理論・視点

リーン生産方式Lean Production

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

自動車産業の国際比較から、大量生産よりも少ない人手・空間・在庫・開発期間で、品質と多様性を両立する生産と企業運営のやり方を「リーン(ぜい肉のない)生産」と名づけ、それが工場の所在地を問わず取り入れられるとする視点。

目次
説明したい問い同じ自動車をつくるのに、なぜ一部の企業は、より少ない資源で、より高い品質と多様な製品を実現できるのか。
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中核的な問い

20世紀の自動車産業は、フォードに代表される大量生産を手本にしてきた。標準の部品を使って大きなロットでつくり、在庫と予備の人員で変動に備えるやり方である。しかし日本の自動車メーカーは、別のやり方で高い生産性と品質を実現していた。その違いは何で、ほかの国や産業にも移せるものなのか。

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主張とメカニズム

Shah & Ward (2007) が引く Womack, Jones, & Roos (1990) の説明によれば、リーン生産は、工場の人手、生産スペース、設備投資、新製品の開発工数をいずれも半分しか使わず、新製品を半分の期間で開発する。必要な在庫も半分で済み、不良ははるかに少なく、より多様な製品をつくり続けるという。Holweg (2007) によれば、同書は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の国際自動車研究プログラム(IMVP)の研究成果をまとめて示すために書かれた本である。その実証の中心として、IMVP の研究者たちは、1986年から1989年にかけて世界の70の組立工場を訪ねて比べた。Krafcik (1988) によれば、リーン生産の典型であるトヨタ生産方式は、職人の時代の頭と手の両方を使う考え方を、フォード方式の作業の標準化と組立ラインに結びつけ、さらにチームワークを加えたものである。職人の時代の作業環境はきわめて非効率で、フォード方式の労働者は厳格に標準化されていて、生産内容の変化に対応しにくかった。

ここで区別すべきなのは、トヨタ生産方式とリーン生産という二つの言葉である。トヨタ生産方式は、大野耐一らがトヨタ自動車で戦後に築き上げた、具体的な生産の仕組みを指す。Holweg (2007) によれば、大野耐一は、トヨタ生産方式の二本の柱を、豊田佐吉の自動織機に基づく「自働化」と、ジャスト・イン・タイムだとした。これに対してリーン生産は、IMVP の研究から生まれた言葉である。Holweg (2007) によれば、IMVP の研究者たちは当初、企業を「もろい(fragile)」から「頑健な(robust)」「緩衝された(buffered)」までの軸で分類する言葉を使っていたが、「もろい」を、より肯定的な響きをもつ「リーン」に改めた。この語を最初に使ったのは Krafcik (1988) で、Womack らは同書で、トヨタを西洋の「大量生産」と対比するためにこの語を用いた。Holweg (2007) が聞き取った Womack の説明によれば、同書は、トヨタ生産方式をトヨタの経営全体のうちの工場運営の要素として示し、それを製品開発、部品供給会社の管理、顧客の管理、企業全体の方針の管理と結びつけた。Womack は、トヨタ生産方式は工場のことだが、「リーン生産」の力はこれら五つの要素を組み合わせたところにあると述べている。

Holweg (2007) が聞き取った MacDuffie によれば、同書の主な貢献の一つは、リーン生産の考えが日本の文化に縛られたものではないと示したことであった。Krafcik (1988) も、効果的な生産管理の方針は工場の所在地にかかわらずつくることができると結論し、北米のいくつかの工場(その多くはリーン生産の方針で運営されている)が、一部の日本の工場と同じかそれ以上の業績をあげていると報告した。また Krafcik (1988) は、トヨタに代表されるリーンな工場のしくみとして、在庫を最小限に抑えて品質の問題をすばやく見つけ、解決すること、作業者に保全や品質管理を含むさまざまな仕事を訓練してチームに組み、改善の責任を持たせること、近隣の、柔軟に対応できる部品供給会社の網をつくって組立工場と結びつけることなどを挙げた。後に Shah & Ward (2007) は、それまでの研究を整理して、リーン生産を「供給者、顧客、社内のばらつきを同時に減らし、または最小にすることで、むだをなくすことを主な目的とする、統合された社会・技術システム」と定義した。

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身近な例

たとえば、ある工場が、部品を大量に作り置きして倉庫に積んでいるとしよう。不良品が出ても、在庫の山に埋もれて気づくのは何週間も後になる。リーン生産の考え方では、前の工程は後の工程が使った分だけをつくり、在庫をぎりぎりまで減らす。すると不良が出たときにすぐにラインが止まり、その場で作業者と班長が原因を調べて直すことになる。在庫という「ぜい肉」を落とすことで、隠れていた問題が見えるようになり、改善が進むというのがこの見方である。

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主要概念

リーン生産(lean production)
大量生産と比べて、人手、空間、設備投資、開発期間などあらゆる資源をより少なく使いながら、品質と製品の多様性を実現する生産と企業運営の方式。
大量生産(mass production)
標準化された部品を使い、専用の設備と分業で大きなロットをつくって段取り替えを減らし、在庫や予備の人員で変動を吸収する生産方式。
トヨタ生産方式(Toyota Production System)
トヨタ自動車で形成された、むだの徹底的な排除を基礎とし、ジャスト・イン・タイムと自働化を二本の柱とする具体的な生産の仕組み。
ジャスト・イン・タイム(just-in-time)
必要なものを、必要なときに、必要な量だけつくって運ぶことで、在庫を最小にする考え方。
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代表的な展開研究

  • Shah, R., & Ward, P. T. (2003). Lean manufacturing: Context, practice bundles, and performance. Journal of Operations Management. DOI ↗リーン生産の中核をなす22の製造の実践を取り上げ、ジャスト・イン・タイム、総合的品質管理(品質と工程の継続的な改善に関わる実践)、総合的予防保全(計画的な保全で設備の効果を高める実践)、人的資源管理(多能的な作業者と自主的な作業チーム)の四つの束(バンドル)にまとめた。そのうえで、米国の製造業の工場への調査データを用いて、工場の規模、工場の古さ、労働組合の組織化という三つの条件と実践の導入との関係、および束と業務上の成果との関係を検討した。規模の影響ははっきりと支持されたが、労働組合と工場の古さの影響は通念ほど広くはなかった。四つの束は、業種と条件の影響を除いたうえで、業務上の成果のばらつきの約23%を説明した。
  • Holweg, M. (2007). The genealogy of lean production. Journal of Operations Management. DOI ↗トヨタ生産方式が西洋に知られ、IMVP の研究を通じて「リーン生産」という概念として定式化されていった経緯を歴史的にたどった。
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批判と境界条件

Holweg (2007, p. 427) によれば、同書の土台となった IMVP の組立工場調査は、測定の手順や二次データの不足などの点で批判されてきた。その例として挙げられる Williams et al. (1992) は、とくに IMVP が用いた分析の単位の選び方を批判した。ただし Holweg は、Williams et al. 自身も業績の違いを包括的に説明するには至っていないと述べている。これに対して IMVP の Roos は、工場に焦点を当てる限界は初めから分かっていたが、組立工場は業界で起きていることと、その違いを測るための良い代理指標だと考えた、と応じている(Holweg, 2007, p. 427)。

Holweg (2007, p. 425) によれば、自動車産業の複雑な違いをならして世界規模で比べられるのかについて、IMVP の研究者は強い懐疑を向けられていた。西洋のメーカーは、日本の工場の生産性が高いのは「小さな箱をつくっているから」だと反論したが、IMVP は、スポット溶接の総数などで車の大きさを評価してこれに対応した(p. 426)。1988年に途中の結果を示したときには、スポンサー企業の多くが、数字が間違っているとして「データを確かめ直せ」と突き返した(p. 426)。研究チームはデータを検証し、1989年に完全な結果と方法を示した(p. 426)。

Holweg (2007, p. 420) によれば、ジャスト・イン・タイムの考えは同書より10年近く前から知られており、同書の役割は、それを日本の外に広めたことにあった。Holweg は、組立工場調査の結果は多くの点で根本的に新しい知見をもたらしたわけではなく、疑いようのない実証的な証拠を与えたのだと述べる(p. 432)。また、同書は IMVP の豊富な研究を単純化しすぎた表現だという見方もありうると認める(p. 432)。しかし Holweg は、この見方は要点を外しているとし、同書が苦境にある製造業に「恐れと希望の物語」を与えた点が最も重要だったと応じている(p. 432)。

Shah & Ward (2007, p. 786) は、リーン生産には共通の定義がないと指摘した。彼らによれば、リーン生産の説明や定義はきわめて一般的で、時とともに範囲が広がってきた(p. 788)。そのため、概念の面でも測定の面でも、リーン生産をめぐる領域は未発達だという(p. 790)。これに応えて Shah & Ward は定義を示し、供給会社、顧客、社内の実践にまたがる10の因子で測る尺度をつくった(p. 799)。ただし、各社1人の回答者からデータを集めたことを限界として挙げている(p. 801)。2人目の回答者のデータでは違いがなかったとして、その影響は小さいとみている(p. 802)。また、因子の構造は今後の研究で確かめ直す必要があるとしている(p. 802)。

研究上の位置づけ

原典Womack, J. P., Jones, D. T., & Roos, D. (1990)
The machine that changed the world
分類モデル・枠組み
分析単位組織 · コミュニティ
理論系譜経済学 · プロセス
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。