エフェクチュエーションEffectuation
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと起業家は、目標を先に決めてから手段を選ぶ(コーゼーション)だけでなく、手元にある手段から出発して、そこから生み出せる結果を選び、つくり出していく(エフェクチュエーション)ことがある、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
Sarasvathy (2001) は、経済学や経営学の理論が、企業や市場といった人工物がすでに存在することを前提にしてきたと指摘し、そうした人工物がどのようにつくられるのかを説明するには、エフェクチュエーションという考え方が必要だと論じた。また Arend et al. (2015) によれば、エフェクチュエーションは、既存の理論、つまり新古典派ミクロ経済学の「因果的(causal)」な事業過程の理論では、熟練した起業家の創業時の行動をうまく説明できない、という問題から出発した。エフェクチュエーションが想定する状況では、短期を超えた手段と目的のつながりは定まらず、需要は不確かで、事業のモデルや技術、資源の最適な選び方は前もって知ることができない。そのような状況で、起業家はどのように判断を下しているのか。
主張とメカニズム
Sarasvathy (2001) は、エフェクチュエーションの過程とコーゼーションの過程を対比した。コーゼーションは「特定の結果を所与とし、その結果を生み出すための手段のなかから選ぶことに焦点を当てる過程」である。これに対してエフェクチュエーションは「一組の手段を所与とし、その手段で生み出しうる結果のなかから選ぶことに焦点を当てる過程」である。Sarasvathy (2001) によれば、起業家が出発点とする手段は、自分は何者か、何を知っているか、誰を知っているか、の三つである。つまり、自分の特性や好みや能力、自分が身を置く知識の領域、自分が属する人のつながりである。
Sarasvathy (2001) は、エフェクチュエーションの理論の中核として、四つの原則を示した。第一に、期待される利益ではなく許容可能な損失を基準にする。どれだけの損失なら許せるかを先に決め、限られた手段でできるだけ多くのやり方を試す。今の利益を最大にする選択肢よりも、将来の選択肢を増やす選択肢を好む。第二に、競合の分析ではなく、他者との提携と関係者からの事前の約束を重んじる。それによって不確実性を減らし、参入の障壁を築く。原典によれば、最終的にできあがる企業は、提携と事前の約束のネットワークを築いていく過程の結果である。第三に、前もって持っている知識ではなく、偶然の出来事を活用する。特定の新技術の専門知識のような既存の知識が競争上の強みの源になるときは、コーゼーションのほうが望ましいかもしれない。しかし、時間とともに思いがけず生じた偶然を生かすには、エフェクチュエーションのほうが向いている。第四に、不確かな将来を予測するのではなく、予測できない将来のうち統制できる面に注目する。その論理は「将来を統制できる限り、それを予測する必要はない」というものである。Read et al. (2016) も、エフェクチュエーションを、起業家と関係者が統制できるものを生かして将来を共につくる戦略だと説明している。
Sarasvathy (2001) は、新規事業の失敗の確率そのものは下げられないかもしれないが、失敗の費用は別の問題だとした。そして命題1で、エフェクチュエーションでつくられたごく初期の企業は、失敗するとしても、コーゼーションでつくられた企業より早い段階で、あるいは少ない投資の段階で失敗する、と述べた。そのため経済全体としては、より多くの新しいアイデアをより低い費用で試せるという。また Read et al. (2016) によれば、Sarasvathy は同じ2001年の学会報告で、熟練した起業家の63%が75%を超える割合でエフェクチュエーションを用いていたと述べており、残りの時間には、熟練者はコーゼーションなど別の方法を用いていた。原典自身も、コーゼーションとエフェクチュエーションはどちらも人間の推論の一部で、同時に起こり、重なり合うこともあるとし、説明のためにあえて二つに分けたと断っている。また、エフェクチュエーションのほうがコーゼーションより優れているとは主張しておらず、どんな状況でどちらが有利かは今後の実証研究で決めるべき問題だとした。エフェクチュエーションが当てはまる状況について、Arend et al. (2015) の整理によれば、文献は、あいまいさ、資源の制約、ナイトの不確実性と目標のあいまいさの組み合わせ、などを挙げてきた。Sarasvathy (2001) 自身も、資源を得る手段が限られ、成功した自分の事業をつくりたいという漠然とした願いしか持たない起業家は、エフェクチュエーションの過程を検討すべきだとしている。反対に、高級なインド料理店をつくるというように目指すものがはっきりしている場合は、コーゼーションの過程を使うほうがよいだろう、とも述べている。Read et al. (2009) は、Sarasvathy & Dew (2005) の整理を引いて、エフェクチュエーションの原則を、「設計(Design)」「手段(Means)」「パートナーシップ(Partnership)」「許容可能な損失(Affordable Loss)」「偶然の活用(Leverage Contingency)」の五つとして示している。設計とは、将来は意図をもって行動する人々しだいで決まる、という見方である。Read et al. によれば、五つの原則はどれも予測に頼らない意思決定の方法であり、その根底にある論理は「将来を統制できる限り、それを予測する必要はない」というものである。
身近な例
たとえば、料理が得意で、地元の農家に知り合いが多い人がいるとしよう。コーゼーションの考え方なら、まず飲食市場を調べ、狙う客層と店の形を決め、資金を集めて出店する。エフェクチュエーションの考え方なら、まず手元の強みで何ができるかを考え、失っても困らない範囲で、週末に知り合いの農家の野菜を使った弁当を少し売ってみる。買いに来た人の声から、その人たちが求める料理教室という別の事業が生まれるかもしれない。はじめに思い描いた目標にこだわらず、関わる人と一緒に事業の形を決めていくのである。
主要概念
- コーゼーション(causation)
- 生み出したい特定の結果を先に定め、それを実現する手段のなかから、期待される利益を基準に選ぶ意思決定の過程。
- エフェクチュエーション(effectuation)
- 手元にある手段から出発し、それで生み出せる結果のなかから選び、つくり出していく意思決定の過程。
- 許容可能な損失(affordable loss)
- 期待される利益ではなく、失ってもよいと思える損失の大きさを基準に、どこまで行動するかを決める考え方。
- 偶然の活用(exploitation of contingencies)
- 想定外の出来事を避けるのではなく、新しい機会として取り込むこと。
代表的な展開研究
- Read, S., Song, M., & Smit, W. (2009). A meta-analytic review of effectuation and venture performance. Journal of Business Venturing. DOI ↗Journal of Business Venturing に載った既存の研究から、エフェクチュエーションの原則に対応する変数を選び出し、48の研究(新規事業9897件)をメタ分析した。測定できなかった設計と、有意な関係が見られなかった許容可能な損失を除き、原則は新規事業の成果と正の関係にあった。
批判と境界条件
Arend, Sarooghi & Burkemper (2015) は、理論を「経験(experience)」「説明(explain)」「確立(establish)」の三段階で評価する3E の枠組みをつくり、エフェクチュエーションに当てはめた (p. 634)。その結論は、エフェクチュエーションは理論構築の基本的な基準のいくつかを満たすが、すべてにはほど遠いというものである (p. 631)。そのため、起業の新しい理論としてはまだ発展が足りず、その処方に従うことにも一定の慎重さが要る、とした (p. 644)。
まず、ブリコラージュ、実験、オプション思考、リスク管理などの先行研究を十分に参照しておらず、新しさを示せていない (p. 635)。観察の土台は、1990年代後半に米国の熟練起業家27人に行った、考えを声に出してもらう実験室の調査である (p. 631)。その調査は標本が小さく、「熟練者」の定義に疑問があり、比較群もなかった (p. 635)。競合や代替品といった要素も欠けている (p. 639)。適用範囲の定めも不十分で、どの条件でどの方法が優れるかを比べる土台がない (p. 640)。さらに、不確実で資源の乏しい文脈そのものが、描かれた行動を合理的な対応として導いてしまうため、反証の余地のない同語反復になっている、と論じた (p. 642)。安定した「システム状態」がないことなどから、検証できるかどうかは定まらないとも評価した (p. 635)。
これに対して Read, Sarasvathy, Dew & Wiltbank (2016) は、Arend らの評価の中心には、世界を安定したものと見る実証主義の考え方があり、世界を人の行為によってつくられつつあるものと見るエフェクチュエーションのプラグマティズムの立場とは根本的に異なる、と反論した (p. 528)。Arend らが挙げた六つの前提も、そもそも前提ではないか、誤りだとする (p. 528)。たとえば Read らによれば、Sarasvathy (2001) は命題1で、エフェクチュエーションは失敗の確率を下げるとは限らず、失敗の費用と時間を減らしやすいと述べており、Arend らの言う「生み出したもの(事業)の成功」という前提を退けている (p. 528)。また、Arend らはエフェクチュエーションの関連文献の77%を引いていないと指摘した (p. 528)。
一方で Read et al. (2016) も、エフェクチュエーションの研究はまだ不完全で、ところどころ一貫していないと認めている (p. 531)。エフェクチュエーションの世界観がすべての人にいつでも正しいとは言っていない、とも断っている (p. 530)。彼らが挙げた七つの今後の課題の一つは、戦略としての統制と成果としての統制が混同されているため、統制の概念を明確にすることである (p. 531)。もう一つは、どんな条件でコーゼーションなど別の方法が必要になるか、予測に頼る戦略と頼らない戦略をどう組み合わせるかを示すことである (p. 531)。実証面では Read, Song & Smit (2009) のメタ分析が、測定できた原則のうち許容可能な損失以外は新規事業の成果と正の有意な関係にあったと報告した (p. 574)。ただし手段にもとづいて決める意思決定の向きを調べた研究は見つからず、手段そのものを測った (p. 585)。
研究上の位置づけ
Causation and effectuation: Toward a theoretical shift from economic inevitability to entrepreneurial contingency
出典
- 原典Sarasvathy, S. D. (2001). Causation and effectuation: Toward a theoretical shift from economic inevitability to entrepreneurial contingency. Academy of Management Review. DOI ↗
- Arend, Sarooghi & Burkemper (2015). Effectuation as ineffectual? Applying the 3E theory-assessment framework to a proposed new theory of entrepreneurship. Academy of Management Review. ↗
- Read, Sarasvathy, Dew & Wiltbank (2016). Response to Arend, Sarooghi, and Burkemper (2015): Cocreating effectual entrepreneurship research. Academy of Management Review. ↗
- Sarasvathy (2001). Effectual reasoning in entrepreneurial decision making: Existence and bounds. Academy of Management Proceedings. ↗
- Sarasvathy & Dew (2005). Entrepreneurial logics for a technology of foolishness. Scandinavian Journal of Management. ↗
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