組織アイデンティティOrganizational Identity
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと「私たちは組織として何者か」という問いへの答えとして、組織を他の組織から区別する中心的で持続的な特徴を捉える概念。その特徴が本当に「持続的」なのか、それとも外部のイメージとの相互作用で変わっていくのかをめぐって議論がある。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
組織は「私たちは何者か」という問いにどう答え、その答えは組織の行動にどう影響するのか。Whetten (2006) によれば、Albert & Whetten (1985) は、この問いへのメンバーの答えとして組織アイデンティティを捉えた。Whetten は、この概念が生まれたきっかけを振り返っている。Albert と Whetten は、自分たちの大学で起きた一見ささいな予算削減に対して、非合理に見える反応が起きたことを説明する必要があった。その反応を組織アイデンティティへの脅威の表れとみなすと、理解できるようになったという。
その後、この問いには二つの方向から取り組まれてきた。一つは、組織の「らしさ」とは何で、どのような場面で働くのかを厳密に定めようとする方向である。もう一つは、その「らしさ」は本当に長く変わらないのかを問い直す方向である。Gioia et al. (2000) は、「私たちは何者か」よりも「これが私たちのなりつつある姿なのか」「これが私たちのなりたい姿なのか」という問いのほうが、組織アイデンティティの性質をよく捉えると述べている。
主張とメカニズム
Whetten (2006) によれば、Albert & Whetten (1985) の組織アイデンティティの記述には三つの要素があった。一つめは、組織アイデンティティを「私たちは組織として何者か」という問いについてのメンバーの共有された信念とみなす要素である。二つめは、その範囲を組織の「中心的で、持続的で、独自の」特徴(CED)に限る定義の要素である。三つめは、アイデンティティをめぐる語りは組織にとって重大な経験の際に最も観察されやすいとする要素である。Whetten は、その後の研究が一つめの要素だけを全体のように扱ってきたことが、概念のあいまいさの主な原因だとみている。
Whetten (2006) は、組織アイデンティティを「組織を他の組織から区別する、中心的で持続的な属性」と規定し直した。ここでの「区別する」には、「違う」と「優れている」の二つの意味がある。そのため、「官僚的だ」のような否定的な特徴は、広く共有されていてもアイデンティティの主張には当たらないとする。アイデンティティの主張は、「私たちは銀行ではなく信用組合だ」のように、社会的なカテゴリーに照らした「〜しなければならない」という形で語られやすい。それが、その組織にとって「らしくない」行動の境界を示すからである。Whetten は、組織アイデンティティを日常の判断には役立たない「鈍い意思決定の道具」と呼ぶ。価格や顧客の好みといった通常の判断材料では足りない、分かれ道の選択のときに初めて持ち出されるという。Whetten によれば、Albert & Whetten (1985) も、創業者の引退のような組織の転換期を例に、組織が大きく揺れる時期にこそアイデンティティをめぐる語りが観察しやすいと論じていた。
これに対して Gioia, Schultz & Corley (2000) は、「持続性」の要素に異を唱えた。彼らは「持続性」と「連続性」を区別する。持続的なアイデンティティとは、時間を通じて同じままであることを意味する。しかし実際に続いているのは連続性である。つまり、「私たちはサービスを大切にする」といった中核的な信念や価値を表すラベルは保たれるが、その解釈や意味は、集団や時期によって変わっていく。持続的に見えるのは、ラベルが安定しているからにすぎないという。
Gioia et al. (2000) によれば、変化を引き起こすのはイメージとの相互作用である。外部から予想外の反応が届くと、メンバーは「自分たちは何者だと思っているか」と「外部の人は自分たちを何者だと思っているか」を比べる。ずれが重要だと判断されれば、組織はアイデンティティのほうを変えるか、外部の見方を変えようとイメージを発信する。発信されたイメージは受け手によって解釈し直され、形を変えて組織に戻ってくる。この循環のため、アイデンティティは不安定になる。Gioia らは、この不安定さがむしろ環境の変化への適応を助けると論じ、これを「適応的不安定性」と名づけた。
一方、Whetten (2006) は、アイデンティティとイメージを同一視すべきではないと主張する。外部の見方が組織の自己認識を変えることはまれであり、変える場合も組織の行動の変化を介するという。たとえば、顧客との関係が悪いと知った企業が改善を長く続けた結果、「顧客志向」が中心的で持続的な属性になることはありうる。Whetten は、組織の属性(attributes)と外部からの評価(attributions)を区別し、評価から属性への直接の因果関係は認めない立場をとる。
身近な例
たとえば、ある地域の書店チェーンが「店員が一冊ずつ本を薦める本屋」を自認しているとしよう。棚の並べ方や営業時間を決めるときには、この自己認識はほとんど話題にならない。しかし、店員を減らして自動のおすすめ機能に切り替えるかどうかという分かれ道に来ると、「それはうちらしくない」という声が強い調子で上がる。Whetten (2006) の見方では、ふだんの判断材料では決められない、こうした場面にこそ組織アイデンティティが表に出てくる。
一方、Gioia et al. (2000) の見方に立てば、同じ「本を薦める本屋」というラベルを保ったまま、その意味が「店頭で直接薦めること」から「一人ひとりに合った本を届けること」へと解釈し直されていく可能性もある。地元紙で「昔ながらの本屋」と紹介されたことをきっかけに、社員が自分たちの姿を見直す、ということも起こりうる。ラベルは変わらなくても、アイデンティティの中身は動いているのである。
主要概念
- 中心性・持続性・独自性(central, enduring, distinctive: CED)
- Albert & Whetten (1985) の定義に由来するとされる、組織アイデンティティの三つの基準。Whetten (2006) は、独自性を他の組織と区別するという機能の基準、中心性と持続性をそれを支える構造の基準として分けて論じた。
- アイデンティティの主張(identity claims / referents)
- Whetten (2006) の用語。組織が自らを他の組織から区別するために用いる、中心的で持続的な属性。メンバーが組織を代表して行動したり話したりするときの拠り所となる。
- 解釈された外部イメージ(construed external image)
- 外部の人が組織をどう見ているかについての、組織メンバーの認識。Gioia et al. (2000) は、これをアイデンティティの変化を引き起こす鍵として位置づけた。
- 適応的不安定性(adaptive instability)
- Gioia et al. (2000) の概念。イメージとの相互作用によってアイデンティティが変わりうること自体が、変化し続ける環境への適応を助けるという考え方。
- ハイブリッド・アイデンティティ組織(hybrid identity organizations)
- 両立しにくい複数のアイデンティティの主張を、あらかじめあわせ持つ組織。Whetten (2006) は例として同族企業や教会立の大学を挙げている。
代表的な展開研究
- Whetten, D. A. (2006). Albert and Whetten revisited: Strengthening the concept of organizational identity. Journal of Management Inquiry. DOI ↗Albert & Whetten (1985) の三つの要素からなる定式化を、要素どうしのつながりを明示して強め、組織アイデンティティを文化やイメージと区別できる概念として定義し直した。本物のアイデンティティの主張と、それが語られる場面を見分ける基準を提案した。
- Gioia, D. A., Schultz, M., & Corley, K. G. (2000). Organizational identity, image, and adaptive instability. Academy of Management Review. DOI ↗アイデンティティとイメージの相互作用に注目し、アイデンティティは持続的というより流動的であり、その不安定さが組織の適応を助けると論じた。
批判と境界条件
Whetten (2006) 自身が、この分野の概念の混乱を認めている。Whetten が紹介する Brunninge (2005) の文献レビューによれば、Albert & Whetten (1985) 以後の研究は、組織アイデンティティを観察者の主観とみるか組織の検証できる属性とみるか、安定したものとみるか変わりやすいものとみるか、ばらばらの要素とみるか一貫したものとみるか、で扱いが一致していない。Whetten はまた、Albert & Whetten (1985) の議論には、アイデンティティが表に出る「組織にとって重大な経験」とは何かについての体系的な説明が欠けていたと振り返っている。組織の実践とアイデンティティの主張のどちらが先に来るのかという「鶏と卵」の問題も、未解決のまま残されていると認めている。さらに Whetten は、強い概念は控えめに使うべきだとし、変化への抵抗一般を説明するのに組織アイデンティティは通常必要ないと述べている。
Gioia et al. (2000) は、Albert & Whetten (1985) の定義が研究の出発点として役立ってきたことを認めつつ、「持続性」の要素が概念の豊かさと動きを捉える妨げになってきたと批判した。一方で、自分たちの過程モデルが、実際の過程を単純化しすぎた、合理的すぎる描写であることも認めている。また、アイデンティティの安定と不安定のバランスをとることは「微妙で危険」であり、一時的な流行のイメージが中核的な価値に取って代わるおそれがあるとも述べている。
両者の間には、イメージがアイデンティティをどこまで変えるのかという点で見解の違いがある。Gioia らはイメージとの循環がアイデンティティを動かすとみるのに対し、Whetten (2006) は、アイデンティティの主張をイメージ管理の産物とみなす見方に反対し、外部の評価が自己認識を変えるのは行動の変化を介する場合に限られるとしている。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Albert, S., & Whetten, D. A. (1985). Organizational identity. Research in Organizational Behavior, 7, 263–295.
- Whetten (2006), Journal of Management Inquiry ↗
- Gioia, Schultz & Corley (2000), Academy of Management Review ↗
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