社会的アイデンティティ理論Social Identity Theory
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと人は自分を、部分的には、所属する集団のメンバーであることによって定義する。組織への同一化とは、組織と自分が一体である、あるいは組織に属しているという知覚であり、それが組織を支える行動や集団間の関係を左右する、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
人は「〇〇社の社員です」「営業部の人間です」と自分を紹介する。所属は単なる肩書きではなく、自分が何者かの一部になっている。この感覚はどこから生まれ、組織の中でどんな働きをするのか。
主張とメカニズム
Ashforth & Mael (1989) は、主に Tajfel と Turner が発展させた社会心理学の社会的アイデンティティ理論を、組織の研究に持ち込んだ。この理論の主な焦点は、社会的同一化にある。社会的同一化とは、「ある集団と一体である、あるいはそれに属しているという知覚」である。組織同一化は、その特定の形とされた。人は自分と他者を、性別や年齢、所属組織などの社会的カテゴリーに分類する。この分類によって周囲の世界を整理し、その中で自分の位置を定める。
同一化は、組織の価値観を自分のものとして受け入れること(内面化)とも、組織への好意や忠誠とも区別される。Ashforth & Mael の見方では、同一化は認知的なもので、必ずしも特定の行動や感情を伴わない。集団のために努力しなくても、集団の成功や失敗を自分のことのように感じることはある。
同一化を強める要因として、集団の価値観や慣行の独自性、集団の威信、外集団(自分たちではない集団)の存在の目立ちやすさなどが挙げられた。同一化すると、人は自分のアイデンティティに合う活動を選び、組織を支える行動をとりやすい。他方で、部門ごとの同一化は部門間の対立を生みうる。また、人は複数のアイデンティティをもち、それぞれの要求が互いに食い違うことがある。
身近な例
たとえば、ある大学の卒業生が、母校がスポーツ大会で勝つと自分のことのように喜び、不祥事が報じられると恥ずかしく感じるとしよう。卒業生は大学のために何かをしたわけではないが、大学を自分の一部として感じている。同じ仕組みで、自社が社会から高く評価されていると思う社員ほど、会社を自分の一部と感じやすいと考えられる。
主要概念
- 社会的アイデンティティ(social identity)
- 所属する集団のメンバーであることにもとづいて、自分を定義する側面。
- 組織同一化(organizational identification)
- 組織と自分が一体である、あるいは組織に属しているという知覚。
- 社会的カテゴリー化(social classification)
- 自分と他者を、所属などの社会的なカテゴリーに分けて捉えること。
- 内集団・外集団(in-group / out-group)
- 自分が属する集団と、属さない集団。
代表的な展開研究
- Dutton, J. E., Dukerich, J. M., & Harquail, C. V. (1994). Organizational images and member identification. Administrative Science Quarterly. DOI ↗メンバーが組織をどう見ているか、外部からどう見られていると思うかが、同一化の強さを左右するというモデルを示した。
- van Knippenberg, D., & Sleebos, E. (2006). Organizational identification versus organizational commitment: Self-definition, social exchange, and job attitudes. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗オランダの大学の教員133人への横断的な調査で、組織同一化と感情的コミットメント(組織への感情的な愛着などとして定義される)が、別の概念として区別できることを示した。互いの影響を統計的に取り除くと、コミットメントだけが、組織からの支援の知覚(組織が自分の貢献を評価し、幸福を気にかけてくれているという知覚)、職務満足、離職の意思の低さと関連し、同一化だけが、自分を組織のメンバーとして考える度合いと関連した。著者らは、同一化は組織との心理的な一体性を、コミットメントは心理的に別々の存在どうしの関係を表すとまとめた。
批判と境界条件
Ashforth & Mael (1989, p. 23) は、この分野の研究では、組織同一化と組織コミットメントの混同がしばしば起きていると指摘した。これに対して彼らは、Mael (1988) の研究を根拠に挙げた。そこでは、新しく作った同一化の尺度と、組織コミットメント質問票(OCQ)が、確認的因子分析にかけられた (p. 23)。同一化とコミットメントを分けた2因子モデルのほうが、1因子モデルよりも当てはまりがよかった (p. 23)。Dutton, Dukerich & Harquail (1994, p. 257) も、Mael & Ashforth (1988) の同一化の尺度は信頼でき、組織コミットメントなどと実証的に区別できると述べている。ただしこの尺度は、組織についての感じ方も尋ねているため、Dutton らが考える認知的なつながりよりも広い心理的な愛着を測っていると指摘している (p. 257)。それでも Ashforth & Mael は、同一化がコミットメントや忠誠、内面化と区別できることを確かめることを、今後の研究の第一の課題に挙げている (p. 33)。
著者らは同一化を認知に限って定義したが、この見方は、感情や評価の次元を含める社会的アイデンティティ理論の文献の一部とは異なると認めている (p. 21)。また、理論の社会心理学的な前提は裏づけられてきたものの、同一化が進む動態はまだ確かめられていないとし、長期にわたる現場研究を強く勧めた (p. 34)。組織の中の部門は独自性がはっきりしないことがあり、それがいくつかの現場研究で理論への支持がまちまちだった理由かもしれない、とも述べている (p. 24)。
部門間の対立についての予測には、著者ら自身が条件を付けている。強い組織アイデンティティがない場合に、好ましい比較を求める気持ちが、区別のはっきりした部門の間に多くの対立を生むという (p. 33)。ただしこの対立は、集団どうしが異なる次元で比べ合う場合や、比較の結果を正当なものとみなす場合には和らぎうる (p. 33)。職場の多様性の研究では、社会的アイデンティティ理論の文献などを引いて、人は内集団のメンバーを外集団のメンバーより好み、信頼すると考える「社会的カテゴリー化の視点」がある (van Knippenberg & Schippers, 2007, p. 518)。van Knippenberg & Schippers (2007, p. 525) は、多様性が社会的カテゴリー化を引き起こすという証拠はかなり控えめだとまとめた。社会的カテゴリー化の過程を直接測った研究は驚くほど少なく、結果も一貫しないという (p. 526)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Ashforth, B. E., & Mael, F. (1989). Social identity theory and the organization. Academy of Management Review. DOI ↗
- van Knippenberg & Schippers (2007). Work group diversity. Annual Review of Psychology. ↗
- Mael (1988). Organizational identification: Construct redefinition and a field application with organizational alumni. Unpublished doctoral dissertation, Wayne State University.
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