スチュワードシップ理論Stewardship Theory
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと経営者は必ずしも利己的ではなく、組織のために働くこと自体に動機づけられる「執事(スチュワード)」でありうる。その場合、監視より信頼と権限の委譲が成果を高める、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
エージェンシー理論は経営者を利己的な存在と仮定した。しかし、この仮定はすべての経営者に当てはまるとは限らず、組織の目標のために働く経営者もいるかもしれない。そうした人々を前提にすると、望ましいガバナンスはどう変わるのか。
主張とメカニズム
Davis, Schoorman & Donaldson (1997) は、経営者がスチュワードとして振る舞うかどうかは、心理的要因(内発的な動機、組織への同一化、地位ではなく専門性などにもとづく権力の利用)と、状況的要因(経営の考え方が関与型か統制型か、文化が集団主義的か、権力の不平等を受け入れる度合いが小さいか)に左右されると論じた。ただし、スチュワードとして振る舞うかどうかはあらかじめ決まっているのではなく、経営者と所有者がそれぞれ選ぶものだとした。
経営者と所有者の双方が「スチュワード的関係」を選べば、互いに大きな成果が得られる。しかし一方が裏切ると損をする。これは囚人のジレンマに似た構造である。双方がスチュワード的関係を選ぶと得られるものの合計は最も大きいが、裏切られて損をする危険が最も小さいのは、双方がエージェンシー的関係を選ぶ場合である。どちらを選ぶかは、各人が受け入れられるリスクの大きさと、相手を信頼する意思にかかっている。
身近な例
創業家出身の社長が長期にわたって会社を率い、短期的な株価より従業員や地域への責任を重視して投資を続ける。このような経営者に厳しい業績連動報酬や監視を課すと、かえって意欲をそぐ可能性がある。
主要概念
- スチュワード(steward)
- 組織の利益を自らの利益と重ね、そのために行動する管理者。
- 関与型マネジメント
- 統制より、信頼・権限委譲・参加を重視する管理のあり方。
代表的な展開研究
- Donaldson, L., & Davis, J. H. (1991). Stewardship theory or agency theory: CEO governance and shareholder returns. Australian Journal of Management. DOI ↗Dalton et al. (1998) の整理によれば、CEO が会長を兼ねる企業の方が、兼ねない企業より株主リターン(自己資本利益率で測定)が高いことを示し、スチュワードシップ理論と整合する結果を得た。
批判と境界条件
Dalton, Daily, Ellstrand & Johnson (1998, p. 271) の整理によれば、スチュワードシップ理論は、経営者は本来信頼でき、会社の資源を不正に流用する傾向はないと主張し、支配を経営者の手に集中させるべきだとする。そのため、社内取締役の多い取締役会や (p. 271)、CEO が取締役会長を兼ねる体制を支持する (p. 272)。しかし、個々の研究の結果は一貫していない。兼任について、Donaldson & Davis (1991) は兼任企業の方が株主リターンが高いことを示した一方、Rechner & Dalton (1991) は分離型の企業の方が業績が高いと報告し、方向のある影響を見いださない研究もある (p. 272)。
Dalton et al. (1998, p. 269) は、取締役会の構成に関する54の研究(159標本、n = 40,160)と、CEO と会長を兼ねるか分けるかという指導体制に関する31の研究(69標本、n = 12,915)をメタ分析した。取締役会の構成については、補正後の平均相関が0.028にとどまり、業績にほとんど影響しないと結論した (p. 278)。指導体制と業績の間にも、実務的に意味のある関係は見られなかった (p. 280)。企業規模や業績指標の種類で分けても、実質的な違いは見られず、この結果はエージェンシー理論もスチュワードシップ理論も支持しない (p. 282)。
著者たちは、分析した企業の約8割がフォーチュン500などの大企業であり、結果は大企業以外には一般化できないかもしれないと認めている (pp. 283–284)。ただし、取締役会が業績に影響しないと言っているわけではない。重要な決定の多くは取締役会全体ではなく監査や報酬などの委員会でなされるため、委員会の構成と業績の関係を調べることが有望だという (pp. 284–285)。そのうえで、複数の理論を合わせて考えることが、ガバナンス改革の効果をより完全に理解することにつながるかもしれないと述べている (p. 285)。
研究上の位置づけ
Toward a stewardship theory of management
出典
- 原典Davis, J. H., Schoorman, F. D., & Donaldson, L. (1997). Toward a stewardship theory of management. Academy of Management Review. DOI ↗
- Dalton, Daily, Ellstrand & Johnson (1998). Meta-analytic reviews of board composition, leadership structure, and financial performance. Strategic Management Journal. ↗
- Rechner & Dalton (1991). CEO duality and organizational performance: A longitudinal analysis. Strategic Management Journal. ↗
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