両利きの経営(組織の両利き)Organizational Ambidexterity
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと既存事業を磨く力と、新しい事業を切り開く力を、一つの組織の中で同時に持つこと。そのために、異なる文化を持つ部門を分けつつ、トップが統合する、といった仕組みが必要だとする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
成功している企業ほど、既存事業に最適化され、新しい技術や市場への対応が遅れがちである。既存事業を捨てずに、新しい事業も育てるにはどうすればよいのか。
主張とメカニズム
Tushman & O'Reilly (1996) は、「両利き」を、漸進的なイノベーションと非連続的なイノベーションの両方を同時に追求する能力とし、この能力は、互いに矛盾する複数の構造・プロセス・文化を一つの企業の中に抱えることから生まれると述べた。例に挙げられた企業では、小さく自律した事業単位がそれぞれの事業に合った下位文化と報酬の仕組みを持ちつつ、広く共有された企業文化が全体をまとめていた。Raisch & Birkinshaw (2008) の整理によれば、O'Reilly & Tushman (2004) が描いた両利きの組織では、対照的な部門どうしが物理的にも文化的にも分けられ、別々の報酬制度と経営チームを持つ。部門をまたぐ統合は、上級経営陣による調整と、広く共有された企業文化によって実現される。
その後、Gibson & Birkinshaw (2004) は「文脈的両利き」を提示した。これは、事業単位全体で、今の事業に足並みをそろえること(整合)と、変化に適応することを同時に行う行動上の能力である。部門を二つに分ける代わりに、一人ひとりが二つの要求の間で時間をどう配分するかを自分で判断できるような環境(文脈)をつくる (Raisch & Birkinshaw, 2008)。Raisch & Birkinshaw (2008) の整理によれば、組織の中で両利きを実現する方法として、研究は主に、部門を分けて二つの活動を行う構造的な方法(構造的両利き)、同じ部門の中で二つの活動を行う文脈的な方法、トップ経営陣が二つの活動の間の緊張を調整するリーダーシップによる方法、の三つに注目してきた。
Gupta, Smith & Shalley (2006) は、探索と活用のバランスを取る主な仕組みとして、ゆるく結びついた別々の部門や人が両方を同時に追う両利きと、時期を分けて交互に行う断続平衡を対比した。一つの領域の中では両者は両立しにくいため交互に行うしかなく、ゆるく結びついた複数の領域にまたがる場合には両利きが適しているとした。また、Benner & Tushman (2003) を引いて、部分どうしがかたく結びついたシステムでは両利きは現実的な選択肢にならないと述べている。
身近な例
ある製造業の大企業が、社内に新規事業の専門組織を立ち上げ、本社とは異なる評価基準や意思決定の速さを認める。一方で、既存事業の販売網や技術を新規事業に使えるよう、社長直轄で調整する。
主要概念
- 構造的両利き
- 探索と活用を別々の部門に分け、トップで統合する方法。
- 文脈的両利き
- 一つの事業単位の中で、整合(今の事業に足並みをそろえること)と適応を同時に行えるよう、一人ひとりが時間の配分を自分で判断できる環境をつくる方法。
- 連続的両利き
- 時期によって探索と活用を切り替える方法。ただし Raisch & Birkinshaw (2008) は、同時には一方しか行わないため、これを組織の両利きには含めていない。
代表的な展開研究
- He, Z.-L., & Wong, P.-K. (2004). Exploration vs. exploitation: An empirical test of the ambidexterity hypothesis. Organization Science. DOI ↗製造業206社のデータで、探索的イノベーション戦略と活用的イノベーション戦略の相互作用が売上成長率と正の関係にあり、両者の不均衡が負の関係にあることを示した。
- Gibson, C. B., & Birkinshaw, J. (2004). The antecedents, consequences, and mediating role of organizational ambidexterity. Academy of Management Journal. DOI ↗「文脈的両利き」を提示した。41の事業単位の4,195人のデータで、整合と適応を同時に行う能力が事業単位の業績と有意に関係することを示した。
- O'Reilly, C. A., & Tushman, M. L. (2013). Organizational ambidexterity: Past, present, and future. Academy of Management Perspectives. DOI ↗研究の展開と今後の課題を整理した。
- Gupta, A. K., Smith, K. G., & Shalley, C. E. (2006). The interplay between exploration and exploitation. Academy of Management Journal. DOI ↗探索と活用のバランスを取る仕組みとして、両利きと断続平衡を対比し、どちらが適するかは領域どうしの結びつき方で決まると論じた。
批判と境界条件
両利きの効果を確かめる方法そのものが、前提によって変わる。Gupta et al. (2006, p. 697) によれば、探索と活用を一本の軸の両端とみるなら、探索の度合いと業績の間に逆U字の関係があるかを調べるべきであり、独立した二つの軸とみるなら、両者の交互作用を調べるべきである。Raisch & Birkinshaw (2008, p. 400) は、業績の測り方にも注意を促す。売上成長のような一つの指標だけを使うと、両利きの貢献を偏って見積もるおそれがある。また、既存の研究は1〜3年の業績しか見ておらず、長期の成長や存続への貢献を小さく見積もっているかもしれない (p. 400)。
両利きが業績を高めるかを実際に確かめた研究は、まだ少ない (Raisch & Birkinshaw, 2008, p. 393)。He & Wong (2004) や Lubatkin et al. (2006) は業績との正の関係を見いだしたが、Venkatraman et al. (2007) はソフトウェア企業1,005社でこの仮説を支持する結果を得られず、むしろ探索と活用を時期によって切り替えることが業績を高めていた (p. 393)。著者たちは、証拠は「限られており、まちまち」だとまとめている (p. 393)。
効果は条件によっても変わりうる。Jansen et al. (2006) によれば、探索的なイノベーションは変化の激しい環境で、活用的なイノベーションは競争の激しい環境で、より業績に結びついていた (Raisch & Birkinshaw, 2008, p. 394)。また、資源の少ない企業には両方を同時に追う余裕がないかもしれず、Ebben & Johnson (2005) は、小さな企業では一方に絞った戦略のほうが有利でありうることを示した (p. 395)。
部門を分ける構造的な方法では、分けた部門どうしの調整と統合が大きな課題になる (Raisch & Birkinshaw, 2008, p. 397)。探索の部門は既存の技術や市場の知識を生かしにくくなりうるし (p. 397)、部門ごとの文化の違いは知識のやりとりや部門をまたぐ相乗効果を損ないうる (p. 403)。こうした課題に組織がどう対処しているかは、まだよく研究されていない (p. 397)。
研究上の位置づけ
Ambidextrous organizations: Managing evolutionary and revolutionary change
出典
- 原典Tushman, M. L., & O'Reilly, C. A. (1996). Ambidextrous organizations: Managing evolutionary and revolutionary change. California Management Review. DOI ↗
- Benner & Tushman (2003). Exploitation, exploration, and process management: The productivity dilemma revisited. Academy of Management Review. ↗
- Raisch & Birkinshaw (2008). Organizational ambidexterity: Antecedents, outcomes, and moderators. Journal of Management. ↗
- Lubatkin, Simsek, Ling & Veiga (2006). Ambidexterity and performance in small- to medium-sized firms: The pivotal role of top management team behavioral integration. Journal of Management. ↗
- Venkatraman, Lee & Iyer (2007). Strategic ambidexterity and sales growth: A longitudinal test in the software sector. Unpublished manuscript.
- Jansen, Van den Bosch & Volberda (2006). Exploratory innovation, exploitative innovation, and performance: Effects of organizational antecedents and environmental moderators. Management Science. ↗
- Ebben & Johnson (2005). Efficiency, flexibility, or both? Evidence linking strategy to performance in small firms. Strategic Management Journal. ↗
- O'Reilly & Tushman (2004). The ambidextrous organization. Harvard Business Review.
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