理論・視点

天職(コーリング)Calling (Job, Career, and Calling Orientations)

一言で言うと

人と仕事の関係には、生活の糧を得る手段とみる「仕事(ジョブ)」、昇進を重視する「キャリア」、仕事そのものに充実感と社会的な意義を見いだす「天職(コーリング)」という違いがあり、同じ職業の中にもこの三つが見られる、とする考え方。天職と感じている人ほど、生活や仕事への満足が高い傾向がある。

説明したい問い同じ仕事をしていても、それを「生活のため」と感じる人と「天職」と感じる人がいるのはなぜか。その違いは、満足や働き方とどう関係するのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

仕事は、多くの大人にとって起きている時間の3分の1以上を占める。仕事への満足は人によって大きく異なり、主観的な生活の質のかなりの部分を占めているとみられる。Wrzesniewski, McCauley, Rozin & Schwartz (1997) は、こうした違いを理解するには、人が自分の仕事をどう経験しているかという主観の側を理解する必要があると考えた。

着想の源は、社会学者 Bellah らの『心の習慣』(1985) だった。Bellah らは、人と仕事の関係には、仕事(ジョブ)、キャリア、天職(コーリング)という三つがあると論じた。Wrzesniewski et al. (1997) は、この区別を心理学の研究に持ち込み、人は本当にこの三つで自分の仕事を捉えているのか、それは職業の違いで説明できるのか、満足や健康とどう関係するのか、を問うた。

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主張とメカニズム

Wrzesniewski et al. (1997) は、三つの関係を次のように説明した。仕事(ジョブ)として働く人は、仕事から得られる物質的な利益にしか関心がない。仕事はそれ自体が目的ではなく、仕事の外の時間を楽しむための資源を得る手段であり、その人の主な関心や野心は仕事を通じては表れない。キャリアとして働く人は、仕事により深く個人的に打ち込み、お金だけでなく、職業の中での昇進によって達成を測る。天職(コーリング)として働く人にとって、仕事は人生と切り離せない。金銭や昇進のためではなく、その仕事をすること自体がもたらす充実感のために働く。

「天職」という言葉は、もともと宗教的な文脈で使われ、神に「召されて」道徳的・社会的に意味のある仕事をすることを指した。著者らによれば、現代の用法では宗教との結びつきが薄れても、天職と感じられる仕事は、社会的に価値があり、それ自体が目的となるものとみなされることが多い。ただし、それが楽しいとは限らない。

この区別の重要な主張は、三つの関係が職業によって決まるわけではないという点である。教師のように天職と感じる人が多そうな職業はあっても、販売員や事務職の人が自分の仕事を天職と感じることもありうる。著者らは、医師、看護師、プログラマー、事務職など幅広い職種の従業員196人に、ジョブ、キャリア、天職を表す三つの短い文章を示し、それぞれが自分にどれほど当てはまるかを尋ねた。質問票には、職務満足を尋ねる質問を除いて、「ジョブ」「キャリア」「天職」という言葉は使わなかった。一つの文章を最も当てはまると答えた135人は、ジョブ44人、キャリア43人、天職48人と、ほぼ均等に分かれた。同じ職場の事務補佐職24人に絞っても、9人、7人、8人に分かれた。

天職と答えた人は、ほかの二つの人たちより、生活への満足と仕事への満足が高く、仕事を休んだ日数が少なかった。自己評価による健康には差がなかった。また、ジョブと天職の当てはまり具合は強い負の関係にあった(r = −.52)が、キャリアはどちらとも関係がなかった。著者らはここから、ジョブと天職は「充実としての仕事」か「退屈な必要としての仕事」かという一本の軸の両端にあり、昇進を重視するキャリアはそれとは別の軸だと考えた。

その後、天職の定義は研究者によってまちまちになった。Dobrow & Tosti-Kharas (2011) は、天職を「ある領域に対して人が経験する、没頭させる、意味のある情熱」と定義し直した。この定義では、天職は「ある・ない」の二択ではなく、弱いものから強いものまでの程度の問題である。また、天職が向けられる領域は仕事に限らず、ボランティア活動、家族、「社会正義」のような抽象的な概念でもよい。米国の高校生向け夏期音楽講座の参加者を7年間追った調査では、最初の天職の感覚と6週間後との相関は .83 と高かったが、7年後との相関は .38 にとどまった。著者らは、天職は安定した特性のようなものではなく、時間とともに変わりうる状態として捉えるべきだと結論した。

03

身近な例

同じ病院の受付で働く三人がいるとしよう。一人は「家族を養うための仕事で、宝くじが当たったら辞める」と言い、金曜日を待ちわびている。もう一人は「ここで経験を積んで、数年後には事務長を目指す」と考えている。三人目は「患者さんが最初に会うのは自分たち。不安を和らげるのが自分の役目だ」と感じている。

職務記述書は三人とも同じだが、仕事との向き合い方がそれぞれ違う。仕事への満足や、仕事を休む日数にも違いが出てくるかもしれない。

04

主要概念

仕事志向(job orientation)
仕事を、主に物質的な利益を得て仕事の外の生活を支える手段とみる向き合い方。
キャリア志向(career orientation)
金銭だけでなく、職業の中での昇進によって達成を測る向き合い方。
天職志向(calling orientation)
仕事を人生と切り離せないものとみなし、その仕事をすること自体がもたらす充実感のために働く向き合い方。
天職(calling)
Dobrow & Tosti-Kharas (2011) の定義では、ある領域に対して人が経験する、没頭させる、意味のある情熱。程度の問題であり、時間とともに変わりうる。
05

代表的な展開研究

  • Wrzesniewski, A., McCauley, C., Rozin, P., & Schwartz, B. (1997). Jobs, careers, and callings: People's relations to their work. Journal of Research in Personality. DOI ↗Bellah らの区別を心理学の研究に持ち込み、2つの職場の従業員196人の調査から、多くの人が自分の仕事をジョブ、キャリア、天職のいずれかとしてはっきり捉えていること、天職と捉える人ほど生活と仕事への満足が高いことを示した。
  • Dobrow, S. R., & Tosti-Kharas, J. (2011). Calling: The development of a scale measure. Personnel Psychology. DOI ↗音楽、芸術、経営学の学生、管理職の4つの標本、1,500人のデータから、天職を測る12項目の尺度を開発した。7年間の追跡から、天職の感覚が時間とともに変わることを示した。
06

批判と境界条件

Dobrow & Tosti-Kharas (2011) によれば、天職の研究には定義についての合意がない。天職は、仕事への向き合い方(Wrzesniewski et al., 1997)とも、仕事そのものとも、社会の分業の中で自分が占めるべき場所とも、外から呼びかけられて特定の道に引き寄せられることとも定義されてきた。また、Wrzesniewski et al. (1997) の尺度は、因子分析を除けば、心理測定上の検証が示されていなかった。

Wrzesniewski et al. (1997) の調査は、2つの職場の196人に一度ずつ質問票に答えてもらった横断的な調査である。天職と答えた人は、収入、学歴、職業的地位も高かった。著者らは、同じ職種の事務補佐職24人でも同じような差が見られたことから、満足の差は収入や職業の違いだけでは説明できないと考えたが、この小さな集団の結果には示唆程度の価値しかないとも述べている。天職と答えた人が仕事を休む日数が少ないことが、健康の良さによるのか、仕事への意欲によるのかも区別できなかった。

Dobrow & Tosti-Kharas (2011) のデータもすべて自己報告で、因果関係は主張できないとしている。さらに、強い天職の感覚をもつ人は経営側に搾取されやすいおそれがある、という負の側面にも触れている。

研究上の位置づけ

原典Bellah, R. N., Madsen, R., Sullivan, W. M., Swidler, A., & Tipton, S. M. (1985)
Habits of the heart
分類Concept / theory
地図の区画組織行動
分析単位個人
理論系譜心理学 · 社会学
REFERENCES

出典

  • 原典Bellah, R. N., Madsen, R., Sullivan, W. M., Swidler, A., & Tipton, S. M. (1985). Habits of the heart. Harper & Row.

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