集団浅慮(グループシンク)Groupthink
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うとまとまりの強い集団では、全員一致を保とうとする力が、代わりの選択肢を現実的に検討しようとする力を上回り、その結果、集団がずさんな決定を下してしまう、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
集団は、一人では届かないほどの成果をあげる機会を与えてくれる。しかし同時に、とてつもない破壊を生む危険もはらんでいる。実際に、米国の大統領とその補佐官たちの集団が、後から見れば大失敗といえる政策決定を下したことがある。集団のどんな性質が、判断を狂わせるのか。
主張とメカニズム
Janis (1971) は、グループシンクという語を、「まとまりの強い内集団のなかで合意を求めることがあまりに支配的になり、代わりの行動方針を現実的に評価することを押しのけがちになるときに、人々がとる思考のあり方」を手短に指す言葉として用いた。Esser (1998) によれば、Janis (1972, 1982) は、この現象の最も重要な先行条件を集団の凝集性(まとまりの強さ)と考えていた。Turner & Pratkanis (1998) の整理では、ほかに、外部の専門家から隔てられていること、情報の探索と評価が限られていること、指示的なリーダーシップ、強いストレスなども先行条件とされ、これらがそろうと、グループシンクに特有の極端な合意追求が生じると考えられている。
Esser (1998) によれば、Janis (1972, 1982) はグループシンクの症状として次のものを示した。自分たちは失敗しないという幻想、集団の道徳性を疑わない信念、集団的な合理化、外集団をステレオタイプ(決めつけ)で見ること、異論を唱える人への圧力、自分の疑問を口にしない自己検閲、全員が賛成しているという幻想、都合の悪い情報から集団を守る「心の番人」の出現である。理論はさらに、これらとは別に、選択肢や目標の検討が不十分になり、情報の探索が乏しくなり、好ましいとされた案のリスクが評価されず、情報が選り好みして処理されるという「欠陥のある意思決定の症状」が生じ、集団の決定がきわめてずさんになると予測する。
Esser (1998) によれば、Janis (1972) はこの理論を、米国の政策決定の失敗の事例分析から導いた。真珠湾攻撃への備えの欠如、朝鮮戦争での北進、ピッグス湾侵攻、ベトナム戦争の拡大の四つである。一方、キューバ・ミサイル危機への対応やマーシャル・プランの策定を、グループシンクを避けた例として対比した。't Hart (1998) によれば、Janis (1982) は予防策として、メンバー一人ひとりが集団の方針を批判的に評価すること、リーダーが議論の始めに自分の好みを示さないこと、外部の専門家を時々招いて中心メンバーの見方に異を唱えてもらうこと、会議のたびに集団の通念に反する主張をする役(悪魔の代弁者)を置くことなどを挙げた。なお、Esser (1998) によれば、1982年の第2版で Janis はウォーターゲート事件の隠蔽工作を分析し、この事例から、初版になかった先行条件(メンバーの考え方の同質性と、外部の脅威による強いストレス)を導いた。
身近な例
たとえば、仲の良い5人のプロジェクトチームが、新商品の発売日を決める会議を開いたとしよう。リーダーが最初に「来月発売でいけると思う」と言うと、ほかのメンバーは内心で準備不足を心配しながらも、雰囲気を壊したくなくて黙っている。誰も反対しないので、全員が賛成しているように見える。懸念を伝えに来た他部署からのメールは、「今さら言われても」と共有されない。この理論は、この場面でメンバーが無能なのではなく、全員一致を保とうとする集団の力が働いていると説明する。
主要概念
- グループシンク(groupthink)
- まとまりの強い内集団で、合意を求めることがあまりに支配的になり、代わりの行動方針の現実的な評価を押しのけがちになるときの思考のあり方。
- 凝集性(cohesiveness)
- メンバーが互いにひかれ合い、集団にとどまりたいと思う度合い。
- 自己検閲(self-censorship)
- 集団の合意から外れる疑問や反対意見を、自分で口にしないようにすること。
- 心の番人(mindguards)
- グループシンクの症状の一つ。集団が外部の情報や意見に触れないようにする門番のような働き(mindguarding)で、全員が賛成しているという幻想を保つのに欠かせないとされる。
- 悪魔の代弁者(devil's advocate)
- 集団で当然とされている考えに反する主張をする機会を与えられた役割。Janis は、グループシンクの予防策の一つとして、会議のたびにこの役を置くことを提案した。
代表的な展開研究
- Turner, M. E., & Pratkanis, A. R. (1998). Twenty-five years of groupthink theory and research: Lessons from the evaluation of a theory. Organizational Behavior and Human Decision Processes. DOI ↗25年間の研究を振り返り、理論の評価から得られる教訓を論じた特集号の序論。著者らが同じ号の別の論文で、グループシンクを社会的アイデンティティの維持から解釈し直していることも紹介している。
- Esser, J. K. (1998). Alive and well after 25 years: A review of groupthink research. Organizational Behavior and Human Decision Processes. DOI ↗事例研究と実験研究を整理し、理論の各部分がどの程度支持されてきたかを検討した。
批判と境界条件
Turner & Pratkanis (1998, p. 107) によれば、グループシンクは広く知られている一方で、実証研究は20件に満たず、ほぼ年に1件のペースでしか行われてこなかった。その理由として、扱う変数が多いことに加えて、理論の規定があいまいであることが挙げられている(p. 107)。先行条件がすべてそろったときだけ起こるとみる「厳格な」解釈や、条件が増えるほど強まるとみる「加算的な」解釈を支持する研究は発表されておらず、条件の組み合わせごとの状況によって結果が変わるとみる解釈のほうが現在の証拠に合う(pp. 107–108)。また、先行条件や結果の概念があいまいなため、それをどう測るかも理論からは決まらない(p. 108)。
Esser (1998, p. 134) の整理によれば、事例研究と実験室研究のどちらも、とくに互いにひかれ合うことと捉えた場合の凝集性は、グループシンクの強い予測要因ではないことを示している。一方で、外部からの隔離、リーダーシップ、意思決定の手続きといった集団の構造と手続きの欠陥は、事例研究と実験室研究の両方でグループシンクを予測していた(p. 134)。Turner & Pratkanis (1998, p. 110) はさらに、グループシンクの最終的な結果である欠陥のある決定を示した実験はほとんどなく、先行条件、症状、欠陥のある意思決定の症状をつなぐ因果の連鎖を支持した研究はないとまとめている。
証拠の読み方によって、評価は分かれる。Turner & Pratkanis (1998, p. 111) によれば、Fuller & Aldag (1998) は、完全な理論を支持する証拠が限られているとして、モデルはすでに役目を終えたとみる。これに対して Esser & Lindoerfer (1989) は、グループシンクを、要素の大半がそろうほど見分けやすくなる症候群とみなした(Esser, 1998, p. 138)。Esser (1998, p. 137) によれば、八つの症状は既存の質問紙ではうまく測れず、症状どうしが概念として区別できない可能性もある。Turner & Pratkanis (1998, pp. 112–113) は、証拠が乏しいまま理論が無条件に事実として扱われてきたことを、同調の危険を警告する概念が同調の犠牲になったものだと述べている。他方で Esser (1998, pp. 138–139) は、判断を下すには早すぎるとし、検証できる考えを生み出してきた点に研究の価値を認めている。
予防策にも代償がある。't Hart (1998, p. 307) は、実証データを持たない論考で、主流の予防策は不完全で、場合によっては逆効果になりうると論じた。Janis の処方は、審議を外部の都合の悪い情報に開いて問題解決の質を高めるが、それには代償が伴うという(p. 315)。予防策は決定を遅らせ、最悪の場合は政府内の同僚どうしの協調を崩しかねない(p. 316)。悪魔の代弁者も、組織に支持がなければ周縁に追いやられ、かえって集団の方針への結束を強めることがある(p. 318)。そのため 't Hart は、予防策は万能薬ではなく、手早い決定による失敗の可能性と代償が大きいと判断されるときに限って使うべきだとした(p. 316)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Janis, I. L. (1972). Victims of groupthink: A psychological study of foreign-policy decisions and fiascoes. Houghton Mifflin.
- Janis, I. L. (1971). Groupthink. Psychology Today.
- Fuller & Aldag (1998). Organizational tonypandy: Lessons from a quarter century of the groupthink phenomenon. Organizational Behavior and Human Decision Processes. ↗
- Esser & Lindoerfer (1989). Groupthink and the space shuttle Challenger accident: Toward a quantitative case analysis. Journal of Behavioral Decision Making. ↗
- 't Hart (1998). Preventing groupthink revisited: Evaluating and reforming groups in government. Organizational Behavior and Human Decision Processes. ↗
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