理論・視点

企業家的機会Entrepreneurial Opportunity

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

企業家精神の研究を、新しい財やサービスを生み出す機会が、誰によって、どのように発見・評価・活用され、どのような結果をもたらすのかを調べる分野として定義し直した枠組み。

目次
説明したい問い新しい事業の機会はなぜ存在し、なぜ一部の人だけがそれを見つけて活かすのか。
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中核的な問い

Shane & Venkataraman (2000) によれば、それまでの研究者の多くは、起業家とは誰か、何をする人かという点だけで起業の分野を定義してきた。そのため、起業家とそうでない人を分ける特徴についての実証の結果は、機会の影響と個人の影響が混ざってしまい、疑わしいことが多かった。起業という現象を理解するには、何を中心に据えて研究すればよいのか。

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主張とメカニズム

Shane & Venkataraman (2000) は、企業家精神の研究分野を「将来の財やサービスを生み出す機会が、どのように、誰によって、どのような結果を伴って発見され、評価され、活用されるのかを学術的に調べること」と定義した。そして、企業家的機会を、先行研究にならって「新しい財、サービス、原材料、組織化の方法を導入し、生産費用を上回る価格で販売できる状況」と定義した。こうした機会は、既存の手段と目的の枠組みの中での最適化ではなく、新しい手段と目的の関係の発見を必要とする点で、利益を得る機会一般と区別される。

この枠組みの特徴は、起業が、利益を生む機会の存在と、進取の気性に富む個人の存在という、二つの現象の結びつき(nexus)を含むとみた点にある。原典は、個人だけで分野を定義すると、人によって見つける機会の質が違うことが見落とされると論じた。原典は、組織の研究者が取り組むべき問いを三つにまとめた。機会はなぜ、いつ、どのように生まれるのか。なぜ一部の人だけが機会を発見し、活用するのか。機会を活用するのに、なぜ異なる様式が使われるのか。そのうえで原典はまず、なぜ機会は存在するのかを論じた。人々が持つ情報や見通しが異なるため、資源の価値についての判断にずれが生じ、そこに機会が生まれる。次に、なぜ一部の人だけが機会を発見するのか。それは、その機会に関係する情報を先に持っていることや、情報を結びつけて新しい使い道を見いだす認知的な力に違いがあるからである。さらに、発見した機会を、なぜ一部の人だけが活用するのか。それは、機会の性質(期待される価値の大きさなど)と、個人の違い(資金の得やすさや、それまでの経験など)の両方で決まる。

原典は機会の活用の様式(mode of exploitation)も論じ、新しい会社をつくる形(階層)と、既存の企業に機会を売る形(市場)の二つを挙げた。どちらが選ばれるかは、産業の組織のあり方、機会の性質、情報を知的財産として守れるかどうか、などによるとされる。起業研究は新しい会社の設立だけを扱うのではなく、機会の発見から活用までの過程全体を扱うべきだ、という主張である。

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身近な例

たとえば、病院で働いた経験のある技術者が、看護師の記録作業にかかる手間の大きさを知っていたとしよう。同じ技術を持つほかの技術者は、その問題に気づいていない。この技術者は、現場の知識と技術の知識を結びつけて、記録を簡単にする道具という機会を見つける。実際に事業化に踏み出すかどうかは、機会の見込みの大きさに加えて、資金の得やすさや本人の経験によって変わる。自分で会社をつくるのか、既存の医療機器メーカーに機会を売るのかは、アイデアを特許などで守れるかどうかといった条件にも左右される。原典の枠組みは、このように機会の発見と活用を、個人と機会の組み合わせとして説明する。

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主要概念

企業家的機会(entrepreneurial opportunity)
新しい財、サービス、原材料、組織化の方法を導入し、生産費用を上回る価格で販売できる状況。
機会の発見(discovery)
ある人が、他の人が気づいていない機会の存在に気づくこと。
機会の活用(exploitation)
発見した機会を、必要な資源を得て実際に追求すること。新しい会社をつくる形のほか、既存の企業に機会を売る形もある。
個人と機会の結びつき(individual-opportunity nexus)
起業を、個人の特徴だけでなく、特定の個人と特定の機会の組み合わせとして捉える見方。
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代表的な展開研究

  • Shane, S. (2000). Prior knowledge and the discovery of entrepreneurial opportunities. Organization Science. DOI ↗一つの技術から、それぞれの人が持つ事前の知識に応じて異なる事業の機会が見いだされることを、事例をもとに示した。
  • Alvarez, S. A., & Barney, J. B. (2007). Discovery and creation: Alternative theories of entrepreneurial action. Strategic Entrepreneurship Journal. DOI ↗機会はすでに存在していて発見されるものだという見方と、起業家の行動によってつくり出されるものだという見方を対比した。
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批判と境界条件

Davidsson (2015, p. 676) は、原典の枠組みの後で「機会」の研究が急増したことを、個人に偏った説明から離れ、新しい事業が生まれる初期の段階に目を向けさせた点で、健全な展開だと評価した。そのうえで彼は、2000年以降に主要誌に載った「機会」に関する210本の論文を批判的に検討した(p. 674)。結論は、機会の役割と、機会と行為者の相互作用(nexus)について、理論と実証の進展が限られているというものである(p. 674)。実証論文のうち「機会」を定義しているものは2割に満たない(p. 677)。定義している論文の間でも、機会を客観的な外部条件とみるもの、個人の認知とみるもの、社会的構成物とみるものに分かれていた(p. 677)。同じ論文の中でも意味は揺れており、原典自身も、機会を客観的な現象と定義しながら、機会は他の個人や組織に売れるとも書いている、と指摘された(p. 680)。

Davidsson (2015, p. 676) は、この問題の根が「機会」という概念そのものにあると論じた。この語は、中身と、それが有利だという含みの両方を持ってしまうからである(p. 676)。たとえば発見の見方では、機会は、ふさわしい行為者がうまく活用すれば成功するように定義されるため、説明に使う概念が、説明される側の「成功」と重なってしまう(p. 680)。そこで彼は、機会という一語を、多くの行為者の起業に影響しうる外部の条件(External Enablers)、思い描かれた将来の事業である新しい事業のアイデア(New Venture Ideas)、その魅力についての行為者の評価(Opportunity Confidence)の三つの概念に分けて扱うことを提案した(p. 675)。

Alvarez & Barney (2007, p. 11) は、機会は起業家の認識とは独立に存在し、発見されるのを待っているとみる発見理論に対して、機会は起業家の行動によってつくり出されるとみる創造理論を示した。彼らの整理によれば、Busenitz & Barney (1997) は、起業家とそうでない人が体系的に異なるという証拠は、認知の研究を除けば説得的でないと結論している(p. 14)。ただし Alvarez & Barney (2007, p. 12) は、機会の形成は事後的にはどちらの言葉でも描けるので、発見か創造かという論争はそれ自体では実証的な中身を持たないとした。創造理論を示したことも、発見理論を捨てるべきだという意味ではなく、起業家が置かれた状況を見きわめる必要があるという主張である(p. 22)。一方 Davidsson (2015, p. 682) は、創造の見方でも、つくり出された機会は起業の過程の成功した終点なので、行為者が最初に行動した理由を説明できず、成功の説明に使えば同語反復になると指摘した。

発見の見方の側の反論として、Davidsson (2015, p. 686) の整理によれば、Shane (2012) は、客観的で行為者から独立した機会がなければ、結びつきの両側がともに行為者の関数になるので、意味のある結びつきはないと強く主張している。Davidsson (2015, p. 690) 自身も、新しい事業のアイデアの特徴を扱いやすい数に絞り込めない可能性や、行為者の評価を起業家の自己効力感と区別する難しさを、提案の限界として認めている。

研究上の位置づけ

原典Shane, S., & Venkataraman, S. (2000)
The promise of entrepreneurship as a field of research
分類理論的視点
分析単位個人 · 組織
理論系譜経済学 · 認知
REFERENCES

出典

文献についての注

  1. Davidsson (2015, p. 679, Table 2) は、Shane & Venkataraman (2000: 220) の定義を引用符付きで "organizing processes" と記している。原典 p. 220 の語は "organizing methods" である。本ページは原典に従い「組織化の方法」とした。

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。