変革型リーダーシップTransformational Leadership
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うとリーダーは、報酬と引き換えに働きを求める取引だけでなく、部下の意識や欲求そのものを高め、自分の利害を超えて集団のために、当初の期待以上の働きをするよう動機づけることができる、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
van Knippenberg & Sitkin (2013) によれば、1980年代半ばのリーダーシップ研究は、おおむね日々の業務を管理するためのリーダーシップに目を向けていた。これに対し、変革型リーダーシップの研究は、集団での行動、変化、革新を強調した。Bass (1999) は、今日、組織のために自分の利害を超えて働いてもらうには、一人ひとりの利害や価値を組織のそれとそろえる必要があり、そのために変革型リーダーシップが要ると述べている。リーダーは、部下を「期待どおり」ではなく「期待以上」の働きに導くことができるのか。それはどのようにしてなのか。
主張とメカニズム
van Knippenberg & Sitkin (2013) の整理によれば、Bass (1985) をはじめとする研究は、変革型リーダーシップを、部下への効果によって定義してきた。部下に誇りや敬意、信頼を抱かせること、動機づけを自己利益から集団の利益へ移すこと、期待を超える成果へと部下を鼓舞し動機づけることなどである。Bass (1999) は、変革型リーダーシップを、部下を目先の自己利益の先へと動かすものと説明している。それは、部下の成熟や理想の水準を高め、達成や自己実現、さらに他者・組織・社会の幸福への関心を高めるという。Bass (1999) によれば、Burns (1978) は、変革的(transforming)リーダーを、部下をマズローの欲求階層の上の段階へ進ませるだけでなく、自分の利害を超えさせる者として描いた。van Knippenberg & Sitkin (2013) によれば、Bass (1985) の変革型リーダーシップは Burns (1978) の流れをくむ。この研究が組織行動論で本格的に広がったのは、質問紙による尺度が作られた1980年代半ばからで、とくに多要因リーダーシップ質問紙(MLQ)の開発が大きかった。
これと対比されるのが交換型(transactional)リーダーシップである。van Knippenberg & Sitkin (2013) によれば、これは、報酬を約束して行動を動機づけようとする「条件つきの報酬」と、物事がうまくいかないときや手順から外れたときに是正のために介入する「例外による管理」からなる。Bass (1999) によれば、MLQ で測る「フルレンジ」のリーダーシップでは、どのリーダーも交換型と変革型の両方の要素をある頻度で示し、どちらが多いかがリーダーごとに異なる。また、変革型リーダーシップは交換型の効果に上乗せされるもので、その代わりになるものではない (Bass, 1999)。この「上乗せ効果」は原典 (Bass, 1985) の理論上の前提であり、実証研究によって支持されたという。
Bass (1999) によれば、原典 (Bass, 1985) はカリスマとみなす基準をゆるめてカリスマを取り込み、それはのちに「理想化された影響」として変革型リーダーシップの四つの次元の一つに含められた。「理想化された影響」という呼び名は、カリスマという語が世間でさまざまな意味を帯び、独裁者とも結びつけられていたことなどから、カリスマに代わる語として導入された (Bass, 1999)。MLQ を作る際には、カリスマの因子と強く相関する項目の一部から、鼓舞的動機づけの尺度が作られた。カリスマ的でなくても、簡単な言葉やスローガン、象徴や比喩を使って使命を受け入れさせることはできる、と考えられたためである。ただし、繰り返された因子分析では、鼓舞の因子がカリスマの因子から分かれて取り出されたことはない。van Knippenberg & Sitkin (2013) の整理によれば、Bass のモデルでは、理想化された影響、鼓舞的動機づけ、知的刺激、個別配慮の四つが合わさって変革型リーダーシップをなす。
身近な例
たとえば、ある部署の新しいリーダーが、赤字続きのサービスを立て直す役目を任されたとしよう。リーダーは、ノルマと賞与の話から始めるのではなく、このサービスが利用者にとってなぜ大切なのかを語り、自らも率先して現場に立つ。会議では「これまでのやり方を一度疑ってみよう」と問いかけ、若手の型破りな提案も真剣に検討する。また、メンバーごとに得意なことや伸ばしたい力を聞き、仕事の割り振りに生かす。この理論は、メンバーが評価のためだけでなく、サービスをよくしたいという思いから予定以上の工夫を重ねるようになる過程を、こうしたリーダーのふるまいで説明する。
主要概念
- 変革型リーダーシップ(transformational leadership)
- 部下の意識や欲求を高め、自分の利害を超えて集団のために、期待以上の働きをするよう動機づけるリーダーシップ。
- 交換型リーダーシップ(transactional leadership)
- リーダーと部下が、それぞれの自己利益を満たすために交換し合う関係にもとづくリーダーシップ。条件つきの報酬と例外による管理からなる。
- 例外による管理(management by exception)
- 部下が基準を満たさないときや問題が起きたときに、リーダーが是正のために介入するやり方。部下の働きを見張って介入する能動的なものと、問題が起きるのを待ってから介入する受動的なものがある。
- 知的刺激(intellectual stimulation)
- 部下が問題解決に取り組み、目の前の課題を注意深く、創造的に考えるよう促すふるまい。
- 個別配慮(individualized consideration)
- 部下を一人ひとり異なる存在として扱い、その成長や欲求に目を配ること。
代表的な展開研究
- Bass, B. M. (1999). Two decades of research and development in transformational leadership. European Journal of Work and Organizational Psychology. DOI ↗Burns (1978) 以来20年の研究を振り返った。MLQ では鼓舞の因子がカリスマの因子から分かれないことを認め、3786人の回答では、個別配慮、知的刺激、鼓舞と理想化された影響(カリスマ)の三つの因子でよく当てはまるという分析を紹介した。交換型の側では、例外による管理を能動的なものと受動的なものに分ける整理を示した。変革型リーダーシップがどのように効くのかを確かめる基礎研究は少ないとも述べている。
- Judge, T. A., & Piccolo, R. F. (2004). Transformational and transactional leadership: A meta-analytic test of their relative validity. Journal of Applied Psychology. DOI ↗87の研究から得た626の相関をもとにしたメタ分析により、変革型、交換型(条件つきの報酬、能動的な例外による管理、受動的な例外による管理)、自由放任型(リーダーシップの回避や不在)のリーダーシップが、部下の職務満足やリーダーへの満足、動機づけ、リーダーの業績、集団や組織の業績、リーダーの有効性の評価とどう関連するかを比べた。変革型リーダーシップと、測定の信頼性の低さを補正した相関(ρ)は、全体で .44 だった。リーダーへの満足とは ρ = .71、リーダーの有効性の評価とは ρ = .64 と強かったが、リーダーの業績とは ρ = .27 にとどまった。また、変革型リーダーシップは、交換型の典型である条件つきの報酬と ρ = .80(補正前の平均は r = .68)という非常に強い相関を示した。著者らは、補正後とはいえ、同じ概念を別の尺度で測ったときに期待されるほどの高さであり、これほど相関が高いと両者の独自の効果を切り分けるのは難しいと述べている。
批判と境界条件
Bass (1999) 自身も、測定と理論に課題が残ることを認めている。変革型・交換型リーダーシップについての実証的な知識の多くは MLQ を使った調査から得られてきたが、その尺度どうしの相関が強すぎることや、因子構造がどこでも通用するかには問題が残るとした (p. 18)。カリスマと鼓舞は別の尺度とされたが、因子分析でこの二つの因子が分かれたことはない (p. 19)。また、変革型リーダーシップがどのように効くのかを説明する原典のモデルは、基礎研究ではほとんど検証されていないと述べた (p. 22)。一方で、MLQ はリーダーのふるまいではなく、部下がリーダーに見いだす性質(帰属)や効果を測っているという批判に対しては、項目の大半はふるまいについてのもので、帰属や効果の項目は一部にすぎないと答えている (p. 20)。
van Knippenberg & Sitkin (2013, p. 48) によれば、Yukl (1999) も、どの要素を概念に含めるかの根拠がはっきりしないことや、因果モデルが未発達であることを批判していた。van Knippenberg & Sitkin (2013) はさらに踏み込んだ。第一に、変革型リーダーシップには、どの次元を含めてどれを外すのか、次元どうしがどう組み合わさるのかを示す概念上の定義がない (p. 1)。第二に、各次元が部下のどんな心理などを通じて、どんな条件のもとで成果に効くのかという因果モデルが特定されていない (p. 1)。著者らが集めた研究では、リーダーシップと成果をつなぐとされた変数(媒介変数)が52も調べられていた (p. 29)。しかし、それらを整理する理論はない (p. 29)。
第三に、この概念は効果によって定義されている (p. 14)。有効であることが定義に含まれていれば、そのリーダーシップは定義上つねに有効になり、有効性との関係を科学的に調べられなくなる (p. 14)。たとえば原典のモデルでは、リーダーが信頼を生むことはカリスマの一部とされるのに、後の研究では信頼が媒介変数として扱われている (p. 27)。第四に、MLQ の次元どうしは相関がしばしば0.70を超え、一つの尺度にまとめられることが多い (p. 41)。Judge & Piccolo (2004) のメタ分析では、交換型の典型である条件つきの報酬とも、補正後の相関で ρ = .80(補正前の r = .68)と強く相関していた。
著者らは、これらの問題は根本的なものだとして、現在のアプローチと「カリスマ的・変革型リーダーシップ」という呼び名を捨てるよう勧めた (p. 2)。ただし、ビジョンの伝達のように、この研究で重視されてきた要素は、概念の荷物や測定の問題から離れて研究し直す価値があるとしている (p. 46)。
研究上の位置づけ
Leadership and performance beyond expectations
出典
- 原典Bass, B. M. (1985). Leadership and performance beyond expectations. Free Press.
- Yukl (1999). An evaluation of conceptual weaknesses in transformational and charismatic leadership theories. The Leadership Quarterly. ↗
- van Knippenberg & Sitkin (2013). A critical assessment of charismatic—transformational leadership research: Back to the drawing board? Academy of Management Annals. ↗
- Burns (1978). Leadership. Harper & Row.(書籍、DOIなし)
本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。