期待理論Expectancy Theory
一言で言うと人がある行動をとる力は、その行動が望ましい結果につながるという見込み(期待)と、その結果の魅力(誘意性)の掛け合わせで決まる、とする理論。
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
同じ報酬が用意されていても、懸命に働く人とそうでない人がいる。人は何を考えて、努力するかどうかを決めているのか。
主張とメカニズム
Vroom (1964) は、期待(expectancy)を「ある行為の後に、ある結果が続くかどうかについての、その時点での本人の見込み」と定義し、これにあと二つの概念を加えて動機づけを説明した。誘意性(valence)は、ある結果に対する本人の好き嫌いの気持ち、つまりその結果がどれだけ魅力的かを指す。道具性(instrumentality)は、ある結果が、さらに別の結果をもたらす手段になると本人が考えている度合いである。
原典の中心となる命題は、「ある行為をとるよう人を押す力は、その行為から生じうるすべての結果の誘意性と、その行為がそれらの結果につながるという期待の強さとを掛け合わせ、足し合わせたものが大きいほど強まる」というものである。ある結果の誘意性そのものも、それが他の結果にどれだけ役立つか(道具性)と、その他の結果の誘意性によって決まる、とした。たとえば昇進はそれ自体より、給与や評価につながるから魅力的だ、と考えるわけである。どれか一つがゼロなら、その結果は行為を動かす力にならない。
ここで大事なのは、客観的な確率や価値ではなく、本人がどう認識しているかが問題になる点である。Vroom はまた、仕事の成果は能力と動機づけの両方に左右されるとした。後の研究では、Vroom の枠組みをもとに多くの変形モデルが作られ、検証されてきた(Van Eerde & Thierry, 1996)。
身近な例
たとえば、ある社員が資格試験の勉強をするかどうか迷っているとしよう。勉強すれば合格できそうだと思えるか(期待)。合格すれば昇給や希望の部署への異動につながると思えるか(道具性)。そして、その昇給や異動を本人が本当に望んでいるか(誘意性)。どれか一つでも「いいえ」なら、勉強への意欲は弱くなると考えられる。
主要概念
- 期待(expectancy)
- ある行為の後に、ある結果が続くだろうという本人の主観的な見込み。
- 誘意性(valence)
- ある結果に対して本人が感じる魅力や好ましさの度合い。
- 道具性(instrumentality)
- ある結果が別の結果を得るための手段になると本人が考えている度合い。
- 力(force)
- ある行為をとるよう人を押す動機づけの強さ。
代表的な展開研究
- Mitchell, T. R. (1974). Expectancy models of job satisfaction, occupational preference and effort: A theoretical, methodological, and empirical appraisal. Psychological Bulletin. DOI ↗職務満足、職業選択、努力を予測する期待理論の研究を、理論・方法・実証の面から評価した。
- Van Eerde, W., & Thierry, H. (1996). Vroom's expectancy models and work-related criteria: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology. DOI ↗Vroom のモデルと仕事上の成果・努力・選択などとの関係を、多数の研究のメタ分析で検討した。
批判と境界条件
Mitchell (1974) は、この理論はもともと一人の人が複数の選択肢の中から選ぶ過程を説明するものなのに、多くの検証研究は人と人を比べる形で行われている、という方法上の問題を指摘した。また、人がそこまで細かく損得を計算して行動するのかという点も論点になる。Van Eerde & Thierry (1996) のメタ分析では、期待理論の構成要素と仕事上の成果などとの関係は全体として中程度にとどまり、個人内で選択肢を比べる設計のほうが関係が強く現れる傾向が見られた。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Vroom, V. H. (1964). Work and motivation. Wiley.
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