二要因理論(動機づけ-衛生理論)Two-Factor Theory
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一言で言うと仕事への満足をもたらす要因と不満をもたらす要因は別のものであり、満足は仕事そのものに関わる要因から、不満は仕事を取り巻く環境に関わる要因から生じる、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
給料を上げれば、人は仕事に満足し、やる気を出すのだろうか。満足と不満が一本のものさしの両端なら、不満の原因を取り除けば満足が生まれるはずである。本当にそうなのか。
主張とメカニズム
House & Wigdor (1967) の整理によれば、Herzberg, Mausner & Snyderman (1959) の中心的な主張は、仕事への満足をもたらす要因(満足要因)は仕事の内容に関わり、仕事への不満をもたらす要因(不満要因)は仕事の文脈、つまり仕事を取り巻く状況に関わる、というものである。二つは同じものさしの表と裏ではなく、別々の要因群だというのである。この主張は、技術者と会計士に、仕事についてとくに良いと感じたときと、とくに悪いと感じたときの出来事を思い出して語ってもらう調査(臨界事象法)から導かれた。
満足要因には、達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進が挙がった。これらは人の成長や自己実現と結びつき、仕事への意欲を高めるため「動機づけ要因」と呼ばれる。不満要因には、会社の方針と管理、監督、給与、対人関係、作業条件が挙がった。これらは医学の「衛生」になぞらえて「衛生要因」と呼ばれた。衛生が病気を予防するように、これらを整えれば不満は防げるが、積極的な満足や意欲を生むわけではない、という意味である。
Herzberg (1968) は、この理論を自ら「動機づけ-衛生理論」(motivation-hygiene theory)と呼んでいる。実務面では、Herzberg (1968) がこの理論をもとに、職場環境や給与の改善ではなく、仕事の内容に責任や達成の機会を組み込む「職務充実」(job enrichment)を説いた。
身近な例
たとえば、ある事務職の人の給料が上がったとしよう。この理論に従えば、不満は減るかもしれないが、それだけで仕事に熱心になるとは限らない。一方、自分の判断で進められる仕事を任され、それをやり遂げて認められた経験は、給料とは別の形で意欲を高めうる。
主要概念
- 動機づけ要因(motivators)
- 達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進など、仕事の内容に関わり満足と意欲をもたらす要因。
- 衛生要因(hygiene factors)
- 会社の方針、監督、給与、対人関係、作業条件など、仕事を取り巻く状況に関わり、不足すると不満を生む要因。
- 臨界事象法(critical incident method)
- 特に印象に残った具体的な出来事を思い出して語ってもらい、その内容を分析する調査方法。
- 職務充実(job enrichment)
- 仕事に責任や裁量、達成の機会を加えて、仕事そのものを意欲の源にしようとする設計の考え方。
代表的な展開研究
- House, R. J., & Wigdor, L. A. (1967). Herzberg's dual-factor theory of job satisfaction and motivation: A review of the evidence and a criticism. Personnel Psychology. DOI ↗二要因理論への批判と実証研究を検討した。Herzberg (1966) のデータを再分析して、達成と承認が不満の源としても多く挙げられることを示し、理論は満足と動機づけの関係を単純化しすぎていると結論した。
- Hackman, J. R., & Oldham, G. R. (1976). Motivation through the design of work: Test of a theory. Organizational Behavior and Human Performance. DOI ↗二要因理論について、主要な主張を実証的に支持できなかった研究があること、充実した仕事への反応の個人差を扱わないこと、既存の仕事で動機づけ要因の有無を測る方法を示さないことを問題として挙げ、仕事の特性と個人の特性の相互作用を扱う職務特性モデルを示して検証した。
批判と境界条件
House & Wigdor (1967, p. 371) の整理によれば、Vroom (1964) は、この結果が、とくに満足した出来事と不満だった出来事を語ってもらう臨界事象法に縛られていると論じた。人は満足の原因を自分の達成に帰し、不満の原因を自分の欠点ではなく会社の方針や監督といった職場の環境に帰しやすいのかもしれない、という説明である。House & Wigdor (1967, p. 372) はさらに、語られた出来事を分類するときに調査者の解釈が必要になり、調査者自身の仮説が分類に混じるおそれがあると指摘した。
House & Wigdor (1967, pp. 384–385) は、Herzberg (1966) が報告した6研究のデータを数え直し、達成と承認が不満の源としても多く挙げられることを示した。不満の出来事では、達成と承認は、作業条件や上司との関係よりも多く挙げられていた (p. 385)。また、ほかの方法による研究から、同じ要因がある人には満足を、別の人には不満をもたらしうることを挙げ、二要因理論は満足と動機づけの関係を単純化しすぎていると結論した (pp. 386–387)。
King (1970, pp. 18–19) は、提唱者が理論を明確に述べていないため、研究者ごとに違う理論を「二要因理論」と呼んできたと指摘し、五つの解釈を区別した。たとえば理論Iは、動機づけ要因は全体として不満より満足に多く寄与し、衛生要因はその逆だとする。理論Vは、満足を決めるのは動機づけ要因だけ、不満を決めるのは衛生要因だけだとする (p. 19)。評価の結果、理論IVとVを支持する実証研究はなかった (p. 24)。一つひとつの要因が予測どおりに働くとする理論IIIは、回答者自身が要因を分類した研究では支持されず、調査者の分類の偏りを映したものにすぎないとされた (p. 29)。理論IとIIは臨界事象法の研究では支持されたが、自己報告に頼らない方法で十分に検証されておらず、自己報告に伴う防衛的な偏りの産物である可能性が残るとされた (p. 29)。
Behling, Labovitz & Kosmo (1968, pp. 102–103) は、論争を双方の側から整理した。擁護側には、臨界事象法かそれに近い方法で二要因の区別を確かめた20件近い研究があり、批判側には、満足と不満を一本のものさしで捉える従来の見方を支持する証拠が多く集まっていた。Behling らの紹介によれば、Vroom の説明に対して Herzberg (1966) は、よく見られたい人はむしろ責任や成長の機会といった動機づけ要因の不足を嘆くものだと反論し、質問紙の回答は取り繕いやすいと批判側の方法を批判した (p. 106)。Behling らは、臨界事象法はほぼ例外なく二要因を支持し、より構造化された方法はほぼ一貫して一本のものさしの結果を出すという方法による結果の違いそのものが重要だと論じた (pp. 105–107)。そのうえで、仕事全体についての単一の態度としての「職務満足」が存在する証拠はないとした (p. 107)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Herzberg, F., Mausner, B., & Snyderman, B. B. (1959). The motivation to work. Wiley.
- King (1970). Clarification and evaluation of the two-factor theory of job satisfaction. Psychological Bulletin. ↗
- Behling, Labovitz & Kosmo (1968). The Herzberg controversy: A critical reappraisal. Academy of Management Journal. ↗
- Vroom (1964). Work and motivation. Wiley.
- Herzberg (1966). Work and the nature of man. World Publishing.
- Herzberg (1968). One more time: How do you motivate employees? Harvard Business Review, 46(1), 53–62.
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