職務特性モデルJob Characteristics Model
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと仕事に技能の多様性、タスク完結性、タスク重要性、自律性、フィードバックという五つの特性がそなわると、働く人は仕事の意味と結果への責任を実感し、仕事の結果を知ることができるため、内側から動機づけられる。その効果は成長欲求の強い人ほど大きい、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
同じ職場でも、やる気が出る仕事と出ない仕事がある。人の性格や報酬だけでなく、仕事そのものの組み立て方がやる気を左右するのではないか。そうだとすれば、仕事のどの特徴を変えればよいのか。
主張とメカニズム
Hackman & Oldham (1976) は、このモデルを「人が自分の仕事で効果的に働くよう、内側から動機づけられるようになる条件を特定する」ものとして示した。モデルは三種類の変数の関係を扱う。内側からの動機づけが生まれるために必要な心理状態、その心理状態を生む仕事の特性、そして複雑でやりがいのある仕事にどれだけ前向きに反応するかを決める個人の特性である。
仕事の中核的な特性は五つある。技能の多様性(いろいろな技能を使う度合い)、タスク完結性(仕事の最初から最後までを見届けられる度合い)、タスク重要性(他者に影響を与える度合い)、自律性(進め方や段取りを自分で決められる度合い)、フィードバック(仕事そのものから成果の手がかりが得られる度合い)である。はじめの三つは「仕事が意味あるものだ」という実感を、自律性は「結果は自分の責任だ」という実感を、フィードバックは「実際の結果を知っている」という実感を生む。三つの心理状態がそろうと、内的な動機づけ、仕事の質、満足感が高まり、欠勤や離職が減るとされた。五つの特性は「動機づけの可能性の得点」(MPS)にまとめられる。この得点では、はじめの三つの平均に自律性とフィードバックを掛けるため、自律性かフィードバックのどちらかがほぼゼロなら、得点全体もほぼゼロになる。
さらに、この関係の強さは人によって違う。自分の成長と発達を強く求める人(成長欲求が強い人)ほど、五つの特性を備えた仕事に前向きに反応する。Hackman & Oldham (1976) は、七つの組織で62種類の仕事に就く658人のデータでこのモデルを検証し、結果はおおむねモデルを支持したと報告した。
身近な例
たとえば、書類の一部分だけを毎日入力する事務の仕事があるとしよう。この仕事を、一人の担当者が一件の申請を受付から完了まで受け持ち、手順も自分で決め、処理結果を自分で確かめられる形に変えたとする。モデルによれば、完結性、自律性、フィードバックが高まるため、仕事の意味や責任を感じ、仕事の結果も知りやすくなる。ただし、その効果は成長を求める気持ちが強い担当者ほど大きいと予測される。
主要概念
- 中核的職務特性(core job dimensions)
- 技能の多様性、タスク完結性、タスク重要性、自律性、フィードバックの五つの仕事の特徴。
- 三つの心理状態(psychological states)
- 仕事の有意味感、結果への責任感、結果についての知識という、動機づけに必要な三つの心理状態。
- 内的動機づけ(internal work motivation)
- よい仕事をしたときに自分の中から満足が生まれ、うまくできなかったときには気分が沈むため、よい仕事をしようとする状態。
- 成長欲求の強さ(growth need strength)
- 仕事で個人として成長し、発達したいという欲求の強さ。モデルの効果を強めたり弱めたりする。
代表的な展開研究
- Hackman, J. R., & Oldham, G. R. (1975). Development of the Job Diagnostic Survey. Journal of Applied Psychology. DOI ↗仕事の特性や心理状態を測る質問票「職務診断調査(JDS)」を開発し、モデルの測定手段を整えた。
- Humphrey, S. E., Nahrgang, J. D., & Morgeson, F. P. (2007). Integrating motivational, social, and contextual work design features: A meta-analytic summary and theoretical extension of the work design literature. Journal of Applied Psychology. DOI ↗259件の研究(219,625人)をメタ分析し、社会的な特徴や作業環境の特徴も含めた職務設計の枠組みへと広げた。仕事の意味の実感と最も強く関連していたのはタスク重要性(ρ = .68)で、技能多様性(ρ = .62)、自律性(ρ = .60)が続いた。五つの中核的な特性は、職務満足や内的動機づけと中程度の正の関連を示し(平均 ρ = .41、.39)、主観的な評価による業績とは、五つのうち四つが弱く関連していた(平均 ρ = .18)。一方、客観的に測った業績との関連を調べた研究は少なく、ゼロと区別できる関連が見られたのは自律性(ρ = .17)だけで、タスク重要性については研究がなかった。また著者らは、多くの研究が仕事の特徴と結果を同じ本人の回答で測っているため、関連が大きめに出ている可能性があると述べている。
批判と境界条件
Hackman & Oldham (1976, p. 271) 自身、欠勤と業績についての結果が、動機づけや満足についての結果より弱かったことを認めている。その説明の一つとして著者らは、動機づけと満足の項目が、仕事の特性や心理状態の項目と同じ質問紙に入っていたため、それらの関係が水増しされた可能性を挙げた (p. 271)。
モデルの一部にも疑問が残った。自律性と責任の実感の結びつきは、モデルの予測どおりには働かなかった (p. 272)。責任の実感は、自律性だけでなく五つの特性すべてからほぼ同じ程度に影響を受けていた (p. 269)。また自律性は、責任の実感を経由する間接の効果と同じかそれ以上の直接の効果を、一部の成果にもっていた (p. 272)。著者らは、自律性が仕事全体の複雑さをまとめて表しているのかもしれないと述べた (p. 273)。さらに、MPS は、より単純な組み合わせ方より優れているとは示されなかった (p. 274)。
著者らは適用の限界も認めている。仕事を再設計するための行動原則の有効性も、モデル自体の妥当性も、実際の変革の場ではまだ確かめられていない (p. 276)。モデルは個人と仕事の関係だけを扱い、対人関係などの調整要因は直接には扱わない (p. 277)。チームで行う仕事の設計にも明確な指針を与えない (p. 277)。一方、成長欲求の低い人は複雑な仕事に否定的に反応するという Hulin & Blood (1968) などの見方には、成長欲求が下位4分の1の人でも関係は正の向きだったとして、支持する証拠はないと応じた (p. 274)。
Berg, Wrzesniewski & Dutton (2010, p. 158) によれば、従来の職務設計の理論と研究は、管理者が従業員のために仕事を設計するトップダウンの過程に焦点を当ててきた。Rudolph et al. (2017, p. 112) は、個々の仕事の特性と満足や業績との関係にはかなりのばらつきがあるとして、働き手が自分で仕事の特性を変えるジョブ・クラフティングを、従来の再設計に代わりうる方法とした。ただし Rudolph et al. (2017, p. 113) によれば、Kulik, Oldham & Hackman (1987) はすでに、働き手が自分の仕事を自発的に再設計しうると述べていた。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Hackman, J. R., & Oldham, G. R. (1976). Motivation through the design of work: Test of a theory. Organizational Behavior and Human Performance. DOI ↗
- Berg, Wrzesniewski & Dutton (2010). Perceiving and responding to challenges in job crafting at different ranks: When proactivity requires adaptivity. Journal of Organizational Behavior. ↗
- Rudolph, Katz, Lavigne & Zacher (2017). Job crafting: A meta-analysis of relationships with individual differences, job characteristics, and work outcomes. Journal of Vocational Behavior. ↗
- Hulin & Blood (1968). Job enlargement, individual differences, and worker responses. Psychological Bulletin. ↗
- Kulik, Oldham & Hackman (1987). Work design as an approach to person-environment fit. Journal of Vocational Behavior. ↗
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