理論・視点

破壊的イノベーションDisruptive Innovation

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

優良な大企業は、主要顧客の声に応えて製品を改良し続けるからこそ、最初は性能が劣り安価な新技術を軽視し、やがてその技術を持つ新興企業に市場を奪われる、とする理論。

目次
説明したい問いよく経営されている業界のリーダー企業が、なぜ新しい技術の登場で地位を失うのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

業界のトップ企業は、資金も技術者も豊富に持っている。それでも、新しい技術が現れると新興企業に追い抜かれることがある。経営が下手だからではなく、むしろ「正しい」経営をしているから負けるのではないか。

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主張とメカニズム

Christensen & Bower (1996) は、ハードディスク業界の研究から、技術の変化を二つに分けた。持続的イノベーションは、確立した性能向上の軌道に沿って、既存の主流市場の顧客が重視する性能を高めていく改良である。破壊的イノベーション(1996年の論文でも1997年の書籍でも呼び名は「破壊的技術」で、のちに言い換えられた)は、確立した性能向上の軌道を乱したり、性能の意味を定義し直したりする技術である。主流市場の顧客が重視する性能では劣るが、小さい、軽い、単価が安いといった、新しく生まれる市場で評価される特性を持つ。

既存企業は、利益の大きい主要顧客の要望に応えて資源を配分する。破壊的な技術は当初、主要顧客には求められず、市場も小さく利益率も低い。そのため既存企業は投資を見送る。一方で、新興企業はその技術を周辺市場や新しい顧客層で育て、性能を少しずつ高める。やがて性能が主流市場の要求水準に届くと、安さなどの強みを持ったまま主流市場に入り込み、既存企業を追い落とす。

Christensen & Bower (1996) によれば、ハードディスク業界で破壊的技術の商業化に一定の成功を収めた既存企業3社のうち2社は、主流の組織から独立した組織を切り出していた。本体の中で取り組んだ企業は、Micropolis の5.25インチ製品への移行の一例を除いて失敗した。Control Data の管理者は、5万ドルの注文でも喜べる組織が必要だったと語っている。

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身近な例

家庭用ゲーム機の会社が画質や操作性を磨き続けるあいだに、スマートフォンの手軽なゲームが、ゲーム機を持たない人々の間で広がった。最初は「本格的なゲームではない」と見られていた点が、破壊的イノベーションの典型的な始まり方である。

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主要概念

持続的イノベーション(sustaining innovation)
既存の主要顧客が重視する性能を向上させる技術革新。
破壊的イノベーション(disruptive innovation)
主流市場の顧客が重視する性能では劣るが、小ささや単純さなど別の特性が評価される新しい市場で使われ始め、性能が高まると主流市場に入り込む技術革新。
性能の供給過剰(performance oversupply)
製品の性能向上が、多くの顧客が必要とする水準を上回ってしまう状態。そうなると顧客は、それまで二の次だった特性を重視するようになる。
バリュー・ネットワーク(value network)
部品をつくる企業、それを組み込む企業、最終的な利用者が入れ子状につながった取引の網の目。網の目ごとに、どの性能をどれだけ重視するかの順位が異なる。
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代表的な展開研究

  • Christensen, C. M., & Bower, J. L. (1996). Customer power, strategic investment, and the failure of leading firms. Strategic Management Journal. DOI ↗ハードディスク業界を対象に、既存企業は既存顧客が求める技術なら急進的なものでも開発を主導したが、当初は新しい市場でしか使えない単純な技術では、有力な顧客に向けた計画に資源が集まるために後れをとったことを示した。
  • Adner, R. (2002). When are technologies disruptive? A demand-based view of the emergence of competition. Strategic Management Journal. DOI ↗市場セグメント間の選好の関係を表す二つの概念として、選好の重なり(preference overlap:ある市場で評価される性能向上が、別の市場でどれだけ評価されるか)と選好の対称性(preference symmetry:その重なりが双方向で等しいか)を導入した。性能が顧客の要求を超えると改良への支払意思が下がることを組み込んだ形式モデルをシミュレーションで分析し、重なりが大きく非対称なときに、一方の技術が相手の市場を奪う破壊が起こることを示した。
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批判と境界条件

Danneels (2004, p. 250) は、Christensen が自説に合う事例を選んでいると批判されてきたこと(Cohan, 2000)を挙げ、取り上げられた事例はすべて成功した破壊的技術だと指摘した。どの技術が破壊的になるかを事前に予測するのは非常に難しいとも述べた(p. 251)。これに対し Christensen (2006, pp. 41–42) は、モデルは過去の事例から帰納的に導いたが、破壊的かどうかの定義は結果とは無関係に決まるとし、結果から後づけで破壊的と呼ぶのは誤りだと反論した。そして、Intel などが理論を使って事前に予測した例を挙げた(p. 46)。Christensen et al. (2018, p. 1052) は、理論を学んだ学生の予測が当たりやすくなったという実験を紹介しつつ、標本が小さいなどの限界も認めている。

King & Baatartogtokh (2015, pp. 78–82) は、Christensen らが挙げた77の事例について専門家に聞き取りを行った。理論の四つの要素がすべて当てはまったのは7事例(9%)だけだった。既存企業が顧客の必要を超える性能を出していなかった事例が78%、既存企業が地位を奪われなかった事例が約3分の1あった。彼らは、この理論を予測ではなく警告として扱うべきだとした(p. 86)。同論文によれば、Christensen は、数量的な裏づけがないのは統計分析の尺度が粗いためだと応じている(p. 78)。Christensen et al. (2018, p. 1060) は、この研究を、理論の当てはまる範囲を定める必要を示したものと位置づけている。

既存企業が生き残る例も少なくない。Danneels (2004, p. 253) の整理によれば、King & Tucci (2002) はハードディスク業界で、経験の多い企業ほど新しい市場に参入し、退出しにくいことを見出した。Sood & Tellis (2011, p. 339) は7市場36技術を調べ、性能の劣る形で参入する技術は既存企業も新規参入者と同じくらい持ち込んでおり、旧技術より安いわけでもなく、企業を追い落とすことはまれだと報告した。ただし、新技術の価格が低いと破壊が起きやすい点は理論と一致した(p. 352)。Christensen (2006, p. 47) 自身も、理論で説明できない例(ジェットエンジンなど)があると認めている。一方、別組織を設けて地位を保った既存企業の例は、理論を精緻にする手がかりになったとされる(Christensen et al., 2018, p. 1049)。

Christensen は、初期の説明のあいまいさも認めている。破壊的技術と呼んでいた現象には、ローエンド型と新市場型という異なる二つが含まれていた(Christensen, 2006, p. 48)。また、問題は技術ではなくビジネスモデルにあるとして、「破壊的技術」を「破壊的イノベーション」と言い換えた(p. 49)。Christensen et al. (2018, p. 1044) は、理論の中心となる概念は今も広く誤解され、新しい脅威なら何でも「破壊」と呼ぶ言葉の乱用が起きていると述べる。どんな革新もそれ自体で破壊的なわけではなく、企業がどう位置づけるかによるという(p. 1050)。

研究上の位置づけ

原典Christensen, C. M. (1997)
The innovator's dilemma: When new technologies cause great firms to fail
分類理論
分析単位組織 · コミュニティ
理論系譜経済学 · 行動論
REFERENCES

出典

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