理論・視点

アーキテクチュラル・イノベーションArchitectural Innovation

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

製品の部品そのものはほとんど変えず、部品どうしのつなぎ方(アーキテクチャ)を組み替える革新は、既存企業が持つつなぎ方についての知識を役に立たなくし、しかもその知識は組織の仕組みに埋め込まれていて変化に気づきにくく直しにくいため、見かけ以上に既存企業を苦しめる、とする理論。

目次
説明したい問い小さな技術変化にすぎないように見える革新が、なぜ既存企業を失敗させるのか。

この理論で考えられる身近な疑問

01

中核的な問い

イノベーションは、よく「漸進的(小さな改良)」か「急進的(まったく新しい技術)」かで分けられてきた。しかし、既存企業は小さな変化に見える革新でつまずくことがある。この二分法では何が見落とされているのか。

02

主張とメカニズム

Henderson & Clark (1990) は、製品を作るのに必要な知識を二つに分けた。部品知識は、個々の部品の中心となる設計の考え方(コア・デザイン・コンセプト)と、それを部品としてどう形にするかについての知識である。アーキテクチャ知識は、部品をどう組み合わせ、どうつなぐかについての知識である。この二つの軸で、イノベーションを漸進的、モジュラー(部品だけが変わる)、アーキテクチュラル(つなぎ方だけが変わる)、急進的の四つに整理した。

製品の基本設計(ドミナント・デザイン)が定まってつなぎ方が安定すると、アーキテクチャ知識は、部署間のコミュニケーションの経路、重要な情報だけを拾う情報フィルター、技術者の問題解決の定石といった組織の仕組みの中に、目に見えない形で埋め込まれていく。そのため、つなぎ方が変わっても既存企業はその変化に気づきにくく、気づいても組織を作り直すのに時間がかかる。Henderson & Clark (1990) が調べた半導体露光装置の業界では、接触方式の装置で成功した Kasper 社は、キヤノンが出した近接方式の優れた装置を自社の評価基準で調べ、「自社機のコピーにすぎない」と判定して、その優れた点を見落とした。部品の技術は分かっているので「知っている技術だ」と過小評価しやすいことも、失敗の原因になる。

03

身近な例

同じ部品を使っていても、据え置き型の機器を持ち運べる小型機器に作り替えると、部品どうしの配置、熱の逃がし方、電池との関係などが大きく変わる。部品に詳しい大手が、小型機器の開発では新しい設計に慣れた後発企業に後れを取ることがあるのは、この理論で説明できる。ただし、ハードディスクの小型化を調べた Christensen & Rosenbloom (1995) は、既存企業の遅れは技術や組織の能力の差ではなく、小型化をまだ求めていなかった主要顧客に応えていたことによると論じている。

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主要概念

部品知識(component knowledge)
製品を構成する個々の部品や、その中心となる設計の考え方についての知識。
アーキテクチャ知識(architectural knowledge)
部品をどのように組み合わせ、連結して一つの製品にするかについての知識。
モジュラー・イノベーション(modular innovation)
部品の中心的な設計は変えるが、部品どうしのつなぎ方は変えない革新。
情報フィルター(information filter)
組織が長年のうちに身につけた、重要な情報を選び出し、それ以外を無視する習慣。
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代表的な展開研究

  • Sanchez, R., & Mahoney, J. T. (1996). Modularity, flexibility, and knowledge management in product and organization design. Strategic Management Journal. DOI ↗部品間の接続ルールを標準化したモジュール型の製品設計が、組織の設計や知識の管理にも影響することを論じた。
  • Tripsas, M., & Gavetti, G. (2000). Capabilities, cognition, and inertia: Evidence from digital imaging. Strategic Management Journal. DOI ↗インスタント写真のポラロイド社が、アナログからデジタル画像への移行にどう対応したかを事例として分析した。同社はデジタル画像の先端的な技術能力を築いていたのに、フィルムで利益を上げるビジネスモデルへの信念など、経営陣の認識が足かせとなって適応できなかったことを示した。
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批判と境界条件

Christensen & Rosenbloom (1995, pp. 234–235) は、Henderson & Clark (1990) の四分類を、技術の変化が既存企業の能力をどれだけ損なうかによって新規参入者の優位を説明する研究の一つとして位置づけた。そのうえで、技術の性格と組織の仕組みに加える第三の要因として、バリュー・ネットワークを挙げた(p. 234)。これは、企業が顧客のニーズを見つけて応え、部品や材料を調達し、競合に対応する文脈のことである(p. 234)。

ハードディスク業界の8インチ機への移行では、14インチ機のメーカーの3分の2が8インチ機を出さず、出したメーカーも参入企業より約2年遅れた(p. 245)。しかし、1981年に既存企業が出した8インチ機の性能は、参入企業のものとほぼ同じだった(p. 246)。そこで著者らは、新しいアーキテクチャが技術者の能力を壊したという Henderson & Clark (1990) の説明では、この失敗を説明できないとした(p. 245)。原因は、8インチ機を求めない主要顧客(大型コンピュータのメーカー)の声に応え続けたことによる、戦略的な投資の遅れだという(p. 246)。実際、自社のバリュー・ネットワークで評価される技術であれば、既存企業はアーキテクチャの革新でも開発を先導した(p. 253)。

ただし著者ら自身も、既存企業の新しいアーキテクチャの製品が参入企業のものより劣っていた Henderson (1988) の露光装置業界の研究とは、結果が大きく異なることを認めている(p. 246, 注5)。理由の一つとして挙げるのは、参入企業が持ち込んだ知識の違いである(p. 246, 注5)。露光装置業界の参入企業は他の市場で磨いた技術と経験を持ち込んだが、ハードディスク業界の参入企業の多くは、既存メーカーから独立した人々がつくった新興企業だった(p. 246, 注5)。

研究上の位置づけ

原典Henderson, R. M., & Clark, K. B. (1990)
Architectural innovation: The reconfiguration of existing product technologies and the failure of established firms
分類モデル・枠組み
分析単位組織
理論系譜認知 · 進化論
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。