理論・視点

境界物(バウンダリー・オブジェクト)Boundary Objects

別名境界オブジェクト

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

立場や専門の異なる集団が、完全な合意なしに協働できるのは、それぞれが自分なりに解釈しながらも共通に使える「モノ」があるからだ、とする考え方。

目次
説明したい問い異なる世界に住む人々は、意味の食い違いを抱えたまま、どのように協働するのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

研究者、アマチュア、管理者など、目的も言葉も異なる人々が一つの事業に関わることがある。全員が同じ理解に達するのは難しい。それでも協働が成り立つのはなぜか。

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主張とメカニズム

Star & Griesemer (1989) は、1908年に設立されたカリフォルニア大学バークレー校の脊椎動物学博物館の発展を、アマチュアと専門家の関係から分析した。そこでは、アマチュアの博物学者、わな猟師、専門の生物学者、篤志家、大学の管理者など、立場の異なる人々が博物館の発展に関わった。彼らをつないだのは、標本、野外記録、地図などのモノと、標本の収集と記録の方法の標準化であった。

これらのモノは、各集団の事情に合わせて柔軟に読み替えられる一方で、集団をまたいで同じものだと分かるだけの共通の形を保っている。Star & Griesemer (1989) は境界物を次のように定めた。境界物は、集団の間にあるときは緩やかな構造しか持たない。必要なときには、各集団が共通の対象としての輪郭を保ったまま、自分たちの用途に合わせて具体的にする。Star (2010) によれば、合意のないまま協働する集団は、この二つの形の間を行き来する。境界物があれば、合意を先に済ませなくても、情報を受け渡し、作業を分担できる。

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身近な例

新製品の開発で、設計者、営業、製造担当が試作品を囲んで議論する。設計者は構造を、営業は見た目と価格を、製造担当は組み立てやすさを見ている。見ているところは違っても、同じ試作品を指さしながら話すことで、互いの懸念を具体的に伝え合える。

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主要概念

境界物(boundary object)
複数の集団の間にあって、各集団が自分たちの用途に合わせて具体化できる柔軟さと、共通のものと認識できる構造を併せ持つ対象。Star (2010) によれば、ここでいう対象は物に限らず、人々がそれに向かい、それを使って行為するものを指し、理論も対象になりうる。
解釈の柔軟性(interpretive flexibility)
同じ対象が、集団によって異なる意味で理解されうること。Star (2010) によれば、境界物の側面のうち最もよく注目され、使われてきたものである。
標準化された形式(standardized forms)
記録用紙のように、離れた場所に散らばって働く集団の間で、共通の形で情報を伝え合うための仕組み。Carlile (2002) は、Star が示した境界物の四つの類型を製品開発に当てはめ、その一つを、報告の標準や問題解決の手法(D-FMEA など)を含む「標準化された形式と方法」とした。
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代表的な展開研究

  • Carlile, P. R. (2002). A pragmatic view of knowledge and boundaries: Boundary objects in new product development. Organization Science. DOI ↗自動車部品メーカーの新製品開発を約1年観察したエスノグラフィー。部門間の知識の境界を統語的・意味的・プラグマティックの三つに分け、有効な境界物は、知識を表し、違いと依存関係を学び、知識を共同で変えることを助けるとした。
  • Bechky, B. A. (2003). Sharing meaning across occupational communities: The transformation of understanding on a production floor. Organization Science. DOI ↗半導体製造装置メーカーでの1年間のエスノグラフィー。設計技術者、技術員、組立作業者の間の理解の食い違いは、言葉、実践の場、製品のとらえ方の違いに根ざしていた。問題を実物で示すことが共通の理解の土台をつくり、互いの理解を変えた一方、技術図面は組立作業者には抽象的すぎて、技術者と組立作業者の間の境界物としては役立たなかった。
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批判と境界条件

Star (2010, p. 602) によれば、境界物の概念は、時と場所に恵まれたために、解釈の柔軟性とほとんど同じ意味になった。Star は、境界物のほかの二つの側面、すなわち境界物の種類ごとの物質的・組織的な構造と、規模(粒度)の問題は、ずっと引用されることが少なかったと述べる(p. 602)。さらに、緩やかな共通の形と、各集団が具体化した形の間を行き来する動きは概念の中心にあるのに、この概念を使う論文ではしばしば無視されてきたという(pp. 604–605)。

Star (2010, p. 604) は、講演のたびに「境界物でないものは何か」「何でも境界物になりうるのではないか」と問われてきたと書いている。Star は、他人の概念の使い方を裁定しようとしたことはないとしつつ、組織のレベルで最も役立つ概念だと答えている(pp. 604, 612)。語や国旗、有名人も、条件によっては境界物になりうる(pp. 612–613)。しかし、人々が国旗を別々に解釈していると言うだけでは分析はあまり進まず、国旗を作り、宣伝し、配る人々の作業の取り決めを調べるほうが興味深いという(p. 613)。

Carlile (2002, p. 451) は製品開発の事例から、使われるモノがすべて境界物として働くわけではないと指摘した。良い境界物と悪い境界物の違いはそれまでの文献で問われておらず、ある場で境界物として働いたモノが、別の場では境界の障害物になることもある(p. 451)。実際、最新の設計を反映していない組立図は、設計と製造の境界をかえって強めていた(pp. 450–451)。Bechky (2003, p. 326) も、半導体製造装置メーカーの観察から、技術図面は組立作業者には抽象的すぎて、技術者と組立作業者の間の境界物として役立たなかったと報告した。その現場では、機械はしばしば問題を実物で示すのに使われたが、図面は使われなかった(p. 326)。Carlile は65を超える観察をもとに、有効な境界物の性質を三つ挙げた。知識を表す共通の言語を与えること、違いと依存関係を具体的に示して学べるようにすること、知識を共同で変えられるようにすることである(pp. 451–452)。

ただし Carlile (2002, p. 452) は、境界物は「特効薬」ではないとも述べる。問題や人が変わると、その性質を保つのが難しいからである。現場の技術者は、CAD は一つの会議では有効な伝達の道具になり、次の会議では「こん棒」になると語った(p. 452)。知識を共同で変えるのを直接助けるのは「モノ・モデル・マップ」の類型だけで、それは最も複雑で費用もかかる(p. 452)。Star (2010, pp. 613–614) も、時間がたつと管理者や規制機関がこの行き来を統制し、標準化しようとすると述べる。標準化された仕組みは「該当なし」のような残余カテゴリーを生み、そこに置かれた人々が新しい境界物を作り始めることがあるという(p. 614)。Bechky (2003, p. 327) も、実物で示すことが共通の理解を生むのは、実物がどの集団にとっても意味をもち、集団間の作業の文脈の違いが乗り越えられないほどではない場合に限られると述べている。

研究上の位置づけ

原典Star, S. L., & Griesemer, J. R. (1989)
Institutional ecology, 'translations' and boundary objects: Amateurs and professionals in Berkeley's Museum of Vertebrate Zoology, 1907-39
分類概念
分析単位チーム · 組織 · コミュニティ
理論系譜社会学
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。