仕事の要求度-資源モデルJob Demands-Resources Model
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うとどの職種の仕事の特徴も「仕事の要求度」と「仕事の資源」の二つに分けられ、要求度が高すぎると消耗が、資源が足りないと仕事からの離脱が生じ、この二つがバーンアウト(燃え尽き)をつくる、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
Schaufeli & Bakker (2004) によれば、バーンアウトは、もともと人を相手にする対人サービスの仕事だけで起こるものと考えられていた。しかし、しだいに、対人サービス以外の仕事にもバーンアウトがあることが明らかになった。職種ごとに違う無数の職場の条件を、共通の枠組みで捉えることはできないのか。
主張とメカニズム
Lesener, Gusy & Wolter (2019) によれば、Demerouti, Bakker, Nachreiner & Schaufeli (2001) は、仕事の特徴を二つに分けて定義した。仕事の要求度とは、「持続的な身体的・精神的な努力を必要とし、そのため一定の生理的・心理的なコストをともなう、仕事の身体的・社会的・組織的な側面」である。仕事の資源とは、「仕事の目標の達成に役立つ、要求度とそれにともなうコストを減らす、個人の成長や発達をうながす、のいずれかの働きをもちうる、仕事の身体的・心理的・社会的・組織的な側面」である。仕事量の多さや時間の圧力は前者、上司からのフィードバックや裁量、支援は後者の例である。
Schaufeli & Bakker (2004) によれば、Demerouti et al. (2001) は、バーンアウトを「消耗」と「仕事からの離脱」という二つの中核的な面から測った。Demerouti, Bakker, Vardakou & Kantas (2003) は、消耗を、激しい身体的・感情的・認知的な負担のような特定の要求度に長くさらされた結果と定義した(Lesener, Gusy & Wolter, 2019 の紹介による)。Schaufeli & Bakker (2004) によれば、離脱は、仕事一般への無関心や距離をおいた態度を表す「シニシズム」と概念的に近い。Lesener, Gusy & Wolter (2019) によれば、Demerouti et al. (2001) は次の二つの経路を想定した。要求度が高すぎると、主に消耗が生じる。資源が足りないと、仕事の目標を達成しにくくなり、主に離脱が生じる。Schaufeli & Bakker (2004) によれば、Demerouti et al. (2001) はこのモデルの検証に成功した。
後の研究では、このモデルが広げられた。Schaufeli & Bakker (2004) は、バーンアウトとは別の尺度で測ったワーク・エンゲイジメント(活力・熱意・没頭に特徴づけられる、仕事に関する前向きで充実した心の状態)をモデルに加えた。彼らのモデルでは、要求度がバーンアウトを通じて健康の問題につながるエネルギーの経路と、資源がエンゲイジメントを通じて離職の意思の低さにつながる動機づけの経路が想定された。オランダの四つのサービス組織の働き手(計1,698人)を調べた結果、バーンアウトは主に要求度から、エンゲイジメントは資源だけから予測された。Bakker & Demerouti (2017) によれば、その後このモデルは、個人の資源(自分が環境をどれだけコントロールできるかについての信念。楽観性や自己効力感など)、仕事の業績、ジョブ・クラフティング(働き手が自分の仕事の要求度や資源を自ら変えること)などについての命題を加えて、理論へと育った。Lesener, Gusy & Wolter (2019) によれば、こうした修正のあとも、モデルの中核の仮定は変わっていない。これらは原典の後に加えられた要素である。
身近な例
たとえば、二人の営業担当者がいるとしよう。どちらも担当する顧客が多く、締め切りに追われている(要求度が高い)。一人は、上司から定期的に助言を受け、訪問の順番を自分で決められる(資源がある)。もう一人は、助言もなく、細かな手順まで指示されている(資源が乏しい)。モデルに従えば、二人とも疲れはたまるが、後者のほうが仕事への関心を失い、「どうでもいい」と感じやすくなる。要求度を減らすことと資源を増やすことは、別々の対策として考える必要がある。
主要概念
- 仕事の要求度(job demands)
- 持続的な努力を必要とし、そのため身体的・心理的なコストをともなう仕事の側面。仕事量、時間の圧力など。
- 仕事の資源(job resources)
- 目標の達成に役立つ、要求度とそれにともなうコストを減らす、成長や発達をうながす、のいずれかの働きをもちうる仕事の側面。裁量、組織や上司の支援など。
- バーンアウト(burnout)
- 精神的に疲れ果てた状態を表すのによく使われる比喩。このモデルでは、消耗と仕事からの離脱という二つの中核的な面で捉える。
- 消耗(exhaustion)
- 身体的・感情的・認知的な負担が続いた結果、疲れ果てた状態。
- 離脱(disengagement from work)
- 資源が足りないときに生じる、仕事からの心理的な引きこもり。仕事一般への無関心や距離をおいた態度を表す「シニシズム」と概念的に近いとされる。
代表的な展開研究
- Schaufeli, W. B., & Bakker, A. B. (2004). Job demands, job resources, and their relationship with burnout and engagement: A multi-sample study. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗バーンアウトとは別に測ったワーク・エンゲイジメントをモデルに加え、資源がエンゲイジメントを通じて組織への愛着(離職の意思の低さ)につながる動機づけの経路を、要求度がバーンアウトを通じて健康の問題につながる経路と並べて、四つの標本で検討した。
- Bakker, A. B., & Demerouti, E. (2017). Job demands–resources theory: Taking stock and looking forward. Journal of Occupational Health Psychology. DOI ↗それまでの研究を振り返り、モデルを理論として整理し直した。働き手自身による仕事の再設計なども組み込んだ。
批判と境界条件
Lesener, Gusy & Wolter (2019, p. 77) によれば、このモデルを使った実証研究の多くは、変数どうしが相関していることを示すだけで、仕事の特徴がウェルビーイングに影響するという因果関係までは示していない。エンゲイジメントを加えた Schaufeli & Bakker (2004, p. 310) も、自分たちの研究の主な限界は横断的な設計にあり、モデル図の矢印が因果を示すかのように見えるのは明らかに誤りだと認め、縦断的な検証が必要だとしていた (p. 311)。そこで著者らは縦断研究だけをメタ分析し、仕事の特徴がウェルビーイングにつながるという中核の仮定を確かめた (p. 92)。ただし、仕事の特徴とウェルビーイングが互いに影響し合うとするモデルが、最もよく当てはまった (p. 89)。Lesener et al. (2019, p. 95) によれば、Schaufeli & Taris (2014) も、仕事の特徴からウェルビーイングへの一方向の因果だけでは、両者の関連を説明しきれない可能性を指摘している。また Bakker & Demerouti (2014) は、ウェルビーイングが仕事の特徴の受け止め方を左右するという説明を示しており、著者らは、こうした偏りを避けるには客観的な指標が役立ちうるとした (p. 95)。
Lesener et al. (2019, p. 78) の整理によれば、Crawford, LePine & Rich (2010) は、成長や学びの機会と受け止められやすい挑戦的な要求度と、制約や障壁と受け止められやすい阻害的な要求度とを区別した。Lesener et al. のメタ分析では、要求度からワーク・エンゲイジメントへの経路は有意でなかった (p. 89)。著者らは、二種類の要求度を区別できなかったため、挑戦的な要求度とエンゲイジメントの関係が見えなくなっている可能性があるとした (p. 93)。そのうえで、Crawford et al. (2010) の区別を取り入れるよう勧めている (p. 93)。
Lesener et al. (2019, p. 92) の評価では、五つの基準すべてで十分以上とされた質の高い研究は、全体の39% (29本) だった。著者らは限界として、どの研究も仕事の特徴とウェルビーイングを自己報告で測っており、要求度や資源を客観的に測った研究がないため、共通方法バイアスを否定できないことを挙げている (p. 93)。Schaufeli & Bakker (2004, p. 311) も、自己報告の測定だけに頼ったことを限界に挙げていた。測定の時間間隔も研究ごとにまちまちで、多くはその間隔を選んだ理由を示していなかった (p. 94)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Demerouti, E., Bakker, A. B., Nachreiner, F., & Schaufeli, W. B. (2001). The job demands-resources model of burnout. Journal of Applied Psychology. DOI ↗
- Schaufeli & Taris (2014). A Critical Review of the Job Demands-Resources Model: Implications for Improving Work and Health. Bridging Occupational, Organizational and Public Health. ↗
- Lesener, Gusy & Wolter (2019). The job demands-resources model: A meta-analytic review of longitudinal studies. Work & Stress. ↗
- Crawford, LePine & Rich (2010). Linking job demands and resources to employee engagement and burnout: A theoretical extension and meta-analytic test. Journal of Applied Psychology. ↗
- Demerouti, Bakker, Vardakou & Kantas (2003). The convergent validity of two burnout instruments: A multitrait-multimethod analysis. European Journal of Psychological Assessment. ↗
- Bakker & Demerouti (2014). Job demands–resources theory. In P. Y. Chen & C. L. Cooper (Eds.), Wellbeing: A Complete Reference Guide, Vol. III: Work and Wellbeing. Wiley. ↗
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