アッパーエシュロン理論(経営上層部理論)Upper Echelons Theory
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと組織の戦略や業績は、そのトップ経営者たちの価値観と認知の基盤を映し出している、とする理論である。Hambrick & Mason (1984) は、年齢や職歴、学歴といった観察できる経歴から、組織の成果を部分的に予測できると提案した。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
組織はなぜそのようにふるまうのか。Hambrick & Mason (1984) によれば、当時有力だった理論は、組織を目的をもった主体として、あるいは環境に翻弄される存在として扱い、人から切り離して見る傾向があった。戦略論でも、企業の動きは主に技術的・経済的な要因で説明されていた。戦略の決定過程を扱う研究でさえ、それを情報と決定の流れとしてとらえ、関わる人々から切り離していた。
これに対して彼らは、組織の支配的連合、とりわけトップ経営者に注目すべきだと主張した。経営者の経歴と戦略の結びつきは、ビジネス誌などで逸話としては繰り返し語られてきたが、体系的に検証されたことはなかった。そこで彼らは、経営者の特徴が組織の成果にどう反映されるのかを示すモデルと、実証研究のための命題を提示した。
主張とメカニズム
出発点は、カーネギー学派の限定合理性の考え方である。戦略的な選択は複雑で、組織にとって重大であるため、経済的な最適化の計算だけでは決まらない。そのため選択は、意思決定者それぞれの癖を反映する。意思決定者は状況に自分の「所与」を持ち込む。所与とは、将来の出来事、選択肢、その結果についての知識や想定からなる認知的基盤と、結果や選択肢に優先順位をつける価値観である。
この所与は、三つの段階で知覚を絞り込む。第一に、経営者は組織と環境のすべてを見渡せず、注意を向ける範囲(視野)が限られる。第二に、視野に入ったもののうち一部しか実際には知覚しない。第三に、選び取った情報を、認知的基盤と価値観でできたフィルターを通して解釈する。こうしてできた知覚に価値観が加わり、戦略的な選択の基礎となる。
Hambrick & Mason は、心理的な特性の代わりに、年齢、在職期間、職能経歴、学歴、社会経済的な出自、経済的な立場といった観察できる特徴を使うことを提案した。トップ経営者は心理検査に応じたがらない。また、在職期間や職能経歴のように、心理的な対応物をもたない特徴もある。分析の単位はCEO一人ではなく経営陣全体とし、同質性のような集団の特徴も扱う。命題の例として、若い経営者の企業ほどリスクの高い戦略をとる、内部での勤続年数が長い経営陣ほど新しい領域に進出しない、同質的な経営陣ほど決定が速い、などを挙げた。これらの命題は、同じ業界の中で成り立つものとされている。
Hambrick (2007) は、理論の中核を二つにまとめ直した。経営者は、直面する状況を自分なりに解釈して行動する。その解釈は、経営者の経験、価値観、性格によって決まる。そのうえで、予測の強さを左右する条件を加えた。一つは経営裁量、つまり経営者の行動の自由度である。裁量が大きいほど経営者の特徴は戦略と業績に表れ、裁量がなければ経営者の特徴はあまり関係しない。もう一つは経営者の職務要求である。要求が重いと経営者は思考の近道に頼り、過去に試したことや、うまくいくのを見たことに戻る。そのため選択に経歴や気質が表れやすい、と Hambrick は論じた。
身近な例
たとえば、同じ業界で同じくらいの規模の会社が二つあるとしよう。A社の経営陣は、ほとんどが製造部門で経験を積んできた人たちである。B社の経営陣は、製造、営業、技術、経理と、さまざまな部門の出身者からなる。この理論によれば、A社は自動化や設備の更新など、生産の効率を高める方向に力を注ぎやすい。B社では出身の違いから多様な見方や選択肢が出やすいが、意見もぶつかりやすく、決定には時間がかかるかもしれない。
ただし、注意も必要である。A社の取締役会が、効率化を進めてほしくて製造部門の出身者を経営陣に選んだのだとすれば、A社の戦略は経営者の偏った見方の結果というより、与えられた使命の結果かもしれない。
主要概念
- アッパーエシュロン(upper echelons)
- 組織の上層部。Hambrick & Mason (1984) は、組織の支配的連合、とりわけトップ経営者の集団を指して用いた。
- 所与(givens)
- 意思決定者が状況に持ち込むもの。将来の出来事、選択肢、その結果についての知識や想定からなる認知的基盤と、結果や選択肢に優先順位をつける原則である価値観からなる(Hambrick & Mason, 1984)。
- 経営裁量(managerial discretion)
- 経営者の行動の自由度。制約がなく、手段と目的の関係があいまいで、もっともらしい選択肢が複数あるときに存在する。環境、組織、経営者自身の要因から生じる(Hambrick, 2007)。
- 経営者の職務要求(executive job demands)
- 経営者の仕事の難しさ。課題の難しさ、業績への圧力、経営者自身の抱負という三つの要因から生じる(Hambrick, 2007)。
- 行動的統合(behavioral integration)
- 経営陣が互いに、また集団として関わり合う程度。統合された経営陣は、情報、資源、決定を共有する(Hambrick, 2007)。
代表的な展開研究
- Hambrick, D. C. (2007). Upper echelons theory: An update. Academy of Management Review. DOI ↗1984年の論文以降の展開を振り返り、経営裁量と経営者の職務要求という二つの調整要因や、経営陣内の権力の違い、行動的統合といった精緻化を整理した。さらに、ブラックボックスを開く方法、逆の因果と内生性への対処、国ごとの違い、報酬制度との相互作用を今後の課題として挙げた。
批判と境界条件
Hambrick & Mason (1984) は、みずから限界を認めている。この論文は大きくマクロ寄りで、経営者の心理過程については粗い仮定しか置いていない。経歴のデータは、純粋な心理的測定より雑音が多い。因果の向きにも注意が必要である。過去の戦略や業界の状況が、どんな経歴の人が経営陣にいるかを決めることがある。取締役会が、望む行動に合った経歴の人を選ぶこともある。成果が表れるまでの時間差や、経営陣の入れ替わりも、検証を難しくする。仮に検証で何も見つからなければ、それは経歴が人をうまく表していない、経営者は経歴が示すより同質的である、経営者は業界で共有された知識で見方を補っている、といったことを意味するだろう、とも述べている。
Hambrick (2007) は、経歴を使うと経営者の行動を動かす心理的・社会的な過程が見えないままになる「ブラックボックス問題」を認め、その過程はいまだ大部分が謎だとしている。また、横断的な研究の多くは、経営者の特徴が戦略を生むのか、その特徴をもつ人がそうした企業に集まるのかを区別できていないと指摘した。さらに、実証研究の大半はアメリカ企業を対象としている。アメリカの経営者は他国より多様で裁量も大きいため、理論に有利な結果が出やすかった可能性がある。「経営者は本当にそれほど重要なのか」という懐疑に対しては、年や業界や企業といった条件を統制したうえで残る差のかなりの部分を、少なくともアメリカではCEOが説明する、と応じている。
Lawrence (1997, p. 2) は、構成員の属性の構成から組織を説明する組織デモグラフィー研究の多くが、経歴と成果をつなぐはずの態度や認知を測りも検証もせず、経歴の変数がそれらを捉えているとみなしていると批判し、これを「一致の仮定」と呼んだ。この仮定が成り立つには、少なくとも経歴の変数と主観的な概念のあいだに有意な関係が必要である。そこで Lawrence は、この関係を調べた組織デモグラフィーの19本の論文(経営陣研究に限らない)を集計した。有意性を検定できる305の予測のうち有意だったのは42%にとどまり、この大まかで甘めの評価でも、58%の予測で一致の仮定は退けられた (pp. 10–11)。Lawrence は、この仮定に頼る研究は見せかけの説明に陥る危険が高いとみられると結論している (p. 16)。
Priem, Lyon & Dess (1999, pp. 937–938) は、経営陣の経歴の多様性を代理指標にすると、測定の信頼性のために構成概念の妥当性(測りたい概念を本当に測れているか)を犠牲にするといった、避けられないトレードオフが生じると論じた。年齢や在職期間のばらつきで有意な結果が出ても、それが認知の多様性を通じた効果なのか、経営陣内の権力の分布や態度の違いを通じた効果なのかは区別できない (pp. 938–939)。また、経営者の意図を測らず、経歴と選択、選択と成果のつながりを確かめていないため、経営者が成果に影響することは示せても、どのように影響するのかは言えない (pp. 946–947)。Carpenter, Geletkanycz & Sanders (2004, p. 769) は、権力や名声、人脈は経営陣に均等には分布せず、多くはCEOに集まることから、チームがいつも適切な単位だとは限らないと指摘した。
研究上の位置づけ
Upper echelons: The organization as a reflection of its top managers
出典
- 原典Hambrick, D. C., & Mason, P. A. (1984). Upper echelons: The organization as a reflection of its top managers. Academy of Management Review. DOI ↗
- Hambrick (2007), Academy of Management Review ↗
- Lawrence (1997). Perspective—The black box of organizational demography. Organization Science. ↗
- Priem, Lyon & Dess (1999). Inherent limitations of demographic proxies in top management team heterogeneity research. Journal of Management. ↗
- Carpenter, Geletkanycz & Sanders (2004). Upper echelons research revisited: Antecedents, elements, and consequences of top management team composition. Journal of Management. ↗
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