ダイナミック・ケイパビリティDynamic Capabilities
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと環境が速く変わる中で競争優位を保つには、今ある資源を持つだけでは足りない。社内外の資源を組み合わせ直し、作り変える能力が重要だ、とする理論。
目次
中核的な問い
資源ベース理論は、優れた資源を持つ企業が有利だと説明した。しかし技術や市場が急に変わると、かつての強みがかえって足かせになることがある。変化に合わせて強みを作り変える力は、どこから来るのか。
主張とメカニズム
Teece, Pisano & Shuen (1997) は、ダイナミック・ケイパビリティを、変化の速い環境に合わせて、社内外の能力をまとめ上げ、新たに育て、組み替える力として捉えた。後の研究の整理では、ふだんの業務をこなす通常の能力に働きかけ、それを変える、一段上の能力とされる(Arend & Bromiley, 2009)。
彼らは、この能力を三つの要素で捉えた。組織のプロセス(仕事の進め方や学習の仕組み)、ポジション(技術や顧客などの現在の資産)、経路(その企業がこれまでたどってきた道筋と、今後選べる道)である。Helfat & Peteraf (2009) の整理によれば、過去の経路が現在のポジションをつくり、プロセスがそのポジションを変えて、新しいポジションと経路につながる。Teece, Pisano & Shuen (1997) によれば、これまでの投資やルーティンの蓄積(その企業の「歴史」)が、企業の将来の行動を縛る(経路依存性)。能力は市場で買えないので自社で築くほかなく、暗黙的で互いにかみ合ったルーティンに支えられているため、他社が真似するのも難しい。
身近な例
フィルムカメラ向けの化学技術を持つ企業が、写真市場の縮小を受けて、その技術を化粧品や医薬品の分野に振り向けるような例が、ダイナミック・ケイパビリティの説明によく用いられる。既存の技術を新しい事業に組み替える力が問われている。
主要概念
- ケイパビリティ(capability)
- 資源を組み合わせて特定の活動を行う組織の能力。
- 経路依存性(path dependence)
- 過去の選択や蓄積が、将来選べる道を制約すること。
- 再構成(reconfiguration)
- 環境の変化に合わせて、資源や組織の仕組みを組み替えること。
- 組織ルーティン(organizational routine)
- 組織の中で繰り返される、決まった行動のパターン。
代表的な展開研究
- Eisenhardt, K. M., & Martin, J. A. (2000). Dynamic capabilities: What are they?. Strategic Management Journal. DOI ↗ダイナミック・ケイパビリティを、製品開発や提携などの具体的な組織プロセスとして捉え直した。効果的なプロセスには企業をまたいだ共通点があるため、それ自体は持続的な競争優位の源泉になりにくいと論じた。
- Teece, D. J. (2007). Explicating dynamic capabilities: The nature and microfoundations of (sustainable) enterprise performance. Strategic Management Journal. DOI ↗機会の感知、機会の捕捉、資源の再構成という三つの働きに整理した。
批判と境界条件
ダイナミック・ケイパビリティは「ルーティンを学ぶためのルーティン」のような曖昧な言葉で語られることが多く、同義反復的で操作化できないと批判されてきた(Eisenhardt & Martin, 2000, p. 1107 の整理による)。Eisenhardt & Martin (2000) はこれに対し、ダイナミック・ケイパビリティを、製品開発、戦略的意思決定、提携のような特定の識別できるプロセスとして定義し直した。業績から逆算して能力を認定するのではなく、資源を組み替える働きによって定義すれば、業績とは独立に価値を定められ、反証もできるようになるとした(p. 1108)。さらに、効果的なプロセスには企業をまたいだ共通点(いわゆるベスト・プラクティス)があるので、それ自体は競争優位の源泉にはなりえても、持続的な競争優位の源泉にはなりにくいと論じた(p. 1110)。
Arend & Bromiley (2009) は、この見方に四つの問題があると論じた。吸収能力や組織学習など既存の概念に何を付け加えるのかがはっきりしないこと、一貫した理論的基盤がないこと、実証的な裏づけが弱いこと、実務への示唆が不明確なことである(pp. 75–76)。うまく変化した企業を見て「変化する能力があった」と認定するなら、同義反復に陥る(pp. 78–79, 83)。また、変化しなかったからといって能力がないとは言えないので、定義を工夫しても測定の問題は解決しない(p. 80)。実証研究を調べると、縦断データを使ったものは2割、観察数が10未満のものが3割強あり、否定的な結果を報告したものは5%しかなかった。使われている指標も研究ごとにばらばらで、同じ概念を測っているのか疑わしい(pp. 84–86)。そのうえで、早く理論的な基盤を築けないなら、この見方から離れるべきだと述べた(p. 87)。
これに対し Helfat & Peteraf (2009) は、指摘された弱点は発展の初期段階にある研究領域に特有のものであり、放棄するという結論は早すぎると反論した(pp. 91–92)。この概念は進化経済学や企業の行動理論に根ざしており、組織論から孤立しているわけではないという(pp. 92–93)。能力を業績で定義すべきでないという点には同意し、能力がその働きをどれだけうまく果たすか(技術的適合度)と、それが企業の存続や成長にどれだけ役立つか(進化的適合度)を分けて測ることで、能力と業績の結びつきが同義反復になるのを避けられるとした(pp. 97–98)。一方で彼らも、能力の構築や戦略的な変化には、ダイナミック・ケイパビリティが必ずしも必要ではないと認めている。その場しのぎの問題解決のような別の仕組みもあるからである(p. 99)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Teece, D. J., Pisano, G., & Shuen, A. (1997). Dynamic capabilities and strategic management. Strategic Management Journal. DOI ↗
- Arend & Bromiley (2009). Assessing the dynamic capabilities view: Spare change, everyone? Strategic Organization. ↗
- Helfat & Peteraf (2009). Understanding dynamic capabilities: Progress along a developmental path. Strategic Organization. ↗
本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。