技術の二重性The Duality of Technology
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと技術は、人がつくり、使い方を変えていく産物であると同時に、人の行動を方向づける枠組みでもある。技術と組織は一方的に影響するのではなく、人の使い方を通じて互いにつくり合う、という視点。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
技術研究には二つの見方があった。一つは、技術が組織の構造や仕事を決めるという見方(技術決定論)である。もう一つは、人々の解釈や選択が技術の意味を決めるという見方である。どちらか一方だけでは、同じ技術が職場によってまったく違う使われ方をすることを説明しにくい。二つをどう結びつけるか。
主張とメカニズム
Orlikowski (1992) は、社会学者 Giddens の構造化理論をもとに、技術を二つの面から捉えた。技術は、設計者がつくり、利用者が使いながら手を加える、人の行動の産物である。同時に、いったん使われ始めると、人の行動を可能にしたり制約したりする枠組みにもなる。
さらに、技術の意味や使い方は一つに決まらず、関わる人によって解釈が分かれる(解釈の柔軟性)。Orlikowski (1992) は、解釈の柔軟性は無限ではなく、技術の物質的な特徴、設計と使用の制度的な文脈、関わる人々の権力・知識・利害によって制約されるとしている。また、時間がたち、使い方が習慣になって定着すると、技術は変えにくい「当たり前」のものに見えてくる。技術、人(設計者・利用者・意思決定者)、組織の制度的な性質(構造、戦略、文化、標準的な手続きなど)の三つが、設計と使用を通じて互いに影響し合う過程として、技術と組織の関わりを捉える「技術の構造化モデル」を提案した。
身近な例
同じオンライン会議ツールを導入しても、ある部署では雑談も交えた気軽な相談の場として使われ、別の部署では上司が一方的に話す報告会として使われる。いったん使い方が固まると、それが「この部署のやり方」として新人にも引き継がれ、ツールの機能以上に働き方を方向づけるようになる。
主要概念
- 構造化理論(structuration theory)
- 人の行為と社会の構造が、互いを生み出し合うとする Giddens の社会理論。
- 解釈の柔軟性(interpretive flexibility)
- 同じ技術でも、関わる人によって意味や使い方の理解が異なりうること。Orlikowski (1992) は、利用者が開発や使用の中で技術のあり方を(物理的にも意味の上でも)つくることにどの程度関わるか、その度合いを指す語として用いた。
- 技術決定論(technological determinism)
- 技術が組織や社会のあり方を一方的に決めるとする考え方。
- 実践としての技術(technologies-in-practice)
- Orlikowski (2000) が示した概念で、技術そのものではなく、人々が繰り返し使う中で生まれる使い方のパターン。
代表的な展開研究
- DeSanctis, G., & Poole, M. S. (1994). Capturing the complexity in advanced technology use: Adaptive structuration theory. Organization Science. DOI ↗構造化理論を集団での情報技術の利用に当てはめ、利用者が技術をどう取り込むかを分析する枠組みを示した。
- Orlikowski, W. J. (2000). Using technology and constituting structures: A practice lens for studying technology in organizations. Organization Science. DOI ↗構造は技術に埋め込まれているのではなく、使う実践の中で生まれるとする「実践のレンズ」を示した。Jones & Karsten (2008) は、これを1992年の論文とはかなり異なる立場だとしている。
批判と境界条件
Jones & Karsten (2008, p. 128) によれば、Orlikowski が土台にした Giddens の構造化理論は、技術という人工物をほとんど扱っていない。Giddens の考えでは、構造は人々の実践の中に現れるときと記憶の中にだけあるので、技術に埋め込むことはできず、埋め込まれているとみれば、構造と行為の「二重性」が「二元論」に変わってしまう(pp. 131–132)。Jones & Karsten (2008, p. 142) の整理によれば、Orlikowski (1992) は、利用者が「技術に埋め込まれた規則と資源」に従う場合を論じており、Jones & Karsten (p. 146) は、技術の二重性のいくつかの点も Giddens の考えと食い違うようにみえるとした。これについては、Orlikowski (2000) 自身が1992年とはかなり異なる立場に移り、技術の構造は「埋め込まれているのではなく、使う中で生まれる」と論じている(Jones & Karsten, 2008, p. 142)。
技術の物質的な性質の扱いが弱いという批判もある。Leonardi & Barley (2008, p. 163) は、Orlikowski (1992, 2000) などを例に、研究の関心が人々のやりとりや解釈に向かい、人々が技術のどの機能をなぜ使うのかを示してこなかったと指摘した。物質的な性質の影響を論じると「技術決定論者」とみなされやすいことが、その背景にあるという(p. 163)。もっとも、Jones & Karsten (2008, p. 142) の整理によれば、Orlikowski (1992) も、解釈の柔軟性は無限ではなく、技術の物質的な特徴などによって制約されるとしていた。
土台となる構造化理論そのものについては、実証研究の手がかりになりにくいという批判がある。Jones & Karsten (2008, p. 134) の整理によれば、Gregson (1989) は、この理論は一般的すぎて個々の実証の場面で指針にならないとした。Giddens はこの批判を退けたが、自分の原理は研究を実際に進めるための概念を与えるものではないとも述べている(p. 134)。一方で Jones & Karsten (2008, p. 152) は、Giddens を実質的に引いた情報システム研究が330本を超え、その中に多くの実証研究があることを示した。
Orlikowski & Scott (2008) は、構造化理論にもとづく研究を、人・組織と技術を互いに影響し合う相互依存的なシステムとみる流れに位置づけ、この流れも、技術と人がそもそも別々のものだという前提を問わないままにしていると論じた(pp. 438, 454–455)。そのうえで、社会的なものと物質的なものは本来切り離せないとみるソシオマテリアリティの考え方を示した(p. 456)。ただし、この流れはまだ新しく、整理して分析できるほど固まっていないことも認めている(p. 456)。
研究上の位置づけ
The duality of technology: Rethinking the concept of technology in organizations
出典
- 原典Orlikowski, W. J. (1992). The duality of technology: Rethinking the concept of technology in organizations. Organization Science. DOI ↗
- Leonardi & Barley (2008). Materiality and change: Challenges to building better theory about technology and organizing. Information and Organization. ↗
- Orlikowski & Scott (2008). Sociomateriality: Challenging the separation of technology, work and organization. Academy of Management Annals. ↗
- Jones & Karsten (2008). Giddens's structuration theory and information systems research. MIS Quarterly. ↗
- Giddens (1984). The constitution of society: Outline of the theory of structuration. Polity Press.
- Gregson (1989). On the (ir)relevance of structuration theory to empirical research. In Held & Thompson (Eds.), Social theory of modern societies: Anthony Giddens and his critics. Cambridge University Press.
本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。