理論・視点

ネットワーク活性化Network Activation

別名ネットワークの認知的活性化、認知的ネットワーク活性化

一言で言うと

知り合いがいることと、必要な場面でその人を思い浮かべることは同じではない。ネットワーク活性化は、持っている関係(潜在的ネットワーク)のうち、ある状況で頭に浮かぶ部分(活性化されたネットワーク)に注目し、実際に助けを頼む動員と区別する。Smith, Menon & Thompson (2012) は、職を失う脅威のもとで、自分を低い地位とみる人は小さく密なネットワークを、高い地位とみる人は大きく開いたネットワークを思い浮かべることを示した。

説明したい問い助けになりそうな知り合いがいるのに、困ったときに限って、なぜいつもの数人しか思い浮かばないのか。
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中核的な問い

知り合いが多いことと、困ったときにその人たちを思い浮かべられることは同じではない。Smith, Menon & Thompson (2012) は、人がネットワーク上の相手を「活性化する」、つまり思い浮かべる過程に焦点を当て、この頭の中の活動を、ネットワークを実際に使う過程である「動員」と区別した。高い地位の人と低い地位の人が脅威に違う反応を示すのは、単に持っているネットワークが違うからかもしれない。しかし著者らは、脅威の後に働く認知的な活性化の過程が、構造上の違いを増幅し、強め、さらには生み出しさえする可能性を考えた。関係の実際の量と質を一定にしても、人は相手の認知的な思い浮かびやすさに応じて異なるネットワークを活性化する、というのが中心の主張である。

Smith, Brands, Brashears & Kleinbaum (2020) は、この研究を、ネットワーク認知への状況的なアプローチを定式化した最初期のモデルの一つと位置づけている。同じレビューは、人がネットワークから利益を得られるかどうかは、ネットワークを知覚し、関係を正確に記憶・想起し、その知識を使って適切な関係を適切なときに築き、保ち、動員できるかに大きく左右されると述べる。そこから、社会関係資本の源泉は周りの社会構造だけでなく、私たちの頭の中にもあるという結論を導いている。

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主張とメカニズム

Smith et al. (2012) は、ネットワークを入れ子の三層に分けた。潜在的ネットワークは、その人が使える相手の全体である。その中に、ある状況で実際に頭に浮かぶ部分である活性化されたネットワークがあり、さらにその中に、助けを求めるときに実際に資源を頼む相手である動員されたネットワークがある。人は特定の相手を思い出せなかったり、その価値に気づかなかったり、頼むことに不安を感じて頭の中で候補から外したりする。活性化は動員に論理的に先立つ私的な心の活動であり、動員は相手に呼びかける社会的な活動である。比較的安定した潜在的ネットワークの枠の中で、人は刺激に応じて別の部分を呼び出す。常に活性化している関係もあれば、状況の手がかりに左右されやすい関係もある。

Smith et al. (2020) はこのモデルを、動員に応えてくれた相手である実現されたネットワークを含む四段階として説明している。潜在的ネットワークから活性化への移行は、長期記憶にある人と関係を意識(作業記憶)に上らせる、主に無意識のスキーマやヒューリスティックに依存する。活性化から動員への移行は、多くの場合に意思決定や事前の計画を伴う、より熟慮的な過程である。動員から実現への移行は、本人の頼み方の上手さだけでなく、相手の能力と判断にも左右される。段階ごとに働く仕組みも関わる人も違うため、この枠組みは自動的な過程、熟慮的な過程、二者関係の要因をまとめて扱える。

では、脅威は活性化をどう変えるのか。Smith et al. (2012) によれば、脅威のもとで人が情報処理を狭め、内集団の結束を強めるという脅威硬直効果(Staw et al., 1981 など)が知られており、脅威に直面した人は周りのネットワークを「要塞」のように縮めがちである。著者らは地位を、階層化された社会の中での位置と定義し、本人の主観的な評価として測った。力を持つ人は脅威を退けて有能な自己像を守ろうとし、社会的なリスクをとって外へ向かう。力を持たない人は自己への疑いが強く、助けを求めること自体が無力感を強めるため、最も密で安全な部分の外に手を伸ばしにくい。そこで、職を失う脅威のもとで、低地位の人は小さく密なネットワークを(絞り込み反応)、高地位の人は大きく制約の少ないネットワークを(拡大反応)思い浮かべると予測した。

研究1は、1985年の米国総合社会調査(GSS)の就業者806人を分析した。主観的な階級帰属を低・高に二分し、「今後12か月に職を失う可能性」への回答を「まったくない」とそれ以外に分けて脅威とした。「重要なことを話し合った人」を最大5人挙げる質問から、人数と、相手どうしが知り合いであるほど高くなる Burt のネットワーク制約を求めた。脅威のある高地位の人は脅威のない高地位の人より約0.5人多く、脅威のある低地位の人は約6分の1人少なく相手を挙げた。制約でも、低地位では脅威が高い制約と、高地位では低い制約と結びつき、地位と脅威の交互作用は統制変数を入れても有意だった。

研究1は横断データで因果の向きが分からない。研究2では米国中西部の大学生108人に、社会階層を表すピラミッドの上に自分の家族の位置を線で描かせて地位を測り、理想の仕事に就いた1年後に人員削減で職を失うと告げられる場面か、理想の仕事に就いた場面だけを想像させる条件に無作為に割り当てた。最大10人の相手と相手どうしの関係を記入させると、人数と制約の両方で予測どおりの交互作用が現れた。脅威の感じ方は地位で違わず、感情的支援や助言を頼みたい相手の割合にも差がなかったので、地位によって脅威の強さや求める支援が違うという説明は退けられた。

著者らは、これは地位の主効果ではないと強調する。高地位と低地位の人が単に違うネットワークを持つのではなく、脅威が両者に異なるネットワークを活性化させるのである。認知による説明は、同じ人の中での状況による変化を説明でき、集団間の違いに向く構造の説明を置き換えるのではなく補う。こうした表象はネットワークを動員するための必要な第一歩であり、脅威を感じて身近な関係に深く入り込み、新しい機会の情報から遠ざかり、さらに脅威を感じるという悪循環が起こりうる。

後続研究は、何が活性化を変えるかを調べてきた。Smith et al. (2020) の整理では、低い地位や否定的な感情は小さく密なネットワークを、高い地位や肯定的な感情は大きく疎なネットワークを活性化させ、社会的に排除された後にもより密なネットワークが活性化される。キャリアを高めたいという前進目標を持つ人はより疎な、関係を保つ親和目標を持つ人はより密なネットワークを活性化した。一方、ネットワーク認知の違いを説明する個人差の変数はほとんど見つかっておらず、これに対して社会心理学の見方は状況の力を重視する。

Menon & Smith (2014) は、変化の時期にアイデンティティが活性化をどう左右するかを実験で調べた。力を持っていると感じさせれば広く思い浮かべるという「パワー肯定」仮説と、一時的な力の感覚が安定した地位と一致することが必要だという「アイデンティティ確認」仮説を対比した。インドの経営大学院生120人の地位(家族の所得の百分位)を測り、力を持った/持たなかった経験と、社会の劇的な変化か不変かを思い出させた。パワー肯定仮説は支持されず、変化を考えた条件でだけ、地位と力が一致した人がより疎なネットワークを挙げ、家族や友人の割合も小さかった。一致は安心感とコントロール感を高め、それが効果の約36%を媒介した。

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身近な例

地方の営業所で、来年度に近隣の営業所と統合されるという発表があった。入社8年目の主任は、今後のことを相談できる相手を思い浮かべようとしても、同じ課の先輩二人と家族しか出てこない。実際には、新人研修で同じ班だった本社の人事担当者や、取引先から転職していった元担当者とも、連絡すれば話ができる関係にある。後日、キャリア面談で過去の研修名簿を見返したとき、ようやくその人たちが候補として浮かんだ。関係は最初からあったのに、不安な時期には頭に浮かぶ範囲が身近な数人に絞り込まれていたのである。そこからメールを送るのは動員であり、返事が来て話を聞けるかどうかは相手の判断にもよる。

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関連理論との違い

構造的空隙や弱い紐帯をめぐる研究では、広いネットワークが費用をかけずに情報を集める万能薬のように描かれてきた(Smith et al., 2012)。Smith et al. (2012) は、求職で人脈がもたらす主な資源として情報と影響力を挙げたうえで、理論上アクセスできるネットワークと、実際に活性化し最終的に動員するネットワークは異なりうると指摘した。広いネットワークと狭いネットワークのどちらが有利かは研究の合意がないとして、著者らはどちらの反応が正しいかを判断しない立場をとる。

活性化は、関係を新しくつくることでも、連絡して支援を得ることでもない。Menon & Smith (2014) は、関係を増やしたり組み替えたりせよという従来の処方に対し、問題は資源の不足ではなく、すでにある関係を思い浮かべないことによる資源の浪費かもしれないと述べた。同時に、活性化が動員の必要条件だとは仮定しておらず、人が集まる場で相手と出会うことも動員への別の道だとしている。

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主要概念

潜在的ネットワーク(potential network)
その人が使える相手の全体。Smith et al. (2012) の三層モデルの最も外側の層。
活性化されたネットワーク(activated network)
潜在的ネットワークのうち、ある状況で実際に頭に浮かぶ部分(Smith et al., 2012)。状況によって変わる主観的な認知の構造である(Menon & Smith, 2014)。
認知的活性化(cognitive activation)
ある概念がプライミングされ、心の中で利用可能で思い浮かびやすくなること。ネットワークでは、状況が相手の思い浮かび方を左右することを指す(Smith et al., 2012)。
動員されたネットワーク(mobilized network)
活性化されたネットワークのうち、助けを求めるときに実際に資源を頼む相手。動員は相手に呼びかける社会的な活動である(Smith et al., 2012)。
実現されたネットワーク(realized network)
動員に実際に応えてくれた相手。Smith et al. (2020) が、原典のモデルを四段階として説明する際の最後の段階。
絞り込み反応と拡大反応(winnowing / widening)
脅威のもとで、より小さく密な部分を思い浮かべる反応と、より大きく制約の少ない部分を思い浮かべる反応(Smith et al., 2012)。
ネットワーク制約(network constraint)
相手どうしが互いに知り合いであるほど高くなる指標。低い人は開かれた部分を、高い人は閉じて重複の多い部分を活性化していると解釈される(Smith et al., 2012)。
アイデンティティ確認(identity confirmation)
一時的な力の感覚が安定した地位と一致している状態。Menon & Smith (2014) は、これが安心感とコントロール感を生み、広いネットワークの活性化を支えるとした。
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代表的な展開研究

  • Smith, E. B., Brands, R. A., Brashears, M. E., & Kleinbaum, A. M. (2020). Social networks and cognition. Annual Review of Sociology. DOI ↗ネットワークと認知の研究を、脳への取り込み、ネットワーク認知の使われ方、ネットワークが認知に与える影響の三つの問いで整理したレビュー。原典のモデルを実現されたネットワークを含む四段階として説明し、段階ごとに無意識のスキーマ、熟慮的な判断、相手の判断が働くとした。地位・感情・目標が活性化を変えるという知見をまとめている。
  • Menon, T., & Smith, E. B. (2014). Identities in flux: Cognitive network activation in times of change. Social Science Research. DOI ↗社会の変化を考えさせる条件のもとで、力の感覚を高めること自体ではなく、力の感覚と地位が一致するアイデンティティ確認が、より疎で家族・友人の少ないネットワークの活性化につながることを実験で示した。コントロール感が効果の一部を媒介した。
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批判と境界条件

原典の著者ら自身が限界を認めている。研究1は横断データで、閉じたネットワークが雇用不安を生むという逆の因果を排除できない(Smith et al., 2012, p. 74)。研究2は知覚された地位だけを扱い、学部生の標本は一般化を制約し、学生は失業を直接経験していない(p. 77)。就職の結果のデータがないため、どちらの反応が望ましいかも判断していない(p. 70)。注では、研究1の効果は主に高地位の人の拡大反応によるもので低地位の人の効果は有意でなく、研究2では群ごとの効果はどちらも有意でなかったと報告している。有意だったのは両群の相対的な差である(p. 80)。

著者らはさらに、研究設計に埋め込んだ二つの前提を挙げる(p. 79)。第一に、ネットワークを動員を待つだけの受け身のものと仮定した。相手も助けるかどうかを決める主体であり、地位によって周りの人の応じやすさが違えば、小さなネットワークを活性化しても不利にならない場合がある。第二に、活性化を一度きりの出来事として扱った。実際には、動員で断られた経験から次の活性化が狭まるような、学習を伴う繰り返しの過程かもしれない(p. 79)。

Menon & Smith (2014) も、この研究は活性化と動員の結びつきを確かめる設計ではないと断っている(p. 118)。地位は操作できず測定にとどまり(p. 121)、変化の条件を区別しない分析では交互作用は有意でなかった(p. 123)。回答者の約44%が上限の10人を挙げ、人数の差を捉えにくかった(p. 122)。過程が意識的か無意識的かも直接には検証していない(p. 128)。広く多様なネットワークも、多すぎれば混乱や過負荷を招きうるという(p. 128)。

測定の面では、Smith et al. (2020, p. 164) が、名前を挙げさせる自己報告は実際に観察された個々の相互作用と一致せず、自由想起で得た関係は親しく強い関係に偏りやすいと整理している。原典も、わずかなプライミングで回答が変わるなら、質問の順序や面接の場所がネットワーク調査を左右しうると警告している(Smith et al., 2012, p. 78)。

研究上の位置づけ

原典Smith, E. B., Menon, T., & Thompson, L. (2012)
Status differences in the cognitive activation of social networks
分類Concept / theory
地図の区画ネットワーク
分析単位個人
理論系譜Social Networks · 認知
REFERENCES

出典

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