プロセス研究Process Research
物事がどのように、なぜ、時間とともに生まれ、発展し、終わるのかを問う研究である。変数の関係を問う分散研究と対になり、質的にも量的にも行われるが、時間を追う縦断的なデータが共通の条件になる。
どんな研究か:変数の関係ではなく「時間の中での展開」を問う
Langley は、変数どうしの関係を見る分散の考え方(variance thinking)こそ社会科学者の多くが実際にしていることだと認めたうえで、自分の関心は物事が時間とともにどう展開するかを考える、別の種類の理解にあると述べている(Gehman et al., 2018, p. 289)。この関心を研究として定式化したのがプロセス研究(process studies)である。Langley et al. (2013, p. 1) は、プロセス研究を、物事がどのように、なぜ、時間とともに生まれ、発展し、成長し、終わるのかを問う研究と定義し、従属変数と独立変数の共変動を扱う「分散の問い」(variance questions)と区別している。この対比の出典として、同 p. 1 は特集号の論文募集(Langley et al., 2009)と Mohr (1982) を挙げている。
最初に確認しておくべきは、プロセス研究は質的研究と同じ意味ではないということである。Langley et al. (2013, p. 6) は、同じ特集号の論文には量的な分析によるものも質的な分析によるものもあるが、すべてが縦断的データ(longitudinal data)を用いていると書く。縦断的データは、アーカイブ、歴史資料、リアルタイムのフィールド観察のどれから得たものでもよく、プロセスが時間とともにどう展開するかを観察するために欠かせない(同 p. 6)。つまり、共通の条件は質か量かという方法の違いではなく、時間を追ったデータがあることである。
もっとも、同じ序文は、プロセス研究の多くが質的な方法やエスノグラフィーの方法をとっており、量的な方法をさらに発展させ、適用する余地があるとも認めている(Langley et al., 2013, p. 10)。また Langley 自身は、自分には特定の方法はなく、選択肢を一つの方法に絞ることもよいとは思わないが、研究についての立場はあり、それはプロセスを見ることの重要性だ、と述べている(Gehman et al., 2018, p. 289)。したがってプロセス研究は、決まった手順の名前というより、時間の中で物事をとらえる研究の構えとして読むのがよい。
分散理論との違い:know-that と know-how
Langley et al. (2013, p. 4) によれば、分散理論は理論の説明から時間を取り除くことで、組織生活の多くを成している時間の流れを捨象してしまう。同 p. 4 はこれを具体例で説明する。私たちは、規模の大きい企業が小さい企業より利益率が高い傾向にあること、そしてその理由が規模の経済と市場支配力にあることを知っている。しかしこの知識は、合併のあとで規模拡大の利点をとらえるために、どんな順序で手を打てばよいかを考えている経営者には、実践上ほとんど役に立たない(同 p. 4)。
同 p. 4 はこの違いを、分散理論が「〜であると知っている」という know-that 型の知識を生むのに対し、プロセス理論は「どうすればよいかが分かる」という know-how 型の知識を生む、とまとめている。「規模が大きいと利益率が高い」は know-that であり、「合併後にどの順で何をするか」は know-how である。
この対比は、どちらかの研究が優れているという主張ではなく、問いによって使い分けるためのものである。Gehman et al. (2018, p. 298) は結論で、方法そのものの一貫性だけでなく、方法と研究の問いと目指す理論的貢献の関係まで合わせる「理論と方法の適合」(theory–method fit)を求めている。同じ箇所は、ある方法が多くの課題に向いていても、すべての課題に向くわけではないとも書く(同 p. 298)。同じ対話のなかで Eisenhardt は、事例からの理論構築の方法は「どのように」の問いに特に役立ち、プロセスにもとづく理論にも分散にもとづく理論にもなりうると述べており(同 p. 287)、プロセスか分散かの区別は、問いと理論の形の区別であって、データの種類や流派の区別と一対一には対応しない。
世界の見方:「もの」を中心に見るか、「なること」を中心に見るか
プロセス研究は、世界がそもそも何からできているかという見方(存在論)とも関係する。Langley et al. (2013, p. 4) は、プロセスは社会的世界についての異なる存在論から見ることができるとし、二つを挙げる。一つは、世界は「もの」からできており、プロセスはものの変化を表すという見方で、実体の形而上学(substantive metaphysics)にもとづく。もう一つは、世界はプロセスからできており、ものはプロセスが固定化されたもの(reification)にすぎないという見方で、プロセスの形而上学(process metaphysics)にもとづく(同 p. 4、Tsoukas & Chia, 2002 を引く)。
同 p. 4 によれば、Rescher (1996) はこの区別を古代の Democritus と Heraclitus の哲学の違いにまでさかのぼらせている。プロセスの側の見方は、同 p. 5 が引く Rescher (1996, p. 10) の一節によく表れている。「プロセスこそが根本である。川はものではなく絶えず変わる流れであり、太陽はものではなく燃えさかる火である。自然のすべては、プロセスと活動と変化の問題である。」
実体の見方を、同 p. 5 は企業の例で示す。「3M は革新的な企業である」という文で、性質が変わったとしても主語は変わらずに残りうる。3M は「革新的」でなくなるかもしれないが、「3M」でなくなるわけではない(同 p. 5)。ここでは企業という変わらない主語が先にあり、変化はその性質の変化として扱われる。これに対してプロセスの形而上学では、ものの方がプロセスの固定化として位置づけられる(同 p. 4)。
注意したいのは、同 p. 4 がプロセスを「異なる存在論から見ることができる」と書いている点である。プロセス研究を行うのに、必ずプロセスの形而上学に立たなければならないわけではなく、ものの変化を追う研究もプロセス研究になりうる。
データと方法:時間を追うデータと、その切り分け方
プロセス研究のデータについて、よくある誤解を Langley et al. (2013, p. 7) は正面から取り上げる。縦断的な事例研究は「サンプル1」だとしばしば誤解されるが、プロセス研究のサンプルの大きさは事例の数ではなく、時間的な観察の数である(同 p. 7)。たとえば特集号の van Oorschot et al. (2013) は、失敗したプロジェクト一つの事例史のなかで、一つひとつコーディングした344の出来事に焦点を当てている(同 p. 7)。
では、続いていくデータの流れのなかで、何と何を比べるのか。Langley et al. (2013, p. 7) によれば、質的なプロセス研究者の多くは、Langley (1999) の言う「時間的な括り出し」(temporal bracketing)や分解(decomposition)といった、より統合的な方法に頼り、縦断的データの流れのなかに比較できる分析の単位を見つける。一つの事例であっても、時期を区切ることで、時期どうしを比べる単位が生まれるということである。なお Langley は、1999年の論文で示した分析の仕方について、それらをさまざまに組み合わせて使えるという点を、当時は十分に強調しなかったと振り返っている(Gehman et al., 2018, p. 290)。時間的な括り出しを含む七つの戦略は、詳しくは次節で Langley (1999) の原典に即して見る。
量的なプロセス研究の例として、Langley et al. (2013, p. 7) は Klarner & Raisch (2013) を紹介している。この研究は、ヨーロッパの保険会社67社の1995年から2004年までの年次報告書からデータを得て、生物学に由来する多重配列アラインメント(multiple sequence alignment)という方法で、変化の時間的なパターンを六つに分類した。そのうえで統計的な方法を使って、進行中の組織変化の規則性が業績とどう関連するかを示している(同 p. 7)。ここで分析されているのは、ある時点の変数の値ではなく、変化がどんな順序と間隔で起きたかという並びそのものである。
プロセス研究の成果は、しばしば箱と矢印の図で示される。見た目は変数の関係を示す図と似ているが、読み方が違う。Langley et al. (2013, p. 8) によれば、プロセスの図では箱は状態を、矢印は前後の関係や、プロセスに特有の要素や流れを表すことが多い。ただし同 p. 8 は落とし穴も指摘する。ラベルのない矢印やフィードバックの輪は便利だが、プロセスの理論が説明しようとしている因果の複雑さを覆い隠してしまうことがある。逆に、プロセスの複雑さを忠実にとらえようとすると、図は込み入って、同じくらい分かりにくくなる(同 p. 8)。
プロセス・データから理論を作る七つの戦略
Langley (1999) は、集めたあとのプロセス・データをどう理論にするかを論じた論文であり、データの集め方や研究デザインは主題ではないと断っている(p. 692, 注1)。同 p. 692 によれば、現実の組織で集めたプロセス・データには、分析を難しくする四つの特徴がある。第一に、研究者が扱い慣れていない「出来事」(events)の連鎖からなる。第二に、境界があいまいな複数の分析単位と水準にまたがる。第三に、時間への埋め込み方(temporal embeddedness)が、精度、長さ、関連性の点でまちまちである。第四に、出来事が中心でありながら、関係の変化、考え、感情、解釈まで取り込む雑多な(eclectic)データになる(同 p. 692)。出来事の水準もそろわず、悪い一年も、合併も、会議も、握手も一つの出来事になりうる(同 p. 693)。Langley はこうしたデータから理論に向かう七つの一般的な戦略を示し、Weick (1979) にならってセンスメイキング戦略(sensemaking strategies)と呼ぶ(同 p. 694)。これらは段階を追ったレシピではなく一般的なアプローチであり、網羅的とは限らず、組み合わせて使える(同 p. 694)。
第一の物語戦略(narrative strategy)は、生データから詳細なストーリーを組み立てる(同 p. 695)。状況のあいまいさを細部まで再現でき、正確さは高いと見込まれるが、それだけでは簡潔な理論にも一般的な理論にもならない(同 pp. 695–697)。一つか少数の豊かな事例に向き、例は Chandler (1964) や Pettigrew (1985) である(Table 1, p. 696)。第二の定量化戦略(quantification strategy)は、質的な出来事をあらかじめ決めた特性でコード化し、統計的に分析できる時系列に変える(同 p. 697)。Van de Ven らの研究では、出来事ごとに人、アイデア、取引、文脈、結果の五つのトラックを設けた(同 p. 697)。簡潔さと一般性の見込みは高いが、元のデータを大幅に単純化するため、正確さは強みではない(同 p. 698)。統計分析のために多くの似た出来事が要る(Table 1, p. 696)。第三の代替テンプレート戦略(alternate templates strategy)は、前提の異なる複数の理論で同じ出来事を解釈し、それぞれがどこまで説明するかを評価する(同 p. 698)。古典は、キューバ危機を合理的行為者、組織過程、政治の三つのモデルで語り直した Allison (1971) である(同 p. 698)。一つの事例で足り、自由度は複数のテンプレートから生まれる(Table 1, p. 696)。ただし、複数の見方をどう組み合わせればよいのかという戸惑いを残しがちである(同 p. 699)。
第四のグラウンデッド・セオリー戦略(grounded theory strategy)は、ここでは原著者たちが述べた特定の方法を指す、と Langley は断っている(同 p. 699)。小さなデータ単位(incidents)を体系的に比べ、カテゴリーを組み立てていく(同 p. 700)。例は、組織の死を「解散」と「再接続」として表した Sutton (1987) である(同 p. 700)。豊かに記述された似た出来事が多く要り、大きな組織の戦略変化のように一度きりで長く続くプロセスには合いにくい(同 p. 700)。正確さは高いが、理論は密になりがちで、特定の現象の理論からより一般的な理論へ進みにくいこともある(同 p. 700)。第五の視覚的マッピング戦略(visual mapping strategy)は、マトリクスや図を使う(同 p. 700)。Langley & Truax (1994) は小規模製造業の新技術導入を、決定、活動、企業の統制外の出来事を形の違う箱で描き分け、時間軸と課題領域の帯の上に並べた(同 pp. 700–702)。先後関係や並行する流れは描きやすいが、権力、対立、感情のための余地はない(同 p. 702)。パターンを見るにはある程度詳しい事例が5〜10以上要り(Table 1, p. 696)、正確さ、簡潔さ、一般性はいずれも中程度である(同 pp. 702–703)。
第六の時間的な括り出し戦略(temporal bracketing strategy)は、時間の流れを、断絶(discontinuities)で区切られた連続する期間に分ける(同 p. 703)。この期間は予測できる順序をもつ「段階」ではなく、特別な理論的意味をもたない(同 p. 703)。名前は Giddens (1984) の構造化理論に由来し、行為と構造の相互の影響を、一方を一時的に括弧に入れて順に分析する(同 p. 703)。たとえば Denis et al. (1996) は、経営陣の戦術とリーダーシップの役割の結びつきを、チームの構成の断絶で区切った五つの期間で追った(同 p. 703)。期間が理論を反復して確かめる単位になるので、一つか少数の事例で足りうる(同 pp. 703–704)。ただし、断絶がそろって明確な期間を作る保証はなく、正確さは区切り方の適切さに左右される(同 p. 704)。第七の総合戦略(synthetic strategy)は、プロセス全体を分析単位とし、出来事のデータから全体を表す尺度を作って、プロセスどうしを比べる(同 p. 704)。典型例は、8事例を比べて意思決定の速さを五つのプロセスの構成概念で説明した Eisenhardt (1989a) である(同 pp. 704–705)。予測に向くが、生まれるのは Mohr (1982) の言う分散理論であって、プロセス理論ではない(同 p. 704)。プロセスの境界の明確な定義と十分な数の事例が要り、正確さはよくて中程度である(同 p. 705)。
七つを比べる軸は、Thorngate (1976) と Weick (1979) の正確さ・簡潔さ・一般性(accuracy, simplicity, generality)である(同 p. 695)。Langley の分析では、正確さは簡潔さとも一般性とも対立しやすく、簡潔さと一般性は両立しやすい(同 p. 706)。Table 2(p. 706)は、正確さが高く簡潔さと一般性が低い側から、物語、グラウンデッド・セオリー、時間的な括り出し、視覚的マッピング、総合、定量化の順に並べ、最後にコンピュータ・シミュレーションを置く。シミュレーションは七つの戦略には含まれず、対比のために加えられたものである(同 p. 706)。代替テンプレートは特別な場合として表に位置づけられていない(同 p. 706)。表の注は、この順位は近似であり、一般性は反復の程度や範囲などにも左右されると断る(同 p. 706)。結論で Langley は、七つにはどれも独自の強みと弱みがあるとし、どれが最良かという問いには答えない(同 p. 706)。代わりに、グラウンデッド・セオリーと代替テンプレートを概念の出どころを与える grounding の戦略、物語と視覚的マッピングをデータを整理して表す organizing の戦略、残る三つを段階、出来事、事例ごとに命題を反復して確かめる replicating の戦略に分け、組み合わせの道筋を示す(同 p. 707)。そのうえで、どの戦略を使っても、研究者の洞察と想像力に頼る手順化できない一歩が必ず残ると述べる(同 p. 707)。
研究例:『Academy of Management Journal』の特集号から
Langley et al. (2013) は、『Academy of Management Journal』のプロセス研究の特集(Special Research Forum)の序文である。100本を超える投稿のなかから13本が掲載された(同 p. 1)。序文の Table 1(pp. 2–3)は、13本それぞれの研究の問い、方法、発見と貢献を一覧にしている(同 p. 1)。ここでは、データの集め方が異なる数本を取り上げ、プロセス研究が実際にどんなデータを扱うかを見る。
第一は、過去の文書をさかのぼる研究である。Bingham & Kahl (2013) は、保険業界でコンピュータについての理解の枠組み(スキーマ)がどう形づくられたかを扱い、1945年から1975年までの399の論文と書籍を分析したアーカイブ研究である(Langley et al., 2013, Table 1, p. 2)。
第二は、一つの事例のなかの出来事を細かく数える研究である。van Oorschot et al. (2013) は、意思決定の罠が時間とともにどう展開するかを問い、製品開発プロセスの出来事を61週にわたって追ったリアルタイムのデータを、システム・ダイナミクスの方法で分析した(Langley et al., 2013, Table 1, p. 3)。前節で触れたとおり、失敗したプロジェクトの事例史から344の出来事をコーディングしており(同 p. 7)、事例は一つでも時間的な観察は多い。
第三は、現場に長くとどまって観察する研究である。Bruns (2013) は専門領域をまたぐ協働で調整がどう起きるかを18か月のエスノグラフィーで、Jay (2013) はハイブリッド組織で変化のプロセスがどう展開するかを2年間のエスノグラフィーで調べている(Langley et al., 2013, Table 1, p. 2)。Langley et al. (2013, p. 6) は、ミクロなレベルでプロセスをきめ細かく理解する研究には、こうした長く深い関与が必要であり、あわせて自己省察(reflexivity)、分析の厳密さ、ピアレビューへの注意が、信用性と信頼性を確保するために要ると述べる(Gioia et al., 2013; Lincoln & Guba, 1985 を引く)。
第四は、複数の事例を組み合わせる研究である。Bresman (2013) は、グループが代理学習(vicarious learning)を通じてルーティンをどう変えるかを、製薬企業の二つの部門に焦点を当てた、事例の中にさらに事例を埋め込んだ複数事例の設計で調べており(Langley et al., 2013, Table 1, p. 2; p. 7)、Langley et al. (2013, p. 7) はこの設計が事例からの理論構築についての Eisenhardt (1989)、Eisenhardt & Graebner (2007)、Yin (2009) の推奨を反映していると位置づけている。ほかにも特集号には、合併後の統合のなかで公正と正義をめぐる意味づけのプロセスがどう展開するか(Monin et al., 2013)、戦略的な選択、環境の圧力、偶然が組織の変化にどう寄与するか(MacKay & Chia, 2013)などを問う論文が並ぶ(Langley et al., 2013, Table 1, p. 3)。各論文の発見の詳細は、それぞれの原論文にあたってほしい。
懐疑的な読者の疑問に答える
第一の疑問は「一つの会社を時間を追って調べただけでは、サンプル1ではないか」というものである。Langley et al. (2013, p. 7) はこれをはっきり誤解と呼び、プロセス研究のサンプルの大きさは事例の数ではなく時間的な観察の数だと答える。さらに、時間的な括り出しによってデータの流れを区切れば、一つの事例のなかにも比較の単位ができる(同 p. 7)。Langley (1999, p. 699) は、再現と比較の材料がないとして単一事例を戒める研究者もいる(Eisenhardt, 1989b; Pettigrew, 1990)と認めたうえで、代替テンプレート戦略なら異なる理論的解釈が比較の基盤になるので、一つの豊かな事例からも洞察を引き出せると述べる。時間的な括り出しの場合も、期間ごとに反復して確かめられるため、一つか少数の事例で有用な洞察を生みうる(同 p. 704)。
第二の疑問は「結局、出来事の物語を書いているだけではないか」というものである。この危険は、Langley 自身が失敗のパターンとして挙げている(Gehman et al., 2018, p. 294)。第一に、はっきりした理論化のないまま物語を生み出すだけのもの、第二に、彼女が「反理論化」(antitheorizing)と呼ぶもの、第三に「例示的な理論化」(illustrative theorizing)、第四に、規則性を見つけながらそれを説明しない「パターンの理論化」(pattern theorizing)である(同 p. 294)。つまり、プロセス研究の側でも、物語を書くことはそれだけでは研究の成果にならず、時間の展開を説明する理論が求められている。Langley (1999, p. 697) も、物語戦略だけに頼ると、当事者以外には関心の薄い特異な話と、薄い概念的貢献に終わりやすいと書く。同じ箇所によれば、優れた物語は純粋な記述ではなく、Chandler (1964) の物語のように筋やテーマを埋め込んでおり、それが最終的に「組織は戦略に従う」のような、より明示的な理論になる(同 p. 697)。また Langley は、私たちは帰納という考えを強調しすぎ、まったく理論をもたずにデータに臨んでいるかのように考えているが、実際にしているのは帰納というよりアブダクション(abduction)だと述べている(同 p. 297)。
第三の疑問は「時間を追うことで、変数の研究では分からない何が分かるのか」というものである。Langley et al. (2013, p. 4) の答えは、分散理論が時間の流れを捨象するのに対して、プロセス理論はknow-how 型の知識を生むというものである。規模と利益率の関係を知っていても、合併のあとどんな順序で手を打てばよいかは分からない、という先の例がその違いを示している(同 p. 4)。Klarner & Raisch (2013) のように、変化の規則性という時間の並びにかかわる性質を業績と結びつける量的研究もある(同 p. 7)。
第四の疑問は「研究者の解釈にすぎず、信頼できるかどうか確かめられないのではないか」というものである。Pratt et al. (2020) は、信頼に足る(trustworthy)、あるいはよい質的研究を示す手段を、既存の四つの立場に分けて表にしており(Table 1, pp. 10–11)、その一つがプロセス研究である。表では、プロセス研究(Langley, 1999; Gehman et al., 2018)の特徴として、縦断的データ(longitudinal data)が挙げられている(同 Table 1, p. 11)。ただし表の注は、Langley 自身は「信頼性」という語を使っていないが、プロセス研究の基本を示している、と断っている(同 p. 11)。また著者たちは、この表をすべての質的研究に当てはめる固定したチェックリストではなく、研究者が自分の主張と拠って立つ存在論に応じて選ぶ選択肢だと位置づけている(同 p. 9)。
「同じ研究をやり直して同じ結果が出なければ信用できない」という再現の基準についても、Pratt et al. (2020, p. 1) は、透明性を再現と固く結びつけることは質的研究にとって深刻な問題であり、再現はそうした研究が成し遂げようとしていることの要点を外している、と論じる。代わりに求められるのは、主張を「語る」のではなく、データで「見せる」ことである(同 p. 8、Golden-Biddle & Locke, 2007 を引く)。一方で、方法の側も限界を認めている。Langley et al. (2013, p. 11) は、質的なプロセス研究で洞察を生み出すことは、体系的に手順化しにくい技能だと書いている(Klag & Langley, 2013 に関連して)。Langley (1999, pp. 707–708) も、どの戦略でも研究者の洞察と想像力に頼る一歩が残るとし、質的方法の手順化を求め続けても収穫は逓減しうる、量的研究者に概念枠組みをどう思いついたかを説明せよと求める人はいない、と述べる。ただし同 p. 707 は、だからといって研究者が自分の解釈を体系的に検証する必要がなくなるわけではないと付け加えている。手順を守れば誰でも同じ理論に至る、という形の保証は、この方法の側からは示されていない。
他の流派との違い:Eisenhardt 法、Gioia 法と並べると
Gehman et al. (2018) は、2016年の Academy of Management 年次大会のシンポジウムで、Gioia、Eisenhardt、Langley、Corley が質的研究による理論構築の異なるアプローチを論じた内容をまとめたものである(p. 284)。論文は、シンポジウムの書き起こしと発表資料にもとづいて、パネリストの準備した発言と対話を統合している(同 p. 285)。
三者の違いは、何を目指すかに表れている。Eisenhardt の方法の中心には反復の論理(replication logic)があり、各事例をそれぞれ単独で分析し、他の事例とまとめて平均のような要約統計にはしない(同 p. 287)。Gioia は、一次のコードと二次のテーマ、次元がそろったところで作るデータ構造を、研究全体でおそらく最も要となる段階だとし、「データ構造がなければ何もない」とまで言う(同 p. 286)。これに対して Langley は、前に見たように特定の方法をもたないと明言し(同 p. 289)、Gioia と Eisenhardt のアプローチを、本人たちは否定するかもしれないがかなりテンプレート的だと見ている(同 p. 293)。
論文の結論は、三つの使い分けを一文にまとめている。演繹的に検証できる理論を生み出したいなら Eisenhardt 法が出発点になり、情報提供者の生きられた経験を理解したいなら Gioia 法が出発点になり、組織生活における時間や実践の動きを理解したいなら Langley のアプローチが着想源になりうる(同 p. 297)。推論の形についても、帰納ではなくアブダクションだという Langley の発言(同 p. 297)は、他の二人との違いとして読める。
もっとも、違いばかりが強調されているわけではない。Eisenhardt は、ここに示された質的研究のアプローチのあいだには、違いよりも共通点の方が多いと述べている(同 p. 292)。Langley も、このようなシンポジウムが、世界を質的に見るアプローチは三つしかないという印象を与えることを嫌い、多くのアプローチがあり、まだ発明されていないものもあるだろうと述べている(同 p. 293)。
主な文献
- Langley, A. (1999). Strategies for theorizing from process data. Academy of Management Review. DOI ↗プロセス・データの四つの特徴と、そこから理論を作る七つのセンスメイキング戦略を整理し、正確さ・簡潔さ・一般性のトレードオフで比べた。
- Langley, A., Smallman, C., Tsoukas, H., & Van de Ven, A. H. (2013). Process studies of change in organization and management: Unveiling temporality, activity, and flow. Academy of Management Journal. DOI ↗プロセス研究の特集の序文。分散研究との違い(know-that と know-how)、実体とプロセスの形而上学、縦断的データ、掲載13本の一覧を示した。
- Gehman, J., Glaser, V. L., Eisenhardt, K. M., Gioia, D., Langley, A., & Corley, K. G. (2018). Finding theory–method fit: A comparison of three qualitative approaches to theory building. Journal of Management Inquiry. DOI ↗2016年のシンポジウムをまとめた対話。Langley が自らの立場、失敗のパターン、アブダクションを語り、Eisenhardt 法・Gioia 法と比べられている。
- Pratt, M. G., Kaplan, S., & Whittington, R. (2020). Editorial essay: The tumult over transparency: Decoupling transparency from replication in establishing trustworthy qualitative research. Administrative Science Quarterly. DOI ↗質的研究の信頼性を示す四つの立場を表にし、その一つとしてプロセス研究を挙げた。透明性と再現を切り離すべきだと論じた。
批判と境界条件
プロセス研究を推し進める著者たち自身が、いくつかの限界を認めている。第一に、Langley et al. (2013, p. 10) は、多くの研究で個人が重要な行為者として登場するものの、個人レベルの分析を中心に据えた論文は特集号に一本もなく、そうした投稿自体もごく少なかったと述べ、これを残念で、やや不可解だとしている。第二に、方法論者は配列分析に使える量的な分析方法を示してきたが(Abbott, 1990; Poole et al., 2000)、経営学での採用はこれまでのところ限られているようで、さらに発展させる余地がある(同 p. 11)。第三に、プロセスの図には、単純にすれば因果の複雑さを覆い隠し、複雑さを忠実に描けば込み入って分かりにくくなるというトレードオフがある(同 p. 8)。第四に、質的なプロセス研究で洞察を生み出すことは、体系的に手順化しにくい技能である(同 p. 11)。第五に、Langley (1999, p. 694) は七つの戦略が網羅的とは限らないとし、文学的なアプローチや批判的なアプローチのように、自分がよく知らない戦略もあるはずだと述べている(同 p. 707)。同 p. 696 は、Table 1 の記述は目安にすぎず、各戦略にしたがう研究のあいだにも大きなばらつきがあると断っている。
信頼性の基準についても注意がいる。Pratt et al. (2020) の Table 1 がプロセス研究に挙げる特徴は、Langley 自身が「信頼性」という語で示したものではなく、著者たちがプロセス研究の基本から整理したものである(p. 11)。また Pratt et al. (2020, p. 2) が論じる質的研究は、理論を検証しない帰納的またはアブダクティブな研究に限られている。そのため、Klarner & Raisch (2013) のような量的なプロセス研究の信頼性をどう示すかは、この表の射程の外にある。
この項目の根拠そのものにも偏りがある。この項目は主に、特集号の序文である Langley et al. (2013)、シンポジウムの対話をまとめた Gehman et al. (2018)、分析の戦略を論じた Langley (1999) に基づく。いずれもプロセス研究を提唱する側の文章であり、プロセス研究に対する外部からの批判や、それへの応答を扱った文献は、この項目では読めていない。また、プロセスの形而上学の出典である Tsoukas & Chia (2002) は、この項目では Langley et al. (2013) を通してしか触れておらず、原典に即した説明は今後の課題である。
研究上の位置づけ
出典
- Langley (1999), Academy of Management Review ↗
- Langley, Smallman, Tsoukas, & Van de Ven (2013), Academy of Management Journal ↗
- Gehman, Glaser, Eisenhardt, Gioia, Langley, & Corley (2018), Journal of Management Inquiry ↗
- Pratt, Kaplan, & Whittington (2020), Administrative Science Quarterly ↗
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