ブリコラージュEntrepreneurial Bricolage
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと資源の乏しい起業家は、手元にあり、他の人が価値がないと見なすような資源を組み合わせて使い回すことで、新しい問題や機会に取り組み、「何もないところから何かをつくり出す」ことがある、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
資源が乏しい環境では、多くの企業は必要な資源を手に入れられずに行き詰まる。ところが、同じ環境でも新しい事業を生み出す企業がある。資源が足りないはずの起業家は、何を使って、どのように事業をつくっているのか。
主張とメカニズム
Baker & Nelson (2005) は、ブリコラージュを「手元にある資源を組み合わせて、新しい問題や機会に当てはめることで、間に合わせること」と定義した。この言葉は、レヴィ=ストロースの概念で、「手元にあるもので間に合わせる」ことを指す。Baker & Nelson は、資源に制約のある小さな企業29社を調べて、この考え方を企業家研究に取り入れた。
ブリコラージュには三つの要素がある。第一に、手元にある資源を使うこと。そこには、他の人が不要と見なして捨てたり、安く手放したりする資源も含まれる。第二に、新しい問題や機会に対して、すぐに行動に移すこと。第三に、資源を本来の用途とは違う目的のために組み合わせること。こうした起業家は、「この資源はこう使うものだ」という世間の決まりや基準を当然のものとして受け入れない。原典は、このやり方が、物的な資源、人手、技能、顧客や市場、そして制度や規制という幅広い領域で見られることを示した。
原典はまた、ブリコラージュの使い方の違いにも注目した。多くの領域で同時に、いつもブリコラージュに頼る企業は、調査期間中に一社も成長しなかった。これに対して、ブリコラージュを一部の領域や一時期に限って選択的に用いた企業は、成長につながりやすかった。ブリコラージュは資源不足を補う有力な手段だが、使い方によっては成長の妨げにもなる、という見方である。
身近な例
たとえば、地方の小さな工務店が、取り壊される古い家から出る古材を安く譲り受けているとしよう。他の業者には廃材でしかないが、この工務店はそれを磨き直して家具や店舗の内装に使う。職人の手が足りないときは、日曜大工が得意な近所の人に手伝ってもらう。客の要望に合わせて、古材の風合いを生かした一点物の棚をつくるうちに、それを目当てにした注文が増えていく。手元にある、他の人が価値を見いださない資源を組み合わせて、新しい事業の形をつくり出しているのである。
主要概念
- ブリコラージュ(bricolage)
- 手元にある資源を組み合わせて、新しい問題や機会に当てはめることで、間に合わせること。
- 手元の資源(resources at hand)
- すでに手にしている、またはただ同然や安値で手に入る資源。他の人が役に立たない、水準に満たないと見なすものも含む。
- 並行的ブリコラージュ(parallel bricolage)
- 多くの領域で同時に、継続してブリコラージュに頼るやり方。
- 選択的ブリコラージュ(selective bricolage)
- ブリコラージュを一部の領域や限られた期間に絞って用いるやり方。
代表的な展開研究
- Fisher, G. (2012). Effectuation, causation, and bricolage: A behavioral comparison of emerging theories in entrepreneurship research. Entrepreneurship Theory and Practice. DOI ↗エフェクチュエーション、コーゼーション、ブリコラージュを、起業家の具体的な行動の面から比べ、重なりと違いを整理した。
- Senyard, J., Baker, T., Steffens, P., & Davidsson, P. (2014). Bricolage as a path to innovativeness for resource-constrained new firms. Journal of Product Innovation Management. DOI ↗資源に制約のある新しい企業を対象に、ブリコラージュと企業の革新性との関係を量的に検討した。
批判と境界条件
原典の Baker & Nelson (2005) 自身が、ブリコラージュの使い方しだいで成長が止まることを示している (pp. 356–357)。多くの領域で同時にブリコラージュを続ける「並行的ブリコラージュ」の企業は、何もないところから資源を呼び出す力そのものによって、より豊かな市場から切り離された組織とアイデンティティをつくってしまった (p. 349)。その結果、調査期間中に成長した並行的ブリコラージュの企業は一社もなかった (p. 349)。使い古した資源から働きを引き出し続ける手間(coaxing)も時間がかかり、安定した手順づくりを妨げた (p. 347)。これに対して、領域を絞ったり一時的に用いたりする「選択的ブリコラージュ」の企業は、成長できることが多かった (pp. 354, 356–357)。
Senyard et al. (2014, p. 216) は原典の知見を、非選択的にブリコラージュを続けた企業が、標準に満たない投入物で標準に満たない製品をつくり、それ以上を求めない顧客に売り続けた、と読んでいる。そこで彼らは、ブリコラージュが多すぎると革新性への効果が頭打ちになり、やがて下がるという仮説を立てた (pp. 216–217)。オーストラリアの新しい企業を12か月の間をおいて調べた結果、ブリコラージュが多い企業ほど革新性が高く、頭打ちから低下する関係はおおむね支持されなかった (pp. 217, 223–224)。例外は狙う市場の選び方の新しさで、ブリコラージュがかなり高い水準で効果が頭打ちになったが、負に転じる強い証拠はなかった (p. 223)。
ただし Senyard et al. は、この結果が並行的・選択的ブリコラージュと成長についての原典の主張を直接確かめたものではないと断っている (p. 226)。尺度が高い側で頭打ちになり、非常に高い水準のブリコラージュをとらえきれていない可能性や、負の効果が長い期間をかけて現れる可能性も挙げている (p. 226)。また、資源の制約が大きく異なる古い企業や、途上国の企業に当てはまるかは、このデータでは言えないとしている (pp. 226–227)。原典の側も、研究は探索的で、代表性のない限られた標本に基づくため、他の文脈で有用かは今後の検証が必要だと認めている (Baker & Nelson, 2005, p. 363)。ブリコラージュと創造性や社会的スキルなど、それに伴う能力との関係については、証拠が足りず、おそらくモデルで最も弱い部分だとも述べている(即興との関係は比較的証拠があるとする) (p. 360)。
Stinchfield et al. (2013, p. 889) は23人の起業家を調べ、ブリコラージュを、芸術、工芸、エンジニアリング、仲介(ブローカレッジ)と並ぶ行動の型の一つとして比べた。財務成果が高い側にいたのはエンジニアリングと仲介で、成果が最も低い側には芸術・工芸・ブリコラージュが含まれた (p. 908)。一方で、ブリコラージュの起業家の事業は、財務成果が乏しいのにとても長く生き残る傾向が目立った (p. 912)。著者らは、ブリコラージュに頼り続けると存続期間は延びうるが、高収益の企業にはなりにくいと述べる (p. 916)。ただし財務成果は、起業家の話と設備の様子をもとにした著者らの主観的な判断であり、この点は著者ら自身が限界として認めている (p. 915)。
研究上の位置づけ
Creating something from nothing: Resource construction through entrepreneurial bricolage
出典
- 原典Baker, T., & Nelson, R. E. (2005). Creating something from nothing: Resource construction through entrepreneurial bricolage. Administrative Science Quarterly. DOI ↗
- Stinchfield, Nelson & Wood (2013). Learning from Levi-Strauss' legacy: Art, craft, engineering, bricolage, and brokerage in entrepreneurship. Entrepreneurship Theory and Practice. ↗
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