理論・視点

シングル・ループ学習とダブル・ループ学習Single- and Double-Loop Learning

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

組織の学習には、決められた目標や前提の範囲で行動を修正するシングル・ループ学習と、その目標や前提自体を問い直すダブル・ループ学習の二つがある、とする理論。

目次
説明したい問い組織は、なぜ誤りを直せても、誤りを生む前提そのものは変えにくいのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

組織は失敗から学ぶと言われる。しかし、同じ種類の失敗が繰り返されることも多い。表面的な修正にとどまる学習と、根本的な見直しに至る学習は、何が違うのか。

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主張とメカニズム

Argyris (1977) は、サーモスタットの比喩を用いた。室温が高すぎるか低すぎるかを感知して暖房を入れたり切ったりするのがシングル・ループ学習である。一方、サーモスタットが「そもそも設定温度はこれでよいか」を自ら問えるなら、それがダブル・ループ学習である。前者は行動を修正し、後者は行動を方向づける規範や前提を修正する。

Argyris (1976) によれば、Argyris & Schön (1974) は、人が行動の根拠として語る考え(信奉理論)と、実際の行動から読み取れる考え(使用理論)を区別した。多くの人は、他人の言うこととすることの食い違いには気づくが、自分の食い違いには気づかない。Argyris (1976) によれば、多くの人の使用理論(モデルI)は、勝つこと、否定的な感情を抑えること、合理性を強調することなどを支配的な価値とし、他者を一方的にコントロールする行動につながる。これに対しダブル・ループ学習を組み込んだモデルIIは、有効な情報、自由で情報に基づく選択、内的なコミットメントを支配的な価値とする。モデルIのもとでは、脅威となる問題ほど公に話し合われにくい。Argyris (1977) によれば、その結果、組織には誤りを隠す規範や駆け引き(ゲーム)が生まれ、それを話題にすること自体も避けられるようになって、ダブル・ループ学習が妨げられる。Edmondson (1996) は、Argyris がのちに、組織をまひさせるこうした振る舞いを「防衛的ルーティン」と呼んだことを紹介している。

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身近な例

売上が目標に届かない営業部が、訪問件数を増やして対応するのはシングル・ループ学習である。これに対し、「訪問件数で成果を測るやり方自体が顧客のニーズとずれていないか」と問い直すのがダブル・ループ学習である。会議でこの問いを口にすると上司の方針を否定するように見えるため、誰も言い出さないことがある。

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主要概念

シングル・ループ学習(single-loop learning)
目標や前提はそのままに、結果と目標のずれを埋めるように行動を修正する学習。
ダブル・ループ学習(double-loop learning)
行動の背後にある目標、規範、前提そのものを問い直し、修正する学習。
信奉理論と使用理論(espoused theory / theory-in-use)
本人が自分の行動の理由として語る考えと、実際の行動から読み取れる考え。
防衛的ルーティン(defensive routines)
驚き、きまりの悪さ、脅威を避けるための行動や方針。学習を妨げ、組織が根本にある問題を調べたり取り除いたりすることを妨げる。
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代表的な展開研究

  • Argyris, C. (1976). Single-loop and double-loop models in research on decision making. Administrative Science Quarterly. DOI ↗意思決定研究に二つの学習モデルを持ち込み、防衛的な行動様式が組織の学習を妨げることを論じた。
  • Fiol, C. M., & Lyles, M. A. (1985). Organizational learning. Academy of Management Review. DOI ↗組織学習の研究を整理し、低次の学習と高次の学習を区別する枠組みを示した。
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批判と境界条件

Argyris (1976, p. 373) 自身が、二つのモデルの研究はまだ始まったばかりだと認めている。それまでのデータでは、多くの人がダブル・ループ型を信奉する一方、使用理論で見るとほとんどの行動がほぼシングル・ループ型に分類された (p. 373)。ただしこの結果は、カテゴリーの定義があいまいな研究に基づくおそれがあり、より細かい概念枠組みなら違う結果が出るかもしれない、と Argyris は書いている (p. 373)。主張を確かにするにはさらに実証研究が要り、その研究は質問紙や報告といった信奉理論の水準にとどまらず、書き起こしのような直接観察できるデータを得る必要があるという (p. 374)。

Visser (2007, p. 659) によれば、Argyris & Schön は Bateson の「第二次学習(deutero-learning)」を組織研究に持ち込んだが、それをダブル・ループ学習の一種とする場合と、両方のループより一段上とする場合があり、用語があいまいだった。また彼らは、Bateson の元の定式化で中心だった、適応的な行動・文脈・関係という側面を見落としたという (p. 659)。Visser は、この混乱が理論の理解と実証研究を妨げるとして、関係のなかの条件づけのパターンに行動を合わせる、ほぼ無意識の学習を「第二次学習」と呼び、シングル/ダブル・ループ学習の過程を意識的に振り返る「メタ学習」と区別するよう提案した (pp. 659–660, 665)。

Tosey et al. (2012) は、さらに上の段階とされる「トリプル・ループ学習」を検討し、この語が Argyris & Schön の刊行物には出てこないことを確かめた (p. 293)。その概念化は論者によってまちまちで、理論的な根拠が乏しく、規範的な考えに動かされることがあり、実証研究の支えもない (p. 291)。また Bateson の枠組みでは、高次の学習が低次の学習より本質的に優れているわけではない (p. 299)。Tosey et al. は、「高次の」学習を無批判に好む傾向に注意を促し、多くの状況で組織に必要なのは変革よりも、既存の能力をうまく生かす低次の学習かもしれないと推測している (pp. 291, 303)。

Edmondson (1996) は、Argyris の介入研究を、Schein(組織文化)や Senge(システム・ダイナミクス)の方法と比べた。Argyris が組織でのダブル・ループ学習のほぼ全面的な欠如を記録してきたのに対し、Schein は多くの組織を基本的に健全とみる(節「Process Consultation and Culture」)。Edmondson は、三者の理論がそれぞれの研究方法から生まれ、Argyris の場合は介入という方法が結論を形づくっていると指摘する(節「The Process Shapes the Product」)。実践上の弱点として、介入に並外れた技能が要ることと、モデルIIの使用理論が組織の集合的な学習にどうつながるかを十分に示していないことを挙げる(節「Intervention & Interpersonal Competence」)。一方で Edmondson は、対人的な会話にひそむ非有効性に取り組む長く困難な作業は避けられない、という Argyris の主張には説得力があると評価している(節「Conclusion」)。

研究上の位置づけ

原典Argyris, C., & Schön, D. A. (1978)
Organizational learning: A theory of action perspective
分類概念
分析単位個人 · 組織
理論系譜行動論 · 認知
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。