理論・視点

知識ベース理論Knowledge-Based View of the Firm

別名KBV、ナレッジ・ベースト・ビュー、知識ベース・ビュー

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

企業にとって最も重要な資源は知識である。企業は、個人がばらばらに持つ専門知識を統合し、製品やサービスに変えるための仕組みだ、とする視点。

目次
説明したい問い知識を持つのは個人なのに、なぜ企業という組織がそれを活かす場として存在するのか。

この理論で考えられる身近な疑問

01

中核的な問い

資源ベース理論は、真似しにくい資源が持続的な競争優位を生むと考えた。その中でも特に重要なのは知識ではないか。そうだとすれば、企業はなぜ存在し、どのように組織されるべきか。

02

主張とメカニズム

Grant (1996) は、知識は個人の頭の中にあり、生産には多くの人の専門知識が必要だという点から出発した。人は専門化するほど深い知識を得るが、その分、他人の知識を学び尽くすことはできない。特に、言葉にしにくい暗黙知は、人から人へ移すのが難しい。

そこで企業の役割は、知識を移すことではなく、知識を統合することにあるとした。統合の仕組みとして、ルールや指示、作業の順序づけ、言葉で指示しなくても半ば自動的に進む行動のパターン(ルーティン)、集団での問題解決と意思決定が挙げられた。市場での取引よりも、企業の中の方がこうした統合を効率よく行える。これが企業の存在理由だと考えた。

03

身近な例

病院の手術チームでは、外科医、麻酔科医、看護師がそれぞれ異なる専門知識を持つ。互いの知識をすべて学ぶことはできないが、手順書や決まった段取りを通じて、一つの手術として知識を組み合わせている。

04

主要概念

暗黙知(tacit knowledge)
言葉や数字で表しにくく、経験を通じて身につく知識。
形式知(explicit knowledge)
文書や数式などで表現でき、伝えやすい知識。
知識の統合(knowledge integration)
異なる専門知識を組み合わせて、製品やサービスを生み出すこと。
組織ルーティン(organizational routine)
組織の中で繰り返される、決まった行動のパターン。
05

代表的な展開研究

  • Kogut, B., & Zander, U. (1992). Knowledge of the firm, combinative capabilities, and the replication of technology. Organization Science. DOI ↗企業を、個人と集団の専門知識を「高次の組織化原理」によって製品やサービスに変える社会的な共同体として捉えた(Foss, 1996 の引用で確認)。
  • Conner, K. R., & Prahalad, C. K. (1996). A resource-based theory of the firm: Knowledge versus opportunism. Organization Science. DOI ↗機会主義は起きない(人は正直にふるまう)と仮定したうえで、同じ人々が企業の中で協力するか、市場で契約するかによって仕事に生かされる知識が変わることから、企業がなぜ存在するのかを説明しようとした。企業の中では、従業員が経営者の指示に従うことで、経営者の知識を自分の判断の代わりに使える。また、仕事の途中で新しく分かったことに応じて役割を変える費用も、企業と市場とで異なる。機会主義にもとづく取引費用理論を否定せず、それを補う説明と位置づけ、企業の規模や範囲の問題は今後の課題とした。
06

批判と境界条件

知識ベースの企業理論には、企業が存在する理由を、取引費用理論のような機会主義(人が自己利益のために相手を出し抜くこと)の想定なしに説明できるか、という論争がある。Foss (1996) は、Kogut & Zander (1992) と Conner (1991) を取り上げ、共有された言語や文化のような「高次の組織化原理」がもたらす利点は、企業が存在するための必要な理由ではあっても、十分な理由ではないと批判した(pp. 471, 473)。機会主義がまったくなければ、人々は所有を分けたまま同じ工場に集まり、同じ原理を育てられるはずである。企業の中で共通の文化や規範がより多く育つ理由を説明するには、階層が機会主義を抑え、信頼や協力が生まれるという契約の論理が必要だという(pp. 473–474)。ただし Foss も、企業ごとに能力が大きく異なり、知識を伝えるのに費用がかかる場合には、知識の観点から企業の境界の一部を説明できると認めている(pp. 474–475)。

Kogut & Zander (1996) はこれに応答し、自己利益にもとづく誘因の問題が存在することは認めたうえで(p. 504)、人の動機は自己利益だけではないと論じた。企業の境界が知識の違いを生むのは、人々が企業という集団にアイデンティティを持ち、それによって調整や学習のルールが共有されるからだという(p. 503)。電子的につながった企業のネットワークは、通信の能力では企業の内部と変わらないので、通信の費用だけでは企業と市場の違いは説明できないとも述べた(p. 506)。同時に、アイデンティティには排除のルールが伴うため、技術的には可能な組み合わせや新しい探索の道が締め出されるコストもあると指摘した(pp. 502, 515–516)。なお彼ら自身、自分たちの議論は、ブルデュー、ギデンズ、ハーバーマスの社会学ほどには権力や行為に注意を払っていないと認めている(p. 516)。

研究上の位置づけ

原典Grant, R. M. (1996)
Toward a knowledge-based theory of the firm
分類理論的視点
分析単位組織 · 個人
理論系譜経済学 · 認知
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。