理論・視点

注意ベース・ビューAttention-Based View of the Firm

別名ABV、アテンション・ベースド・ビュー

一言で言うと

企業が何をするかは、意思決定者がどの問題と解決策に注意を向けるかで決まる。その注意の向け先は、会議・報告・審査といった具体的な場と、ゲームのルール、プレイヤー、構造上のポジション、資源という組織の仕組みによって配分される、という視点。Ocasio (1997) が提唱した。

説明したい問い重要な変化が起きていても、なぜ企業はそれに気づかなかったり、部署ごとにちぐはぐな対応をしたりするのか。
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中核的な問い

企業はなぜ、ある変化には素早く反応し、別の変化には気づかないまま過ごしてしまうのか。Ocasio (1997) は、企業がいつ、なぜ、どのように環境の変化に反応するのか、なぜある決定や動きをとり他はとらないのかを、戦略論の根本的な問いとして掲げた。彼によれば、Simon (1947) はすでに、組織が意思決定者の注意を配分し、状況のどの側面に目を向け、どの側面を無視するかを方向づけると考えていた。Simon にとって企業の行動は、認知の過程であると同時に構造の過程でもあった。

ところがその後の研究は、ルーティンと限定合理性を強調する流れと、緩やかな結びつきやイナクトメント(環境の意味づけ)を強調する流れに分かれ、社会構造が意思決定者の注意を方向づけ配分するという論点は、ほとんど失われてしまった(Ocasio, 1997)。Ocasio はこれを取り戻し、構造と認知を明示的に結びつけることを目的とした。その中心の主張は、企業の行動を説明するとは、企業が意思決定者の注意をどう配分し調整しているかを説明することだ、というものである。

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主張とメカニズム

Ocasio (1997) は、注意を「組織の意思決定者が、イシューと回答の両方に対して、気づき、符号化し、解釈し、時間と努力を集中させること」と定義した。イシューとは、環境を理解するための手持ちのカテゴリー(問題、機会、脅威)であり、回答とは、手持ちの行動の選択肢(提案、ルーティン、プロジェクト、プログラム、手続き)である。そのうえで、三つの相互に関連する原理を置く。第一の「注意の焦点(focus of attention)」は、意思決定者が何をするかは、どのイシューと回答に注意を集中させるかによる、という原理である。人は一度に限られた数のイシューと回答にしか注意を向けられず、行動に影響するのはそれらだけである。第二の「状況に埋め込まれた注意(situated attention)」は、何に注意を向け何をするかは、その人が置かれた具体的な文脈や状況による、という原理である。注意や行動が一貫するかどうかは、個人の特性よりも状況の特性の一貫性による。第三の「注意の構造的分配(structural distribution of attention)」は、意思決定者がどんな状況に置かれ、それにどう注意を向けるかは、企業のルール、資源、社会関係が、イシュー・回答・意思決定者を特定の活動、コミュニケーション、手続きにどう割り振るかによる、という原理である。この見方では、企業の戦略そのものも「組織の注意のパターン」として理解される。

注意が置かれる具体的な場を、Ocasio (1997) は「手続き・コミュニケーション経路」(procedural and communication channels)と呼ぶ。これは、選ばれたイシューについて意思決定者に行動を促すために企業が設ける、公式・非公式の具体的な活動、相互作用、コミュニケーションである。公式・非公式の会議、報告(提案のメモ、四半期・年次報告、顧客満足度調査、原価計算など)、管理上の手続き(人事評価、予算や設備投資の申請など)が含まれる。Ocasio は Stinchcombe (1968) にならい、経路の空間・時間・手続きの三つの次元が、どのイシューと回答が手に入りやすく目立つかを左右するとした。会議でいえば、場所、席の配置、配られる資料が空間の次元、開催の時期や長さ、他の会議との近さが時間の次元、議題、票決のルール、出席者の役割の規範が手続きの次元である。工場で開く会議では製造の問題が目立ち、社外で開く会議は新しいイシューや回答を引き出すために使われる。そのため、経路のささいな違いや偶然が、企業の適応や行動を大きく変えうる。また、同じ企業でも、戦略計画では長期の競争上の機会と脅威として、投資の審査では短期のキャッシュフローとして環境が捉えられるように、企業は経路ごとに一貫しないことがある。

どの経路に何が振り分けられるかを決めるのが「注意構造」(attention structures)である。Ocasio (1997) はこれを、意思決定者の時間、努力、注意の焦点の配分を支配する社会的・経済的・文化的な構造と定義し、ゲームのルール、プレイヤー、構造上のポジション、資源の四つを挙げる。ゲームのルールは、仕事を成し遂げ、地位や評価や報酬を得るうえで意思決定者を導き制約する、公式・非公式の行為・相互作用・解釈の原則で、たいていは暗黙の前提、規範、価値、インセンティブからなる。たとえば競争のルールは、どの競合に注意を払うべきか、何で競うかを定める。プレイヤーは、影響力や権力によって他の意思決定者を方向づける個人や集団で、最も重要なのは CEO と経営陣だが、ミドルや事業部の管理者、労働組合、取締役、大口顧客、機関投資家、アナリスト、コンサルタント、経済メディアもなりうる。会議に出ていなくても、その場の注意を方向づけるプレイヤーがいる。構造上のポジションは、意思決定者の機能と志向、他のポジションとの関係を定める役割と社会的な自己規定であり、環境の異なる側面への注意を分化させると同時に、階層的な権限によって統合も担う。資源は人的・物的・技術的・財務的な資本である。これらは三つのメカニズムで注意を配分する。イシューと回答の価値と正統性を序列づけること(その序列は分業に応じて部署ごとに異なり、既存の資源に埋め込まれた回答ほど高く評価され正統とされやすく、注意と資源の制約は企業を既存資源の活用へと偏らせる)、意思決定を具体的な経路に振り分けること、意思決定者に利害とアイデンティティを与えることである。誰がその場に参加するかも、どのイシューと回答に注意が向くかを左右する。こうした仕組みから、Ocasio は、慣性も、不適切な変化も、うまくいく適応も、同じ注意の過程から生じうると予測した。多事業部企業の本社の主な機能は、組織の注意を調整し統治することにあるという。

Ocasio (2011) は、その後の研究が「注意」という語を別々の意味で使っているため知見が積み上がらないと指摘し、神経科学が区別する選択的注意・警戒(持続的注意)・実行的注意を手がかりに、組織研究の注意を三つの理念型に分けた。第一の注意のパースペクティブ(attentional perspective)は、「関連する刺激と反応への、時間を通じた高い気づきと焦点を生み出す、トップダウンの認知的(かつ動機的)構造」である。企業の支配的な注意のパースペクティブは、資源配分についての見方としての戦略にあたる。第二の注意のエンゲージメント(attentional engagement)は、「問題解決、計画、意味形成、意思決定を導くための、意図的で持続的な認知資源の配分の過程」である。第三の注意の選択(attentional selection)は、自動的または意図的な注意の過程が生み出す、特定の刺激や反応に注意が向き他が除外されるという結果である。Ocasio (1997) の定義は、エンゲージメントの意味に最も近いという。レビューをもとに、彼は五つの命題を示した。パースペクティブは産業構造・制度ロジック・経営陣の構成に埋め込まれていること、経営陣の前向きのパースペクティブは構造的な慣性や中核的な硬直性を乗り越える助けになること、エンゲージメントは既存のパースペクティブや意味形成の変異を促すこと、経路・階層・個人の間でエンゲージメントが似通うほど組織のパースペクティブの変化が定着しやすいこと、そして注意の選択は、メディアなど社内外のプレイヤーのエンゲージメント(「注意の運び手」)に媒介されることである。

Ocasio, Laamanen & Vaara (2018) は、従来の研究がコミュニケーション経路を情報処理の「パイプとプリズム」とみなし、コミュニケーションの行為を注意配分の測定手段として扱ってきたと指摘した。そこでコミュニケーションを、行為者どうしが相互作用しながら組織や環境のイシューに共同で注意を向け関与する過程と捉え直し、コミュニケーション実践・語彙・レトリックの戦術・トークとテキストの四つが組織の注意を形づくり戦略変化を生むという研究課題を示した。たとえば、注意の移行は新しい語彙によって引き起こされ正統化されうる一方、既存の語彙では理解できない機会や脅威は見逃されうる。また、トークとテキストのパターンの変化は、それが社内のさまざまな経路を通じて再生産・翻訳・変換され、新しい注意のルールを生み出す限りにおいて、組織の注意を変えるという。

Joseph & Ocasio (2012) は、1951〜2001年の GE を歴史的に分析し、本社と事業部門の注意がどこでどう統合されるかを調べた。ガバナンス経路とは、組織の注意と資源を統制し、配分し、監視するために企業が設ける、公式の集団的な相互作用である。著者らは経路を、本社(経営陣内)、ライン(上司と部下)、スタッフ(本社スタッフ)、そして本社の経営陣・事業部門の管理者・本社スタッフが一堂に会する「クロスレベル経路」に分けた。コンピュータ事業と医療機器事業の10の出来事を、分権化(1951〜63年)、全社計画(1963〜71年)、戦略計画(1971〜86年)、オペレーティング・システム(1986〜2001年)の四つの時期に分けて比べると、クロスレベル経路での率直な議論が本社と事業部門の見方をそろえた。たとえば医療機器事業は1971年に CT を小さな市場のニッチ製品とみて見送ったが、1974年の戦略計画の会議(Session I)で CT がX線装置のシェアを奪っていることが本社の注意に上り、同年の予算の会議(Session II)で集中開発の資金が割り当てられた。反対に、事業部門の管理者との相互作用を欠いた本社スタッフの成長計画会議(Growth Council)の計画は、事業部門の活動を動かせなかった。さらに、議題が広い会議ほど一つのイシューに持続的な注意が向きにくく、短期の財務問題が長期の戦略問題を押しのけがちで、主に計画スタッフと市場調査担当者で作り、財務や事業部門のライン管理者が加わらなかった計画は、事業部門の支持を得られず本社に却下された。結論として、クロスレベル経路が計画に特化し、複数の職能が参加し、経路どうしが緊密に結合しているときに適応が進みやすい、と論じた。1990年代のシックスシグマは、年初の幹部会議から人事・計画・予算の各会議、研修所へと一年を通じて引き継がれた。こうした経路の時間的な結合が、「水準と論点を同時に統合しながら、注意を順番に集中させる」仕組みをつくるという。

Joseph & Wilson (2018) は、この視点を企業の成長に広げた。Penrose (1959) 以来の成長論は、余剰の経営能力が成長を促すと考えてきたが、注意の果たす役割は暗黙のままで、多事業部企業の中で注意の配分が異なることを直接考えてこなかったという。著者らは、一つの部門の中で新しいイシューに注意を選択的に集中させる「注意の専門化」と、異なる部門が同じイシューに共同で注意を向ける「注意の統合」(本社と部門の間の縦の結合、部門間の横の結合)を区別した。専門化は、新しい刺激に集中的に注意を向けること(ボトムアップの処理)で次々と新しいイシューを生み、既存の枠組みからの離脱を促して曖昧なイシューを脅威より機会と解釈させやすくする。統合は、経営陣との対話や経験ある管理者の異動を通じて部門の注意を安定させ増幅するが、同じイシューを部門ごとに違って解釈すると、自分の解釈を通そうとする政治的な駆け引きを招く。モトローラでは、携帯電話を機会とみるシステム部門と、それを抱え業務用無線を中核とする通信セクター(COMM)が携帯電話を脅威とみて対立した。部門の間に業務や資源の相互依存があるとき、注意の重なりは調整上・協力上の緊張を生み、問題も解決策も重なると破壊的な対立になりうる。この緊張は、本社に新しい組織単位の切り出しを迫ることもある。モトローラでは、携帯電話を担うシステム部門が通信セクターから切り離され、1985年に新しいセクター(General Systems Sector)が生まれた。著者らは、この新しい単位の切り出し(アーキテクチャの精緻化)を成長の一つの形とみなしている。

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身近な例

ある食品メーカーでは、毎月の営業会議が本社の会議室で開かれ、議題は前月の売上と予算の達成率から始まる。持ち時間の大半はその説明で終わり、若手の営業担当者が日報に書いている「取引先のスーパーが、競合の新商品に棚を切り替え始めた」という話は、最後の「その他」で一言ふれられるだけである。商品開発部はこの会議に出ておらず、別の開発会議では原材料のコストが中心に話し合われている。

あるとき会社は、四半期に一度、営業・商品開発・工場の課長が同じ席につく会議を設け、場所を取引先に近い支店に移し、最初の議題を「売り場で起きている変化」にした。すると、同じ日報の情報が初めて全員の目に入り、棚の切り替えは「営業の頑張り不足」ではなく、商品の構成を見直すべき課題として扱われるようになった。社長も社員の顔ぶれも変わっていない。変わったのは、会議の議題・場所・出席者という、注意が置かれる場の仕組みである。

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関連理論との違い

Ocasio (1997) は、この視点を、ゲーム理論やエージェンシー理論のような合理的選択の理論と、個体群生態学のような環境決定論の双方に対する、もう一つの説明と位置づけた。どちらとも違い、慣性と適応の両方を一つの過程で説明できると主張する。後に Ocasio (2011) は、注意の研究が、構造的決定論と合理的な戦略的選択の中間に立つとまとめている。

限定合理性、イナクトされた環境、経営者の認知についての既存の理論とは、第一の原理(選択的な注意が行動を決める)を共有する。そこに、注意が状況によって変わることと、注意を社会・経済・文化の構造が配分することという二つの原理を加えた点が新しい(Ocasio, 1997)。偶然の状況が意思決定を左右するというゴミ箱モデルの洞察とも近いが、偶然が個人の注意と認知を通じて働くとする点、経路のルールや規範、手続きを重視する点で異なる。March & Olsen (1976) も注意構造という概念を使ったが、個人レベルの注意と情報処理が欠けていたという。

組織の認知についての他の見方が、成員の共有された認知や経営陣の認知を重視するのに対し、この視点は意思決定と認知が組織全体に分散していることを強調する(Ocasio, 1997)。資源ベース論との関係では、資源の定義をより狭くとり、複数の状況をまたぐ行動ではなく特定の状況での行動を説明しようとする。Joseph & Ocasio (2012) は、情報処理の視点との違いを、問題は情報処理の能力ではなく、手に入る情報のうちどれに、いつ、どこで注意が向くかにある、と説明している。

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主要概念

注意(attention)
組織の意思決定者が、イシューと回答の両方に対して、気づき、符号化し、解釈し、時間と努力を集中させること(Ocasio, 1997)。
イシュー(issues)と回答(answers)
イシューは環境を理解するための手持ちのカテゴリー(問題、機会、脅威)、回答は手持ちの行動の選択肢(提案、ルーティン、プロジェクト、プログラム、手続き)。イシューは企業の議題を構成する(Ocasio, 1997)。
注意の焦点(focus of attention)
意思決定者は一度に限られたイシューと回答にしか注意を向けられず、何をするかは、どれに注意を集中させるかによる、という原理(Ocasio, 1997)。
状況に埋め込まれた注意(situated attention)
何に注意を向け、何をするかは、意思決定者が置かれた具体的な文脈や状況による、という原理。注意と行動の一貫性は、個人よりも状況の一貫性に左右される(Ocasio, 1997)。
注意の構造的分配(structural distribution of attention)
意思決定者が置かれる状況と注意の向け方は、企業のルール、資源、社会関係がイシュー・回答・意思決定者を特定の活動、コミュニケーション、手続きに割り振る仕方による、という原理(Ocasio, 1997)。
手続き・コミュニケーション経路(procedural and communication channels)
選ばれたイシューについて意思決定者に行動を促すために企業が設ける、公式・非公式の具体的な活動、相互作用、コミュニケーション。会議、報告、人事評価や予算申請などの手続きを含み、空間・時間・手続きの次元がイシューと回答の目立ちやすさを左右する(Ocasio, 1997)。
注意構造(attention structures)
意思決定者の時間、努力、注意の焦点の配分を支配する社会的・経済的・文化的な構造。ゲームのルール、プレイヤー、構造上のポジション、資源の四つからなる(Ocasio, 1997)。
ゲームのルール(rules of the game)
仕事を成し遂げ、地位や評価や報酬を得るうえで意思決定者を導き制約する、公式・非公式の行為・相互作用・解釈の原則。Ocasio が制度ロジックではなくこの語を使うのは、認知の面だけでなく実際的・動機的な含意を強調するためであり、組織パラダイムや支配の概念(conceptions of control)ではなくこの語を使うのは、ルールが完全に一貫しているとは限らず、断片的で部分的に矛盾しうることを示すためである(Ocasio, 1997)。
組織の打ち手(organizational moves)
企業とその意思決定者が、内外の環境の変化に応じて、または先んじてとる無数の行動。決定に含まれる計画と行動そのものの両方を指し、実施されて戦略変化につながるとは限らない。打ち手は次の意思決定の環境の一部になる(Ocasio, 1997)。
注意のパースペクティブ/エンゲージメント/選択
Ocasio (2011) による注意の三つの理念型。パースペクティブは時間を通じて気づきと焦点を生むトップダウンの認知的・動機的構造、エンゲージメントは問題解決や意思決定のための意図的で持続的な認知資源の配分の過程、選択は特定の刺激や反応に注意が向く結果。
クロスレベル経路(cross-level channels)
本社の経営陣、事業部門の管理者、本社スタッフが集団で相互作用するガバナンス経路。上から下への一対一の報告関係と違い、ボトムアップとトップダウンの両方の影響が働く(Joseph & Ocasio, 2012)。
注意の専門化と統合(specialization and integration of attention)
専門化は一つの部門の中で新しいイシューに注意を選択的に集中させること、統合は異なる部門が同じイシューに共同で注意を向けること。統合には本社と部門の間の縦の結合と、部門間の横の結合がある(Joseph & Wilson, 2018)。
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代表的な展開研究

  • Ocasio, W. (2011). Attention to attention. Organization Science. DOI ↗神経科学の区別を手がかりに、組織研究の注意をパースペクティブ・エンゲージメント・選択の三つに分け、行動理論、経営者の認知、イシュー・セリング、注意ベース・ビュー、生態学の五つのメタ理論を比べた。実証研究をもとに五つの命題を示し、1997年の定式化が三つの意味を区別していなかったことを認めた。
  • Joseph, J., & Ocasio, W. (2012). Architecture, attention, and adaptation in the multibusiness firm: General Electric from 1951 to 2001. Strategic Management Journal. DOI ↗GE の50年間のガバナンス経路を歴史的に分析し、本社と事業部門が一堂に会するクロスレベル経路が両者の注意をそろえることを示した。この整合に加えて、クロスレベル経路が計画に特化していること、複数の職能が参加していること、経路どうしが緊密に結合していることが事業部門の適応や協調を促すという、四つの命題を導いた。
  • Joseph, J., & Wilson, A. J. (2018). The growth of the firm: An attention-based view. Strategic Management Journal. DOI ↗注意の専門化と統合が、新しいイシューのボトムアップとトップダウンの処理にどう影響するかを論じ、部門間の相互依存があると注意の重なりが組織内の緊張を生み、それが新しい組織単位の切り出しという成長につながると主張した。モトローラの携帯電話事業の例で例示している。
  • Ocasio, W., Laamanen, T., & Vaara, E. (2018). Communication and attention dynamics: An attention-based view of strategic change. Strategic Management Journal. DOI ↗コミュニケーション経路を情報処理の「パイプとプリズム」とみる従来の見方を超え、コミュニケーションを注意の動態を形づくる社会的な過程と捉えた。コミュニケーション実践、語彙、レトリックの戦術、トークとテキストの四つについて、非漸進的な戦略変化を説明するための研究課題を示した。
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批判と境界条件

Ocasio (1997) 自身が、限界をはっきり認めている。示したモデルは完成した理論ではなく、構成概念とメカニズムの最初の定式化にすぎない(pp. 192, 204)。モデルの複雑さは長所であると同時に弱点で、理論としての発展段階がまだ初歩的であること、メカニズムが一般的で抽象度が高いこと、読み手に多様な理論の統合を求めることを欠点に挙げた(p. 204)。文化や制度の過程がどう働くか、環境がルールや資源や関係をどう形づくるか、経路の空間・時間・手続きの次元がどう相互作用するかは本論の範囲外とし(pp. 193–195)、ゲームのルール、構造上のポジション、プレイヤー、資源の相互作用が適応にどう影響するかも、さらなる研究が必要だとした(p. 203)。また、この視点はそれだけでは競争優位の源泉を説明できず、競争の圧力の下で企業の違いがなぜ持続するかも説明できない。資源や産業の視点との統合が必要だという(pp. 204–205)。

Ocasio (2011) は、原典そのものが混乱の一因になったと認めている。1997年の定式化は、パースペクティブ、エンゲージメント、選択という三つの意味の注意を区別せずに論じていた(p. 1290)。研究も、異なるメタ理論と異なる注意の定義に依拠するため、蓄積されずにばらばらの知見になっていた(p. 1286)。測定の面では、公開されている株主への手紙に頼る研究が多く、パースペクティブの研究が多いのはこの方法の選択を反映しているかもしれないという(p. 1290)。エンゲージメントの研究は事例研究が中心で結論は暫定的であり(p. 1292)、パースペクティブが業績を高めるかどうかも今後の課題とされた(p. 1292)。さらに、多くの研究は CEO や経営陣の注意、あるいは共有された認知を扱っており、この視点の明示的な原理である注意の分散を扱う研究は少ない(p. 1294)。トップダウンとボトムアップの処理の統合、警戒と実行的注意の関係、個人と組織の注意の関係も未解決の問いに残された(pp. 1293–1294)。

Joseph & Wilson (2018) は、既存の研究(Joseph & Ocasio, 2012 を含む)が注意の構造的分配を前提にし、その帰結に注目する一方で、その起源をほとんど無視してきたと批判した(pp. 1783, 1794)。また、部門間の相互依存や、公式の組織構造と注意構造の相互作用、それが生む組織内の緊張も見落とされてきたという(pp. 1790, 1794)。注意構造の研究と注意の処理過程の研究が別々に進んできたことも指摘している(p. 1783)。ただし著者ら自身も、専門化や統合の最適な程度は示せないこと、どんな知識が求められるかは扱っていないこと、何が新しい単位の切り出しにあたるかはまだ探究していないことを認めている(pp. 1793, 1795–1796)。モトローラの例は理論の構築や検証ではなく例示のためのものである(p. 1781)。

Joseph & Ocasio (2012) の GE 研究も、理論の適用範囲を限っている。本社と事業部門の管理者が顔を合わせるだけでは、戦略への注意と協調した対応を保証する十分条件にはならない(p. 650)。大型の買収や売却は CEO や最高経営会議(CXO)が直接担うことが多く、クロスレベル経路がほとんど使われないという境界条件がある(p. 655)。一社の分析なので、経路の仕組みが財務業績に与える効果について強い主張はできず(p. 655)、GE が非関連多角化の企業であるため、事業部門どうしの横の相互作用は詳しく調べられなかった(p. 655)。

Ocasio, Laamanen & Vaara (2018) は、従来の研究が主に構造的で、動的な環境における戦略の刷新や急進的な革新のような非漸進的な変化を説明する備えが十分でないと指摘した(p. 156)。また、この視点はプレイヤーの権力を注意構造の重要な一部としながら、それを暗黙のうちに固定したものとして扱い、政治的な力学が注意のエンゲージメントや注意構造の変化とどう関係するかを特定してこなかったという(p. 161)。

研究上の位置づけ

原典Ocasio, W. (1997)
Towards an attention-based view of the firm
分類Theoretical perspective
地図の区画戦略
分析単位個人 · 組織
理論系譜行動論 · 認知
REFERENCES

出典

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