Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams職場のチームにおける心理的安全性と学習行動
「チームの心理的安全性」という概念を提示し、オフィス家具メーカーの51チームを対象に、質的調査とアンケートを組み合わせて検証した論文。心理的安全性は学習行動を通じてチームの成果につながり、リーダーのコーチングや組織の支援は心理的安全性を通じて学習行動に影響することを示した。
研究上の問い
チームの有効性の研究は、課題の設計、メンバー構成、資源や情報の支援といった構造の要因を重視してきた。一方、組織学習の研究は、人々の暗黙の信念や対人関係といった認知や対人の要因を重視してきた。二つの研究の流れはほとんど交わっておらず、実際の職場のチームで学習がどのような条件のもとで起こるのかは、あまり調べられていなかった。
誤りを認める、助けを求める、フィードバックを求めるといった行動は、無能に見られるおそれがあるため、人はためらいやすい。Edmondson は、こうした対人的なリスクについての信念がチームによって異なり、それが学習を左右するのではないかと考えた。
主要な概念
チームの心理的安全性は、「このチームでは、対人関係上のリスクをとっても安全だ」という、メンバーが共有する信念と定義された。チームの学習行動は、チームが適応し改善するためのデータを得て処理する活動であり、フィードバックを求める、情報を共有する、助けを求める、誤りについて話し合う、試してみる、といった行動を含む。チームの効力感は、チームが仕事をやり遂げる力を持っているという共有された信念である。
モデルと仮説
Edmondson は、チームの構造(組織からの支援、リーダーのコーチング)が、共有された信念(心理的安全性、効力感)を通じて学習行動に影響し、学習行動がチームの成果につながるというモデルを立て、8つの仮説を検証した。たとえば、心理的安全性は学習行動と正に関連する、学習行動は心理的安全性と成果の関係を媒介する、効力感は心理的安全性を統制しても学習行動と関連する、といった仮説である。
方法
調査の場は、従業員約5,000人のオフィス家具メーカー(論文では仮名)である。調査は三段階で行われた。第一段階では、8チームの会議を観察し、17件のインタビューを行い、概念が現場で測れることを確かめて質問項目をつくった。第二段階では、53チームの全メンバー496人にアンケートを配り、51チームの427人から回答を得た(回答率86%)。あわせて、各チームの仕事を受け取るチーム外の管理職に、学習行動と成果を評価してもらった(150人中135人が回答)。第三段階では、アンケートの結果から学習行動が高いチームと低いチームを7つ選び、再び観察とインタビューを行った。
主な結果
8つの仮説のうち6つが支持された。心理的安全性は学習行動と結びつき、学習行動は心理的安全性とチーム外の管理職が評価した成果とを媒介していた。組織からの支援とリーダーのコーチングは、心理的安全性を通じて学習行動に影響していた。一方、効力感については、心理的安全性を統制すると学習行動と結びつかない場合があり、支援やコーチングの効果を媒介するという仮説も支持されなかった。チームの種類による学習行動の違いは、支援とコーチングで説明され、チームの種類そのものの効果はみられなかった。
質的データからは、学習行動が高いチームは支援の不足などの制約を乗り越えられる一方、学習行動が低いチームは、メンバーが懸念を口にしないために抜け出しにくいという非対称性がうかがえた。
位置づけ
構造の要因と対人の要因を、チームの有効性を説明する対立する見方ではなく、互いに関係するものとして統合した点が、この論文の主張である。心理的安全性は、支援やコーチングといった構造の要因が、どのように行動と成果に結びつくのかを説明する仕組みとして位置づけられた。その後の心理的安全性の研究の出発点となった論文である。
身近な例
たとえば、同じ会社に、よく似た業務を担う二つのチームがあるとしよう。一方のチームでは、誰かが作業の抜けに気づくと、すぐにその場で共有され、全員で手順を見直す。もう一方のチームでは、抜けに気づいても「言うと責められる」と感じて黙っているため、同じ問題が何度も起こる。二つのチームの差は、人の能力や設備の違いではなく、「ここで言っても大丈夫か」という共有された感覚の違いから生じているかもしれない。
代表的な展開研究
- Edmondson, A. C., & Lei, Z. (2014). Psychological safety: The history, renaissance, and future of an interpersonal construct. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior. DOI ↗概念の起源から個人・チーム・組織レベルの研究までを整理し、今後の課題を示した。
- Frazier, M. L., Fainshmidt, S., Klinger, R. L., Pezeshkan, A., & Vracheva, V. (2017). Psychological safety: A meta-analytic review and extension. Personnel Psychology. DOI ↗多数の研究を統合するメタ分析により、心理的安全性の先行要因と結果を体系的に検討した。
批判と境界条件
Edmondson 自身が、いくつかの限界を認めている。第一に、アンケートの項目は信頼など近い概念とも関係しており、心理的安全性をそれらと明確に区別できたわけではない。第二に、一時点の調査であるため因果関係は示せず、学習行動が罰せられなかった経験が心理的安全性をさらに強めるといった循環も検証できていない。第三に、心理的安全性の先行要因の分析は同じアンケートの変数に頼っており、その結果は暫定的なものと考えるべきだとしている。第四に、一つの企業の51チームを対象としており、多変量解析には標本が小さい。また、機械のペースで進む組立ラインのように、手順と成功の基準が厳しく決まった仕事では、学習行動が成果に与える影響は小さいだろうと述べている。
研究上の位置づけ
出典
- 出版社の論文ページ ↗
- Edmondson & Lei (2014), Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior ↗
- Frazier et al. (2017), Personnel Psychology ↗
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