事例研究からの理論構築(Eisenhardt 法)Building Theories from Case Study Research (Eisenhardt Method)
いくつかの事例を理論上の理由で選び、一つずつ分析したうえで事例どうしを比べ、再現された関係から検証できる命題や理論を作る方法。Eisenhardt (1989) が8段階の手順として示し、2021年に本人がその核心を説明し直した。
どんな方法か
事例研究からの理論構築は、複数の事例を詳しく調べて互いに比べ、そこから検証できる命題や理論を作る方法である。Eisenhardt (1989) は、研究の始め方から終わり方までの手続きを、8つの段階からなる表にまとめた(Table 1, p. 533)。Eisenhardt (2021, p. 148) はこれを「Eisenhardt 法(the Eisenhardt Method)」と呼び、この方法は Yin (1984) の事例研究(と再現の論理)と、Glaser & Strauss (1967) のデータと理論の絶えざる比較(と理論的サンプリング、飽和)に拠りつつ、複数の事例からの理論構築、とくに理論的な論証に重きを置く点に独自の貢献があると説明している。
向いている問いについて、Eisenhardt は「どのように(how)」の問いにとくに役立つと述べ、規範的な理論にも記述的な理論にも、プロセスの理論にも変数間の関係(variance)の理論にも使えるとしている(Gehman et al., 2018, p. 287)。Eisenhardt (1989, p. 548) は、ある現象についてほとんど知られていないとき、既存の見方に実証の裏付けが乏しいときや、見方どうしが食い違うときに、この方法は研究の初期段階や、すでに研究された話題に新しい視点を持ち込むのに最も適していると書いている。
ここでいう理論は、変数どうしの相関を見つけることとは違う。Eisenhardt は、青い目の CEO のほうが業績がよいと観察しても、なぜそうなるのかの理由を示せなければ理論ではなく、ただの相関にすぎないとたとえている(Gehman et al., 2018, p. 291)。Eisenhardt (2021, p. 152) も、この「なぜ」の説明は単なる修辞ではなく、理論的な論証(theoretical arguments)こそがこの方法の中心だと強調する。
手順:8つの段階
Eisenhardt (1989, p. 533) の Table 1 は、研究の開始(Getting Started)、事例の選択(Selecting Cases)、調査の道具と手順の作成(Crafting Instruments and Protocols)、現場に入る(Entering the Field)、データの分析(Analyzing Data)、仮説の形成(Shaping Hypotheses)、文献との照合(Enfolding Literature)、終結(Reaching Closure)の8つの段階からなる。表は段階ごとに、そこで行う活動(Activity)と、そうする理由(Reason)を並べている。Eisenhardt によれば、理論的サンプリング、理論的飽和、コーディングとデータ収集と分析を重ねて進めることは Glaser & Strauss (1967) から、事例研究のデザイン、再現の論理、内的妥当性への配慮は Yin (1984) から、証拠を表で示す道具は Miles & Huberman (1984) から取り入れたという(pp. 545–546)。そのうえで、Glaser & Strauss (1967) は事例から理論を作ることの擁護に主眼を置いており、実際にどうやるかには重きを置いていなかったと述べている(p. 546)。
第一段階の研究の開始では、研究の問いを定め、場合によっては構成概念を前もって定めておくが、理論も仮説も持たずに始める(Table 1, p. 533)。問いを定めるのは努力の焦点を絞るため、構成概念を前もって定めるのは構成概念の測定によりよい根拠を与えるため、理論も仮説も持たないのは理論上の柔軟さを保つためである。第二段階の事例の選択では、母集団を特定し、無作為ではなく理論的なサンプリングで事例を選ぶ。母集団を特定すると余計なばらつきが抑えられて外的妥当性が高まり、理論的サンプリングによって、概念上の区分を埋めることで理論を再現したり拡張したりする、理論上役に立つ事例に努力を集中できる(p. 533)。事例の選び方は次の節で詳しく見る。
第三段階の調査の道具と手順の作成では、複数のデータ収集方法を用い、質的データと量的データを組み合わせ、複数の調査者で取り組む。複数の方法は証拠の三角測量(triangulation)によって理論の根拠を強め、質と量の組み合わせは証拠を相乗的に見ることを可能にし、複数の調査者は異なる見方を育てて根拠を強める(p. 533)。第四段階の現場に入る段階では、フィールドノートも含めてデータの収集と分析を重ねて行い、データの集め方も柔軟に、機会に応じて変えていく。収集と分析を重ねると分析が速まり、データの集め方について役に立つ修正点も見えてくる。柔軟な集め方をとるのは、途中で浮かび上がったテーマや、その事例ならではの特徴を生かせるようにするためである(p. 533)。扱うデータの種類は決まっておらず、Eisenhardt (2021, p. 153) は、この方法は特定の種類のデータについての方法ではないと明言している。
第五段階のデータの分析は、事例ごとの分析(within-case analysis)と、複数の手法による事例間のパターン探し(cross-case pattern search using divergent techniques)という2つの作業を含み、本文でも別々の見出しで論じられている(p. 539, p. 540)。事例ごとの分析はデータに慣れ、予備的な理論を生み出すためのものであり、事例間のパターン探しは、研究者に最初の印象の先を見させ、証拠を複数のレンズを通して見させるためのものである(p. 533)。
第六段階の仮説の形成では、構成概念ごとに証拠を繰り返し表にまとめ、事例間では標本抽出の論理ではなく再現の論理(replication logic)を用い、関係の背後にある「なぜ」の証拠を探す(p. 533)。それぞれ、構成概念の定義と妥当性と測定可能性を鋭くするため、理論を確かめ、拡張し、鋭くするため、内的妥当性を築くためである。Table 1 では、再現の論理はデータの分析の段階ではなく、この仮説の形成の段階に置かれている。Eisenhardt によれば、再現の論理とは、各事例をそれぞれ単独で分析し、ほかの事例と合わせて平均のような要約統計にまとめないことである(Gehman et al., 2018, p. 287)。Eisenhardt & Graebner (2007, p. 27) は、複数の事例を「実験」のように重ねて比べることで、浮かび上がった知見がひとつの事例に特有のものか、いくつかの事例で一貫して再現されるものかがはっきりすると書いている。
Eisenhardt (2021, p. 152) は、分析では理論とデータの絶えざる比較、再現の論理、事例間の分析を重視するとまとめている。Eisenhardt (2021, p. 151) は、構成概念と測定という語を使うのは広い研究者コミュニティとつながるためであり、生データを繰り返し整理し、まとめていく点はほかのグラウンデッド・セオリー的な研究とも共通すると述べる。理論と事例の当てはまりがよすぎるように見えることもあるが、Eisenhardt によれば、それは構成概念を定めるときに概念化(分類)と抽象化を巧みに用いるためであり、この部分は隠れていて創造的で、言葉にしにくい「技(art)」でもある(p. 151)。
第七段階の文献との照合では、浮かび上がった理論を、食い違う文献とも似た文献とも比べる(p. 533)。食い違う文献との比較は、内的妥当性を築き、理論の水準を上げ、構成概念の定義を鋭くする。似た文献との比較は、一般化可能性を鋭くし、構成概念の定義を改善し、理論の水準を上げる(p. 533)。第八段階の終結では、Glaser & Strauss (1967) から取り入れた理論的飽和(theoretical saturation)に、可能であれば達したところで終える(Eisenhardt, 1989, pp. 533, 545–546)。改善の上積みが小さくなった時点で過程を終えるためである(p. 533)。なお、理論が成り立つ範囲(境界条件)と対立する説明への目配りは、今ではこの方法の一部とされるが、Eisenhardt (2021, p. 152) によれば1989年の論文には明示されておらず、査読者や編集者の勧め、ときには強い要求によって加わったものである。
事例の選び方と数
Eisenhardt (1989, p. 537) は、この種の研究は理論的サンプリング(theoretical sampling)、つまり統計的な理由ではなく理論的な理由で事例を選ぶことに拠ると書き、事例を無作為に選んでもよいが、それは必要でも望ましくもないとした。例に挙げられているのは、「死にゆく組織」を調べた Harris & Sutton (1986) の研究である。彼らは、民間か公的か、独立しているか他の組織に従属しているかの組み合わせでできる4つの区分を、一つずつ埋めるように8つの組織を選んだ(p. 537)。
Eisenhardt (2021, p. 150) は、理論的サンプリングの具体的な形も挙げている。一つは「競争(racing)」型で、多くは新しい事業などの事例が、同じ時期に似た初期条件から出発し、ある自然な終点に向かって「競う」ものである。もう一つは「両極(polar types)」型で、多くの点では似ているが、両極端にある事例を選ぶ(p. 150)。
事例の数について、Eisenhardt (1989, p. 545) は理想の数はないとしたうえで、4〜10件ならたいていうまくいくと書いた。4件より少ないと複雑な理論を生みにくく、実証の裏付けも説得力に欠けやすいが、1つの事例の中にいくつかの小さな事例(mini-cases)を含む場合は別である。10件を超えると、データの複雑さと量に対処するのがすぐに難しくなる(同 p. 545)。Eisenhardt (2021, p. 153) はさらに、4〜10件はよく見られ、うまくいくことが多いが、特定の件数はこの方法に本来備わったものではないと述べ、「だいたい8件」という言い方は誤りだとした。
単一事例と複数事例の違いは、Eisenhardt & Graebner (2007) が論じている。単一事例はある現象が存在することを豊かに描けるが、複数事例は理論構築のより強い基盤になり、ほかの条件が同じなら、理論はより根拠があり、正確で、一般化しやすくなる(p. 27)。ただし、意外なことに単一事例のほうが複雑な理論を作りやすい面もある。単一事例の研究者はその事例の細部に理論をぴったり合わせられるが、複数事例の研究者はほとんど、またはすべての事例で再現された関係だけを残すので、理論はより簡潔で、頑健で、一般化しやすいものになるという(p. 30)。また Eisenhardt (2021, p. 153) は、1つの事例の中に複数の分析単位を埋め込めば単一事例でも複数事例型の理論構築ができるとし、1つの企業の中の10件の担当領域(charter)の変更を調べた Galunic & Eisenhardt (2001) を例に挙げている。
立場の変化:「実証主義」から「柔軟」へ
Eisenhardt (1989, p. 546) は、自らの手順が実証主義(positivist)の研究観をとると明言した。手順は、検証可能な仮説と、状況を越えて一般化できる理論を作ることに向けられているからである。これに対して Strauss (1987) や Van Maanen (1988) のような論者は、調べた事例の豊かで複雑な記述に関心を向け、一般化できる理論を作ることにはあまり関心がないように見える、と対比している(同 p. 546)。
Eisenhardt (2021, p. 155) は、この語を選んだ事情を振り返っている。1980年代末の状況では、はるかに大きな演繹的研究のコミュニティとつながりたかったので「実証主義」という語を使ったが、振り返れば自分は駆け出しの研究者で、この語が科学哲学の「地雷原」を踏むことになるとは予想していなかった、という。そのうえで、客観的な実在はあるが、現実の社会的な構成もあると述べ、今 AMR の論文を書くなら、この方法を存在論的にも認識論的にも柔軟なものとして描くとした(p. 155)。存在論と認識論は研究者の選択でありこの方法の核ではない、という見方は、グラウンデッド・セオリーの柔軟さを指摘する Glaser らの見方とも一致すると、Eisenhardt は Walsh et al. (2015) を引いて書いている(p. 155)。
この方法をどの流派に数えるかは、論者によって違う。Pratt (2009, p. 856) は、事例やエスノグラフィーの方法で集めたデータを分析するときにグラウンデッド・セオリーを用いる例として、Eisenhardt (1989) を挙げている。一方で Eisenhardt & Graebner (2007, p. 30) は、「グラウンデッド・セオリーによる理論構築」という語を、社会的行為者による意味の解釈に焦点を当てた Glaser & Strauss (1967) に由来する、より厳密な意味で使う研究者もいるので、実際にその方法を使っているのでなければこの語を避けるとよい、と勧めている。
Langley & Abdallah (2011) は Eisenhardt 法の認識論的な基盤を表にまとめ、前提は「ポスト実証主義」、目的は検証できる命題の形で理論をつくること、求めるのは事実(たとえば法廷式の聞き取り(court-room style interviewing)の重視)、成果は法則定立的(nomothetic)な理論だとした(Table 1, p. 109)。本文でも、この方法は実証主義的、より正確には Guba & Lincoln (1994) ならポスト実証主義と呼ぶものであり、起きたことについての「事実」のデータに迫り、一般化できる法則定立的な因果法則をめざすと書いている(p. 116)。
懐疑的な読者の疑問にどう答えるか
「数件の事例で一般化できるのか」という疑問に対して、Eisenhardt & Graebner (2007, p. 27) は、事例が何らかの母集団を代表していなければならないという考えを誤った前提と呼ぶ。研究の目的は理論を作ることで、理論を検証することではないので、無作為抽出や層化抽出ではなく理論的サンプリングが適切だというのが、その答えである(p. 27)。ただし、得られる理論の射程には限りがある。Eisenhardt (1989, p. 547) 自身、事例から作った理論は狭く特殊な理論になりうると認め、検証可能で新しく実証的に妥当ではあっても、資源依存理論、個体群生態学、取引費用理論のような広がりはなく、本質的に特定の現象についての理論だと書いている。そうした「大きな(grand)」理論には、理論構築と理論検証の両方の実証研究を積み重ねることが必要なのかもしれない、とも述べている(同 p. 547)。
「事例の選び方が恣意的ではないか」という疑問に対しては、選んだ理由を理論の側から示すことが答えになる。理論的サンプリングは統計的な理由ではなく理論的な理由で事例を選ぶことであり(Eisenhardt, 1989, p. 537)、Harris & Sutton (1986) の例のように、あらかじめ決めた区分を埋めるように選ぶ。あわせて Eisenhardt (1989, p. 548) は、研究者は各構成概念について十分な証拠を示し、読者が理論との当てはまりを自分で評価できるようにすべきだとしている。
「インタビューは後付けの合理化ではないか」という疑いについて、Eisenhardt & Graebner (2007, p. 28) は、インタビューのデータは印象操作と回顧的な意味づけ(retrospective sensemaking)で偏っているという「反射的な(knee-jerk)」反応をしばしば招くと認めている。そのうえで対処法として、同じ現象を多様な立場から見ている、事情によく通じた多くの情報提供者に話を聞くことと、進行中の出来事を追う事例と振り返って調べる事例を組み合わせることを示している(p. 28)。
「研究者の主観で都合よく当てはめているのではないか」という疑問に対して、Eisenhardt (2021) は研究者の影響は常にあると書き(p. 155)、理論と事例の当てはまりのよさは概念化と抽象化の技に負っていて、その技は言葉にしにくいと認めている(p. 151)。Eisenhardt (1989, p. 548) も、相関係数や F 値のような簡潔な指標はないとしたうえで、情報を十分に報告すれば理論が妥当だという確信を与えられるはずだと述べる。「再現できないのではないか」という疑問については、「再現の論理」という言葉に注意がいる。Pratt, Kaplan, & Whittington (2020, p. 9, 注7) によれば、Yin (2003) や Lincoln & Guba (1985) も replication という語を使うが、それは別の研究者による再現や、同じ研究を別に実施したときの再現を意味せず、結果が客観的に正しいことを保証する手段でもない。ただし Eisenhardt 自身は、同じ問いを同じ事例で問えばほぼ同じ答えが得られると考えており、この点で Corley と意見が分かれている(Gehman et al., 2018, p. 296)。
方法の側が認める弱みもある。第一に、豊富な証拠を集中的に使うために、理論が複雑になりすぎることがある。よい理論の特徴は簡潔さだが、膨大で豊かなデータを前にすると、すべてを取り込もうとする理論を作りたくなる(Eisenhardt, 1989, p. 547)。第二に、先に見たとおり、理論が狭く特殊なものになりやすい(同 p. 547)。第三に、複数事例の論文では事例の記述が薄くなる。査読者から「記述が足りない」と批判されることについて、Eisenhardt は、40ページでそれをどう直せというのか、直せない、と答えている(Gehman et al., 2018, p. 292)。
書き方と読み方
複数事例の論文では、事例ごとのひと続きの物語をほぼ完全に示すことはできない。事例ごとに物語を語れば理論が見失われ、文章が膨れ上がるからである(Eisenhardt & Graebner, 2007, p. 29)。そこで勧められるのが、理論上の構成概念ごとに証拠をまとめた別の表、つまり構成概念表(construct tables)である。この表は事例の証拠を要約し、その構成概念がどのように「測定」されたかを示すので、理論の「検証可能性」を高め、質的な証拠と理論検証型の研究とのあいだに強い橋をかける(p. 29)。
理論そのものは、複数のやり方で書くよう勧められている。序論で浮かび上がった理論の概略を示し、本文では各命題を書いて、それを支える実証の証拠と結びつける(Eisenhardt & Graebner, 2007, pp. 29–30)。命題の中の構成概念どうしを論理的につなぐ理論的な論証を書くことも欠かせず、最後に「箱と矢印」の図や要約表で理論を視覚的にまとめる(同 pp. 29–30)。
Langley & Abdallah (2011, p. 113) は、この系譜の論文が命題ごとに三つの手を踏むと分析している。第一に、先行研究や理論から予想されることと今回の発見をはっきり対比して新しさを打ち出す(同 p. 113)。第二に、事例を業績の高い順に並べた表で証拠の全体像を示し(同 p. 113)、続いて典型的には高業績と低業績の2件ずつを物語的な例として示す(p. 114)。第三に、関係がなぜ成り立つのかの理由を、ふつう二つか三つ、データと先行研究から示す(p. 114)。そのうえで、ばらばらの命題を一つのまとまった理論の物語へと統合できれば、強い貢献になるという(p. 114)。
評価の基準として、Eisenhardt (1989, p. 548) は Pfeffer (1982) を引いて、よい理論は簡潔で、検証可能で、論理的に一貫しているとし、強い研究ではそうした理論が研究の始めではなく終わりに現れるとした。手続きについては、研究者が注意深い分析手順に従ったか、証拠が理論を支えているか、対立する説明を退けたかを問う(p. 548)。さらに、過去の理論をなぞるだけの理論構築はせいぜいささやかな貢献であり、強い研究は新しい、ときに枠組みを壊すような洞察を示す、とした(p. 548)。
以上をまとめると、この方法による論文を読むときは、次の点を確かめるとよい。第一に、問いが、知見が乏しいか見方が食い違っている段階のものか(Eisenhardt, 1989, p. 548)。第二に、事例を選んだ理論上の理由が書かれているか(同 p. 537)。第三に、事例を一つずつ分析し、関係が事例間で再現されていることを示しているか(Gehman et al., 2018, p. 287; Eisenhardt & Graebner, 2007, p. 27)。第四に、構成概念ごとの証拠と測り方が表などで示されているか(Eisenhardt & Graebner, 2007, p. 29)。第五に、関係の「なぜ」を説明する理論的な論証があり、対立する説明や理論が成り立つ範囲に目が配られているか(Eisenhardt, 2021, p. 152; Eisenhardt, 1989, p. 548)。
Gioia 法との違い
Gehman et al. (2018) は、2016年の Academy of Management 年次大会のシンポジウムで、Gioia、Eisenhardt、Langley、Corley が質的研究による理論構築の方法を論じた内容をまとめた論文である(p. 284)。Eisenhardt はそこで、示された方法のあいだには違いより共通点のほうが多いと述べている(p. 292)。用語にも違いがある。Eisenhardt (2021, p. 151) は、自分が構成概念と測定と呼ぶものを Gioia らは一次・二次のテーマと呼ぶが、生データを繰り返し整理し、まとめていく点は共通だとしている。Langley & Abdallah (2011, p. 132) も、言説分析を説明する節の脇で、Eisenhardt 法はインタビューや文書などのデータを事実を確かめるために分析し、Gioia 法は同じデータを解釈として扱うと対比している。
はっきり意見が分かれたのはデータ構造(data structure)の扱いである。Gioia は、一次のコードと二次のテーマ・次元を集めてデータ構造を作ることを研究全体で最も要となる段階とし、「データ構造がなければ何もない」とまで言う(Gehman et al., 2018, p. 286)。これに対して Eisenhardt は、データ構造にはデータが入っておらず、ただでさえ限られた誌面を取ると述べて、データ構造を作らせないでほしいと応じた(p. 292)。Eisenhardt は、データ構造のような特定の形式を求めることを、厳密さ(rigor)ならぬ「死後硬直(rigor mortis)」と呼んでいる(p. 293)。
再現についての見方も違う。Corley は、自分と同じ調査地で同じ問いを立てた人が、自分と同じグラウンデッド・モデルにたどり着くとは思わないと言う。Eisenhardt は、自分の問いを自分の事例で問えば、ほぼ同じ答えが得られると考え、この点で意見が違うと明言した(Gehman et al., 2018, p. 296)。論文の結びは、演繹的に検証できる理論を作りたいなら Eisenhardt 法から、情報提供者の生きた経験を理解したいなら Gioia 法から始めるとよい、という使い分けを示している(p. 297)。なお Langley は、Gioia と Eisenhardt の方法はどちらもかなりテンプレート的に見える、本人たちは否定するかもしれないが、と述べている(p. 293)。Eisenhardt (2021, p. 155) は Gioia を、自分とは違う問いとデータに引かれる優れた研究者として挙げている。
主な文献
- Eisenhardt, K. M. (1989). Building theories from case study research. Academy of Management Review. DOI ↗事例から理論を作る手順を8段階の表にまとめた。理論的サンプリング、4〜10件の目安、事例研究から作る理論の強みと弱みを論じた。
- Eisenhardt, K. M., & Graebner, M. E. (2007). Theory building from cases: Opportunities and challenges. Academy of Management Journal. DOI ↗代表性やインタビューの偏りへの疑問への応え方、単一事例と複数事例の違い、構成概念表と理論の書き方を示した。
- Eisenhardt, K. M. (2021). What is the Eisenhardt Method, really?. Strategic Organization. DOI ↗方法の核心を説明し直し、事例数やデザインについての誤解を訂正した。「実証主義」の自称を、存在論的・認識論的に柔軟な立場へと言い直した。
- Gehman, J., Glaser, V. L., Eisenhardt, K. M., Gioia, D., Langley, A., & Corley, K. G. (2018). Finding theory–method fit: A comparison of three qualitative approaches to theory building. Journal of Management Inquiry. DOI ↗Eisenhardt、Gioia、Langley がそれぞれの方法を語ったシンポジウムの記録。データ構造や再現をめぐる意見の違いがわかる。
- Langley, A., & Abdallah, C. (2011). Templates and turns in qualitative studies of strategy and management. Research Methodology in Strategy and Management, 6. DOI ↗Eisenhardt 法を Gioia 法と並ぶテンプレートと名づけ、ポスト実証主義の前提、事例の選び方、命題ごとの書き方の型と限界を分析した章。Crossref のページ表記(201–235)は誤り。刷られたページは105–140。
- Pratt, M. G. (2009). From the editors: For the lack of a boilerplate: Tips on writing up (and reviewing) qualitative research. Academy of Management Journal. DOI ↗質的研究の書き方の助言。グラウンデッド・セオリーを用いる例として Eisenhardt (1989) を挙げている。
- Pratt, M. G., Kaplan, S., & Whittington, R. (2020). Editorial essay: The tumult over transparency: Decoupling transparency from replication in establishing trustworthy qualitative research. Administrative Science Quarterly. DOI ↗質的研究の透明性を再現から切り離すよう論じた。Eisenhardt 法をテンプレートとして要約した記述(約8件)が、Eisenhardt (2021) に誤りとされた。
- Pratt, M. G., Sonenshein, S., & Feldman, M. S. (2022). Moving beyond templates: A bricolage approach to conducting trustworthy qualitative research. Organizational Research Methods. DOI ↗Eisenhardt 法と Gioia 法をテンプレートとして使うことの問題を論じ、方法論的ブリコラージュを提案した。
批判と境界条件
この方法への主な批判は、方法そのものより、テンプレート(ひな形)としての使われ方に向けられている。Langley & Abdallah (2011, p. 107) は、北米の経営学の学術誌にある程度浸透し、ほかの研究者の物差しとして使われることもある2つのテンプレートを、生みの親にちなんで Eisenhardt 法と Gioia 法と名づけた(Pratt, Sonenshein, & Feldman, 2022, p. 212 の要約では「Eisenhardt の事例研究の見方と Gioia のグラウンデッド・セオリーの見方」)。Pratt et al. (2022) は主な例に Gioia 法を使っているが(p. 212)、テンプレート一般の問題として、テンプレートに書かれたことをすべてやれば出版に足る研究になると初学者が思い込みかねないこと、どのテンプレートも研究に必要な手順をすべては書き尽くせないこと(p. 213)、方法の選択肢を狭め、ひいては理論的な仕事を狭めうること(pp. 214–215)を挙げる。ただし同論文は、正式な訓練を受けていない研究者にも質的研究を近づきやすくした点でテンプレートの功績を認め(p. 235)、Eisenhardt (1989) の再現の論理は、実証主義的な事例研究の立場から有能さを示すうえで決定的だと評価している(p. 232)。
Eisenhardt 法の中身の要約として問題になったのは、Pratt, Kaplan, & Whittington (2020) の記述である。同論文は、この事例研究法はテンプレートの地位を得たという Langley & Abdallah (2011) の指摘を引き、研究者は関心のある説明変数に沿って違いがあるように事例を選び(たいてい約8件)、インタビューと記録資料でデータを集め、事例間を詳しく比べてその違いが組織の成果の違いと結びつくことを示す、と書いた(p. 13)。もっとも、原典の Langley & Abdallah (2011) に「8件」という数は出てこない。事例数は Eisenhardt (1989) の目安どおり4〜10件で(p. 111; Table 1, p. 109)、事例は「一つの重要な次元(たとえば業績)で鋭く異なり、ほかの点では似ている」ように選び、事例間の比較で高業績と低業績の事例を分ける要素を見つけるとされる(Table 1, p. 109)。「たいてい約8件」は Pratt et al. (2020) の要約であり、原典が例に挙げる違いも、説明変数ではなく業績の違いである。また別の箇所では、事例研究を変数に置き換えて演繹的な方法、多くは量的な方法で検証する「垂直的な」知識の積み上げの例として、Eisenhardt & Graebner (2007) を挙げている(p. 4)。ただし同論文は、Eisenhardt 型とは大きく違う Kellogg (2009, 2012) 型の事例比較も、同じくらい信頼できるものとして並べている(p. 13)。
Eisenhardt (2021) は、この記述に反論した。「だいたい8件」という言い方を誤り(incorrect)だとし(p. 153)、注では、この方法が異なる独立変数をもつ事例を選んで異なる結果を説明するものだとする記述を誤りとして、そうしたデザインは演繹的な研究に典型的で、複数事例の理論構築ではまず見られないと述べた(p. 157, 注1)。垂直的か水平的かという知識の区別も、この方法の一部ではないとしている(p. 154)。そのうえで、こうした誤解は存在しない硬直したテンプレートを思わせるが、この方法の基本的な特徴は少なく、多様な研究の可能性に開かれていると述べている(p. 155)。Eisenhardt の本文はこの論文を Pratt et al. (2019) と表記しているが、参考文献リストでは Administrative Science Quarterly 65巻1号1–19頁の Pratt, Kaplan, & Whittington の論文であり(p. 159)、本項目の Pratt et al. (2020) にあたる。テンプレート批判を展開した Pratt, Sonenshein, & Feldman (2022) とは、共著者も異なる別の論文である。
テンプレートの硬直した使い方への懸念は、Eisenhardt の側にもある。Eisenhardt は、データ構造のような特定の形式を求めることを「死後硬直」と呼び(Gehman et al., 2018, p. 293)、Pratt et al. (2022, p. 213) も、テンプレートが融通の利かない、機械的なやり方で使われやすいことの典拠として Eisenhardt et al. (2016) を引いている。また Pratt et al. (2022, p. 234) は、自ら提案する方法論的ブリコラージュ(methodological bricolage)とテンプレートは互いに排他的ではないとしている。
Langley & Abdallah (2011) は、この方法が戦略プロセス研究で非常に成功したとしつつ(p. 114)、第一に、時間の中での展開のパターンの理解より成果のばらつきの説明に重きを置く「分散」型の理論化に傾きがちで(p. 115)、遡及的なインタビューでは展開の細部の深さも限られやすいとする(p. 116)。ただし、複数事例の分析でプロセスモデルをつくれない本質的な理由はないとも書いている(p. 115)。第二に、著者が結果をほかの文献で説明できていることから見て「意外さの修辞」は強調されすぎていることがあり、「理論の発展」ではなく「理論の精緻化(theory elaboration)」と位置づけるほうが多くの場合より現実的で、しかも価値があるとする(p. 116)。さらに注では、Eisenhardt (1989) はデータが提案されたモデルに完全に合う必要はないと書いたが、公刊された論文の多くでは表の証拠がほぼ常に完全な相関を示しており、合わなさを見てとるのは難しいと観察している(p. 135, 注2)。
適用範囲の限界として、Eisenhardt (1989, p. 548) 自身が、この方法は研究の初期段階か、既存の話題に新しい視点を持ち込む場面で最も適切だとしている。事例から作る理論は特定の現象についての理論であり、資源依存理論のような広い射程の理論には、理論構築と理論検証の研究の積み重ねが必要なのかもしれない、というのも著者自身の見立てである(Eisenhardt, 1989, p. 547)。
研究上の位置づけ
出典
- Eisenhardt (1989), Academy of Management Review ↗
- Eisenhardt & Graebner (2007), Academy of Management Journal ↗
- Eisenhardt (2021), Strategic Organization ↗
- Gehman et al. (2018), Journal of Management Inquiry ↗
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