厳密な尺度開発の手続きを欠くこと(Schriesheim, Castro, & Cogliser, 1999 など)や、研究ごとに項目が足し引きされることで批判されてきた。ただし彼らのメタ分析では、使った尺度によって関係の強さに意味のある違いは見られなかった (p. 1733)。
一方で Dulebohn et al. (2012, p. 1739) は、今のLMX尺度の多くは交換そのものを測っておらず、互いのお返し(互恵性)を測るものも少ないと指摘する。そのため、LMXと、変革型リーダーシップや、成果に応じて報いる行動(随伴的報酬)とが、概念上よりも実証上似て見えるという (p. 1739)。実際、LMXとの相関はどちらも r = .73 だった (p. 1732)。これに対して著者らは、相関が高くても理論上の区別があれば別の概念として残してよいと述べている (p. 1741)。
研究の設計にも限界がある。Dulebohn et al. (2012, p. 1718) によれば、LMXと関連する変数の多くは部下が一人で答えている。また、研究の大半は一時点の調査(横断的な研究)である (p. 1719)。メタ分析に含めた研究のうち、時間をおいて測った縦断的なデータを示したのは9件だけだった (p. 1731)。同じ回答者から得た知覚や態度との関連(平均 r = .54、.44)は行動の結果との関連(r = .32)より強く、著者らはこれを同じ回答者による水増しと整合するとしている (p. 1734)。そのため、原因と結果が逆である可能性もある (p. 1719)。著者らは、上司の側から見たLMXや、上司と部下の評価の一致を扱う研究を増やすよう勧めている (p. 1742)。
理論の中身についても、Graen & Uhl-Bien (1995) 自身が未検証の部分を認めている。リーダーシップ・メイキングのモデルは、関係がどう育つかを実証的に記録して、さらに検証する必要がある (p. 239)。すべての部下に申し出をしても、すべてが質の高い関係になるかは疑わしく、ありそうにないと述べている (p. 233)。集団やネットワークに広げる第四段階については、実証研究を知らないと書いている (p. 235)。Dulebohn et al. (2012, p. 1743) も、LMX研究の多くは記述的で、関係の質をどう高めるかを示す研究ははるかに少ないとしている。
研究上の位置づけ
Relationship-based approach to leadership: Development of leader-member exchange (LMX) theory of leadership over 25 years: Applying a multi-level multi-domain perspective
出典
- 原典Graen, G. B., & Uhl-Bien, M. (1995). Relationship-based approach to leadership: Development of leader-member exchange (LMX) theory of leadership over 25 years: Applying a multi-level multi-domain perspective. The Leadership Quarterly. DOI ↗
- Dansereau, Graen, & Haga (1975). A vertical dyad linkage approach to leadership within formal organizations. Organizational Behavior and Human Performance. ↗
- Schriesheim, Castro, & Cogliser (1999). Leader-member exchange (LMX) research: A comprehensive review of theory, measurement, and data-analytic practices. The Leadership Quarterly. ↗
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