理論・視点

制度的仕事Institutional Work

別名制度的ワーク、インスティテューショナル・ワーク

一言で言うと

制度の創造、維持、攪乱を目指す、個人や組織の目的をもった行為に注目する視点。業界や社会の大きな変化だけを見るのではなく、制度の中で暮らし働く人々が、その制度を支え、手直しし、揺るがす日々の努力を分析の中心に置く。成功した改革者だけでなく、失敗した働きかけや、制度を守る地味な仕事も対象にする。

説明したい問い制度の中に埋め込まれている人々は、どのような意図と努力によって、その制度を作り、守り、揺るがしているのか。
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中核的な問い

Lawrence, Suddaby & Leca (2011) によれば、制度論は組織研究で支配的な理論になったが、制度化、制度変化、制度ロジックといった中核概念は、注意を分野(フィールド)のマクロな動態に向けてきた。その過程で見失われたのが、組織で働く人々の生きられた経験と、その経験を形づくり、またその経験によって形づくられる制度とのつながりである。

著者らは、関心を向けるべき行為主体性が、新しい構造や実践を生んだ制度的企業家のような「成功した」制度変化の事例に限られるという考えを退ける。大きな物語から抜け落ちているのは、制度的秩序に影響を与えようとしながら、成功も失敗もあり、急進的でも保守的でもあり、戦略的でも感情的でもある、日々の曖昧な行為主体性の数々だという。制度的仕事の研究は、人々が自分たちの暮らす制度に対処し、ついていき、補強し、壊し、いじり、変え、作り直す努力に関心を向ける。

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主張とメカニズム

Lawrence & Suddaby (2006) は、制度的仕事を「制度の創造、維持、攪乱を目指す、個人や組織の目的をもった行為」と定義し、ばらばらだった研究をつなぐ枠組みと研究課題を示そうとした。土台は二つある。行為者が制度に与える影響に目を向けた、制度的企業家や脱制度化などをめぐる先行の論考と、実践の社会学である。著者らは制度的仕事を「知的で、状況に根ざした制度的行為」と捉える。そこから三つの要素が導かれる。行為者の自覚・技能・内省性を重視すること、制度は多かれ少なかれ意識的な行為の中で成り立つと見ること、そして制度を変えようとする行為でさえ制度化されたルールの内側で起こり、その分野に固有の資源と技能に頼ること、である。Lawrence, Leca & Zilber (2013) も、この定義は行為者を内省的で目標をもつ有能な存在として描き、その行為を制度の動態の中心に置き、構造と行為主体性の相互関係を捉えようとするものだと述べる。

Lawrence, Suddaby & Leca (2011) は、この概念を「制度」と「仕事」に分けて説明する。制度とは、行為・認知・感情のひな型を与えて人々の行動と信念に影響し、従わないと何らかのコストが伴う、社会生活の(多かれ少なかれ)持続的な要素である。仕事を制度に結びつける鍵は意図性と努力である。新制度派は意図的な行為に「もかかわらず」生じる変化や安定を強調してきたため、著者らは Emirbayer & Mische (1998) の区分を借り、未来に向けた戦略的な意図だけでなく、目の前の状況に対処する実践的な意図や、過去に身につけた行動図式を呼び出す習慣としての意図も含めた。努力は、制度に影響を与えようとする身体的・精神的な力と捉えられる。Battilana & D’Aunno (2009) も、制度的仕事は意図的だが、その「意図」の姿は、反復的・投企的・実践的評価的という行為主体性の三つの次元のどれが優勢かで大きく変わると論じる。

Lawrence & Suddaby (2006) は、1990年以降の主要3誌の実証研究から制度的仕事の形を拾い出した。制度の創造については9つの形を三つに束ねる(表 1.6.1)。第一は規則や権利を作り直す政治的な仕事で、政治的・規制上の支持を動員する唱道、地位や成員の境界を定める規則を作る定義づけ、財産権を与える規則を作る権利付与である。第二は信念の体系を組み替える仕事で、行為者と分野の関係を定めるアイデンティティの構築、実践とその道徳的・文化的な基盤とのつながりを作り直す規範的な結びつきの変更、実践を規範的に裁可する組織間のつながりを作る規範的ネットワークの構築である。第三は意味の境界を変える仕事で、新しい実践を当然視された既存の実践になぞらえる模倣、抽象的なカテゴリーと因果の連鎖を練り上げる理論化、必要な技能と知識を授ける教育である。著者らは、規則に基づく仕事は、強制する権限さえあれば制度を一から作りうるのに対し、規範的な仕事は既存の制度と並ぶ・補う制度を生みやすく、共同体の協力に頼ると見る。模倣は新規参入者が新しい実践を正統化する強力な手段になりうるが、理論化と教育は主に資源と正統性をもつ中心的な行為者と結びつくという。

制度の維持の仕事は、遵守を確かにする社会的な仕組みを支え、修復し、作り直すことである。規則への遵守を確保する仕事として、制度を補い支える規則や権限をもつ担い手を作る可能化の仕事、執行・監査・監視による取り締まり、制度の変化に強制的な障壁を設ける抑止がある。規範と信念を再生産する仕事として、制度の規範的な基盤を示す良い例と悪い例を公に示す価値づけと悪魔化、歴史を神話にして規範的な土台を守る神話化、規範的な基盤を日々のルーティンや組織の実践に吹き込む埋め込みとルーティン化がある(表 1.6.2)。著者らによれば、前者は当事者がその目的を自覚しているのに対し、後者の当事者は元の目的や最終的な結果をほとんど意識していない。また、維持は単なる安定や変化の欠如ではなく、新しい成員の参入や環境の変化に対処するかなりの努力を伴う。Lawrence, Leca & Zilber (2013) によれば、その後、それまで軽視されていた維持の研究が一つの流れになった。

制度の攪乱の仕事は、成員を制度に従わせる仕組みを攻撃し、掘り崩すことである。形は三つで、国家の装置を通じて実践・技術・規則から報酬と制裁を切り離す制裁の切り離し、実践をその文化的文脈での適切さという道徳的な基盤から切り離す道徳的基盤の分離、中核的な前提と信念を掘り崩して革新や差異化の知覚されたリスクを下げる前提と信念の切り崩しである(表 1.6.3)。いずれも、制度を支える社会的統制が不遵守に及ぼす影響を弱める。著者らは、制度の圧力が誰にとっても等しく「全面的」なわけではないと見る。報酬と制裁を切り離せるのは国家や司法と、それを動かす資源をもつ専門職やエリート、道徳的基盤をずらせるのは文化的に熟達した成員、前提を崩すのは独創的で反文化的な行為者だろうという。攪乱は主に言説的で、社会的・象徴的な境界を操作する仕事だとされる。

Lawrence, Suddaby & Leca (2011) は、この概念が照らす問いを三つ挙げる。一つ目は個人を制度論に呼び戻すことである。人は社会的な位置や生活史によって制度への影響力が異なり、高度に儀礼化された場面でさえ、細かな選択を通じて制度を掘り崩しも支えもする。そこで著者らは、個人とその人生を形づくった制度との関係をたどる「制度的伝記」を提案する。二つ目は、行為主体性を、埋め込みの単なる結果でも埋め込みから切り離されたものでもなく、自らの文脈を振り返りつつその中で戦略的に動く継続的な活動と捉え直すことで、制度の過程の非線形性と、多数の行為者に分散した行為主体性に目を向ける。三つ目は批判的な組織研究との接続で、決定論も英雄主義も前提とせず、構造の抑圧性と、そこから時に解放される可能性の両方に目を向ける。結びで著者らは、焦点を英雄的な企業家の劇的な行為から、役割や儀礼を再生産しつつそれに挑む、抵抗と維持の小さな世界へ移すと述べる。

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身近な例

ある会社の総務部で、若手社員が紙の稟議書を電子承認に切り替えようとする。部長に試行を提案し、使い方の手引きを作り、反対する古参社員には「押印の意味」を別の形で残す案を示す。導入後も、差し戻しの作法を教え、紙で回そうとする人に声をかけ続ける。一方で、ベテランの事務担当者は、長年の書式を守ることで職場の秩序を保とうとしている。制度的仕事の視点は、この成功も失敗もある日々の働きかけを、制度の創造と維持の両面から見るための枠組みである。

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関連理論との違い

制度的企業家の研究との違いについて、Lawrence, Suddaby & Leca (2011) は、制度的企業家の研究が「成功した」制度変化に関心を限り、個人よりも制度変化を説明の対象にしてきたと述べる。制度的仕事の視点は、成功しなかった働きかけや制度の維持にも目を向ける点が異なる。Lawrence & Suddaby (2006) も、新しい制度の創造には、企業家として動ける資源と技能をもつ者だけでなく、その努力を支え助ける幅広い行為者の制度的仕事が必要だとし、制度的企業家の研究は企業家の特徴やそれを生む条件の解明に力を注ぎ、企業家が実際に何をするのかの記述は乏しかったと述べる。

制度ロジックとの関係については、Lawrence, Leca & Zilber (2013) が、制度ロジックと制度的仕事は、通常は別々に、異なる研究デザインで研究されてきたと述べる。そのうえで、両者を一つの研究で扱った Gawer & Phillips (2013) を、異なる分析レベルの制度的仕事を統合することの説明力を示す例として挙げている。

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主要概念

制度的仕事(institutional work)
制度の創造、維持、攪乱を目指す、個人や組織の目的をもった行為(Lawrence & Suddaby, 2006)。
制度の創造(creating institutions)
新しい制度を作る制度的仕事。Lawrence & Suddaby (2006) は、規則や権利を作り直す仕事(唱道、定義づけ、権利付与)、信念の体系を組み替える仕事(アイデンティティの構築、規範的な結びつきの変更、規範的ネットワークの構築)、意味の境界を変える仕事(模倣、理論化、教育)の9つの形を挙げた(表 1.6.1)。
制度の維持(maintaining institutions)
遵守を確かにする社会的な仕組みを支え、修復し、作り直す制度的仕事(Lawrence & Suddaby, 2006)。規則への遵守を確保する可能化の仕事・取り締まり・抑止と、規範と信念を再生産する価値づけと悪魔化・神話化・埋め込みとルーティン化の6つの形がある(表 1.6.2)。
制度の攪乱(disrupting institutions)
成員を制度に従わせる仕組みを攻撃し、掘り崩す制度的仕事(Lawrence & Suddaby, 2006)。制裁の切り離し、道徳的基盤の分離、前提と信念の切り崩しの3つの形がある(表 1.6.3)。
制度(institution)
行為・認知・感情のひな型を与えて人々の行動と信念に影響し、従わないと何らかのコストが伴う、社会生活の(多かれ少なかれ)持続的な要素(Lawrence, Suddaby & Leca, 2011)。
意図性(intentionality)
仕事という概念に含まれる、何かを目指す性質。Lawrence, Suddaby & Leca (2011) は、未来に向けた戦略的な意図だけでなく、目の前の状況に対処する実践的な意図や、習慣としての意図も含めて考える。
努力(effort)
ある結果を目指して注がれる身体的・精神的な力。制度的仕事は、制度に影響を与えようとする努力として捉えられる(Lawrence, Suddaby & Leca, 2011)。
制度的伝記(institutional biography)
特定の個人と、その人生を形づくり、またその人が作り・守り・揺るがそうとした制度との関係をたどる研究の方法として提案されたもの(Lawrence, Suddaby & Leca, 2011)。
分散した行為主体性(distributed agency)
制度の変化や安定が、多数の行為者の協調的・非協調的な努力の積み重ねによって達成されるという見方(Lawrence, Suddaby & Leca, 2011)。
修復の仕事(repair work)
制度の維持を、修復として捉えた仕事。Micelotta & Washington (2013) は、政府の改革に対抗したイタリアの専門サービス部門の行為者の働きかけをこの形で描き、そのきっかけと条件を探った(Lawrence, Leca & Zilber, 2013)。
埋め込まれた行為主体性(embedded agency)
制度に条件づけられた行為者が、どうやってその制度を変えうるのかという問題。Battilana & D’Aunno (2009) は、これを制度による決定と行為主体性のあいだの「埋め込まれた行為主体性のパラドックス」として取り上げ、制度的仕事の概念が成り立つにはこれに取り組む必要があるとした。Lawrence, Suddaby & Leca (2011) は、行為主体性を埋め込みの単なる結果でも、埋め込みから切り離されたものでもないとする。
行為主体性の三つの次元(dimensions of agency)
Battilana & D’Aunno (2009) が Emirbayer & Mische (1998) に従って用いた区分。過去の思考と行為のパターンを選んで呼び起こす反復的(iterative)な次元、将来の行為の道筋を想像する投企的(projective)な次元、現在の状況の求めに応じて実践的・規範的な判断を下す実践的評価的(practical-evaluative)な次元からなる。
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代表的な展開研究

  • Lawrence, T. B., Suddaby, R., & Leca, B. (2011). Institutional work: Refocusing institutional studies of organization. Journal of Management Inquiry. DOI ↗制度的仕事を「制度」と「仕事」に分け、仕事の中核を意図性と努力に置いた論考。個人を制度論に呼び戻すこと、行為主体性と制度の関係を捉え直すこと、制度論と批判的な組織研究をつなぐことの三つの問いを示した。制度的企業家の研究が個人ではなく制度変化を説明の対象とし、個人を扱うときも構造決定論か聖人伝的な見方に傾いてきたのに対し、構造の影響、行為の機会、成功と失敗をあわせて描ける制度的伝記を提案した。批判的研究との接続では、解放を習慣に縛られた意図から未来に向かう意図への転換として、努力を既存の役割から踏み出そうとする闘いとして捉える。結びでは、この視点が結果よりも実践と過程に注目し、「何が」「いつ」よりも「なぜ」「どのように」を問うと述べた。
  • Lawrence, T. B., Leca, B., & Zilber, T. B. (2013). Institutional work: Current research, new directions and overlooked issues. Organization Studies. DOI ↗Organization Studies 特集号の序論。先行研究を三つの問いで整理した。「どのように」では、標準化を支える計算的な枠づけ・関与・価値づけの仕事、経営ファッションを定着させる仕事、化学物質の脱制度化をめぐる攪乱と防衛の仕事など、創造・維持・攪乱の類型を実証的に広げる研究が進み、とりわけ軽視されてきた維持の研究が一つの流れになった。「誰が」では、専門職や組織のトップに加え、専門知識も地位もない人々も検討された。「何が」では行為主体性との関係が論じられた。特集号の6本の論文、すなわち Intel が業界の変化に寄与する外向きの仕事と社内を合わせる内向きの仕事を同時に行ったことを示した Gawer & Phillips (2013)、国際的な労働基準の協定をめぐる交渉を扱った Helfen & Sydow (2013)、新しい実践が「聖別された模範」になる過程を扱った Jones & Massa (2013)、政府の改革に対抗したイタリアの専門職の修復の仕事を描いた Micelotta & Washington (2013)、新聞社で紙とオンラインを統合した記者たちを追った Raviola & Norbäck (2013)、ホロコーストにおける抑圧と抵抗を分析した Martí & Fernández (2013) から、複数の制度的仕事の関係、物質性、新しい理論との接続という方向を引き出した。さらに、意図した結果への偏りと回顧的な方法、努力と内省性、道徳と責任を、見過ごされてきた論点として挙げた。
  • Battilana, J., & D’Aunno, T. (2009). Institutional work and the paradox of embedded agency. Institutional Work: Actors and Agency in Institutional Studies of Organizations (Cambridge University Press). DOI ↗制度に条件づけられた行為者が、どうやってその制度を変えうるのかという「埋め込まれた行為主体性のパラドックス」に取り組まないかぎり、制度的仕事の概念は成り立たないと論じた章。先行研究が示してきたのは、ショックや危機、制度の異質性や不完全な制度化といった分野レベルの条件と、分野の周縁や狭間にいるといった組織レベルの条件であり、個人レベルの条件はほとんど手つかずだという。著者らは、個人と制度環境の絶え間ない相互作用を捉える関係論的な視点をとり、Emirbayer & Mische (1998) に従って行為主体性を、過去に向く反復的、未来を想像する投企的、現在の状況で判断する実践的評価的という三つの次元からなるものとした。そして三次元と創造・維持・攪乱の交差に入る行為の例を表にした(表 2.1)。たとえば維持では、制度化された実践を実行する(反復的)、実践を適応させ規制の仕組みを補強する(実践的評価的)、修復し防衛する(投企的)が挙がる。著者らは制度的仕事を意図的なものとしつつ、その「意図」の姿はどの次元が優勢かで大きく変わるとし、先行研究が創造に伴う投企的な行為主体性に偏り、維持や反復的・実践的評価的な次元を見落としてきたと指摘した。今後の問いとして、どんな条件でどの次元が優勢になるか(まず社会的位置の影響を調べるべきだという)、どの次元がどの仕事と結びつきやすいか(反復的な行為主体性は創造や攪乱を促しにくく、投企的な行為主体性は創造の強い予測因子かもしれない、また新しい実践の制度化の初期と後期で効く次元が違うかもしれない)を挙げた。
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批判と境界条件

Lawrence & Suddaby (2006) は、示した類型を網羅的な一覧ではないとし(pp. 220, 228)、主に事例研究からなる小さな標本に基づくため一般化可能性を測れていないと認める(p. 228)。維持の仕事はほとんど研究されておらず(p. 234)、攪乱の仕事については「あまり多くを知らない」うえ、三つの形は可能な戦略の小さな一部にすぎないという(p. 238)。背景には、行為主体性が見えやすいのは制度が作られ壊される時期で、制度が習慣的に再生産される長い安定期は調べにくいという認識論上の問題がある(p. 242; p. 249 注2)。結論でも、理解は「せいぜい形成途上」で、記述にも大きな隙間があり、説明はなおさらだと述べ(p. 246)、拡散の「ブラックボックス」を開くこと、権力を問う批判的なアプローチ、分析レベルの橋渡しを今後の方向に挙げる(pp. 247–249)。制度がどう維持されるかは、どう作られるかより根本的な問いかもしれないとも述べる(p. 234)。

Battilana & D’Aunno (2009, p. 51) は、埋め込まれた行為主体性のパラドックスはまだ十分に解決されていないと結論する。制度的仕事の研究は分野と組織のレベルに集中し、個人レベルを軽視してきた(p. 41)。心理的要因の研究は有望だが他の要因の統制が必要で負担が大きいとし(p. 50)、個人の行為だけが制度変化の源ではないとして、多レベルの研究を求める(p. 51)。また、先行研究は創造に伴う投企的な行為主体性に偏り、維持に関わる行為主体性や反復的・実践的評価的な次元を見落としてきたと指摘する(p. 49)。

Lawrence, Leca & Zilber (2013) は、見過ごされてきた論点を三つ挙げる。第一に、定義は働きかけの成否や意図しない帰結を問わないのに、多くの研究は意図した効果に集中し、回顧的な説明に頼ってきたため、日々の雑然とした実践を捉えにくい。編者らは、特集号で唯一のエスノグラフィーである Raviola & Norbäck (2013) を例に、行為をその場で捉える方法を求める(p. 1029)。第二に、担い手が制度を巧みに操る専門家として描かれ、内省的な自覚に必要な認知的・感情的な努力が過小評価されているかもしれない。もともと定義上の特徴だった内省的な目的性は捉えにくいが、捨てずにその育ち方を問うべきだという(p. 1029)。個人と制度の境目は現場に近づくほど見えにくくなるという「二重の拘束」も紹介される(p. 1026)。第三に、内省的な側面は責任と道徳につながり、研究者の問いや事例の選び方(「用務員や整備士はどこにいるのか」)にも道徳的な含意があり、研究は学術の外の実践的な課題とつながる必要があるという(pp. 1029–1030)。

Lawrence, Suddaby & Leca (2011) も、新制度派が意図的な行為にもかかわらず生じる変化と安定を強調してきたため、意図と制度を結びつけること自体が問題に見えうると認める(p. 53)。制度の過程が非決定的で非線形なら、制度化を前向きにたどる分析も特定の行為者の役割を後ろ向きにたどる分析も大きな問題を抱えるとし(p. 55)、制度論が決定論的な構造と英雄的な行為主体性の間を行き来してきたという批判的研究者の指摘も紹介している(p. 56)。

研究上の位置づけ

原典Lawrence, T. B., & Suddaby, R. (2006)
Institutions and institutional work
分類Theoretical perspective
地図の区画組織・意思決定
分析単位個人 · 組織 · Field
理論系譜社会学 · 制度論
REFERENCES

出典

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