理論・視点

取引費用理論Transaction Cost Economics

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

取引には、計画を立て、状況の変化に合わせて調整し、約束どおりに実行されるかを見届けるためのコストがかかる。取引の性質に合わせて、このコストを節約できる統治の仕組み(市場か組織の内部か)を選ぶことで効率が実現する、とする理論。

目次
説明したい問いある活動は、なぜ市場で外部から買うのではなく、組織の内部で行われるのか。

この理論で考えられる身近な疑問

01

中核的な問い

Foss (1996) によれば、なぜ企業が存在するのか、企業の境界はどこで決まるのか、企業の内部をどう組織するのか、を企業理論の問いとする考え方は、Coase (1937) にさかのぼる。Williamson (1981) の整理では、Coase は企業の境界を与えられたものとせず、経済的に判断して決まるものとみなし、企業がいつ活動を自社に統合し、いつ市場に頼るのかを問うた。Williamson (1981) 自身も、どの活動を企業の内部で行い、どれを外部で行うのか、それはなぜかを問い、効率的な境界を定める基準を示そうとした。

02

主張とメカニズム

Williamson (1981) は、取引を分析の基本単位とし、取引費用の節約を理解することが組織の研究の中心だとした。取引費用は、機械でいえば摩擦にあたる経済上のものである。取引の当事者がうまく協調しているか、それとも誤解や対立がたびたび起きて遅れや破綻につながっているか、という問題である。取引費用の分析では、さまざまな統治の仕組みのもとで、仕事の完了を計画し、調整し、見届けるコストを比べる。

Williamson (1981) は、人間の行動について二つの仮定を置いた。人は限定合理性をもつことと、少なくとも一部の人は機会主義に走ることである。限定合理性のため、契約に関わるあらゆる点で複雑さに対処することはできず、不完全な契約が精一杯となる。機会主義とは、策略を伴う自己利益の追求である。人が限定合理的であっても完全に信頼できるなら、包括的な契約はなお可能だという。しかし、機会主義的な人とそうでない人を前もって見分けるには、非常に費用がかかる。

そのうえで、取引を三つの次元で捉えた。不確実性、取引が繰り返される頻度、そして、最も安く供給するために、その取引に特有の耐久的な投資がどれだけ必要か(資産特殊性)である。Williamson は、資産特殊性を、取引を記述する最も重要な次元であり、それまでの組織研究で最も見過ごされてきた属性だとした。資産特殊性は、立地、物的資産(部品を作るための専用の金型など)、人的資産(仕事をしながら身につく技能)の三つの形で生じる。Williamson (1991) はのちに、これにブランドの資本、特定の顧客の求めに応じて行う汎用設備への投資(専用資産)、その場ですぐに対応できることが決定的に重要になる時間の特殊性を加え、六つに分けている。いったん特殊な投資がなされると、売り手と買い手はその後かなりの期間、事実上二者だけの取引関係に置かれる。供給者はその取引に閉じ込められ、買い手もほかから有利な条件で調達できないため、同じように取引に縛られる。

資産が特殊でなければ、市場から買う方が、生産コストの面でも統治コストの面でも有利である。資産が特殊になるほど取引は二者間の性格を強め、市場で取引を統治するコストがかさむため、内部での調達が外部からの調達に取って代わる。不確実性を中程度とすれば、資産が特殊でないときは古典的な市場での契約、ある程度特殊なときは二者間の継続的な契約、非常に特殊なときは組織の内部が選ばれる。企業には、共通の所有のもとで部分最適に走る誘因が弱まる、命令で意見の違いを解決できる、紛争の解決に必要な情報を得やすい、という三つの利点がある。こうして、取引の性質に合わせて統治の仕組みを選ぶことで取引費用を節約する、というのがこの理論の考え方である。この考え方は、企業と市場の境界だけでなく、雇用関係の設計を含む企業内部の取引の組織にも当てはまるとした。

Klein, Crawford, & Alchian (1978) は、General Motors と Fisher Body の関係を詳しく調べている。1919年までに、自動車の車体づくりは、木製が中心の屋根のない車体から、専用のプレス機が重要になる金属製の箱型(クローズド)の車体へと移り始めていた。そこで GM は1919年、箱型の車体の供給について Fisher Body と10年契約を結び、箱型の車体をほぼすべて Fisher から買うと約束した。この排他的な取引の条項は、Fisher が特殊な投資をした後で GM が値下げを迫るおそれを小さくしたが、逆に Fisher が独占的な価格を求める余地を生んだ。そのため契約は、価格を費用(投下資本の利子を含めない)に17.6%を上乗せした額とし、他の自動車メーカーに同様の車体を売る価格や、他社の同様の車体の平均市場価格を上回らないこと、価格をめぐる争いは強制仲裁で解決することを定めた。しかしその後、自動車の需要が大きく伸び、箱型の車体への移行も進んだ。GM は、資本あたりの車体の生産量が大きく増えたのに、価格が高すぎると不満を持った。元の契約には、資本の費用を価格に反映させる条項がなかったためである。さらに Fisher は、GM が生産の効率に必要だとした、車体工場を GM の組立工場の隣に置くことを拒んだ。それは Fisher にとって非常に特殊な投資になるものだった。1924年までに GM はこの契約関係を耐えがたいと考えるようになり、Fisher の残りの株式を買い取る交渉を始め、1926年に合併が合意された。なお GM は1919年の契約と同時に Fisher の株式の60%を取得していたが、その後の経緯が示すように、経営の実権は Fisher 兄弟が握り続けていたという。Williamson (1981) もこの事例を取り上げ、GM の車は独自の車体デザインをもつため、車体の生産には取引に特有の大きな投資が必要だったとし、長期契約から共通の所有への移行は、取引費用の節約の議論と一致するとした。

03

身近な例

自動車メーカーが、その車種専用の金型を必要とする部品を、部品メーカーとの長期の取引で調達したり、内製化したりするのは、専用の投資をめぐる駆け引きを避けるためと説明できる。ただし、専用の金型を自動車メーカー自身が持ち、部品メーカーに貸し出す形なら、もめたときには金型を引き上げて別の業者に頼めるので、市場から買い続けることもできる。汎用のネジは、市場で最も安いところから買えばよい。

04

主要概念

資産特殊性(asset specificity)
特定の取引相手のために行われ、他に転用しにくい投資の程度。
機会主義(opportunism)
策略を伴う自己利益の追求。
ホールドアップ(hold-up)
特殊な投資をした後で、取引相手が約束を破って値下げや値上げを迫り、その投資の価値のうち、ほかの相手と取引した場合の価値を上回る部分(専有されうる準レント)を奪い取ろうとする問題。Klein, Crawford, & Alchian (1978) は、これを契約後の機会主義的な行動として分析し、Goldberg (1976) が規制の文脈で「ホールドアップ」問題と呼んだものを、別の文脈で論じていると述べた。
統治構造(governance structure)
取引を組織し、管理する仕組み。企業と市場が代表的で、その間に二者間の継続的な契約などがある。
05

代表的な展開研究

  • Coase, R. H. (1937). The nature of the firm. Economica. DOI ↗Williamson (1981) によれば、企業の境界を与えられたものとせず、企業がいつ活動を統合し、いつ市場に頼るのかを、経済的に判断すべき問いとして示した。
  • Monteverde, K., & Teece, D. J. (1982). Supplier switching costs and vertical integration in the automobile industry. Bell Journal of Economics. DOI ↗General Motors と Ford の1976年時点の自動車部品133品目について、部品の開発に要する技術者の労力(取引に特有の技能の代理指標)が大きいほど、また特定の自動車メーカー専用の部品であるほど、その部品を社内で生産する(必要量の80%以上を内製する)可能性が高いことを示した。
  • Williamson, O. E. (1991). Comparative economic organization: The analysis of discrete structural alternatives. Administrative Science Quarterly. DOI ↗市場・ハイブリッド・階層という三つの統治の形を、インセンティブの強さ、管理の仕組み、自律的な適応と協調的な適応の得意さ、それぞれを支える契約法の違いで区別し、資産特殊性が低ければ市場、中程度ならハイブリッド、高ければ階層が効率的だとした。
06

批判と境界条件

Ghoshal & Moran (1996, p. 19) によれば、この理論は、すべての人ではなく一部の人がときに機会主義的であり、そういう人を前もって見分けることは実際にはできない、と仮定する。彼らは、機会主義を抑えるための階層による統制は、かえって機会主義的な行動を増やしやすく、機会主義の仮定はそれ自体を現実にしてしまう自己成就的な予言になりうると論じた (p. 14)。統制は、統制される人に信頼されていないと伝え、組織への否定的な感情を強めるからである (p. 24)。さらに、統制へのこだわりは Williamson の議論が根ざす市場の失敗の枠組みから来ており、組織が市場に対してもつ根本的な強みを見えなくするという (p. 30)。組織は共有された目的のもとで意図的に適応でき、価格や市場がなくても活動を調整し、目先の効率に縛られず新しい選択肢を生み出せる (p. 33)。Ghoshal (2005, p. 75) も、取引費用経済学にもとづく授業が厳しい監視と統制の必要を説いてきたことを、研究者の考え方が経営の行き過ぎを生んだ例に挙げている。

これに対し Williamson (1996, p. 48) は、機会主義の危険に注意を払うことは機会主義を容認することではなく、先を見越して危険を和らげる手を打つことだと応じた。機会主義を想定しても人を意地の悪い者とみなす必要はなく、機会主義に走る傾向は個人や文化によって異なるとした (p. 50)。市場の失敗の枠組みに偏っているという指摘には、もとの枠組みは「組織の失敗の枠組み」と名づけたもので、あらゆる組織形態の長所と短所を比べるのが目的だと応じた (p. 52)。そのうえで、この理論の予測を広く裏づける実証研究が増えているとした (p. 55)。

信頼や継続的な関係の扱いにも批判がある。Granovetter (1985, p. 495) は、この理論が描く市場を、別々の企業にいる人々の社会関係が経済生活に秩序をもたらす役割を見落とした「過小社会化」の見方だと批判した。Williamson は、信頼できるふるまいの規範が市場に及ぶことを例外として扱っているという (p. 495)。また、組織の中での階層の権限(命令)の効き目を大きく見積もりすぎているという (p. 499)。複雑な取引でも企業の境界をまたいで高い秩序が見られることが多く、企業の中に高い無秩序が見られることもある (p. 502)。

企業が何をできるかより、取引をどう統治するかに偏っている、という批判もある。Kogut & Zander (1996, p. 503) は、企業の境界の決定に最も影響するのは、取引の費用ではなく、伝達、調整、新しい組み合わせの費用だと強調した。一方 Foss (1996, p. 474) は、機会主義のような概念なしに企業の存在は説明できないとして、契約の論理を擁護した。

Williamson (1981, p. 556) 自身は、効率的な境界の分析で、自社で作るか独立した供給者から買うかの二つだけを比べ、フランチャイズや合弁のような混合的な形態は扱わないと断っていた。のちに Williamson (1996, p. 51) は、この理論が長期契約、合弁、フランチャイズなどの混合的な形態も扱うとしている。また Williamson (1981, p. 573) は、取引費用の考え方は、自然淘汰の力がより確実に働く営利企業の研究に、より当てはまるとした。Granovetter (1985, p. 503) は、取引を効率的に組織することを保証する淘汰の圧力がどのようなものか、Williamson はどこでも明確に述べていないと批判した。

研究上の位置づけ

原典Williamson, O. E. (1981)
The economics of organization: The transaction cost approach
分類理論
地図の区画戦略
分析単位組織 · 二者関係
理論系譜経済学
REFERENCES

出典

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