研究法

媒介分析Mediation Analysis

「X が M を通じて Y に効く」という仕組みを確かめる分析。経営学でも広く使われてきたが、一度の調査では M と Y の順番も大きさも正しく推定できないことが多く、原因だけを割り当てた実験でも偏りは残る。有意な結果は、仮定した仕組みと矛盾しないことを示すにとどまる。

この項目が扱う問い「A が B を通じて C に効く」は、一度の調査で言えるのか。
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何を主張する分析か

媒介とは、原因 X が結果 Y に影響するときに、その影響が途中の変数 M を通じて伝わる、という主張である。「上司の支援(X)が部下の自信(M)を高め、それが成果(Y)につながる」のように、効くかどうかだけでなく、なぜ・どうやって効くのかを説明するために使われる。このサイトでも、心理的安全性の出発点になった Edmondson (1999) の研究が、チームの学習行動が心理的安全性と成果を媒介していたと報告したことを紹介している。

媒介の検定で最もよく知られているのは Baron & Kenny (1986) の手順で、この論文は Journal of Personality and Social Psychology でいちばん多く引用された論文になり、社会心理学では新しい論文に媒介分析を入れることがほぼ必須になった(Bullock et al., 2010, p. 550)。手順の中心は、M を分析に入れたときに、X と Y の関係が弱まるか、消えるかを見ることにある。M を入れると X の効果がなくなるなら完全媒介、弱まるが残るなら部分媒介と呼ぶ(Mathieu & Taylor, 2006, p. 1038)。これとは別に、X と Y に全体としての関係がないのに、M を通じた経路だけが有意になる間接効果もある。Mathieu & Taylor (2006, pp. 1037–1038) は、間接効果は全体の効果がなくても有意になりうるので、それを「媒介」と呼べるかは全体の効果を見て判断すべきだとしている。

注意したいのは、理論としての媒介(心の中や組織の中で起きている過程)と、統計としての媒介(回帰係数の変化)は別物だということである(Spencer et al., 2005, p. 846)。統計の結果は、理論の過程があることの証拠の一部にすぎない。以下では、統計としての媒介から理論としての媒介を言うために、何が必要なのかを見ていく。

02

経営学の媒介研究はどう行われてきたか

Wood et al. (2008) は、1981年から2005年8月までに、応用心理学・組織行動論・経営学の主要5誌(Journal of Applied Psychology、Organizational Behavior and Human Decision Processes、Academy of Management Journal、Personnel Psychology、Administrative Science Quarterly)に載った媒介の検定を調べた(p. 280)。見つかったのは409研究、709のモデルである(p. 281)。98%の研究が、Baron & Kenny (1986) に代表される「段階を順に確かめる」方法を何らかの形で使っていた(p. 283)。

709のモデルのうち66%で、因果が主張されるか示唆されていた(p. 289)。そのうち半分強(247)は実験によらない研究で、X、M、Y をすべて同じ時点で測ったモデルが233あった(p. 289)。また、204のモデル(29%)では、すべての変数が一人の回答者の自己報告で測られていた(p. 289)。

手続きにも問題があった。完全媒介の主張の半分(210件)は、M を入れたあと X の係数が有意から有意でなくなったことだけを根拠にしており、Baron & Kenny 自身が勧めた間接効果の検定を行っていなかった(p. 287)。著者らの判断では、完全媒介の主張の66%、部分媒介の主張の77%が、疑わしい根拠にもとづいていた(p. 288)。ただし著者らは、調べた媒介の推論の大半が誤りだとまでは言えない、とも書いている(p. 291)。

03

一度の調査では、順番が分からない

媒介は X → M → Y という順番の主張である。ところが、同じデータを使えば、Y → M → X という逆の順番の連鎖も同じように「確かめられて」しまう(Mathieu & Taylor, 2006, p. 1033)。Cole & Maxwell (2003, p. 562) も、X と M のどちらが先かは、一時点のデータでは決められないと書いている。Mathieu & Taylor (2006, p. 1034) の例では、「研修 → 自己効力感 → 業績」という連鎖を考えても、研修への参加が任意で自信のある人ほど参加するなら、本当の順番は「自己効力感 → 研修 → 業績」かもしれない。

順番の問題だけではない。媒介の過程は時間をかけて進むので、一時点のデータで推定すると、大きさまで誤りうる。Cole & Maxwell (2003, p. 560) は、本当は時間をかけて完全な媒介が起きているとき、一時点のデータがそれを正しく映すのは、ごく特殊な場合(そもそも媒介がない、X がまったく安定しない、X と M の安定性がたまたま等しい)に限られ、そうした条件は「非常に限られ、きわめてまれ」だと結論した。Maxwell & Cole (2007) の仮想の数値例では、データを作ったモデルでは完全な媒介なのに、一時点の分析では媒介は19%しか起きていないように見えた(p. 29)。偏りの向きは、X と M のどちらが時間を通じて安定しているかで変わる(同 p. 29)。

逆向きの誤りもある。Maxwell et al. (2011, p. 831) は、時間を追ったモデルでは媒介がまったくないのに、一時点の分析では完全な媒介に見えることが十分ありうると示した。一時点の予備調査で媒介の候補に見えた変数が時間を追うと媒介ではなく、候補に見えなかった変数が実は重要な媒介である、ということも起こりうる(pp. 836–837)。

ここまでは数式と仮想の数値による議論だが、実際のデータでも同じことが起きた。O'Laughlin et al. (2018) は、母親の敵意、母親の温かさ、子どもの敵意を追ったデータで、一時点の分析では母親の温かさが有意に媒介していたのに、時間を追ったモデルでは媒介は支持されなかったと報告している(pp. 386, 394)。著者らは、この結果を Maxwell らの数理的な結論と一致するものと位置づけている(p. 394)。

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時間をあけて測れば解決するか

原因を先に、結果を後に測れば十分かというと、そうではない。Cole & Maxwell (2003, p. 560) は、原因と結果のあいだに時間差を置くだけでは、偏りのない推定にはならないと書いている。時間を追ったデザインの大きな利点は、結果の変数の以前の水準を統制できることにあり、M を予測するときには以前の M を、Y を予測するときには以前の Y を統制する必要がある(pp. 560–561)。

X と M の関係は同じ時点で測り、M と Y の関係だけを時間を追って調べる、といった半分だけ縦断的な設計も多い(Cole & Maxwell, 2003, p. 562)。著者ら自身の過去の研究もこの形だったと認め、その場合の推定は偏ると書いている(同 p. 562)。

さらに、測った順番と、その現象が起きた順番は同じではない。原因とされる変数を先に測ったからといって、その現象が先に起きたことにはならない(Mathieu & Taylor, 2006, p. 1035; Cole & Maxwell, 2003, p. 561)。測る間隔の選び方も結果を左右し、Cole & Maxwell (2003, p. 564) は、適切な間隔より長い間隔で測ると媒介の推定はほぼ必ず誤る、という先行研究を紹介している。

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実験なら解決するか

原因 X を無作為に割り当てる実験なら、X と Y の関係は因果として解釈できる。しかし、ふつうの実験で割り当てるのは X だけで、媒介変数 M は割り当てていない。X を無作為に割り当てても、M と Y の両方に影響する別の要因があるかどうかについては何も分からず、媒介の推定が偏っていないかも分からない(Bullock et al., 2010, p. 551)。Rohrer (2018, p. 38) と Antonakis et al. (2010, p. 1090) も、別々の理屈から同じ点を指摘している。Bullock et al. (2010, p. 551) によれば、この偏りは媒介を大きく見せる方向に働きやすい。

そこで、媒介変数そのものを操作する実験が勧められてきた。Spencer et al. (2005, p. 846) は、原因と媒介変数の両方を操作して因果の連鎖を確かめる設計を「実験による因果連鎖」と呼び、出来事の連鎖について強い推論ができるとした。Stone-Romero & Rosopa (2008, pp. 345–346) も、X が M と Y を変えることを示す実験と、M が Y を変えることを示す実験の二つを組み合わせる設計を、最も内的妥当性の高いものと評価している。

それでも問題は残る。媒介変数の多くは直接観察できない心の中の変数なので、ある操作が狙った一つの媒介変数だけを動かしているとは言い切れない(Bullock et al., 2010, p. 553)。また、人によって効果の向きや大きさが違うと、X と M の両方を無作為に割り当てても、平均の間接効果の推定は符号まで逆になりうる(p. 554)。著者らが2007年の社会心理学の論文50本を調べると、46本が媒介分析を含んでいたが、人によって媒介の仕方が違う可能性を検討していたのは3本だけだった(p. 554, 注6)。Bullock et al. は、それでも実験が媒介分析に役立たないと言っているのではなく、測定にもとづく媒介分析の偏りを考えれば、むしろ実験へ移るべきだとしている(p. 554)。

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有意な媒介は、媒介の証明ではない

Fiedler et al. (2011) は、「M が媒介変数なら、媒介分析は有意になる」は正しくても、その逆は成り立たないと指摘した(p. 1235)。シミュレーションでは、M が本当の媒介変数の相関物にすぎない場合や、結果の変数の別の現れにすぎない場合にも、有意な媒介の結果が多く出た(pp. 1233–1234)。同じ概念を測った似たような変数を三つ並べるだけでも、標本が小さすぎなければ媒介のように見える結果が出た(p. 1235)。Mathieu & Taylor (2006, p. 1037) も、X と M が区別できるほど別のものを測っていなければ、分析は M が X の影響を運んでいると結論してしまうと書いている。

Stone-Romero & Rosopa (2008, p. 333) の言い方では、結果が媒介モデルと整合的であることは、ほかのモデルを退けられる研究でない限り、そのモデルが正しいことを意味しない。

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では、一時点の媒介研究は無価値か

ここまでの批判は強いが、立場は一枚岩ではない。Stone-Romero & Rosopa (2008, p. 349) は、実験によらない研究で言えるのは、測った変数の共分散のパターンが仮定したモデルと整合的だということだけだとする。これに対して Mathieu & Taylor (2006, p. 1036) は、無作為化実験に満たないものはすべて不十分だとする立場と、一時点のデータから因果を主張する論文の両方を挙げ、どちらの極端も言い過ぎだろうとした。X、M、Y を同時に測った研究で特定の因果の順番を主張する根拠は、おそらく理論だけだとも述べている(p. 1035)。

実験を勧める側も、測定にもとづく媒介分析を捨てろとは言っていない。Spencer et al. (2005, p. 850) は、実験できない場面では、Baron & Kenny の方法による媒介分析が「多くの場合、最善の選択肢」だと明言している。どの方法が向くかは、媒介変数が操作しやすいか、測りやすいかで決まる(同 p. 847)。Fiedler et al. (2011, pp. 1235–1236) も、媒介分析はそれ自体が弱いわけでも誤解を招くわけでもなく、相関の分析は実験では隠れてしまう因果の配置を明らかにするのに欠かせないと書いている。問題は、相関の仮説を検定する手法として受け取るべきものを、媒介の証明として読むことにある(p. 1235)。

Cole & Maxwell (2003, p. 573) は、自分たちの勧める手順はすべての研究で実行できるものではなく、目標や指針であって絶対の要件ではないとしたうえで、研究の限界と、それがもたらしうる深刻な帰結を明記するよう求めている。

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論文を読むときの目安

第一に、どの種類の媒介を主張しているかを見る。完全媒介か、部分媒介か、全体の効果がないままの間接効果か(Mathieu & Taylor, 2006, pp. 1037–1039)。係数が有意でなくなったことだけでなく、間接効果そのものを検定しているかも確かめる(Wood et al., 2008, p. 292)。

第二に、X、M、Y をいつ測ったかを見る。すべて同じ時点なら、順番と大きさについては理論に頼るしかない。時間を追っていても、以前の M と以前の Y を統制しているか、半分だけ縦断的になっていないかを見る(Cole & Maxwell, 2003, pp. 560–562)。

第三に、誰が答えたかを見る。すべての変数が一人の自己報告なら、関連の一部は回答の偏りによるかもしれない(Wood et al., 2008, p. 289)。

第四に、実験なら、何を操作したかを見る。操作したのが X だけなら、M から Y への部分は観察データと同じ弱さをもつ(Bullock et al., 2010, p. 551)。

第五に、因果の条件のうち満たしていないものを著者が認めているかを見る。Wood et al. (2008, p. 292) は、満たしていない条件を明記し、結果の解釈では因果でない言葉を使うよう求めている。ただし、相関と因果の項目で紹介した Rohrer (2018) は、因果でない言葉を選ぶだけでは足りず、因果に必要な仮定を明示すべきだとしている。

たとえば Edmondson (1999) の媒介の結果について、このサイトでは、著者自身が一時点の調査なので因果関係は示せないと認めていることを紹介している。心理的安全性と学習行動が互いに強め合う循環も、検証できていない。

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主な文献

  • Wood, R. E., Goodman, J. S., Beckmann, N., & Cook, A. (2008). Mediation testing in management research: A review and proposals. Organizational Research Methods. DOI ↗主要5誌の媒介研究409本を調べ、手続きと因果の主張の問題を示した。
  • Cole, D. A., & Maxwell, S. E. (2003). Testing mediational models with longitudinal data: Questions and tips in the use of structural equation modeling. Journal of Abnormal Psychology. DOI ↗一時点のデータで媒介が正しく推定できる条件の狭さと、縦断データでの検定の手順を示した。
  • Maxwell, S. E., & Cole, D. A. (2007). Bias in cross-sectional analyses of longitudinal mediation. Psychological Methods. DOI ↗完全媒介の場合に、一時点の分析が大きく偏りうることを示した。
  • Maxwell, S. E., Cole, D. A., & Mitchell, M. A. (2011). Bias in cross-sectional analyses of longitudinal mediation: Partial and complete mediation under an autoregressive model. Multivariate Behavioral Research. DOI ↗部分媒介にも拡張し、媒介がないのに一時点では媒介に見える場合を示した。
  • O'Laughlin, K. D., Martin, M. J., & Ferrer, E. (2018). Cross-sectional analysis of longitudinal mediation processes. Multivariate Behavioral Research. DOI ↗実データで、一時点の分析と縦断の分析の結論が食い違うことを示した。
  • Bullock, J. G., Green, D. P., & Ha, S. E. (2010). Yes, but what's the mechanism? (Don't expect an easy answer). Journal of Personality and Social Psychology. DOI ↗原因を無作為に割り当てた実験でも、媒介の推定は偏りうることを示し、実験の積み重ねを勧めた。
  • Spencer, S. J., Zanna, M. P., & Fong, G. T. (2005). Establishing a causal chain: Why experiments are often more effective than mediational analyses in examining psychological processes. Journal of Personality and Social Psychology. DOI ↗媒介変数を操作する実験の設計と、それぞれが向く条件を整理した。
  • Stone-Romero, E. F., & Rosopa, P. J. (2008). The relative validity of inferences about mediation as a function of research design characteristics. Organizational Research Methods. DOI ↗研究の設計ごとに媒介の推論の妥当性を比べ、二つの無作為化実験を最も高く評価した。
  • Mathieu, J. E., & Taylor, S. R. (2006). Clarifying conditions and decision points for mediational type inferences in Organizational Behavior. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗完全媒介・部分媒介・間接効果を区別し、極端な立場の両方を退けた。
  • Fiedler, K., Schott, M., & Meiser, T. (2011). What mediation analysis can (not) do. Journal of Experimental Social Psychology. DOI ↗媒介でない変数でも有意な媒介の結果が出ることをシミュレーションで示した。
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批判と境界条件

この項目の根拠にも限界がある。Maxwell & Cole (2007) と Maxwell et al. (2011) の結果は、数式と仮想の数値にもとづき、特定の時系列のモデル(自己回帰モデルなど)を前提にしている(Maxwell et al., 2011, p. 838)。O'Laughlin et al. (2018) の実データは2例だけで、2例目では、検討したどの縦断モデルもデータに十分当てはまらなかった(p. 394)。Wood et al. (2008, p. 289) は、測った順番は分かっても、現象そのものが起きた順番は判断できなかったと認めている。Bullock et al. (2010) と Fiedler et al. (2011) の議論は社会心理学の実験を主な対象にしている。また、この項目では、媒介の検定の統計的な手法(ブートストラップ法など)の比較には立ち入っていない。

研究上の位置づけ

分類Methodological issue
地図の区画組織行動
分析単位個人 · チーム
理論系譜心理学
REFERENCES

出典

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