ジョブ・クラフティングJob Crafting
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと働く人は、与えられた職務をそのまま受け取るだけでなく、仕事の範囲、人との関わり方、仕事の捉え方を自分で変えている。その結果、仕事の意味や自分が何者かという感覚も変わる、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
Berg, Wrzesniewski & Dutton (2010) によれば、従来の職務設計の理論と研究は、管理者が働き手のために仕事を設計するという、上から下への過程に注目してきた。しかし近年は、働き手自身が仕事の設計に果たす役割にも目が向けられ、その取り組みの主体性が強調されるようになった。働き手は、自分の仕事をどのように形づくっているのか。
主張とメカニズム
Wrzesniewski & Dutton (2001) は、ジョブ・クラフティングを「個人が、自分の仕事の課題の境界や関係の境界に加える、物理的・認知的な変化」と定義した。ここでいう変化には三つの形がある。一つ目は課題の境界を変えることで、取り組む課題の数や範囲、種類を変える。二つ目は関係の境界を変えることで、仕事で誰と、どれくらい、どのように関わるかを変える。三つ目は認知的な課題の境界を変えることで、自分の仕事の見方を変える。たとえば、仕事をばらばらの作業の集まりとして見るか、一つにまとまった全体として見るかを変える。Berg et al. (2010) の聞き取りでは、自分の仕事を、ばらばらの作業の集まりではなく、他者に良い影響を与える意味のある全体として捉え直す例が見られた。
Wrzesniewski & Dutton (2001) は、ジョブ・クラフティングの動機として、三つの個人的な欲求を挙げた。仕事を自分である程度コントロールしたいという欲求、仕事のなかで肯定的な自己像をつくりたいという欲求、他者とつながりたいという欲求である。こうした動機が実際のクラフティングにつながるかどうかは、働き手がクラフティングの機会をどう認識するかに左右される。原典は、この認識を左右する仕事の特徴として、課題の相互依存(自分の仕事が他者の仕事とどれだけ結びついているか)と、監視・監督の厳しさを挙げた。相互依存が強いほど、クラフティングの自由は小さくなる。仕事がはっきり決められ管理されているときも、クラフティングの機会は少なく見える。一方、仕事の自律性は、クラフティングの機会があるという認識につながるとした。また、仕事を主に収入を得るためのものと見るか、昇進を目指すキャリアと見るか、充実した、社会の役に立つ仕事として楽しむ天職と見るかといった、働き手の仕事への向き合い方も、動機とクラフティングの関係に影響するとした。
Wrzesniewski & Dutton (2001) は、ジョブ・クラフティングが、仕事上のアイデンティティ(職場で自分をどう定義するか)と仕事の意味(仕事の目的についての理解)を変えると論じた。ジョブ・クラフティングは、組織にとって良いとも悪いとも限らない。Berg et al. (2010) によれば、職務設計が、管理者がつくり実施させる仕事の構造的な特徴を扱うのに対して、ジョブ・クラフティングは、働き手が自分の仕事の境界に加える主体的な変化に目を向ける。
後の研究では、Tims, Bakker & Derks (2012) がこの考え方を仕事の要求度-資源モデルに結びつけ、ジョブ・クラフティングを、個人の(仕事上の)目標を達成したり最適化したりするために、働き手が自分の仕事の要求度と資源に自発的に加える変化と定義した。このモデルでは、要求度は持続的な身体的・心理的な努力や技能を必要とし、そのためにコストをともなう仕事の側面であり、資源は仕事の目標の達成に役立つ、要求度とそのコストを減らす、成長や学習や発達をうながす、といった働きをもつ仕事の側面である。調査の結果、構造的な資源を増やす、社会的な資源を増やす、やりがいのある要求を増やす、妨げとなる要求を減らす、という四つの次元が見いだされ、21項目で測れることが示された。構造的な資源は仕事の多様性、成長の機会、自律性を、社会的な資源は社会的支援、上司のコーチング、フィードバックを指す。これは原典の三つの形とは異なる整理であり、Tims et al. (2012) は、働き手が仕事の要求度や資源の水準を実際に変える自発的な行動だけを対象にした。
身近な例
たとえば、市役所の窓口で書類の受付をしている職員がいるとしよう。この人は、よく聞かれる質問をまとめた手書きの案内をつくり、窓口に置き始めた(課題の境界)。また、隣の課の担当者と顔なじみになり、込み入った相談をすぐにつなげるようにした(関係の境界)。さらに、自分の仕事を「書類を受け取る作業」ではなく「住民が困りごとを解決する最初の入口」だと考えるようになった(認知的な境界)。職務記述書は何も変わっていないが、この人が経験している仕事は大きく変わっている。
主要概念
- ジョブ・クラフティング(job crafting)
- 個人が、自分の仕事の課題や人との関係の境界に加える、物理的・認知的な変化。
- 課題の境界(task boundaries)
- 仕事として取り組む課題の数、範囲、種類の区切り。
- 関係の境界(relational boundaries)
- 仕事のなかで誰と、どれくらい、どのように関わるかの区切り。
- 認知的な境界(cognitive task boundaries)
- 自分の仕事をどのようなまとまりとして捉えるかという、捉え方の区切り。
- 仕事の意味(meaning of work)
- 働く人が、自分の仕事の目的について抱く理解。
代表的な展開研究
- Berg, J. M., Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2010). Perceiving and responding to challenges in job crafting at different ranks: When proactivity requires adaptivity. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗営利と非営利の組織で働く33人への聞き取りから、組織の中の地位によって、ジョブ・クラフティングを妨げる壁の感じ方と、その乗り越え方が異なることを示した。地位の高い人は、壁を、自分や他者が時間をどう使うべきかという自分自身の期待に見いだし、地位の低い人は、決められた職務や他者の期待に見いだしていた。地位の高い人は自分の期待や行動を変えて今ある機会でやりくりし、地位の低い人は他者の期待や行動を変えて機会をつくり出していた。
- Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2012). Development and validation of the job crafting scale. Journal of Vocational Behavior. DOI ↗仕事の要求度-資源モデルに基づいてジョブ・クラフティングを捉え直し、オランダでの3つの調査(計1181人)から、それを測る4次元・21項目の尺度を開発した。
- Rudolph, C. W., Katz, I. M., Lavigne, K. N., & Zacher, H. (2017). Job crafting: A meta-analysis of relationships with individual differences, job characteristics, and work outcomes. Journal of Vocational Behavior. DOI ↗122の標本(35,670人)をメタ分析した。ジョブ・クラフティング全体は、ワーク・エンゲイジメント(rc = .45)、職務満足(rc = .29)、自己評価の業績(rc = .27)、他者評価の業績(rc = .18)と関連していた。分析の対象は Tims らの整理による次元で、原典の認知的な境界の変化との対応は明らかでないとしている。
批判と境界条件
ジョブ・クラフティングの研究では、概念の捉え方が一つにまとまっていない。Rudolph et al. (2017, p. 113) によれば、原典とは別の概念化や測定がいくつもある。Tims et al. (2012, p. 174) は、原典の定義は仕事の課題、職場の関係、仕事についての認知の変化に限られているとした。そのうえで、ほかの仕事の特徴の変化もとらえるため、仕事の要求度-資源モデルに基づいて定義し直した (p. 174)。Rudolph et al. (2017, p. 131) は、原典の認知的なクラフティングと、要求度-資源モデルに基づく次元との対応は明らかでないと述べている。
とくに、妨げとなる要求を減らす次元はほかの次元と性質が異なる。Tims et al. (2012, p. 183) では、この次元はワーク・エンゲイジメント、エンプロイアビリティ(雇用され続ける力)、業績のいずれとも有意に相関しなかった。Rudolph et al. (2017, p. 112) のメタ分析では、この次元は離職意図と関連していた(rc = .24)。ただし、こうした関係を調べた研究は比較的少なく、因果の向きもはっきりしない (p. 132)。著者らは、四つの次元の得点を合計して使うことには慎重であるべきだとした (p. 132)。
地位とクラフティングの関係も単純ではない。Berg, Wrzesniewski & Dutton (2010, p. 179) は、公式の権力や自律性は大きいのに、地位の高い人のほうが心理的な制約を強く感じていたことを見いだした。地位の低い人は、他者の期待や行動を変えて、クラフティングの機会をつくり出していた (p. 158)。著者らは、原典のモデルが、クラフティングの機会を職場環境が決める固定した限界として扱っていると指摘した (p. 159)。ただしこの研究は、2つの組織だけを調べ、地位を公式の権力と自律性の代わりの指標とした (p. 181)。一度きりの聞き取りで、時間を追った変化も調べていない (p. 182)。
実証の面では、因果関係が確かめられていない。Rudolph et al. (2017, p. 132) によれば、一次研究はすべて相関研究で、大半は一時点の調査か自己報告に基づく。クラフティングを促す介入の研究も、まだごく限られている (p. 132)。Tims et al. (2012, p. 184) も、横断的なデータでは因果を推論できず、クラフティングとエンゲイジメントの関係は逆向きでもありうると認めている。また、研究の多くは良い結果に注目し、望ましくない結果にはあまり目を向けてこなかった (Rudolph et al., 2017, p. 132)。クラフティングが仕事の進め方に非効率を持ち込んだり、チーム内の対立を招いたりする可能性もある (p. 132)。原典の Wrzesniewski & Dutton (2001, p. 187) 自身も、クラフティングは自発的なものとはいえ働き手の仕事を増やしうるし、その努力が認められたり報われたりするとは限らないと述べていた。組織を法律や規制上の問題にさらしたり、働き手が仕事をうまくこなす力を損なったりするおそれもあるという (p. 187)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review. DOI ↗
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