資源オーケストレーションResource Orchestration
別名リソース・オーケストレーション、資源マネジメント
一言で言うと資源を持つだけでは競争優位は生まれず、経営者が資源ポートフォリオを構造化し、資源を束ねてケイパビリティを築き、それを市場で活用し、しかもそれらを同期させて初めて価値が生まれる、という枠組み。Sirmon, Hitt & Ireland (2007) の資源マネジメントと、ダイナミック・ケイパビリティ研究の資産オーケストレーションを、Sirmon et al. (2011) が統合し、企業の範囲、成熟段階、管理階層による違いへ広げた。
中核的な問い
価値があり、希少で、模倣も代替もされにくい資源が競争優位をもたらす。資源ベース理論のこの中核の論理は、数十年の実証研究で支持されてきた(Sirmon, Hitt, Ireland, & Gilbert, 2011)。それでも Sirmon et al. (2011) は、この理論で最も未発達なのは経営者の役割だと述べる。経営者の人的資本のことではなく、経営者が始め、監督する資源に関わるプロセスや行動のことである。彼らによれば、Priem & Butler (2001) はすでに、既存研究が資源の一般的な特性に偏り、資源が「どのように」使われて競争優位を生むのかを明らかにしていないと批判していた。
Sirmon, Hitt, & Ireland (2007) も、価値があり希少な資源を持つだけでは競争優位や価値創造は保証されないのに、資源を「どのように」価値に変えるのかを説明する理論はほとんどないと指摘した。似た資源を持ち、似た環境に置かれた企業でも、資源マネジメントの過程が違えば成果は違いうる。彼らはこのブラックボックスの中をのぞくことを目指した。問いは、資源を持つことと成果の間で、経営者は何をしているのか、である。
主張とメカニズム
Sirmon et al. (2007) は資源マネジメントを、企業の資源ポートフォリオを構造化し、資源を束ねてケイパビリティを築き、そのケイパビリティを活用する包括的なプロセスと定義し、その目的を顧客と所有者のための価値の創造と維持に置いた。資源ポートフォリオとは企業が支配する有形・無形の資源の総和で、ある時点で生みうる価値の上限を決める。三つの構成要素には、それぞれ三つの下位プロセスがある。構造化は、戦略的要素市場から資源を購入する「取得」、資源を社内で育てる「蓄積」、企業が支配する資源を手放す「処分」からなる。
束ね合わせは、既存のケイパビリティに小さな漸進的改善を加える「安定化」、現在のケイパビリティを、技能を最新に保つ以上に拡張する「拡充」、競争状況に対応する新しいケイパビリティを生み出す「開拓」からなる。活用は、市場の機会を生かすのに必要なケイパビリティを見定めて組み合わせを設計する「動員」、それらを効果的かつ効率的な組み合わせに統合する「調整」、その組み合わせを選んだ活用戦略のために実際に使う「展開」からなる。活用戦略には、資源優位戦略、市場機会戦略、企業家的戦略がある(Sirmon et al., 2007)。
このプロセスは、資源がなければ束ねられず、ケイパビリティがなければ活用できないという意味で、少なくとも部分的には順序をもつ。ただしモデルにはフィードバックのループがあり、環境との適合と同期のために絶えず調整される(Sirmon et al., 2007)。各プロセスの効果は、産業構造の変化、需要の不安定さ、環境ショックから生じる不確実性と、重要な資源の豊富さを表す環境の寛容性(munificence)に左右される。命題によれば、不確実性が高いときは、多様な将来の機会に優先的に近づけるリアル・オプションとしての取得と蓄積が価値を高め、処分は価値を損ないうる。寛容性が低いほど社内での蓄積が重要になり、処分には一層の慎重さが要る。同じく不確実性が高いとき、束ね合わせでは拡充と開拓が求められ、安定化は最適な価値を生みにくい。活用では、資源優位戦略は短期にしか価値を生まず、連続的な変化では市場機会戦略が一連の一時的な優位を生み、非連続な大変化では企業家的戦略が必要になる。価値創造を最大にするには構成要素の同期が要る。
Sirmon et al. (2011) によれば、同じ時期に Helfat et al. (2007) は、ダイナミック・ケイパビリティ研究から資産オーケストレーションの枠組みを示していた。資産の特定と投資、組織・ガバナンス構造や事業モデルの設計を含む「探索・選択」と、共特化した資産の調整、ビジョンの提示、イノベーションの育成を含む「構成・展開」からなる。処分、展開戦略、束ね合わせの類型は資源マネジメントにしかなく、事業モデル、組織・ガバナンス構造、イノベーションは資産オーケストレーションにしかない。この補完性から両者を統合したものが資源オーケストレーションである。さらに彼らは、企業の範囲である幅、管理階層である深さ、成熟段階であるライフサイクルによって、資源の扱い方が変わると論じた。
幅について、関連多角化で相乗効果を得るには、事業部をまたぐ連絡役の部署や職位を設けて共同の意思決定と信頼を促し、取得・蓄積した資源の共有と拡充・開拓を可能にする必要がある(Sirmon et al., 2011)。差別化には高い資源投資と高度なサービスを提供する活用戦略の同期が、コスト・リーダーシップには効率を生む資源への投資と他の資源への投資の抑制が求められる。競争が激しい市場では拡充と開拓が要り、穏やかな市場では安定化や拡充と資源優位戦略で足りることもあるが、いずれ開拓が必要になる。ライフサイクルでは、創業期は取り消せない形で資源を固めない構造化、成長期は弱みを補う拡充や外注していた機能を内部化する開拓、成熟期は探索と活用の両立、衰退期は強みまで失わない慎重な処分と残る資源の賢明な投資が中心になる。各段階では一つか二つの行動が際立つ。
深さについて、Sirmon et al. (2011) は、2007年の枠組みも資産オーケストレーションも、どの階層の経営者に当てはまるかを特定していなかったと認める。階層があると伝わる情報の質が劣化するので、階層をまたぐ同期は想定以上に難しい。Floyd & Lane (2000) を借りて三階層の企業を考えると、トップダウンではトップが大規模な構造化と展開戦略を指揮し、束ね合わせはミドルに委ねられる。同期は高く効率的だが探索の価値は下がる。ボトムアップではミドルに権限が委ねられ、規模は小さいが革新の効率は上がる。双方向では多くの人がプロセスを始められるため同期が最も難しく、縦と横の情報を仲介するミドル・マネジャーが同期の鍵になる。
実証の一つが Ndofor, Sirmon, & He (2011) である。体外診断用物質の製造業の上場企業のうち特許をもつ69社を1995〜1999年に追い、239の企業・年の観測を得た。資源は特許が USPTO の分類にどれだけ広く分布するかで測った技術資源の幅、競争行動は新聞・業界誌の記事を新製品投入、ライセンス、法的措置などに分類して測った。行動の多様さである「複雑性」と業界平均からの隔たりである「逸脱」を媒介変数とし、成果は翌年、3年分、5年分の ROA とした。技術資源の幅は成果と両方の行動を高め、行動は資源の幅を統制しても成果を高めた。3年分と5年分では間接効果が有意で、効果の比率0.12〜0.28の部分媒介だった。翌年の成果では間接効果は有意でなかった。
身近な例
地方のスーパーのチェーンが、本部にデータ分析の専門職を中途採用し、店舗では長年勤めるパートの担当者が売り場の感覚を蓄えている。分析結果は本部の会議資料にとどまり、売り場の発注は変わらない。そこでエリアの店長会議を任された課長が、分析担当と売り場担当を組ませて天候と地域行事から発注量を決める新しい手順を試し、うまくいった店の例を本部に上げた。本部はそれを全店に広げるか、惣菜の新業態に使うかを決める。採用(取得)、人材の育成(蓄積)、組み合わせ(束ね合わせ)、使う場の決定(活用)を分けて見ると、課長が階層をまたぐ同期の要だったことが分かる。
関連理論との違い
資源ベース・ビューが資源の特性に注目するのに対し、この枠組みは資源を扱う経営者の行動に注目し、資源ベース理論を拡張するものと位置づけられる(Sirmon et al., 2011)。資源マネジメントは資源ベース理論に、資産オーケストレーションはダイナミック・ケイパビリティに依拠する。ダイナミック・ケイパビリティは資源ベース理論と結びつけられてきたので、両者は間接的につながる。また Ndofor et al. (2011) によれば、競争行動を扱う競争ダイナミクス研究は、資源を流動的な財務資源で統制する程度にとどまってきた。資源ベース理論は行動を、競争ダイナミクスは資源を軽視してきたので、両者を結ぶ媒介モデルが要るという。
主要概念
- 資源マネジメント(resource management)
- 企業の資源ポートフォリオを構造化し、資源を束ねてケイパビリティを築き、そのケイパビリティを活用する包括的なプロセス。顧客と所有者のための価値の創造と維持を目的とする(Sirmon et al., 2007)。
- 資源オーケストレーション(resource orchestration)
- 資源マネジメントと資産オーケストレーションの枠組みを統合したもので、経営者が資源に基づく競争優位にどう影響するかに焦点を当てる(Sirmon et al., 2011)。
- 資産オーケストレーション(asset orchestration)
- Sirmon et al. (2011) によれば、Helfat et al. (2007) がダイナミック・ケイパビリティ研究から示した枠組み。資産の特定・投資・組織とガバナンス構造と事業モデルの設計を含む「探索・選択」と、共特化した資産の調整・ビジョンの提示・イノベーションの育成を含む「構成・展開」からなる。
- 資源ポートフォリオ(resource portfolio)
- 企業が支配するすべての有形・無形の資源の総和。ある時点で企業が生みうる価値の上限を定める(Sirmon et al., 2007)。
- 構造化(structuring)
- 資源ポートフォリオのマネジメント。戦略的要素市場から資源を購入する取得(acquiring)、社内で資源を開発する蓄積(accumulating)、企業が支配する資源を手放す処分(divesting)からなる(Sirmon et al., 2007)。
- 束ね合わせ(bundling)
- 資源を組み合わせてケイパビリティを築いたり変えたりすること。既存のケイパビリティに小さな漸進的改善を加える安定化(stabilizing)、現在のケイパビリティを技能を最新に保つ以上に拡張する拡充(enriching)、競争状況に対応する新しいケイパビリティを生み出す開拓(pioneering)からなる(Sirmon et al., 2007)。
- 活用(leveraging)
- ケイパビリティを使って顧客への価値と所有者の富を生むこと。必要なケイパビリティを見定める動員(mobilizing)、それらを効果的かつ効率的な組み合わせに統合する調整(coordinating)、組み合わせを選んだ活用戦略のために実際に使う展開(deploying)からなる(Sirmon et al., 2007)。
- 活用戦略(leveraging strategies)
- 卓越した能力が優位をもつ市場との適合を図る資源優位戦略、既存市場に隣接することが多い市場機会を生かす市場機会戦略、新しい市場を必要とする新製品・サービスを生む企業家的戦略の三つ(Sirmon et al., 2007)。
- 環境の寛容性(environmental munificence)
- ある環境で活動する企業に必要な重要資源の乏しさ・豊かさ。寛容性が低い環境では資源を必要なときに得にくいため、資源マネジメントの重要性が高まる(Sirmon et al., 2007)。
- 同期(synchronization)
- 構造化・束ね合わせ・活用とその下位プロセスを互いにかみ合わせること。各構成要素は個別にも重要だが、価値創造を最大にするには同期が要る(Sirmon et al., 2007; Sirmon et al., 2011)。
- 幅・深さ・ライフサイクル(breadth, depth, life cycle)
- 資源オーケストレーションを広げる三つの観点。幅は企業の範囲(企業戦略・事業戦略・競争ダイナミクス)、深さは管理階層、ライフサイクルは創業・成長・成熟・衰退の段階を指す(Sirmon et al., 2011)。
- 競争行動の複雑性と逸脱(competitive complexity / deviance)
- 複雑性は、どれか一つの行動に偏らず多様な行動をとる程度。逸脱は、行動の組み合わせが業界の標準から大きく外れる程度(Ndofor et al., 2011)。
代表的な展開研究
- Sirmon, D. G., Hitt, M. A., & Ireland, R. D. (2007). Managing firm resources in dynamic environments to create value: Looking inside the black box. Academy of Management Review. DOI ↗資源マネジメントを構造化・束ね合わせ・活用と九つの下位プロセスに分け、フィードバックのループをもつ過程としてモデル化した。RBV にコンティンジェンシー理論と組織学習の理論を組み合わせ、環境の不確実性と寛容性が各プロセスの効果をどう変えるかについて命題を示した。
- Ndofor, H. A., Sirmon, D. G., & He, X. (2011). Firm resources, competitive actions and performance: Investigating a mediated model with evidence from the in-vitro diagnostics industry. Strategic Management Journal. DOI ↗体外診断用物質の製造業の69社(239の企業・年)で、特許の分類の幅で測った技術資源の幅が、競争行動の複雑性と逸脱を通じて ROA を高めることを示した。媒介は3年分と5年分の成果で有意な部分媒介だった。資源マネジメント研究の、行動が資源と成果の関係を媒介するという未検証の前提を検証したと位置づける。
- Kraaijenbrink, J., Spender, J.-C., & Groen, A. J. (2010). The resource-based view: A review and assessment of its critiques. Journal of Management. DOI ↗RBV への批判を八つに整理し、五つには耐えられるが、資源と価値の概念の不確定さと、競争優位の説明の狭さに関わる三つは深刻だと評価した。資源の保有と展開のプロセスを区別したプロセス研究を求めた。Sirmon et al. (2011) はこの論文を引いて、経営者の役割を資源ベース理論の最も未発達な要素とした。
批判と境界条件
Kraaijenbrink, Spender, & Groen (2010) は、RBV への批判を八つに整理して評価した。資源オーケストレーションはこの論文を引いて、経営者の役割の未発達に応えるものとして自らを位置づけている(Sirmon et al., 2011, p. 1391)。八つのうち「RBV には経営上の含意がない」、つまり VRIN の資源を得よと言うだけで方法には沈黙し、経営者が資源を統制し将来価値を予測できる程度を誇張しているという批判を、Kraaijenbrink et al. は、RBV はもともと処方箋を意図していないとして深刻とは見なさなかった(pp. 351–352)。より深刻とされたのは、資源の保有だけでは足りず展開できてこそ優位が得られるのに、展開のケイパビリティにも VRIN/O の論理を当てはめると、展開についての理論が欠けたままになるという批判である(p. 355)。
彼らは、RBV が個々の資源の保有を強調しすぎ、資源の束ね合わせや、価値の評価と創造への人の関与を十分に認めていないと結論した(Kraaijenbrink et al., 2010, p. 359)。資源の価値が不確定で理論が同語反復になるという批判も解消されていない(pp. 356–358)。さらに、ケイパビリティ論でも資源の開発や展開のプロセスが「能力」として概念化され、統合や適用より保有の観点で考えがちになるとし、能力と行為を区別したプロセス研究を求めた(pp. 360–361)。
原典の著者ら自身も限界を認める。Sirmon et al. (2007) は、命題は実証的に検証されるべきで、束ね合わせと活用にははるかに多くの実証研究が必要だとし(p. 289)、競争優位を築いても利害関係者がレントを取り込みうるので所有者の富になるとは限らないとした(p. 288)。Sirmon et al. (2011) は、目的は新しい理論ではなく既存の理論に厚みを加えることだとし(p. 1407)、開発と検証が北米中心だったこと(p. 1396)、深さの議論が多角化していない三階層の企業に限った単純化であること(p. 1404)を認めた。
Ndofor et al. (2011, p. 654) は、資源と行動を年単位に集約したため行動のタイミングを扱えないこと、外から見える競争行動だけを測り、資金配分のような社内の経営行動は捉えていないこと、資源から行動、成果への一方向だけをモデル化したが実際にはフィードバックがあること、技術資源と技術主導の単一産業に限られることを挙げた。
研究上の位置づけ
Resource orchestration to create competitive advantage: Breadth, depth, and life cycle effects
出典
- 原典Sirmon, D. G., Hitt, M. A., Ireland, R. D., & Gilbert, B. A. (2011). Resource orchestration to create competitive advantage: Breadth, depth, and life cycle effects. Journal of Management. DOI ↗
- Sirmon, D. G., Hitt, M. A., Ireland, R. D., & Gilbert, B. A. (2011). Resource orchestration to create competitive advantage: Breadth, depth, and life cycle effects. Journal of Management. ↗
- Sirmon, D. G., Hitt, M. A., & Ireland, R. D. (2007). Managing firm resources in dynamic environments to create value: Looking inside the black box. Academy of Management Review. ↗
- Ndofor, H. A., Sirmon, D. G., & He, X. (2011). Firm resources, competitive actions and performance: Investigating a mediated model with evidence from the in-vitro diagnostics industry. Strategic Management Journal. ↗
- Kraaijenbrink, J., Spender, J.-C., & Groen, A. J. (2010). The resource-based view: A review and assessment of its critiques. Journal of Management. ↗
- Helfat, C. E., Finkelstein, S., Mitchell, W., Peteraf, M., Singh, H., Teece, D., & Winter, S. G. (2007). Dynamic capabilities: Understanding strategic change in organizations. Blackwell.
- Priem, R. L., & Butler, J. E. (2001). Is the resource-based view a useful perspective for strategic management research? Academy of Management Review. ↗
- Floyd, S. W., & Lane, P. J. (2000). Strategizing throughout the organization: Managing role conflict in strategic renewal. Academy of Management Review. ↗
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