個体群生態学Population Ecology
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと個々の組織は大きく変わることが難しい。組織の世界の変化は、主に新しい組織の誕生と古い組織の消滅によって起こる、と生物の進化になぞらえて説明する理論。
目次
中核的な問い
組織論や経営学の多くは、組織が環境に合わせて自らを変える(適応する)ことを想定する。しかし個体群生態学は、個々の組織は環境の脅威に直面しても、戦略や構造を大きく変えることにはめったに成功しないと考える。組織の世界の変化を、個々の適応ではなく集団(個体群)の入れ替わりとして捉えるとどうなるか。
主張とメカニズム
Hannan & Freeman (1977) は、当時主流だった「適応」の見方に代わるものとして、組織の個体群を分析の単位として、競争と選択にもとづくモデルを組織と環境の関係に当てはめる見方を提示した。Hannan & Freeman (1984) によれば、そこでは、組織構造の環境への適応は主に個体群のレベルで起こり、条件が変わると組織の形態どうしが入れ替わると論じられた。環境が特定の形の組織を「選択」し、環境に合わない形態は淘汰される。
その前提にあるのが構造的慣性である。Hannan & Freeman (1984) によれば、現代社会では、成果を確実に出し(信頼性)、自らの行動を合理的に説明できる(説明責任)組織が選択で有利になる。そのためには構造を日々ほぼ同じように再現できる必要があり、高い再現性は強い慣性を生む。その結果、選択は構造の慣性が高い組織に有利に働く。また、組織を作り変えようとする試みは成果の確実さを下げるので、変化しようとすること自体が死亡率を高めるとした。
さらに Carroll & Hannan (1989) は、新聞社の個体群の研究で、ある種類の組織の数(密度)が正統性と競争という二つの過程を通じて誕生と死亡に影響するという「密度依存」のモデルを示した。密度が低いうちは正統性の高まりが勝って誕生が多く死亡が少なく、密度が高くなると競争が勝って誕生が減り死亡が増える。
身近な例
フィルムカメラの時代からデジタルへの移行期に、既存の大手企業の多くは大きく変われず、新しいメーカーが台頭した。業界全体の姿は、個々の企業の変身ではなく、企業の入れ替わりによって変わった、と見ることができる。
主要概念
- 個体群(population)
- 地域や市場などで区切った範囲の中で、共通の組織形態(組織の活動の青写真)をもつ組織すべての集まり。
- 構造的慣性(structural inertia)
- 組織の構造を作り変える速さが、環境の条件が変わる速さに比べてずっと遅い状態。組織がまったく変わらないことではなく、相対的な遅さを指す。
- 密度依存(density dependence)
- 個体群内の組織の数が、誕生率と死亡率に影響する関係。
代表的な展開研究
- Hannan, M. T., & Freeman, J. (1984). Structural inertia and organizational change. American Sociological Review. DOI ↗慣性は選択の前提ではなく選択の結果として生じると論じ、組織を作り変えようとする試みが死亡率を高めることなどを命題として示した。
- Carroll, G. R., & Hannan, M. T. (1989). Density dependence in the evolution of populations of newspaper organizations. American Sociological Review. DOI ↗アルゼンチン、アイルランド、米国の7つの大都市圏の、19〜20世紀にわたる9つの新聞社の個体群(5200紙余り)で、密度と誕生・死亡の関係を検証した。誕生率では9つすべてで予想どおりの向きの効果が見られ(統計的に有意なのは6つ)、死亡率では予想どおりの向きが6つで、両方の係数が有意だったのは大きな3つの個体群だけだった。
批判と境界条件
Hannan & Freeman (1984) 自身が、当初の理論は、組織が戦略や構造を根本から変えることはめったにないという単純化した前提に立っていたと述べている(pp. 149–150)。この前提には異論があり、組織は絶えず変化しているとする見方もある(March, 1981 の議論。p. 150)。また、組織の多様性は、個々の組織が環境に合わせて意図的に戦略や構造を変えた結果だとみる合理的適応理論とは、前提が大きく異なる(p. 150)。そこで彼らは、ある種の変化は頻繁に起こり、組織が戦略や構造を大きく変えることもあると認めたうえで、慣性を相対的なものとして定義し直した。慣性が強いとは、組織が変わらないということではなく、環境の変化の速さに比べて組織の変わる速さが遅いということである(pp. 149, 151)。
Zucker (1989) は、密度依存モデルが制度理論の概念を借りながら、それを検証していないと批判した。Carroll & Hannan の新聞社の研究では、正統性も競争も直接には測られず、どちらも組織の数(密度)で置き換えられている。正統性と密度の関係はそれまで確かめられたことがなく、既存の証拠からは、正統性は緩やかにではなく急に高まるように見える(p. 542)。死亡率については、競争が最も激しいはずの小さな地域で密度の効果が一貫せず、6都市の半数では予想と逆だった。また、密度は同じ種類の組織の数だけを数えるので、ラジオやテレビのような別の種類の組織との競争は入らない。誕生率が上がってから下がる形も、新しい発明や社会の変化のような外からの衝撃で説明できるとした(p. 543)。そして、誰がなぜ組織を立ち上げるのかという行為者の問題が抜け落ちていると述べた(p. 544)。
Carroll & Hannan (1989) は、正統性や競争を直接測らないのは、異なる個体群や時代を同じ手続きで比べられるようにするためだと応じた。3か国の2世紀にわたるデータを使えたのもそのためである(p. 545)。人々が何を当たり前と思っているかを直接尋ねるのは信頼性や妥当性に問題があり、歴史的な研究の範囲も狭める。個別の出来事を正統性の指標にすると、事後的に都合のよい指標を選びがちになるという(p. 546)。外からの衝撃による説明は時間による変化の話であって、密度による変化とは別だと反論し、醸造業、銀行、生命保険会社などでも同じ形が見られるとした。ただし、自分たちの考えが誤っている可能性はまだ排除できないとも述べている(p. 547)。
研究上の位置づけ
The population ecology of organizations
出典
- 原典Hannan, M. T., & Freeman, J. (1977). The population ecology of organizations. American Journal of Sociology. DOI ↗
- Zucker (1989). Combining institutional theory and population ecology: No legitimacy, no history. American Sociological Review. ↗
- Carroll & Hannan (1989). On using institutional theory in studying organizational populations. American Sociological Review. ↗
- March (1981). Footnotes to organizational change. Administrative Science Quarterly. ↗
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