理論・視点

意図的戦略と創発的戦略Deliberate and Emergent Strategy

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

実際に実現する戦略は、事前に計画された意図的戦略だけでなく、日々の行動の積み重ねから結果として形づくられる創発的戦略が混ざり合ったものだ、という視点。

目次
説明したい問い企業の戦略は、計画どおりにつくられるのか、それとも行動の中から生まれるのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

教科書的な戦略論では、経営者がまず分析し、計画を立て、それを実行する。しかし実際の企業を見ると、計画どおりに進まないことや、計画にないのにうまくいった取り組みが多い。戦略はどのように形成されるのか。

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主張とメカニズム

Mintzberg & Waters (1985) は、戦略を「意思決定の流れの中のパターン」とする定義(Mintzberg, 1978 など)から研究を始め、のちに戦略を「行動の流れの中のパターン」として捉えるようになった。こう定義すると、意図した戦略と実現した戦略を比べられる。意図のうち実現したものが意図的戦略、実現しなかったものが実現されなかった戦略である。そして、意図がないまま、あるいは意図に反して、行動の中にパターンとして実現したものが創発的戦略である。

Mintzberg & Waters (1985) は、完全に意図的な戦略も、完全に創発的な戦略も現実にはまれだとした。実際の戦略は両者の間のどこかに位置する。創発的戦略は、現場での試行錯誤から組織が学ぶ道を開く。一方、意図的戦略は方向性と統制をもたらす。経営者には、意図を実現するよう方向づけながら、行動の中に現れるパターンに気づいて応じることが求められる。組織の一部で生まれたパターンがうまくいけば、受け入れて広げ、以後は意図的戦略として取り込むこともできる。

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代表的な事例

Mintzberg (1991) は、Pascale (1984) が当事者から聞き取ったホンダの米国進出を、戦略経営の文献の中で、ある意味では自分が知る唯一の確かな事実として挙げている。ホンダの経営者たちは当初、小型バイクは米国では売れない見込みの薄い製品だと考えていた。ところが、ロサンゼルスで小型バイクに乗って回っていた数人の日本人の担当者が、思わぬ反応に驚き、そこから学んだ。ホンダは、この小型バイクを軸にした戦略で米国のバイク市場の3分の2を獲得した。一方、Boston Consulting Group (1975) はこの成功を見事に合理的な戦略の成果として描いたが、Mintzberg によれば、当事者の話はそれとはまったく違っていた。現場での学習が、外からは合理的な計画の成果として語られていた例である。

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身近な例

ある企業が大型製品で海外市場を攻める計画を立てたが、売れなかった。ところが、現地の社員が自分用に持ち込んだ小型製品に問い合わせが集まり、やがてそれが主力事業になった。計画ではなく、現場の動きから戦略が生まれた例といえる。

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主要概念

意図的戦略(deliberate strategy)
事前に意図され、そのとおりに実現した戦略。
創発的戦略(emergent strategy)
意図がないまま、あるいは意図に反して、行動の中にパターン(一貫性)として実現した戦略。
実現された戦略(realized strategy)
実際の行動の流れの中に見られる戦略のパターン。
実現されなかった戦略(unrealized strategy)
意図されたが、意図したとおりには実現しなかった戦略。
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代表的な展開研究

  • Mintzberg, H. (1978). Patterns in strategy formation. Management Science. DOI ↗戦略を「意思決定の流れの中のパターン」と定義し、組織の戦略がどう形成されるかを追跡して調べる研究の足がかりとした。
  • Burgelman, R. A. (1983). A process model of internal corporate venturing in the diversified major firm. Administrative Science Quarterly. DOI ↗米国の多角化した大企業1社で、進行中の6つの社内ベンチャー事業を探索的に調べた(61人への聞き取りなど)。新事業は、現場の技術者が今の全社戦略の範囲の外で始める取り組み(自律的な戦略的行動)から生まれていた。ミドル・マネジャーは、それを戦略の言葉で説明し、全社戦略を広げるようトップを説得した。トップ・マネジメントの役割は主に、成功した取り組みを後から全社戦略の中に位置づけることにとどまっていた。
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批判と境界条件

創発的戦略をめぐっては、計画を重視する立場との間によく知られた論争がある。Mintzberg (1990) は、戦略は経営トップが意識的に考え抜き、実行の前に明確な形にまとめるべきだとする「デザイン・スクール」の前提を批判した。批判の中心は、行動から切り離して考えることを重んじ、戦略の形成を学習ではなく構想として扱っている点にあるという(p. 182)。明示された戦略は方向を定める代わりに視野を狭め、必要な変化を妨げうるとも論じた(p. 184)。

これに Ansoff (1991) が反論した。Mintzberg の戦略の定義は記述的で、一連の行動が終わってからでないと戦略を特定できないが、実務で使われる戦略は行動に先立って立てるものだという(pp. 456–457)。また、失敗例が多いという記述を、根拠なしに試行錯誤を勧める処方に変えていると批判した(p. 456)。試行錯誤は、多角化のように失敗の費用が大きい場面では高くつき、変化の速い環境では、先を読んで計画した競合に市場を先取りされる(pp. 455–456)。Mintzberg の処方は、経営者が戦略を考える役割を手放すよう促すものだとも述べた(p. 458)。ただし Ansoff も、変化が漸進的で、組織の対応より遅い環境では、Mintzberg のモデルは妥当な処方になると認めている(pp. 458–460)。

Mintzberg (1991) は再反論で、Ansoff の挙げる「事実」の多くが、査読を経ていない博士論文などに基づいていると指摘した(p. 464)。そのうえで、計画や明示的な戦略を否定しているわけではなく、創発的な学習と意図的な計画はどちらも必要だと述べた。新しい戦略を構想するのは形式的な技法では扱えない創造的な過程であり、それを複雑な組織で実行するには多くの形式的な分析が要る。問題は、どちらか一方ですべてができると考えることにあるという(pp. 463, 465)。Mintzberg (1990, pp. 190–191) 自身も、情報が一人の頭で扱えて状況が安定している場合や、新しい組織の立ち上げ期、大きな方向転換を経て安定期に入る時期には、デザイン・スクールのやり方が当てはまるとしている。

研究上の位置づけ

原典Mintzberg, H., & Waters, J. A. (1985)
Of strategies, deliberate and emergent
分類概念
地図の区画戦略
分析単位組織
理論系譜プロセス · 行動論
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。