理論・視点

限定合理性Bounded Rationality

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

人は合理的であろうとするが、情報も計算能力も時間も限られている。そのため最適解を探すのではなく、「これで十分」と思える案で満足して決める、とする考え方。

目次
説明したい問い能力や情報に限りのある人間は、どのように意思決定しているのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

経済学の標準的なモデルは、情報を集めて計算する大きな能力を持ち、最も良いものを選ぶ(最大化する)人間を想定してきた。現実の人間や組織は本当にそう決めているのか、そうでないならどう決めているのか、という問いである。

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主張とメカニズム

Simon (1955) は、人は最良の案を探して選ぶ(最適化)のではなく、「満足できる(satisfactory)」案を探して決めるというモデルを示した。翌年の Simon (1956) は、生物は一般に「最適化する(optimize)」のではなく「満足化する(satisfice)」のだと述べ、この考え方を「満足化(satisficing)」と呼んだ。あらかじめ「このくらいなら良い」という希求水準を持ち、選択肢を順に調べ、水準を満たすものが見つかった時点で探索をやめる。

希求水準は経験によって上下する。満足できる案が簡単に見つかると水準が上がり、なかなか見つからないと下がる。Simon (1955) は、古典的な完全な合理性を仮定すると、企業などの組織の内部構造の問題はほとんど消えてしまうと指摘した。知識と能力に限りのある人間を想定すると、その人が現実を単純化することで生じるずれが、組織行動の多くの現象を説明するという。

03

身近な例

引っ越し先を探すとき、すべての物件を比べる人はいない。「駅から10分以内、家賃8万円以下」を満たす物件が出てきたら、そこで決めることが多い。Simon (1955) 自身も、家を売る人が「これ以上なら満足」という価格を決め、順に届く買い手の申し出を受けるかどうか決める例を挙げている。

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主要概念

満足化(satisficing)
最良ではなく、あらかじめ決めた基準を満たす最初の選択肢を採ること。
希求水準(aspiration level)
「これなら満足」とする目標の水準。経験によって調整される。
探索(search)
選択肢や情報を探す活動。時間がかかり、満足できるものが見つかった時点で打ち切られる。
05

代表的な展開研究

  • Simon, H. A. (1956). Rational choice and the structure of the environment. Psychological Review. DOI ↗どのような単純な選び方で足りるかは、生物の側の特徴だけでなく環境の構造にもよると論じた。目標の地点がまれに散らばる環境なら、効用関数を仮定しなくても、単純な仕組みで「満足化」する道を選んで生き延びられることを、迷路のような環境を探す生物のモデルで示した。
  • Gigerenzer, G., & Goldstein, D. G. (1996). Reasoning the fast and frugal way: Models of bounded rationality. Psychological Review. DOI ↗一つのよい理由だけに頼る単純なヒューリスティクスが、重回帰分析より高い予測精度を出しうることを示した研究の一つである(Gigerenzer & Gaissmaier, 2011 の整理)。
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批判と境界条件

Simon (1955) 自身が、このモデルの限界を認めている。選択肢をどの順番で調べるかを説明する理論がないため、満足できる最初の案を選ぶとしても、どの案が選ばれるかを予測するのは難しい場合があると述べた (p. 111)。ただし、家を売る人のように、環境が決まった順番で選択肢を示す場合には、最初に満足できた案を選ぶという規則の意味ははっきりしている、とも書いている (p. 111)。

希求水準の決まり方も、この論文では十分に詰められていない。Simon (1955) は、求める成果を最大にする代わりに一定の水準を超えればよいとする手続きが実用上十分なのは、最低限求める成果を「ほどよく」設定できる場合だとした (p. 108)。水準の動き方についても、満足できる案が見つけやすければ上がり、見つけにくければ下がるという「あいまいな原則」を示すにとどまる (p. 111)。モデルの仮定は日常の大まかな観察にもとづいて選ばれ、人が実際にどの程度、どんな状況でこうした単純化を使うかを確かめる作業は、この論文では行われていない (p. 104)。より動的な状況を現実的に扱うには、まだ多くの課題が残るとも述べている (p. 114)。

その後、限定合理性をめぐる評価は分かれた。Kahneman (2003) は、Simon (1955) などが提案した限定合理性の考えを受けて、自分たちの研究を、人々の判断や選択を合理的なモデルが想定する最適な判断から隔てる系統的なバイアスを調べ、「限定合理性の地図」を得ようとしたものと位置づけた (p. 1449)。同時に、直感的な思考が強力で正確でもありうることも認めている (p. 1450)。これに対して Gigerenzer & Gaissmaier (2011) は、このバイアス研究は合理的なモデルの条件が成り立つことを前提にしていると指摘し、Simon (1989) は、条件が満たされないときに人がどう推論するのかという根本的に異なる問いを立てたと論じた (p. 452)。彼らによれば、ヒューリスティクスはそれ自体よい・悪いものではなく、その正確さは環境の構造によって決まる (p. 474)。

予測に使えるかどうかは、ヒューリスティクス研究の中でも論点になっている。Gigerenzer & Gaissmaier (2011) は、利用可能性ヒューリスティックが独立した測定なしに後から持ち出された例を挙げ (p. 458)、「代表性」のような一般的なラベルはほとんど何も予測できないと論じた (p. 459)。そのうえで、ヒューリスティクスを探索・停止・決定のルールとして定式化すれば、予測を検証し、他のモデルと比べられるとした (pp. 455–456)。彼らの整理では、Simon (1955) の満足化も、希求水準を超えた最初の案で探索をやめ、その案を選ぶルールとして表される (p. 456)。

研究上の位置づけ

原典Simon, H. A. (1955)
A behavioral model of rational choice
分類概念
地図の区画組織・意思決定
分析単位個人 · 組織
理論系譜行動論 · 認知
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。