弱い紐帯の強さThe Strength of Weak Ties
別名弱い紐帯の強み
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと親しい相手との強いつながりよりも、たまに会う程度の弱いつながりのほうが、異なる集団の間を橋渡しし、新しい情報や機会を遠くまで運ぶという理論。Granovetter (1973) が、二人の友人関係の重なりという単純な仮説から導いた。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
仕事の情報や新しいアイデアは、誰を通じて届くのか。直観的には、助けてくれる動機の強い親しい友人のほうが頼りになりそうである。Granovetter (1973) は、この直観とは逆に、ネットワークの構造に注目すると、弱いつながりのほうが重要な役割を果たしうると論じた。あわせて、個人間の関係というミクロの現象を、情報の普及や地域社会のまとまりといったマクロの現象に結びつけることを目指した。
主張とメカニズム
Granovetter は、紐帯の強さを、その関係に費やす時間の量、感情的な強さ、親密さ(互いに打ち明け合うこと)、互いに提供し合う助力の組み合わせと定義した。
出発点は、二人のつながりが強いほど、二人の友人関係は重なり合うという仮説である。強く結ばれた人どうしは一緒に過ごす時間が長く、互いに似ているため、友人の友人とも知り合いになりやすい。この仮説を推し進めると、ある二つの集団を結ぶ唯一の経路(ブリッジ)には、強い紐帯はほとんどなりえない。弱い紐帯が自動的にブリッジになるわけではないが、ブリッジはすべて弱い紐帯である。
その結果、強い紐帯を通じて伝わる情報は、同じ仲間の間を何度も巡り、密な小集団の中にとどまりやすい。一方、弱い紐帯を通じた情報は、より多くの人に、より短い経路で届く。Granovetter は、ボストン郊外の専門職・技術職・管理職の転職者を調べ、人づてに仕事を見つけた人の多くが、頻繁に会う相手ではなく、ときどき、あるいはまれにしか会わない相手から情報を得ていたことを示した。
この議論は、個人のレベルでは、弱い紐帯が移動の機会をもたらすことを意味する。社会のレベルでは、弱い紐帯が集団どうしを結び、社会のまとまりをつくることを意味する。強い紐帯は局所的なまとまりを生むが、全体としては社会を小集団に分断する、という逆説がここから導かれる。
身近な例
たとえば、社内で新しい取り組みの協力者を探しているとしよう。毎日一緒に昼食をとる同じ部署の仲間に相談しても、返ってくるのは自分がすでに知っている名前ばかりかもしれない。一方、以前の研修で一度話しただけの他部署の人に聞くと、まったく知らなかった適任者を紹介してもらえることがある。その人は、自分とは別の人間関係の中にいるからである。
主要概念
- 紐帯の強さ(strength of a tie)
- 関係に費やす時間、感情的な強さ、親密さ、互いの助力の組み合わせ。Granovetter はおそらく線形の組み合わせだとした。
- ブリッジ(bridge)
- ネットワークの中で、二点を結ぶ唯一の経路となっているつながり。
- 局所的なブリッジ(local bridge)
- 厳密には唯一の経路ではないが、二点を結ぶ近道として働くつながり。ほかの経路が長いほど、その重要性は大きい。
- 禁じられた三者関係(forbidden triad)
- AとBが強く結ばれ、AとCも強く結ばれているのに、BとCの間にまったくつながりがない関係。Granovetter は、これが起こりにくいと仮定した。
代表的な展開研究
- Granovetter, M. (1983). The strength of weak ties: A network theory revisited. Sociological Theory. DOI ↗10年後に著者自身が、この論文以後の実証研究を踏まえて議論を再検討した。
- Hansen, M. T. (1999). The search-transfer problem: The role of weak ties in sharing knowledge across organization subunits. Administrative Science Quarterly. DOI ↗大手エレクトロニクス企業の事業部間の紐帯と製品開発期間の分析から、事業部間の弱い紐帯は、移転する知識が単純なら開発を早めるが複雑なら遅らせ、複雑な知識では強い紐帯のほうが不利が小さいことを示した。
- Rajkumar, K., Saint-Jacques, G., Bojinov, I., Brynjolfsson, E., & Aral, S. (2022). A causal test of the strength of weak ties. Science. DOI ↗LinkedIn の推薦アルゴリズムの設定を利用者に無作為に割り当てた実験(2,000万人以上)を分析し、弱い紐帯が転職を生むという因果的な証拠を示した。ただし共通の知人の数で測ると中程度に弱い紐帯が、やりとりの量で測るともっとも弱い紐帯が、もっとも転職につながった。
批判と境界条件
Granovetter 自身が、この議論を「理論の断片」と呼んでいる。扱っているのは紐帯の強さだけで、紐帯の内容、否定的な紐帯や一方向の紐帯、ネットワークの時間的な変化などは扱っていない。転職研究では紐帯の強さを会う頻度だけで測っており、地域社会についての議論は、実際のネットワーク・データがない以上は推測にとどまると明記している。
また、弱い紐帯の利点は、それがブリッジとして働く場合に生じるものであり、弱い紐帯であれば何でも役立つわけではない。どのような場面で強い紐帯と弱い紐帯のどちらが役立つのかについては、その後も議論が続いている(論点「強い紐帯と弱い紐帯」を参照)。
Hansen (1999, pp. 86–87) は、弱い紐帯の議論を含む典型的なネットワーク論が、知識の移転に余分な労力はいらないと仮定している点を問題にした。そこで部署をまたぐ知識共有を、知識を探して見つける「探索」と、それを運んで自分のプロジェクトに組み込む「移転」に分けた (p. 83)。弱い紐帯では相手とのやりとりがまれで、知識を伝え合うやり方も育っていないため、十分に文書化されていない非コード化知識や、ほかの部品と組み合わさって初めて働く依存的な知識の移転には時間がかかる、と Hansen は論じた (pp. 87–88)。大手エレクトロニクス・コンピュータ企業の41事業部で、ほかの事業部から知識を受け取った製品開発プロジェクト54件を分析すると (pp. 90, 98)、移転される知識がコード化されていて単体で使える場合には、紐帯が弱いほどプロジェクトは早く終わった。しかし非コード化と依存の程度がともに平均的な水準になると、弱い紐帯の効果は差し引きでマイナスに転じた (p. 100)。Hansen は、正味の効果は移転する知識の複雑さしだいだと結論している (p. 105)。
弱い紐帯の利点がどこから来るのかについても、Hansen は、それを重複のない情報に求める通説とは別の説明を示した。情報の重複を直接測る二つの変数を加えても紐帯の弱さの効果は残ったことから、利点は主に重複のない接触相手とつながるからではないと解釈し (p. 103)、弱い紐帯は維持の費用が安く、その分の時間と労力をプロジェクトに回せるからだと説明した (p. 105)。ただし、成果は開発期間に絞っており、費用や品質、革新の程度には結果が当てはまらない可能性がある (p. 106)。紐帯も、個人間の関係ではなく事業部どうしの定期的な接触として測っており (pp. 91–92)、対象は1社に限られる (pp. 106–107)。
Rajkumar et al. (2022) は、LinkedIn が2015年と2019年に、「知り合いかも」(People You May Know)推薦アルゴリズムの設定を利用者ごとに無作為に割り当てた実験(対象は合わせて2,000万人以上)を事後的に分析した。割り当ての違いで生じた弱い紐帯・強い紐帯の増減を操作変数として使い、弱い紐帯が転職(ここでは、つながった相手がかつて勤めていた会社に移ること)を生むという因果的な証拠を示した (pp. 1304–1306, 1309)。ただし、効果は「弱いほどよい」という単調な関係ではなかった。共通の知人の数で紐帯の強さを測ると、転職との関係は逆U字型になった。共通の知人が少ないうちは、共通の知人が多い相手を加えるほど転職の確率が上がったが、共通の知人が10人を超える相手では、その上がり方が小さくなっていった (pp. 1307–1308)。やりとりの量で測ると、もっとも弱い紐帯の効果が最大だった (p. 1308)。著者らは、紐帯の強さの効果が非線形であること、測り方によって違うこと、産業によって違うことを理論に組み込むべきだとしている (p. 1310)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Granovetter, M. S. (1973). The strength of weak ties. American Journal of Sociology. DOI ↗
- Hansen (1999), Administrative Science Quarterly ↗
- Rajkumar, Saint-Jacques, Bojinov, Brynjolfsson & Aral (2022). A causal test of the strength of weak ties. Science. ↗
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