理論・視点

期待理論Expectancy Theory

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

人がある行動をとる力は、その行動が望ましい結果につながるという見込み(期待)と、その結果の魅力(誘意性)を掛け合わせ、起こりうる結果について足し合わせたもので決まる、とする理論。

目次
説明したい問い人は、いくつかの行動の選択肢の中から、なぜその行動を選び、どれだけ努力するのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

人は何を考えて、いくつかの努力の水準の中から一つを選び、どれだけ努力するかを決めているのか。

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主張とメカニズム

Mitchell (1974) によれば、Vroom (1964) は期待(expectancy)を、ある行為の後に、ある結果が続くという確率についての本人の信念と定義した。期待は本人が認識した確率で、0から1の値をとる。Van Eerde & Thierry (1996) によれば、Vroom は誘意性(valence)を結果に対する感情的な向き全般と定義し、それは結果の重要さ、魅力、望ましさ、予想される満足などと解釈されてきた。誘意性は負の値もとりうる。道具性(instrumentality)は、ある結果が、さらに別の結果をもたらす手段になると本人が考えている度合いで、−1から+1の値をとる。期待が行為と結果の結びつきであるのに対し、道具性は結果と結果の結びつきである。

Mitchell (1974) によれば、Vroom は二つのモデルを示した。一つは力のモデルで、ある行為をとるよう人を押す力は、すべての結果について、その結果の誘意性と、その行為がその結果につながるという期待の強さとを掛け合わせ、足し合わせたものが大きいほど強まる、とする。もう一つは誘意性のモデルで、ある結果の誘意性そのものも、それが他の結果にどれだけ役立つか(道具性)と、その他の結果の誘意性とを掛け合わせ、足し合わせたものによって決まる、とする。このモデルによれば、たとえば仕事への満足は、その仕事が他の結果を得るのにどれだけ役立つかと、それらの結果の誘意性から生じる。行為がその結果につながると本人が思っていなければ、期待はゼロになり、掛け合わせた値もゼロになる。

ここで大事なのは、期待は本人が認識した確率、道具性は本人が認識した相関とされるように、本人がどう認識しているかが問題になる点である。Galbraith & Cummings (1967) によれば、Vroom (1964) は、仕事の成果を動機づけと能力を掛け合わせた関数として考えることができるとした。Mitchell (1974) によれば、この理論が予測するのは行動ではなく、行動に向かう力である。理論が行動を予測できるかどうかは、意図を実行できる度合いに一部左右される。Mitchell (1974) によれば、後の研究では、とくに努力のモデルに多くの修正が加えられた。検証に用いられた解釈や測り方、分析方法もさまざまであった(Van Eerde & Thierry, 1996)。

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身近な例

たとえば、ある社員が資格試験の勉強をするかどうか迷っているとしよう。勉強すれば合格できそうだと思えるか(期待)。合格すれば昇給や希望の部署への異動につながると思えるか(道具性)。そして、その昇給や異動を本人が本当に望んでいるか(誘意性)。どれか一つでも「いいえ」なら、勉強への意欲は弱くなると考えられる。

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主要概念

期待(expectancy)
ある行為の後に、ある結果が続くだろうという本人の主観的な見込み。
誘意性(valence)
ある結果に対する本人の肯定的または否定的な感情の向きで、その結果から予想される満足を指す。実際に得られる満足(価値)とは区別される。
道具性(instrumentality)
ある結果が別の結果を得るための手段になると本人が考えている度合い。
力(force)
ある行為をとるよう人を押す動機づけの強さ。
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代表的な展開研究

  • Mitchell, T. R. (1974). Expectancy models of job satisfaction, occupational preference and effort: A theoretical, methodological, and empirical appraisal. Psychological Bulletin. DOI ↗職務満足、職業の選好、努力を予測する期待理論の研究を、理論・方法・実証の面から評価した。誘意性のモデルのほうが、努力のモデルより支持が多いとした。
  • Van Eerde, W., & Thierry, H. (1996). Vroom's expectancy models and work-related criteria: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology. DOI ↗77件の研究をメタ分析した。Vroom のモデル(VIE)と業績との相関(重みづけしない平均)は r = .19 だった。全体として、モデルと仕事に関する基準との平均相関は、それまでの文献レビューで報告されていたよりやや低かった。要素を掛け合わせたモデルは、期待・道具性・誘意性の各要素より高い予測力を示さなかった。
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批判と境界条件

Mitchell (1974, p. 1056) によれば、Vroom の元の定式化は、一人の人が選択肢の中から選ぶ個人内のモデルだったが、努力のモデルをそのように検証した研究はまだなかった。努力を予測した研究には、理論が求める個人内の分析を用いたものが一つもなかった(Mitchell, 1974, p. 1060)。Van Eerde & Thierry (1996, p. 577) も、多くの研究が人と人を比べる不適切な方法を用いてきたと述べている。また多くの研究は、努力が業績につながるという一つの期待だけで努力を予測しているが、Vroom のモデルにそのような限定はない(Mitchell, 1974, p. 1074)。Mitchell (1974, p. 1075) は、Vroom の元の定式化を退ける前に、まず正しく検証すべきだとした。

測り方にも問題がある。Mitchell (1974, p. 1068) は、今の測り方は比率尺度(ゼロや比が意味をもつ尺度)でないため、要素の掛け算は数学的に正当化できないとした。また、誘意性で重みづけしない道具性も、重みづけしたものと同じくらいよく誘意性や努力を予測した(p. 1068)。Van Eerde & Thierry (1996, p. 581) のメタ分析でも、Vroom のモデルは要素そのものより高い相関を示さず、著者らは「モデルは妥当性を欠く」ことが示唆されるとした。ただし著者らは、元の理論から見て誤ったやり方で行われた研究が多いことも認めている(p. 581)。そのうえで、モデルではなく要素を使うことを勧めた(p. 582)。

Van Eerde & Thierry (1996, p. 581) では、モデルと仕事に関する基準との平均相関は、それまでの文献レビューでの報告よりやや低かった。相関が強かったのは、業績・努力・選択といった行動よりも、意図や選好といった態度のほうだった(p. 582)。著者らは、これは態度の自己報告の反応の偏りによるとも考えられるとした(p. 582)。一方で、三つの要素は行動ではなく認知に直接関係するはずなので、この結果は理論の妥当性を支持するともいえる、とも述べた(p. 582)。個人内で比べる設計の相関が人と人を比べる設計より有意に高かったのは、努力と選好を基準にした場合だけで、そのほとんどは三つの要素と同時に測った自己報告に基づいていた(p. 582)。

Mitchell (1974, p. 1074) はさらに、期待理論は、動機づけが意識的で、快を最大にする原理に基づくとはっきり述べる理論であり、多くの研究者はこの前提に疑問をもつだろうと述べた。期待理論を土台にしたパス・ゴール理論を振り返った House (1996) も、人は期待理論が想定するほど合理的でも計算高くもないことが分かってきた、と述べている。一方で Mitchell (1974, p. 1074) は、測定はかなり信頼でき、期待が行動の原因になるという推論にもある程度の支持があり、実証結果の全体的なパターンも理論を支持している、とも述べている。

研究上の位置づけ

原典Vroom, V. H. (1964)
Work and motivation
分類理論
地図の区画組織行動
分析単位個人
理論系譜認知 · 心理学
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。