コア・コンピタンスCore Competence
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと企業の競争力の根っこは、個々の製品や事業ではなく、複数の事業にまたがって生かせる技術やスキルの束にある。企業はそれを軸に事業を組み立てるべきだ、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
多くの事業を抱える大企業は、事業ごとに独立した単位(戦略事業単位)として管理されることが多い。しかし事業をばらばらに扱うと、全社で共有できる強みが見えにくくなる。企業全体の競争力の源泉は何か。
主張とメカニズム
Prahalad & Hamel (1990) は、企業を一本の木にたとえた。最終製品は木の葉にすぎず、栄養と支えと安定をもたらす根がコア・コンピタンスである(Scarbrough, 1998 の引用による)。コア・コンピタンスとは、組織の集合的な学習であり、とくに多様な生産のスキルをどう調整し、複数の技術の流れをどう統合するかについての学習である。
コア・コンピタンスには三つの目安がある。幅広い市場への入り口となること、顧客が感じる価値に大きく貢献すること、競合が真似しにくいことである。企業は、コア・コンピタンスを物理的に具体化した部品や組み立て部品(コア製品)を多くの事業に展開し、新しい市場を切り開く。そのため、人材や技術を事業部の中に囲い込まず、全社の資源として配分することが重要だとした。
身近な例
精密機械や光学の技術を持つ企業が、カメラだけでなく、複写機や医療機器、半導体製造装置へと事業を広げていく。製品は違っても、根にある技術は共通している。逆に、目先の収益のために中核部品の開発を外部に任せ続けると、将来の事業の芽を失うおそれがある。
主要概念
- コア・コンピタンス(core competence)
- 複数の事業に生かせる、組織的に蓄積された技術やスキルの組み合わせ。
- コア製品(core product)
- コア・コンピタンスを具体的な形にした部品や中間製品。多くの最終製品に組み込まれる。
- 戦略事業単位(strategic business unit, SBU)
- 独立した事業として計画・管理される組織の単位。
- 集合的学習(collective learning)
- 個人ではなく組織全体として、知識やスキルを積み重ねていくこと。
代表的な展開研究
- Leonard-Barton, D. (1992). Core capabilities and core rigidities: A paradox in managing new product development. Strategic Management Journal. DOI ↗中核的な能力が新製品開発を助けると同時に妨げることを示し、その裏面をコア・リジディティ(中核的硬直性)と呼んだ。
- Markides, C. C., & Williamson, P. J. (1994). Related diversification, core competences and corporate performance. Strategic Management Journal. DOI ↗関連多角化の長期的な利点は、市場が近いことそのものより、真似も代替も売買もしにくく、特定の市場での優位を支える資産(戦略的資産)を、競合より速く安く築き、増やせることにあると論じた。1981年の Fortune 500 から無作為に選んだ多角化企業164社を分析し、顧客・流通・生産工程の面で必要な資産が似た市場を組み合わせている企業ほど、売上高利益率が高い傾向を見いだした。この指標は、従来の関連・非関連の分類よりも利益率の違いをよく説明し、関連多角化企業だけ(109社)で見ても同じ傾向があった。ただし、指標は業界ごとの特徴から資産の近さを間接的に測ったものである。
批判と境界条件
Leonard-Barton (1992) は、Prahalad & Hamel (1990) のコア・コンピタンスを、企業を戦略的に際立たせる能力の呼び名の一つとして挙げたうえで、こうした中核的な能力は新製品開発を助けると同時に妨げると論じた(pp. 111–112)。5社20件の開発プロジェクトの事例から、過去に会社を支えてきた技能、技術システム、管理システム、価値観が、別のプロジェクトには不適切な知識の集まり、つまりコア・リジディティ(中核的硬直性)として働くことを示した(p. 118)。硬直性は、既存の能力に沿ったプロジェクトにも影響しうる(p. 118)。この四つの次元のうち最も変えにくいのは価値観だという(p. 121)。一方で、プロジェクトは硬直性を浮かび上がらせ、新しい能力を持ち込むことで、組織の変化の道を開くとも述べている(p. 122)。なお、事例は例示のためのデータとされ、各社の伝統的な中核能力は企業側の合意による判断で選ばれている(pp. 111, 125)。
Scarbrough (1998) は、組織論の立場からこの枠組みを検討した。多くの論者は資源やコンピタンスの中身をほとんど説明せず、企業の成果や業績から帰納的に見つけ出しているという(p. 223)。原因をたどれる具体的な仕組みを示さない限り、業績が企業内部の知識や学習から生まれるという主張は証明も反証もできない(p. 224)。学習は硬直性や過度の専門化をもたらすこともあり、コンピタンスが罠に変わりうる。理論家と違って後知恵を使えない経営者が、どの学習が長く続くコンピタンスを生むのかを前もって見分けられるのか、と問うている(p. 224)。
さらに Scarbrough は、この枠組みが、トップが組織の知識を把握し操れるという前提に立っていると批判した(pp. 225, 229)。暗黙的で埋め込まれた知識は一か所に集められないので、トップが全体を正確に把握できるかは疑わしい(p. 225)。コンピタンスをより自覚的に扱おうとすると、それを生む実践の共同体をかえって損なうおそれもある(p. 226)。また、従業員の知識を企業のものにする主な手段は雇用関係であり、そこに入り込む権力関係は資源ベースの議論ではほとんど論じられていないという(p. 227)。
ただし Scarbrough も、資源ベースの理論は産業組織論の新古典派的な前提より説得力のある組織観をもたらしたと評価している。とくにコア・コンピタンスの考え方は、人、技能、技術の複雑な相互作用が業績を動かすことを認め、学習と経路依存性の重要性を扱っているという(p. 229)。上の問いについても、答えられないわけではないが、経営者が使える知識と実務での有用性について重要な懸念を生むと述べている(p. 224)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Prahalad, C. K., & Hamel, G. (1990). The core competence of the corporation. Harvard Business Review.
- Scarbrough (1998). Path(ological) dependency? Core competencies from an organizational perspective. British Journal of Management. ↗
本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。