理論・視点

官僚制とその逆機能Bureaucracy and Its Dysfunctions

別名官僚制、官僚制の逆機能

一言で言うと

職務の分担、権限の階層、一般的な規則によって仕事を組み立てる官僚制について、その技術的な効率と、規則の遵守がそれ自体目的になるといった負の側面(逆機能)を論じる議論。Adler & Borys (1996) は、規則が働く人を支えるか縛るかは形式化の種類によると論じた。

説明したい問い効率のための規則や手続きが、なぜ組織の硬直や顧客との衝突を生むのか。規則はどのようなときに働く人を縛り、どのようなときに支えるのか。
01

中核的な問い

職務を分け、権限を階層にし、一般的な規則で仕事を進める官僚制は、精確で速い仕事を可能にする仕組みとされてきた。それなのに、規則どおりにしか動けない硬直や、窓口での杓子定規な対応はなぜ生まれるのか。そして、規則や手続きの多い職場は、いつも働く人を息苦しくさせるのか。

02

主張とメカニズム

Merton (1940) によれば、Weber は官僚制を、職務の明確な分担、階層状の権限、専門的な資格による人の配置、一般的で抽象的な規則によって運営される組織として描いた。個々の案件は定められた基準で分類され、その分類に沿って扱われる。この描き方では、官僚制の最大の長所は技術的な効率にある。Merton は、Weber がもっぱら官僚制の達成するものを論じていたとして、同じ構造の限界を問うた。

手がかりは Veblen の「訓練された無能力」、つまり過去にうまくいった訓練や技能が、状況が変わると不適切な反応を生む状態である。官僚制が機能するには職員が定められた行動様式に確実に従う必要があり、その規律は職務への献身といった強い感情に支えられる。Merton は、この感情が技術的に必要な程度より強くなりがちで、組織の目的から、規則が求める細かな行動へと移っていくと論じた。手段だった規則の遵守が、それ自体目的になる目標の転移である。そこから硬直や儀礼主義が生まれる。Merton はこの過程を「一般には効率を生む要素そのものが、個々の場面では非効率を生む」と要約した。非人格的で分類にもとづく扱いは、自分の問題は特別だと考える顧客との衝突も生むとされた。

Adler & Borys (1996) は、官僚制は不満を生むとする否定的な見方と、責任を明確にして役割のストレスを和らげるとする肯定的な見方の対立に取り組んだ。これまでの研究は形式化(規則・手続き・指示が文書化されている程度)の度合いばかりを見て、種類を見てこなかったというのが彼らの診断である。彼らは機械の設計研究を手がかりに、従業員が仕事をうまくこなせるよう支える支援型(enabling)の形式化と、努力と服従を強いる強制型(coercive)の形式化を区別した。

両者を分ける手続きの特徴は四つある。不具合を現場で直して改善の機会にできるか(修復)、手続きの仕組みと規則の理由が分かるか(内部の透明性)、自分の仕事が全体のどこに位置するか分かるか(全体の透明性)、逸脱を学習の機会ともみなし、状況に応じて手順を選べるか(柔軟性)である。彼らは、仕事が必要とする形式化の度合いが高くても低くても、種類が支援型なら前向きな態度が、強制型なら否定的な態度が生じると予想した。

03

身近な例

ある会社の経費精算では、領収書の宛名が一字違うだけで差し戻され、担当者は「規程ですから」と繰り返す。規程は本来、不正を防いで正しく精算するための手段だったはずだが、ここでは守ること自体が目的になっている。Merton のいう目標の転移である。申請する社員も、なぜその書き方が必要なのか分からないまま、形だけ整えて出すようになる。別の会社では、同じように細かい規程があっても、マニュアルに記入例と各項目の理由が書かれ、急ぎのときの簡略な手順も用意され、使いにくい点は社員の提案で改訂される。規則の多さは同じでも、後者は支援型の形式化に近い。

04

主要概念

形式化(formalization)
仕事についての規則、手続き、指示がどの程度文書化されているか。Adler & Borys (1996) は、Weber の官僚制の理念型の中心的な特徴としている。
訓練された無能力(trained incapacity)
Veblen の概念で、Merton (1940) が官僚制の分析に用いた。過去にうまくいった訓練や技能にもとづく行動が、状況が変わると不適切な反応になり、能力がかえって欠陥や盲点として働く状態。
目標の転移(displacement of goals)
もともと手段だった規則の遵守がそれ自体目的になること。Merton (1940) は、これが硬直や形式主義、儀礼主義を生むとした。
支援型の形式化(enabling formalization)
従業員が仕事をうまくこなし、避けられない不測の事態に対処できるよう支えるために設計された規則や手続き。経験から得た教訓をためる組織の記憶として働く。
強制型の形式化(coercive formalization)
気の進まない従業員から服従と努力を引き出すために設計された規則や手続き。上司が部下の遵守を確かめやすいように作られ、逸脱は疑わしいものとみなされる。
05

代表的な展開研究

  • Merton, R. K. (1940). Bureaucratic structure and personality. Social Forces. DOI ↗Weber の官僚制論がもっぱら官僚制の達成するもの(精確さ、信頼性、効率)を論じていたとみて、同じ構造が職員に規則への過剰な同調を促し、目標の転移や顧客との衝突を生む過程を論じた。
  • Adler, P. S., & Borys, B. (1996). Two types of bureaucracy: Enabling and coercive. Administrative Science Quarterly. DOI ↗官僚制を疎外的とみる見方と、働く人を助けるとみる見方を和解させるため、形式化を支援型と強制型に分け、両者を分ける手続きの特徴、設計の過程、運用の文脈を示した。
06

批判と境界条件

Merton (1940) の議論は、体系的な実証研究にもとづくものではない。挙げられる事例は新聞記事や他の研究者の観察からの引用で、論文の最後で Merton は、官僚制とパーソナリティの関係について実証研究で問うべき問いを数多く並べている(p. 568)。また Merton 自身、職業安定所の職員が横柄だという失業者の非難について、その多くは失業で地位と自尊心を失った顧客側の心理状態から来ており、観察した Bakke 自身は、職員は忙しく愛想を言う暇はなかったが厳しさや優越感はほとんど見られなかったと記している、と注で述べている(p. 566)。

Adler & Borys (1996) は、官僚制を否定的に見る通説に対し、証拠はそれほど一方的ではないと指摘する。形式化が役割の葛藤とあいまいさを減らし、疎外感を和らげるとする研究が数多くあり(p. 64)、Damanpour (1991) のメタ分析では、形式化とイノベーションの負の関係はサービス組織や非営利組織の研究の多くで見られたが、製造業や営利組織では正の相関を示す証拠が優勢だった(p. 64)。彼らは、官僚制の効率は必ず働く人の幸福を犠牲にするという根拠のない感覚を、Gouldner (1955) が批判した「形而上学的パトス」と呼んだ(p. 79)。そして、官僚制を硬直や目標の転移、権威主義的な命令と統制と同義のゆがんだ形でしか論じないなら、組織の変化を捉える力が大きく損なわれると述べた(p. 84)。

一方で、Adler & Borys の類型にも理論の裏づけと実証が課題として残る。修復や透明性といった特徴がなぜ前向きな結果につながるのかの説明と、支援型・強制型の前提条件と結果の実証的な検証が必要だと、彼ら自身が述べている(p. 85)。また、組織の目標と従業員の目標がずれているときには支援型の形式化は成り立たないとし、目標の一致を決定的な条件に位置づけた(p. 80)。管理者と従業員の権力の非対称が大きい組織では強制型が避けられないものに見えやすいという仮説も示し(p. 81)、支援型として設計された手続きが強制的に運用されることもあると述べる(p. 76)。そのうえで、どちらの型になるかは構造的な要因で決まりきるものではなく、続いているせめぎ合いの結果だと結論づけている(p. 83)。

研究上の位置づけ

原典Weber, M. (1922)
Wirtschaft und Gesellschaft
分類Theory
地図の区画組織・意思決定
分析単位組織 · 個人
理論系譜社会学
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。