ジョブ・クラフティングJob Crafting
一言で言うと働く人は、与えられた職務をそのまま受け取るだけでなく、仕事の範囲、人との関わり方、仕事の捉え方を自分で変えている。その結果、仕事の意味や自分が何者かという感覚も変わる、とする理論。
中核的な問い
従来の職務設計の研究は、管理者が仕事を設計し、働き手はそれに反応する、という見方をとってきた。しかし実際には、同じ職名の人でも、仕事のやり方や関わる相手、仕事への思いは人によって大きく違う。働き手は、自分の仕事をどのように形づくっているのか。
主張とメカニズム
Wrzesniewski & Dutton (2001) は、ジョブ・クラフティングを「個人が、自分の仕事の課題の境界や関係の境界に加える、物理的・認知的な変化」と定義した。ここでいう変化には三つの形がある。一つ目は課題の境界を変えることで、取り組む課題の数や範囲、種類を変える。二つ目は関係の境界を変えることで、仕事で誰と、どれくらい、どのように関わるかを変える。三つ目は認知的な境界を変えることで、自分の仕事を一つ一つの作業の集まりとしてではなく、意味のある全体として捉え直す。
人がこうした変化を起こす動機として、著者らは三つを挙げた。仕事や仕事の意味を自分でコントロールしたいという欲求、自分について肯定的なイメージをもちたいという欲求、他者とつながりたいという欲求である。ジョブ・クラフティングがどれだけ起こるかは、仕事の自由度や、他者との仕事の結びつき(相互依存)の程度といった、変えられる機会をどう認識するかにも左右される。また、仕事を単なる稼ぎの手段と見るか、キャリアの一段階と見るか、天職と見るかといった、働き手の仕事への向き合い方にも左右される。
こうした変化は、仕事の設計や職場の人間関係を変え、その結果、その人にとっての仕事の意味や、仕事上のアイデンティティ(自分は何者かという感覚)を変える。ジョブ・クラフティングは、組織にとって良いとも悪いとも限らない。著者らはこれを、上から与えられた職務と、働き手が実際に経験する仕事とをつなぐ、日常的な活動として位置づけた。
後の研究では、Tims, Bakker & Derks (2012) がこの考え方を仕事の要求度-資源モデルに結びつけ、資源を増やす、やりがいのある要求を増やす、妨げとなる要求を減らす、といった行動としてジョブ・クラフティングを測る尺度をつくった。これは原典の三つの形とは異なる整理である。
身近な例
たとえば、市役所の窓口で書類の受付をしている職員がいるとしよう。この人は、よく聞かれる質問をまとめた手書きの案内をつくり、窓口に置き始めた(課題の境界)。また、隣の課の担当者と顔なじみになり、込み入った相談をすぐにつなげるようにした(関係の境界)。さらに、自分の仕事を「書類を受け取る作業」ではなく「住民が困りごとを解決する最初の入口」だと考えるようになった(認知的な境界)。職務記述書は何も変わっていないが、この人が経験している仕事は大きく変わっている。
主要概念
- ジョブ・クラフティング(job crafting)
- 個人が、自分の仕事の課題や人との関係の境界に加える、物理的・認知的な変化。
- 課題の境界(task boundaries)
- 仕事として取り組む課題の数、範囲、種類の区切り。
- 関係の境界(relational boundaries)
- 仕事のなかで誰と、どれくらい、どのように関わるかの区切り。
- 認知的な境界(cognitive task boundaries)
- 自分の仕事をどのようなまとまりとして捉えるかという、捉え方の区切り。
- 仕事の意味(meaning of work)
- 働く人が、自分の仕事がどういうものであり、なぜ重要なのかについて抱く理解。
代表的な展開研究
- Berg, J. M., Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2010). Perceiving and responding to challenges in job crafting at different ranks: When proactivity requires adaptivity. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗組織の中の地位によって、ジョブ・クラフティングを妨げる壁の感じ方と、その乗り越え方が異なることを、聞き取り調査から示した。
- Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2012). Development and validation of the job crafting scale. Journal of Vocational Behavior. DOI ↗仕事の要求度-資源モデルに基づいてジョブ・クラフティングを捉え直し、それを測る尺度を開発した。
批判と境界条件
Zhang & Parker (2019) は、ジョブ・クラフティングの研究が、原典に基づく役割の境界の考え方と、仕事の要求度-資源モデルに基づく考え方に分かれ、同じ名前で異なるものを扱っていると指摘した。そのうえで、仕事を良くする方向に働きかける「接近」と、負担を避ける「回避」を区別する枠組みを示した。また、Berg, Wrzesniewski & Dutton (2010) は、地位の低い人ほど自由に仕事を変えにくいと感じるなど、ジョブ・クラフティングの機会が組織内の地位によって制約されることを示した。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review. DOI ↗
- Zhang & Parker (2019). Reorienting job crafting research: A hierarchical structure of job crafting concepts and integrative review. Journal of Organizational Behavior. ↗
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