技術受容モデル(TAM)Technology Acceptance Model
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一言で言うと人が新しい情報技術を使うかどうかは、主に「役に立ちそうか(知覚された有用性)」と「使うのが楽そうか(知覚された使いやすさ)」という二つの認識で説明できる、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
企業が高価なシステムを導入しても、社員が使わなければ効果は出ない。利用されるかどうかを左右するのは何か。それを少数の要因で予測し、測ることはできるのか。
主張とメカニズム
Davis (1989) は、利用を左右する中心的な認識として二つを挙げた。「知覚された有用性」は、その技術を使うと仕事の成果が上がると本人が思う度合いである。「知覚された使いやすさ」は、その技術を使うのに手間がかからないと本人が思う度合いである。Davis はこの二つをそれぞれ6項目の質問で測る道具を作り、本人が答えた利用(現在の利用や今後の利用の見込み)との関係を確かめた。
Davis (1989) 自身は、二つの認識が重要だとする根拠を、期待理論や自己効力感の理論、意思決定の費用と便益の研究、イノベーションの採用研究などに求めた。一方、Legris et al. (2003) によれば、TAM は Davis (1989) と Davis et al. (1989) が、態度が意図を通じて行動につながるとする社会心理学の理論(合理的行為理論)を作り直して示したモデルである。Bagozzi (2007) の整理では、二つの認識が利用への意図を高め、意図が実際の利用につながる。有用性のほうが利用とより強く結びつき、使いやすさは有用性の感じ方を通じても働くとされる。少ない要因で説明できる簡潔さから、多くの研究で使われてきた。
身近な例
会社が新しい経費精算アプリを導入したとする。入力が面倒なら、社員は「紙のほうが早い」と感じて使わない。逆に、スマートフォンで領収書を撮るだけで済み、精算が早く終わると分かれば、使う人が増える。導入担当者は、機能の多さよりも、この二つの感じ方に注意を払う必要がある。
主要概念
- 知覚された有用性(perceived usefulness)
- その技術を使うと仕事の成果が高まると本人が思う度合い。
- 知覚された使いやすさ(perceived ease of use)
- その技術を使うのに努力がいらないと本人が思う度合い。
- 利用意図(behavioral intention)
- その技術を使おうとする本人の意思の強さ。
- UTAUT(統合技術受容理論)
- 技術受容に関する複数のモデルを統合し、期待される成果や社会的影響などの要因でまとめ直したモデル。
代表的な展開研究
- Venkatesh, V., & Davis, F. D. (2000). A theoretical extension of the technology acceptance model: Four longitudinal field studies. Management Science. DOI ↗有用性の感じ方と利用意図を、社会的影響の過程(主観的規範:自分にとって重要な人の多くが、その行動をすべきだ、またはすべきでないと考えているという本人の認識、自発性:利用が義務ではないと感じる度合い、イメージ:利用によって周囲での地位が高まると感じる度合い)と、認知的な道具的過程(仕事との関連、出力の質、結果の見えやすさ、使いやすさ)で説明する拡張版(TAM2)を示した。4つの組織に導入された4種のシステム(利用が自発的なもの2つ、義務的なもの2つ)について、研修直後と導入1か月後・3か月後の3時点で調べる縦断的なフィールド研究で確かめ、モデルは有用性の感じ方のばらつきの40〜60%、利用意図のばらつきの34〜52%を説明した。
- Venkatesh, V., Morris, M. G., Davis, G. B., & Davis, F. D. (2003). User acceptance of information technology: Toward a unified view. MIS Quarterly. DOI ↗技術受容に関する複数のモデルを比較・統合し、UTAUT としてまとめた。
批判と境界条件
簡潔さは TAM の強みであると同時に弱点でもある。Bagozzi (2007, p. 244) は、TAM が多くの研究で合理的行為理論や計画的行動理論より高い説明力を示してきたと認めたうえで、これほど単純なモデルが多様な技術や状況での決定を説明しきれると期待するのは無理があると述べる。Benbasat & Barki (2007, pp. 212–213) も、有用性の重要さは繰り返し確かめられたが、何がシステムを有用にするのかはほとんど調べられず、有用性と使いやすさは中身の分からないブラックボックスのまま扱われてきたと指摘する。そのため、設計や実務への具体的な手がかりが乏しいという。その背景の一つとして彼らは、有用性の中身を明らかにするには費用と時間のかかる詳しい研究と、まだ存在しない「有用性の理論」が必要になることを挙げている(p. 214)。
利用の測り方にも弱点がある。Legris et al. (2003, p. 196) が検討した22本の実証研究のうち、11本は利用を本人の自己報告で測っており、自動的な記録で測ったのは1本だけで、10本は利用を測っていなかった。彼らは、TAM が実際に説明しているのは自己報告された利用のばらつきであり、自己報告は正確な尺度ではなく、せいぜい相対的な目安にとどまると述べる(p. 202)。また、変数を加えた版でも、利用のばらつきの40%程度しか説明できないことも限界に挙げている(p. 202)。
TAM は個人の意思決定を説明する枠組みとして組み立てられている。Bagozzi (2007, p. 247) は、技術の受け入れや利用は他者と一緒に決められることが多いのに、TAM は社会的な影響を、周囲から意思決定者にかかる圧力のような狭い意味でしか扱ってこなかったと批判する。Legris et al. (2003, p. 202) も、情報システムを組織の動きから切り離して扱う点を限界に挙げ、組織や社会の要因を含むより広いモデルに組み込む必要があるとする。使うことが決められている場面については、Benbasat & Barki (2007, p. 215) が、利用を使用の「量」だけで捉える従来の見方には義務的な利用の場面に当てはめにくいという限界があったとし、適応や学習、使い方の作り直しまで含めて利用を捉え直すことを提案している。
一方で、これらの論者も TAM の成果は認めている。Benbasat & Barki (2007, p. 212) は、有用性が利用に強く影響し、使いやすさがその先行要因でもあることは、ほぼ確実に分かったと述べる。Legris et al. (2003, p. 202) も、TAM を有用なモデルとし、その測定の道具は統計的に信頼できる結果を出してきたと結論づけている。ただし Benbasat & Barki (2007, pp. 213–214) は、変数を付け足す拡張が有用性の中身の理解を深めないまま続いた結果、知識が蓄積しているという錯覚が生まれ、どの版を共通の土台とすべきかも分からない状態になったと批判している。
研究上の位置づけ
Perceived usefulness, perceived ease of use, and user acceptance of information technology
出典
- 原典Davis, F. D. (1989). Perceived usefulness, perceived ease of use, and user acceptance of information technology. MIS Quarterly. DOI ↗
- Bagozzi (2007). The legacy of the technology acceptance model and a proposal for a paradigm shift. Journal of the Association for Information Systems. ↗
- Benbasat & Barki (2007). Quo vadis, TAM? Journal of the Association for Information Systems. ↗
- Legris, Ingham & Collerette (2003). Why do people use information technology? A critical review of the technology acceptance model. Information & Management. ↗
- Davis, Bagozzi & Warshaw (1989). User acceptance of computer technology: A comparison of two theoretical models. Management Science. ↗
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