ルーティン・ダイナミクスRoutine Dynamics
別名ルーティンの動態、オステンシブ/パフォーマティブ
一言で言うと組織のルーティンを、決まった手順が機械的に繰り返されるものではなく、抽象的な「型」の側面と、特定の人がその場で行う「実行」の側面が互いを作り合う行為のパターンとして捉える見方。Feldman & Pentland (2003) は、実行のなかで生まれた変異が型に選択的に保持されることで、ルーティンが安定だけでなく内側からの変化も生むと論じた。
中核的な問い
採用、予算編成、新入生の入寮のように、組織の仕事の多くはほぼ同じ手順で毎回繰り返される。従来の組織論はこうしたルーティンを、個人の習慣、あらかじめ決められたプログラム、あるいは遺伝子にたとえ、効率と正統性をもたらす一方で、慣性や硬直、思考停止の原因になると考えてきた(Feldman & Pentland, 2003)。ところが現場を観察すると、安定した環境にある歴史の長い組織でも、変わらないはずのルーティンが変わっていく(Feldman & Pentland, 2003; Feldman, 2000)。同じことを繰り返しているはずの仕事が、なぜ安定し、またなぜ変わるのか。ルーティン・ダイナミクスは、ルーティンを固定した「物」ではなく、人々が行う行為のパターンとして捉えることで、この問いに答えようとする。
主張とメカニズム
Feldman & Pentland (2003) は、組織ルーティンを「複数の行為者が担う、反復的で、それと認識できる、相互依存的な行為のパターン」とする既存の中核的定義をそのまま受け入れ、Latour の権力論の区別を借りて、ルーティンを二つの側面の組み合わせとして捉え直した。型の側面(ostensive aspect)は、ルーティンの「理想的あるいは図式的な形」であり、「抽象的・一般的なルーティンの観念、すなわち原理としてのルーティン」である。実行の側面(performative aspect)は、「特定の人々が、特定の場所と時間に行う具体的な行為」であり、「実践としてのルーティン」である。ルーティンが存在するには両方が必要である。型は標準作業手順として文書化されることも、当然視された規範として存在することもあるが、一つにまとまった対象ではなく、参加者の役割や立場によって異なる。学部長と大学院生では、同じ採用ルーティンの見え方が違う。また、規則をいくら重ねても実行を完全には特定できず、規則は行為の資源であっても行為を決めきらない。そのため実行は本質的に即興的である。
二つの側面は再帰的に関係している。実行が型を作り直し、型が実行を制約し可能にする。型から実行への方向には、導く・説明する・指し示すという三つの使い方(guiding, accounting, referring)がある。型を行為のひな形として前もって使う(ただし細部は人が選ぶしかない)、したことを後から説明して正統なものとして示す、「採用」のような呼び名で把握しきれない膨大な活動をひとまとまりとして指す、の三つである。逆に実行から型への方向では、実行が型を創出し、維持し、修正する。話すことが言語を作り、保ち、変えるのと同じで、その多くは意図せざる結果である。反復され、パターンとして認識されてはじめてルーティンは生まれ、演じられ続けることで遂行能力が保たれ(誰も演奏しない楽譜は意味を失う)、人々が型から外れた新しいことをすると、型のもとになる行為のレパートリーが変わる。
変化の源は定義そのものにある。参加者が複数いるので情報・解釈・目標は必ず多様になり、単一の客観的なルーティンは存在しない。参加者は他人の行為そのものではなくその産物(求人広告など)しか見ないことがあり、この不透明さが解釈の違いを生む。行為は相互依存的で、上流の人の選択が下流の選択肢を開いたり閉じたりする。著者らは Campbell の変異と選択的保持の枠組みを使い、実行は型のなかに選択的に保持される変異だと定式化した。変異には、仕事のやり方を変えようとする意図的なものも、型の新しい解釈や状況への調整のような意図しないものもあり、人々はその一部を「このルーティンのやり方」の物語に組み込むことで保持する。どの実行を正統な型と認めるかは、例外を規則に変える力をもつ個人や集団の権力に左右される。
この考えの実証的な土台が Feldman (2000) である。著者は大規模州立大学の学生寮部門を4年間、約1,750時間観察し、予算、採用、研修、入寮、退寮という毎年の五つのルーティンを追った。安定の要因を調べるつもりだったが、ほとんどが大きく変化していた。著者はルーティンを計画・行為・結果・理想の循環として捉える。変化の引き金となる結果は四つある。意図した結果が出ない、意図せず望ましくない結果が出る、結果が新しい資源と機会を生む、意図どおりでも理想に届かない、である。前の二つには「修復」で応じ、これは安定した均衡に戻るだけかもしれないが、新しい機会への「拡張」と、理想との差を埋める「努力(striving)」は仕事の基準そのものを変えるため、継続的な変化を生みやすい。変化は合意だけから生じるわけでもない。学生スタッフの採用を一括選考に変えると質が均一になり、中央の管理者はこれを機に課題別の専門担当制度を作ったが、各寮の寮長は寮生の多様さに見合うチームが組めないと考え、公式の手続きを迂回し始めた。
では、ルーティンは設計できるのか。Pentland & Feldman (2008) は、行為のパターンを望みながら人工物を設計してしまうことを「愚行(folly)」と呼んだ。ある大学で、労働組合員向けと人事担当者向けの二つの社会人講座が、同じ廊下にありながら別々のスタッフとデータベースで運営されていた。大型計算機の廃止を機に市販の講座管理ソフトを入れ、会計と報告を統一しようとした。勘定科目や講座コードの設計はうまくいったが、導入は停滞し、労働側はソフトを使わず、人事側も一部の機能しか使わず、どちらも会計・報告には従来の表計算を使い続けた。技術的な失敗ではなく、「うちの人をそっちのデータベースに入れたくない」という声のように、二つの部門の別々のアイデンティティを保つ既存のパターンが維持されたと著者らは見る。著者らによれば、手順書やソフトのような人工物は型の側面と同じではない。型は参加者の身体的・認知的な理解であり、人によって異なる。多くの人工物は、鍵のかかった扉より「関係者以外立入禁止」の貼り紙に近く、解釈に開かれている。管理者が設計するのは人工物であってルーティンではない。
Pentland et al. (2012) は、この過程をシミュレーションで示した。どの行為の後にどの行為が来やすいかを記録した遷移行列を「履歴」とし、型の側面や性向(disposition)と解釈できるものとした。変えるのは、各行為が無作為に別の行為に置き換わる確率(変異)、履歴に残す過去の実行の数(保持)、平均よりコストの低い実行だけを履歴に加えるかどうか(選択)である。ルーティンは実行が保持されるだけで形成され、選択は要らない。履歴が短いとパターンはすぐに固定される。一方、わずかな無作為の変異があれば、パターンは漂流し続け、固定は起こらない(履歴が短く変異も小さい場合は固定もありうる)。選択を加えると学習曲線が現れ、履歴が短いほど学習は速い。慣性と内生的変化は同じ仕組みから生じ、組織を変えるにはルーティンを「壊す」必要があるという考えと矛盾する。また、モデルからは、変異がなければコスト構造が変わっても新しい選択肢が加わってもパターンは変わらない(選択肢を取り除けば変わる)と予測される。
身近な例
ある損害保険会社のコールセンターでは、事故の連絡を受けたら記録票に入力し、査定部門に回し、結果が出たら折り返す、という流れが「いつものやり方」として共有されている。ある日、ベテランのオペレーターが、査定を待つあいだに一度お客様へ途中経過の電話を入れた。苦情が減ったという話が朝礼で紹介され、何人かがまねを始めた。半年後には、リーダーが新人研修で「途中連絡」を教えるようになり、記録票にも連絡日の欄が加わった。一人の工夫が選ばれて残り、日々の実行の積み重ねが、仕事の型そのものを書き換えたのである。同じころ本社は案件管理システムを入れ替えたが、入力欄は埋まるようになったものの、部門をまたいで案件を引き継ぐという狙いどおりの流れは、まだ生まれていない。
関連理論との違い
Feldman & Pentland (2003) によれば、従来の見方ではルーティンは一つにまとまった変わらない存在として扱われ、変化は市場や新技術のような外からの力で起こると考えられてきた。進化論的な見方は Nelson & Winter (1982) にならってルーティンを遺伝子にたとえ、組織の進化や生態を論じる研究は、情報をほぼそのまま次へ伝える仕組みとしてルーティンの安定性に頼ってきた。著者らは、遺伝子そのものが変わるならその前提は自明ではないと指摘する。また、ルーティンが慣性を生み外部の力で一気に変わるとする断続的変化の理論と、ルーティンを絶えず修正する連続的変化の理論について、型と実行のあいだの変異・選択・保持の過程によって、慣性が大きいときとそうでないときの両方を説明できると主張する。同じ組織の中でも変わりやすいルーティンと変わりにくいルーティンがあり、その違いは組織レベルの要因よりもルーティン内部の動態によるらしいという。
主要概念
- 組織ルーティン(organizational routine)
- 複数の行為者が担う、反復的で、それと認識できる、相互依存的な行為のパターン(Feldman & Pentland, 2003)。手順や規則として文書化されることもあるが、それは中核的定義の必須要素ではない。
- 型の側面(ostensive aspect)
- ルーティンの理想的・図式的な形であり、抽象的・一般的な観念としての「原理としてのルーティン」(Feldman & Pentland, 2003)。参加者の理解から成り、立場によって異なるため、Pentland & Feldman (2008) は複数形で語る。
- 実行の側面(performative aspect)
- 特定の人々が、特定の場所と時間に行う具体的な行為であり、「実践としてのルーティン」(Feldman & Pentland, 2003)。本質的に即興的とされる。
- 導く・説明する・指し示す(guiding, accounting, referring)
- 型の側面を実行に対して使う三つの仕方。行為のひな形にする、したことを説明し正統化する、活動のまとまりに名前を付けて指す(Feldman & Pentland, 2003)。
- 創出・維持・修正(creation, maintenance, modification)
- 実行が型の側面に対してもつ三つの効果。多くは行為の意図せざる結果である(Feldman & Pentland, 2003)。
- 変異と選択的保持(variation and selective retention)
- 実行のなかで生じた変異の一部が型の側面に保持されることで、ルーティンが内側から変わる過程(Feldman & Pentland, 2003)。Pentland et al. (2012) では変異・保持・選択の三つのパラメータとしてモデル化された。
- 修復・拡張・努力(repairing, expanding, striving)
- Feldman (2000) が示した、ルーティンの結果に対する三つの変化の応じ方。拡張と努力は仕事の基準を変えるため、継続的な変化を生みやすい。
- 人工物(artifacts)
- 規則、手順書、書式、ソフトウェア、物理的な環境など。型や実行を反映し、影響することはあるが、ルーティンそのものとは区別される(Pentland & Feldman, 2008)。
- 生きたルーティン/死んだルーティン(live / dead routines)
- Pentland & Feldman (2008) が Cohen の区別を借りて用いた対比。死んだルーティンは硬直的で明示的に保存できる人工物であり、経験から学ぶ人が関わるルーティンは少なくとも部分的に「生きて」いて、新しい行為や、ときに新しいパターンを生む。
代表的な展開研究
- Feldman, M. S. (2000). Organizational routines as a source of continuous change. Organization Science. DOI ↗大学の学生寮部門の4年間の観察から、ルーティンの参加者が前回の結果に応じてやり方を変えることを示し、修復・拡張・努力という変化の応じ方を区別した。拡張と努力は基準そのものを変えるので継続的な変化を生みやすいとする。
- Pentland, B. T., & Feldman, M. S. (2008). Designing routines: On the folly of designing artifacts, while hoping for patterns of action. Information and Organization. DOI ↗講座管理ソフト導入の失敗例をもとに、人工物を設計しても行為のパターンは変わるとは限らないと論じ、型の側面への投資や参加者の視点の重視など、生きたルーティンを設計するための指針を示した。
- Pentland, B. T., Feldman, M. S., Becker, M. C., & Liu, P. (2012). Dynamics of organizational routines: A generative model. Journal of Management Studies. DOI ↗変異・保持・選択を組み込んだシミュレーションで、形成と慣性は保持だけで、内生的変化は保持と変異で、学習曲線は選択も加えて生じることを示した。慣性と漂流は同じ仕組みから生まれる。
- Felin, T., Foss, N. J., Heimeriks, K. H., & Madsen, T. L. (2012). Microfoundations of routines and capabilities: Individuals, processes, and structure. Journal of Management Studies. DOI ↗ルーティンと能力のミクロ的基礎を、個人、過程と相互作用、構造の三つに整理し、個人の違いや人の移動がルーティンに与える影響などを研究課題として示した。
批判と境界条件
ルーティン・ダイナミクスを直接批判したものではないが、Felin et al. (2012) は、多くの学問分野は集合レベルから出発して下位レベルの要素が一様な効果をもつと暗黙に仮定するが、分野が進むとその仮定は維持できなくなると述べ(p. 1354)、ルーティンと能力についても、個人、過程と相互作用、構造という三つのミクロ的基礎を検討するよう求めた(p. 1357)。彼らはルーティンが、個人よりも相互作用に重点を置く集合的な現象として定義されてきたことを確認したうえで(p. 1355)、ルーティンや能力は関わる個人の特性に大きく左右されうるとし(p. 1361)、人の移動が組織に大きな影響を与えるという証拠を挙げ(p. 1362)、ルーティンの中で特定の個人が果たす役割を今後の問いとした(p. 1363)。一方、同じ号に載った Pentland et al. (2012) は、個人の行為者に注目する従来の研究はマクロな動態の説明で成果を上げていないとして(p. 1489)、行為そのものを基礎に置き、個人の特徴は必要でも十分でもないと主張した(p. 1499)。Felin et al. 自身も、個人レベルの要因が本当に中心的かを議論することを特集の目的の一つとし、特集内の二つの小論がミクロ的基礎の研究計画を批判していると紹介している(p. 1368)。
著者ら自身も限界を認めている。Feldman (2000) は、示したのは観察した事例で実現した変化の可能性であり、すべての場合に実現するわけではないと述べる(p. 626)。観察したルーティンは年1回で、担い手は裁量をもつ専門職、上司は変化を支持し、組織は緩やかに結合していた。裁量の小さい人が担うルーティンや、離れた人々のルーティンと結びついたルーティンでは、同じ変化は起こりにくいかもしれない(pp. 626–627)。Feldman & Pentland (2003) は、変異と選択的保持によってルーティンが機能的に適応するとは限らず、それには有効で一貫した選択の仕組みが要ると断り(p. 112)、どんな条件で安定し変わるのか、権力が選択にどう影響するのかを今後の課題とした(pp. 115–116)。
Pentland & Feldman (2008) は、ソフト導入が失敗した理由について確かな結論は引き出せないと認めている(p. 239)。Pentland et al. (2012) のモデルは無作為な変異と原始的な選択しか組み込まず(pp. 1502–1503)、選択肢の集合を固定と仮定し(pp. 1493, 1504)、一次のマルコフ過程の仮定も検証を要する(p. 1493)。変異・選択・保持の値は現象を示すために選んだもので、実際の組織で測る必要があるとしている(p. 1504)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Feldman, M. S., & Pentland, B. T. (2003). Reconceptualizing organizational routines as a source of flexibility and change. Administrative Science Quarterly. DOI ↗
- Feldman, M. S., & Pentland, B. T. (2003). Reconceptualizing organizational routines as a source of flexibility and change. Administrative Science Quarterly. ↗
- Feldman, M. S. (2000). Organizational routines as a source of continuous change. Organization Science. ↗
- Pentland, B. T., & Feldman, M. S. (2008). Designing routines: On the folly of designing artifacts, while hoping for patterns of action. Information and Organization. ↗
- Pentland, B. T., Feldman, M. S., Becker, M. C., & Liu, P. (2012). Dynamics of organizational routines: A generative model. Journal of Management Studies. ↗
- Felin, T., Foss, N. J., Heimeriks, K. H., & Madsen, T. L. (2012). Microfoundations of routines and capabilities: Individuals, processes, and structure. Journal of Management Studies. ↗
- Nelson, R. R., & Winter, S. G. (1982). An evolutionary theory of economic change. Harvard University Press.
- Latour, B. (1986). The powers of association. In J. Law (Ed.), Power, action and belief.
- Campbell, D. T. (1965). Variation and selective retention in socio-cultural evolution. In H. R. Barringer, G. I. Blanksten, & R. W. Mack (Eds.), Social change in developing areas.
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