理論・視点

制度ロジックInstitutional Logics

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

社会や業界で共有された前提・価値・ルールのパターン(制度ロジック)が、組織で何が正当とされ、何に注意が向き、どんな解決策が適切とされるかを方向づけるという視点。Thornton & Ocasio (1999) は、米国の高等教育出版業界で編集ロジックから市場ロジックへの移行が起こり、それに伴って経営者の交代を左右する要因が入れ替わったことを示した。

目次
説明したい問い組織の中で何が権力の源泉となり、いつ経営者が交代するかは、その時代・その業界で優勢な「当たり前」によってどう変わるのか。
01

中核的な問い

組織の中の権力は、何から生まれるのか。経営者交代についての従来の研究は、CEOの人間関係、取締役会の構成、経営陣の政治的な駆け引きなど、組織内部の力学に注目してきた。これに対して制度的なアプローチは、組織内の利害や権力、政治が、より広い環境で優勢な制度ロジックによって形づくられると考える。

Thornton & Ocasio (1999) は、権力の源泉やその意味、その帰結が、その時代・その業界で優勢なロジックによって変わるのではないかと問うた。経営者交代を左右する政治的な要因そのものが、歴史的な文脈に条件づけられているという考えは、それまでほとんど検討されていなかった。

02

主張とメカニズム

Thornton & Ocasio (1999) は、制度ロジックを「社会的に構築された、歴史的な、物質的実践・前提・価値・信念・ルールのパターン」と定義した。人々はこのパターンによって生計を立て、時間と空間を組織し、自分たちの社会的現実に意味を与える。ロジックは物質的であると同時に象徴的でもある。それは、意思決定者を導き、同時に縛る、行為・相互作用・解釈のルールを与える。これらのルールは多くの場合暗黙のもので、組織の現実をどう解釈するか、何が適切な行動か、どうすれば成功するかを示す。

著者らは Friedland & Alford (1991) に従い、市場、国家、企業、専門職、宗教、家族という社会の主要な制度が、しばしば互いに矛盾するロジックを与え、それが政治的な対立の土台になると考える。そのうえで、ロジックが働くもう一つのレベルとして「業界」を加えた。同じ製品市場の企業は、資源と地位をめぐって互いを比べ合う中で、共通のアイデンティティと評価の序列を育てるからである。

業界のロジックが経営者の権力を形づくる仕組みとして、著者らは三つを挙げる。第一に、どの権力の源泉が正当かを決める。役職などの地位、人と人との関係、資本市場や資源競争といった経済的な要因のうち、どれが権力の根拠とみなされるかは、ロジックのルールによる。第二に、何に注意を向けるかを決める。経営者は環境のすべてに注意を払えない。そのため、どの問題が組織内の政治的な争いで重要になるかを、ロジックが左右する。第三に、どの解決策が使えて適切かを決める。経営者の交代そのものを、業績の問題への妥当な解決策とみなすかどうかも、ロジック次第である。

実証の舞台は、1958〜1990年の米国の高等教育出版業界である。インタビューと歴史資料から、著者らは二つの理念型を描いた。1960年代から70年代初めに優勢だった「編集ロジック」では、出版は専門職であり、正統性は個人の評判と階層上の地位から生まれ、注意は著者と編集者のネットワークに向けられた。1970年代半ば以降の「市場ロジック」では、出版はビジネスであり、正統性は市場での地位と業績の順位から生まれ、注意は資源競争と買収による成長に向けられた。無作為に選んだ230の出版組織を分析すると、編集ロジックの時期には、インプリント(編集者が築く出版ブランド)の数や、事業部・子会社の長であることが交代率を高めていた。市場ロジックの時期には、代わって買収されたことと資源競争が交代率を高めていた。

注目すべきは、資源競争の水準そのものは1960年代初めのほうが高かったのに、その時期には交代に影響しなかった点である。著者らはこれを、経済的な力に注意が向くかどうかは、競争の水準ではなく、市場ロジックが優勢かどうかによると解釈した。業界レベルの構造的・経済的な変化を統制しても、結果は残った。著者らは、ロジックは経済や社会構造の変化に還元できず、意思決定者の注意を方向づけることで働くと結論した。

03

身近な例

たとえば、長く編集者出身の社長が率いてきた、小さな専門書の出版社があるとしよう。この会社では、良い著者を抱え、評判の高いシリーズを育てることが社長の仕事だと考えられている。同業者が増えて競争が激しくなっても、それを理由に社長を替えようという声は出ない。

ところが、この会社が大きな企業グループに買収され、毎年の利益と市場シェアの伸びを求められるようになったとしよう。すると、同じ競争の激化が「社長の責任」として注目されるようになり、社長の交代が妥当な手段とみなされるようになる。起きている出来事が同じでも、どのロジックが優勢かによって、何が問題とされ、何が解決策とされるかが変わるのである。

04

主要概念

制度ロジック(institutional logic)
社会的に構築された、歴史的な、物質的実践・前提・価値・信念・ルールのパターン。人々はこれによって生計を立て、時間と空間を組織し、社会的現実に意味を与える。
編集ロジック(editorial logic)
Thornton & Ocasio が描いた理念型の一つ。出版を専門職とみなし、個人の評判と階層上の地位を正統性の源とし、著者と編集者のネットワーク、内部での成長に注意を向ける。
市場ロジック(market logic)
もう一つの理念型。出版をビジネスとみなし、市場での地位と業績の順位を正統性の源とし、資源競争、買収による成長、販売経路の構築に注意を向ける。交代のルールは企業支配権の市場によって形づくられる。
地位的・関係的・経済的な決定要因(positional, relational, and economic determinants)
権力の源泉の三つの区分。地位的は創業者や事業部長といった役職に備わるもの、関係的は組織内外の人や集団の関係の構造から生じるもの、経済的は資本市場へのアクセス、資源競争、収益性、企業支配権の市場など製品市場での成果にかかわるもの。
05

批判と境界条件

Thornton & Ocasio (1999) 自身が、いくつかの限界を認めている。第一に、制度ロジックはどれか一つの変数で直接測ることはできないとし、時期による効果の違いと歴史分析を組み合わせて推論している。第二に、サンプルの約4分の3が非公開企業であるため、交代の重要な要因である企業業績のデータが得られなかった。資源競争についての結果も、このために偏りを含みうると述べている。第三に、六つの仮説のうち二つ(創業者の効果と、公開・非公開の効果)では、時期による違いを確認できなかった。著者らはこれを、権力の源泉の中には歴史的に変わりにくいものがあることを示す、理論の適用範囲の限界だとしている。

また、時期の区切りを1972〜1983年のどこに置いても、二つの時期の違いは統計的に有意なまま残った。これはロジックが徐々に入れ替わった可能性を示すが、著者らは、変化が不連続か漸進的かを判定することは分析の目的ではないとしている。さらに、この業界での具体的な結果が他の業界に当てはまるとは限らないとし、専門職ロジックから市場ロジックへの移行を経験した医療などの業界での検証を、今後の課題に挙げている。

McPherson & Sauder (2013, p. 167) によれば、Thornton & Ocasio (1999) をはじめ、支配的なロジックが入れ替わったフィールドを調べた研究は、フィールド内の行為者もそれに合わせて行動を変えることを含意している。その背後には、個人は所属集団で支配的なロジックに厳密に従うという、制度理論の通念的な仮定がある (p. 167)。これに対して彼らは、ロジックを、行為者が決定に影響を与え、活動を正当化し、変化を訴えるために使う道具として捉えることを提案した (p. 167)。ドラッグコート(薬物使用に関連する違反に通常とは別の司法手続きを提供する裁判所)を15か月観察した研究では、チームの会議で検討された460件のうち、刑罰、更生、地域への説明責任、効率という四つのロジックが持ち出されたのは107件だった (pp. 169, 172, 175)。同じロジックが逆向きの主張にも使われ、更生のロジックは35回は制裁を軽くする主張に、14回は重くする主張に使われた (p. 179)。

中心的な専門職によるロジックの使用183回のうち、90回は自分の職業以外のロジックを借りる「乗っ取り(hijacking)」で、判事の決定に影響した割合は、乗っ取りでは87%、自分の職業のロジックでは73%だった (p. 180)。著者らは、行為者は自分の職業のロジックを一貫して好むものの、職業背景は、どんな主張をどのロジックで行うかをまったく決めないと結論した (p. 180)。また、エスノグラフィーによる事例研究には限界があり、他者のロジックが使われる理由と、ロジックの使用を制約する要因についての答えは暫定的なものだと認めている (pp. 182, 186)。

研究の進め方そのものについては、Lounsbury et al. (2021, pp. 261, 263) によれば、制度ロジック研究への批判の核心には、近年の研究がロジックを物象化している(固定した「モノ」として扱っている)という懸念がある。彼らは、問題はロジックという概念そのものではなく、研究者がロジックをもっぱら他の現象を説明するための変数として使い、それ自体を複雑な現象として調べてこなかったことにあるとする (p. 263)。そして、ロジックがどうまとまり、持続するかを研究の焦点にすべきだと論じ、その手本に Thornton & Ocasio (1999) の編集ロジックの研究を挙げた (pp. 266–267)。

研究上の位置づけ

原典Thornton, P. H., & Ocasio, W. (1999)
Institutional logics and the historical contingency of power in organizations: Executive succession in the higher education publishing industry, 1958–1990
分類理論的視点
分析単位個人 · 組織 · コミュニティ
理論系譜制度論 · 社会学
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。